2006/08/31

著作隣接権

最近、研究室がかなり輻輳状態で大変です。

ふと思い立ったのだけれど、マルセル・ミュールの初期の録音など、録音から50年以上経過した録音ってMP3形式などでインターネット上に公開しても問題ないのでは…。気になったので、著作隣接権の該当する部分を拾い出してみた。

著作隣接権。これは、演奏家、録音業者を保護するための制度:演奏がレコードやCD等になっているとき、その録音物と、録音した演奏者に適用される著作権のことだ。

・「著作隣接権の存続期間は、次の各号に掲げる時に始まる。 - 二 レコードに関しては、その音を最初に固定した時」(第六節第百一条第一項)
・「著作隣接権の存続期間は、次に掲げる時をもつて満了する。 - 二 レコードに関しては、その発行が行われた日の属する年の翌年から起算して五十年(その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して五十年を経過する時までの間に発行されなかつたときは、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して五十年)を経過した時」(第六節第百一条第二項)

えーとつまり…録音されて50年以上たっているものは、著作隣接権が消滅している、と考えて問題ないのだろう。

第二項では「その音が最初に固定された…」という記述があるが、ミュールさんの演奏が固定されたのは1930年代。これを「最初の固定」と考えれば、当時出版されたSPの著作隣接権は消滅済みということになるが、復刻CDの場合は?

SP所蔵者のコレクションからCD上に音が固定されたのは、1990年代に入ってからだから、復刻の瞬間を「最初の固定」と考えれば「復刻CDの著作隣接権」が消滅してないということになるなあ。ん、そもそも「最初の固定」が行われたのはフランス国内じゃないか。「最初の」の解釈によって、可否が変わってくるのだが…。頭がこんがらがってきた…どなたか教えてくださいm(__)m←ずくなし。いっそのことJASRACに聞くか。

著作権法はここ(→http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html#002)で初めて読んだけれど、なかなかに解釈が難しい表現もあり、大変読みづらい。「すべてわかった!マンガで読む著作権」とかあればいいのだがなあ(?)。

プレスティージュもどき?

ななな、なんだこりゃ?

アルトサックス→http://www.schreiber-keilwerth.com/englisch/keilwerth/instruments/alto_cx90.htm
テナーサックス→http://www.schreiber-keilwerth.com/englisch/keilwerth/instruments/tenor_cx90.htm

クランポンのプレスティージュ Prestigeといったら高級サックスの代名詞。銅を多く使った真鍮の美しい管体から出てくる音がなんとも繊細で、かのダニエル・デファイエやファブリス・モレティが愛用していたこともあって、熱烈なファンも多い。私も試奏させてもらったことがあるが、びっくりするほどきれいな音が出るんですね、これまた。

しかし経営不振によりけれど、カイルヴェルトなどと合併してからというものプレスティージュの生産ラインはずいぶんと狭められており、現在はアルトのみ製造、しかも日本にはほとんど入ってこなくなってしまったのだった…が。

今回、カイルヴェルトから発売された「CX90」は、まるでプレスティージュ!特徴の欄を見ても、Copper Body, Clear Lacqueredと、まるでプレスティージュを自社のシリーズに加えたような製品だ。紅く輝くテナーって、ちょっと感動すら覚える。

クランポンのサックスって、ベルが開いた形になっているのが特徴だけれど、写真を見る限りは管体の形はカイルヴェルトっぽいなあ。サイドキーは高さが調節できる形状みたい。クランポンの利点(音色)とカイルヴェルトの利点(音程、メカ)を併せ持った合作なのだろうか?うーん、ちょっと試奏してみたいかも(買わないけれどね)。

2006/08/29

課題曲・選択曲など

引き続きアドルフ・サックス国際サクソフォンコンクールのネタ。

実施要項がPDFで読めたので(→http://www.dinant.be/pdf/pages/588/extrait_regl_fr_recadr%E9.pdf)、課題曲・選択曲の部分をまとめてみると、こんな感じ。

