ルーシー・ロベール=ディエゼル Lucie Robert-Diesselは、フランス生まれの女流作曲家。1936年10月3日にレンヌに生まれ、12歳になるまでレンヌ音楽院に学んだ。その後、1951年1月にパリ国立高等音楽院に入学。ピアノ、ピアノ伴奏法、オルガン、室内楽、アナリーゼ、作曲を学び、そのすべての科目で一等賞を獲得して卒業した。1965年に、フランス作曲界の登竜門であるローマ大賞を受賞、その後3年間イタリアに留学した(ローマ大賞受賞者は、ローマのメディチ荘への留学・作品提出が義務付けられる)。
その後もさらに演奏と作曲両面の勉強を続けながら、いくつかの権威ある賞を受賞した。主なものに、バルセロナ国際ピアノコンクール(1963年)、マンハイム国際作曲コンクール(1975年)などがある。ピアニストとしてはラジオ・フランスへの出演のほか、フランス、アメリカ、カナダ、日本へのツアーを行うなどした。録音活動も積極的であり、イギリスのBBC、ベルギーのRadio Télévision Belgeなどに、放送用録音や商用録音を吹き込んだ。
ローマから帰国した後は、ピアノ伴奏科クラスのアシスタントに就任。さらに1972年には、和声学とアナリーゼの教授に就任し、後進の育成に力を注いだ。2001年に退職し、現在は作曲に専念している。
ロベールがサクソフォンに初めて興味を示したのは、ローマ留学時代だったと言われている。フランスのサクソフォン奏者、ジョルジュ・グールデ Georges Gourdetがローマ音楽院において学んでいた頃とロベールの留学時期が重なったのだ。グールデがロベールにサクソフォン作品のピアノ伴奏を依頼し、その中でロベールに作品を委嘱、こうして、ロベールの最初のサクソフォンのための作品である「ソナタ」が書かれたということだ。ロベールは、現在までにサクソフォンを含む作品を27曲手がけている。
ロベールはその後も、グールデの紹介によって様々なサクソフォン奏者と交流を広げていく。現在最も広く演奏されている作品の一つ、「カデンツァ」は、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の名手、ミシェル・ヌオー Michael Nouauxの委嘱により書かれ、1974年の第4回世界サクソフォンコングレス(フランス、ボルドー)において初演された。
走句の執拗な繰り返しが特徴的。タイトルの「カデンツァ」は、楽曲全体を支配する柔軟なテンポに沿って付けられたものである("Rubato"との指示があり、サクソフォンとピアノは独立したテンポで演奏される部分がほとんど)。旋法やシステムを使用せずに作曲され、楽曲中に出現する音は、メロディの要素と跳躍の相互作用(?)を表現しようとした結果、生まれたものである。
録音としては、ジャン=マリー・ロンデックス Jean Marie LondeixのCrest盤があれば十分(MD+Gから復刻されているが、そちらは復刻状態がいまいちなため、ほとんど聴いていない)。ダルヴァンクール、デザンクロ、ミヨー、マルコヴィッチという超ド級のプログラム中、最も重心の置かれている演奏だと思う。他にあまり聴いたことがないのだが、オススメの演奏あったら教えてほしいくらいだ。思いつくあたりでは、ドルチェ楽器で観たデファイエ最後の来日映像の「カデンツァ」が凄かった覚えがある。
参考資料:
Gardner, Karen Roll. "The Early Music of Lucie Robert." North American Saxophone Alliance The Saxophone Symposium Volume 27 (2002): 79-113.
Londeix, Jean Marie. "A Comprehensive Guide to the Saxophone Repertory." Roncorp, Inc. (2003): 318.
"Jean-Marie Londeix, Alto Saxophone & Anne-Marie Schielin, Piano" Golden Crest RE 7066(木下直人氏によるトランスファー。この場をお借りして感謝申し上げます。)
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