・予選(課題曲1曲+選択曲1曲)
課題曲:
 ダニエル・カペレッティ「Ge(r)ms」
選択曲:
 マルセル・ドゥ・ヨンゲ「協奏曲」
 ピエール・リエマン「A la bonne heure」
 アンリ・プッスール「Duel de Capricare」
 フレデリック・ファン・ロッサム「Pathetic Story」
 ウィリー・ボウェラーツ「Trilogie」
 ジャン・アブシル「ソナタ」
 ルネ・ベルニエ「Hommage a Sax」
 ミシェル・リサイト「Chronographie IX」

…ロッサムの「Pathetic Story」は前回の本選課題曲だが、他はなんだか聞いたことのない作曲家ばかり…おそらく開催地ベルギーの作曲家なのだろう。そんな中、アブシルが唯一フランス・アカデミズム的作品として異彩を放つ…と思いきや実はアブシルもベルギーの作曲家なのです!

・二次予選(課題曲1曲+選択曲1曲+自由曲1曲)
課題曲:
 ジャン=ルク・ファルシャンプ「Decalcomanie de Reich et Ligeti」
選択曲:
 ジャック・イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」
 吉松隆「ファジイバード・ソナタ」
 エディソン・デニゾフ「ソナタ」
 フローラン・シュミット「伝説」
 マリリン・シュルード「Renewing the Myth」
 ポール・クレストン「ソナタ作品19」
 アルフレッド・デザンクロ「前奏曲、カデンツァと終曲」
 ポール・ヒンデミット「ソナタ」
自由曲:
 無伴奏曲(テープ、ライヴエレクトロニクス等の特殊なエフェクトを伴った作品を除く、自作除く)。

…課題曲はなんだか興味深いタイトル、直訳すると…「ライヒとリゲティの鏡絵」だそうで。一次予選に比べると、選択曲はぐっとフレンチな作品になっている。吉松氏の作品があるが、「ファジイバード」はすでに海外でもかなりレパートリーとして定着していることが伺える。自由曲の無伴奏曲は、やはりシュトックハウゼン、棚田文則、ベリオあたりが定番のようだ。

・本選(課題曲1曲+選択曲1曲)
課題曲:
 コンクール用に委嘱された新作。
選択曲:
 ラーシュ=エリック・ラーション「協奏曲」
 フランク・マルタン「バラード」
 フレデリック・デヴレーズ「オスティナート」
 ロジェ・ブートリー「ディヴェルティメント」
 テリー・エスケッシュ「暗闇の歌」

 …課題曲は毎年新作が委嘱されるとのことで、本選出場者にとっては課題曲の出来がネックになるとのこと。ラーション、マルタン、ブートリー、エスケッシュと、ここぞとばかりに超有名曲がせいぞろい(二次ほどではないにしろ)。それにしても曲の長さにずいぶんバラつきがあるなあ。

さて、原さんの劇的な優勝から4年、はたして今年はどんな結末が待ち受けているのだろうか。今年の開催期間は10/31から11/11だそうで、傍観する側ながら、けっこう楽しみ。

2006/08/27

歴代入賞者

今年は第4回アドルフ・サックス国際サクソフォンコンクールの年だ。アドルフ・サックスの生誕地、ベルギーのディナンで行われる大規模な催しで、サクソフォンのための国際コンクールとしては世界でもっともポピュラーなものと言えるだろう。

ふと思い立って過去の入賞者をまとめてみた。見づらくてごめんなさい。

・第一回アドルフ・サックス国際コンクール(1994)
第1位:ヴァンサン・ダヴィッド David, Vincent - France
第2位:ファブリツィオ・マンクーゾ Mancuso, Fabrizio - Italy
第3位:ファブリス・モレティ Moretti, Fabrice - France
第4位:ラフ・ミンテン Minten, Raf - German?
第5位:大和田雅洋 Owada, Masahiro - Japan
第6位:戸田たかし Toda, Takashi - Japan

…ダヴィッド、マンクーゾ、モレティの三人は現在もサックス界で大活躍中のソリストたち。なんとなくだが、3人それぞれ系統が違う人たちだなー。日本人は…ん?大和田さんって入賞していたんだ、知らなかった。もう一人、第6位の方の名前はインターネット上には情報を見つけることができなかった。この最初のコンクールでは公式録音がCD発売されていたようだが(Rene Gailly)、出版元の倒産により絶版になっている。

・第二回アドルフ・サックス国際コンクール(1998)
第1位:アレクサンドル・ドワジー Doisy, Alexandre - France
第2位:オティス・マーフィ Murphy, Otis - U.S.A
第3位:原博巳 Hara, Hiroshi - Japan
第4位:ギョーム・ペルネ Pernes, Guillaume - France
第5位:ディヴィッド・アロンソ=セレーナ Alonso Serena, David - Spain
第6位:林田和之 Hayashida, Kazuyuki - Japan

…ドワジーはたしかミュンヘンのサックス部門でも優勝したソリストで、そっちの筋?ではかなり将来を有望されているすごい奏者(らしい)。マーフィさんは最近来日したばかり。「ギヨーム君」ことペルネはギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のバリトン奏者だ。原さんが3位、林田さんが6位と、日本人の活躍が目立ってくるなあ。

・第三回アドルフ・サックス国際コンクール(2002)
第1位:原博巳 Hara, Hiroshi - Japan
第2位:ジュリアン・プティ Petit, Julien - France
第3位:アントニオ・フェリペ=ベリジャル Felipe Belijar, Antonio - Spain
第4位:ディヴィッド・アロンソ=セレーナ Alonso Serena, David - Spain
第5位:ジェローム・ララン Laran, Jerome - France
第6位:ジェロード・エトリラール Etrillard, Geraud - France

…原博巳さんが優勝を果たした年。けっこうあちこちで話題になったっけなあ。原さんはその後もCDデビューやリサイタルなど、幅広い活躍を続けている。このとき審査員の一人だった服部吉之先生に話を伺ったことがあるが、選択曲は原さんはラーション「協奏曲」、ほか全員がマルタン「バラード」でほとんど差がつかなかったが、課題曲だったロッサム「Pathetic Story」の出来不出来が結果の優劣につながったとのこと。むむ、ラーションやマルタンで差がつかないとは、レベルが高すぎて想像がつきませぬ。第三回はスペイン人の上位入賞が目立つが、結局はパリ国立高等音楽院を出たプレイヤーなわけで、ドゥラングル・クラスの圧勝って感じだ。

今度は、今年の課題曲・選択曲などについてまとめてみようかと。

2006/08/25

リニューアルニ題、Ext処理

さて、一週間の実家滞在も終わり。明日の朝に出発してつくばに戻る予定。卒研その他、忙しい日々が始まるけど、がんばってこなしていこうかと。…こちら(長野)は夕方になると涼しいんだよなー、つくば市は夜だろうと暑いの何の、ですからねえ。

銀座のヤマハビルがリニューアルするそうで。アクセスの極端な悪さから三、四回しか行ったことがないけれど、新ビルは地上12階、地下3階!「ヤマハグループの事業活動・情報発信の拠点となる」とか。なんか凄そう。2007年に着工して、オープンは2009年3月とのことで、どんなものができるのだろうか…。しかしまあ、印象としてはあまり古いイメージが無かったのだが、実は1951年に建てられたということらしい。

それから先月に雲カルリサイタルのため足を運んだルーテル市ヶ谷ホール、8/19にリニューアル完了したそうだ(建て替えではない)。あのちょっと古い雰囲気を放っていた客席、床等々がしっかり入れ替えられたようで、また何かコンサートを聴く機会があればいいな。

今日の話題はこのくらいか…実家にいて音楽ネタが尽きた(笑)。

あー、そうだ。最近ドルチェ楽器が特許をとったとかいう「Ext処理」を施したリード、なかなか良い気がする…。ためしに一箱使ってみたのだけれど、音が安定(するような気が)したり、普通のリードよりもちが良かった(ような気がした)り、若干箱での値段が高いのだけれど、一度使ってみる価値はある。あ、ドルチェ楽器の回し者ではございません。

なんというか、「リードの響きはこうでなければいけない!」と思い込んでいる人にとっては、これ以上の良いリードは望めないとも言える。とにかくどのリードを選んでも「ムラがない」ため、このExt処理後の響きが好きな人にはたまらないのだろう。

栃尾さんとかすでにガンガン利用しているという話も聞くが、まだ個人的には試用段階なので、見極めにはもうしばらく時間が必要かな…。

2006/08/24

ミュールのビデオ、LP

二日前に実家の荷物の中から見つけたマルセル・ミュールのインタビュービデオを観てみた。たしか高校生のときに楽器屋さんで見つけて、ミュールが演奏している映像が入っているかも!と思わず買ってしまったんだっけなあ。しかもかなり高かった(^^;と記憶する。残念ながら演奏の映像は入っていないけれど、ミュール自身がサクソフォーンに関する事柄をいくつか肉声で語った様子が納められている。ユージン・ルソーが記した「Marcel Mule, sa vie et le saxophone(Leduc)」とともに、ミュールの貴重な資料群のうちの一つに数えられよう。

時にミュール94歳。しかしまあ年齢が信じられないほどにしゃべるしゃべる。制作はフランスの国立高等音楽院ことパリ・コンセルヴァトワール(「コンセルヴァトワール」っていう言葉もすっかりおなじみになった)、もちろんフランス語収録だが、英語字幕のおかげでなんとか内容の理解はできる。

ミュール自身のバイオグラフィ、ヴィブラートを初めて実践した事に関するエピソード、ボレロの初演~ラヴェルへの四重奏委嘱、サクソフォーン四重奏団の結成、プラド音楽祭でのカザルス指揮のブランデンブルク、レコーディングに関して、ミュンシュとのアメリカ演奏旅行、ミュールの演奏論、そしてこれからのサクソフォーン界について…「サクソフォーンの神様」と呼ばれるミュールの、その一端を垣間見る事ができる。どのエピソードも大変貴重であり、どれもがサクソフォーンの歴史に刻み付けられるべき事柄だ。このビデオで語られる事をまとめるだけで、記事が一つ書けるかもなあ。50分間程度の収録だが、一通り見終わると脳がかなり疲れた。

クラシック・サクソフォーンのアイデンティティの獲得が、いかにミュールに因っていたか、ということを改めて確認。

…さて、ミュールネタでもう一つ。かつてEratoから出ていたミュール四重奏団のLPをなんとか中古でゲット(写真)!アブシル、リヴィエ、ピエルネ、デザンクロ入曲。原盤はErato(STU 70306)だが、日本ではコロムビア、アメリカではMusical Heritage Society(MHS 817)が出版していたようで、アメリカのサイトを探し回ってMHS盤を発見したもの。音源としての貴重さにも関わらず、なんと6ドル(安っ!)。しかしまあ、送料ケチって船便にしたら届くまでに一ヶ月以上かかってしまった…。

残念ながらモノラル盤だが(同じ品番でステレオ&モノラル二種類あるらしい)、まあとりあえずはこれで十分だろう。盤の状態も良さそうだし。ミュールさんのデザンクロかー、初演者だし聴くのが楽しみだ。ステレオ盤は引き続き気長に探索する事にしますか。

2006/08/23

私でなく、風が…

某所で湯浅氏の「私ではなく、風が…」の楽譜を見つけて、ふーん、という感じで眺めている(吹きませんよ)。

実演に接したのはつい最近、7/19のジェローム・ララン氏のリサイタルの時だが、そのとき湯浅氏が作曲経緯について興味深いエピソードをいくつか話された。その中の委嘱エピソード、「サックスの豊潤な音が嫌いで、野田君から委嘱されたときも断ろうと思っていたのだが、野田君にそう話したところ『僕もサックスの音が嫌いです』と言われ、断る理由が無くなってしまった」との話がずいぶんと頭の中に強烈に残っていて、楽譜も見てみたいなー、と思っていたところだったのだ。

マイクを譜面台の近くに二本並べて、片方は増幅、片方はエコーとし、サックスのベルはその間を行ったり来たりしながら独特の響きを作り出していく。サックスの譜面はほとんどが無声音やキーノイズで、意図的に大音量を抑えているような印象を受ける。現代の楽器「サクソフォン」のための曲と言うよりも、なんだかクラリネットのためのような楽譜だ。

面白かったのがヴィブラート。楽譜の一部を載せたが、全曲を通してヴィブラートの指示がここにしかないのだ(写真参照)!フツーのフランス・アカデミズムに則った作品の演奏では考えられませんなあ。

でもよくよく考えてみたら、そういえばヴィブラートをかけるべき音は、指示が無い場合はほとんど奏者の裁量に任されている部分がある。楽器の響きを明確に指定したい作曲者からすれば「ヴィブラート」って邪魔なものなのかもしれないな。ベリオ「セクエンツァIXb」の楽譜を見せてもらった事があるのだが、冒頭にはっきり「sans vibrer」の文字、そして曲中には適宜ヴィブラートの指示が。

響きにこだわりをみせたい作曲家ほどに、サクソフォン=ヴィブラートを伴った音、という固定観念を持っている作曲家達はサクソフォンから離れていく傾向があるということか。たしかに緊張感ある響きを管楽器で作り出したいのだったら、クラリネットなどの方が適任のような気もする…。

サクソフォンの歴史を俯瞰すれば、軍楽隊の中での木管と金管を合わせたような素朴な響き→現代のコンサートホールに適した豊潤で大音量のソロ楽器、ソロとしての響きを生み出そうとする課程でヴィブラートを獲得、という変遷を経てきたと言うことだが、こうして得たサクソフォンならではのアイデンティティが負の方向に働いてしまう状況も、あるにはある、のだろう。サクソフォンのそういうところに惹かれている自分にとっては、なんだか不思議な感じだ。

2006/08/22

平野公崇氏の映像

実家にある自分のものを整理していたら、ビデオカセットが二本出てきた。…一本はマルセル・ミュールのインタビュービデオ、もう一本は平野公崇さんが読売日本交響楽団と演奏した模様を録画したものだった!そういえば、高校のときに「深夜の音楽会」に平野さんが出ると知って、夜遅くまで起きていながら頑張って録画したような覚えが…。嬉しくなって早速観てしまった。

バッハ「ゴルトベルク変奏曲より『アリア』」、グラズノフ「協奏曲」、平野公崇「インパルス・オブ・リードフェイズ」、デニゾフ「ソナタより第三楽章ジャズアレンジ」。ちょうど平野さんのセカンドアルバム「ジュラシック」が発売されたころの番組で、選曲なんかまさに「ジュラシックの美味しいトコロ持ってきましたー」という感じだ。

平野さんの生の演奏は一、二回程度しか接した事が無いのだけれど、この人は本当に演奏する姿がすごい。鬼気迫る、というのはちょっと違うのか、ライヴならではの緊張感と言うか覇気と言うか、視覚的な情報が付くとまさにその「覇気」がダイレクトに伝わってくる。なんかまたライヴで聴きたくなったな…。

グラズノフの曲への没入度にはビックリするが、しかし音色や発音はあくまでしなやか。その辺は本場コンセルヴァトワールで学んだバックボーンなのか。なかなかどうしてフレーズの持続間は聴きもので、良く見れば循環呼吸まで使っているじゃないか!なるほど。オーケストラの指揮が井崎正浩氏で、そういえば2月に雲カル×尚美学園オケのグラスの協奏曲振っていたのってこの人だったっけー、と思い出した。

「インパルス・オブ・リードフェイズ」はアルバム「ジュラシック」のなかでも結構好きな曲なのだけれど、ここでは雪の上の足跡→ホルン、リードフェイズ→木管、ベース→コントラバスに置き換えての異色の編成による再演。あんまりオーケストレーションが成功しているようには見えなかったが(^^;しかしまあ豪華な演奏である事には間違いないな。サックスパートはCDで聴ける音とかなり違っていて、「おお、即興だ」と妙に納得してしまった。続いてデニゾフのジャズアレンジを聴けるのは良かった。CDよりもさらにアップテンポの強烈なフリージャズ、クリヤ氏も音変えすぎ(笑)。

うむむ、平野さんのリサイタルが聴きたくなったぞー。近いうちにエマニュエル・バッハの作品を集めたCDが出るらしいので、とりあえずはそっち狙いかな。

久々に聴いてちょっとテンションが上がってしまったのだけれど、こうして聴くとやはりVHSってかなり音が悪い…と痛感してしまった。録画した当時ではまだどうしようもないが、最近出回ってきた地デジ×フルHDレコーダーだとやはり音も綺麗なんだろうな。普通の番組を観ている分には構わないけれど、こういった音楽系の映像にはけっこう威力を発揮するのかもしれない、とも思った。

2006/08/21

ミシャ氏のCD

つくばから実家に戻るときに立ち寄った楽器屋さんで、ジャン=ドゥニ・ミシャ氏演奏のCDを見つけたので買ってきた。「Bach, Mozart, Schubert(JDM 002)」というアレンジものを集めたアルバム。

あんまり日本では知られていない奏者かもしれないので、簡単に経歴を説明すると:パリ国立高等音楽院をサックス、作曲、アナリーゼ、音楽史で一等賞を得て卒業。卒業後ドゥラングル教授のサックス科アシスタントを務め、さらに国立リヨン音楽院の教授に就任。使用楽器はなんとヤナギサワ。演奏だけでなく、作曲活動にも余念が無く自作が幅広く演奏されている…という音楽家。(公式ページ→http://jdmichat.brulin.chez.tiscali.fr/

まあそんな経歴は何となく知っていたけれど、実は実際の音はほとんど聴いたことが無く、たまたま見つけた勢いでつい購入。バッハ「パルティータBMV1013」、エマニュエル・バッハ「ソナタBMV1020」、モーツァルト「弦楽四重奏曲ニ短調K421」、シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」。一曲目は言わずと知れた無伴奏フルートのための作品だし、エマニュエルの作品は松雪先生のアルバムにも入っていたなあ。アルペジョーネは今でこそ広く演奏されているけれど、サックスで一番最初に取り組んだのはもしかしてミシャ氏なのかも?

とにかく隅から隅まで隙無く演奏されている事がわかる。作曲もするミシャ氏のこと、細かなアゴーギクの変化は必然的なのだろう。フレーズは思い入れ先行の歌い上げ、というよりも、これは細かなアナリーゼを施した上でのフレージングなのだろう。音色の変化は意外と少ない(トレンドですからね)が、美しくコントロールされている。

一番楽しみだった「アルペジョーネ・ソナタ」は雲井さんや栃尾さんの演奏と聴き比べてみると全然違う曲に聞こえる(笑)。サックスが本来持つ「雄弁さ」を幾らか意図して抑えた演奏で、そう言えばオリジナルは古弦楽器だったっけ、ということを思い出させる。サックスは抑え気味なので聴き流そうとすればさらっと聴いてしまえる演奏なのだけれど、よく聴くと細かいフレーズが超速で吹かれていたりして驚異的。かっこいいな。

そんなわけで随分と素敵なCDなのだが、自主制作版ゆえ普通のCDショップにはまず置いていないと思う。プリマ楽器の某氏が日本に200枚だけ持ってきたとかで、ごく一部の楽器屋さんでのみ入手可能なようだ。もう一枚、メンデルスゾーンとグリーグの小品が入ったアルバム(JDM 001)はまだ幾らか残っているらしいけれど、こちらのCDは残り少ないらしいのでサックスの方は見つけたら即ゲットしましょう(笑)。というか、この演奏なら他の管楽器の方にも十分薦められるなあ。楽器店の方も「サックス吹き以外にも推薦できる数少ないCDのうちのひとつだよ」みたいなこと言っていたっけ。

2006/08/20

遥かなる風景

ジェローム・ララン氏のCDがインターン中に実家に届いていたようで、ちょうど実家に戻ったこの機会に早速聴き始めている。

アルバムタイトルは「Paysages lointains(CREC-audio 05/048)」。フランスのメイヤー財団の助成を受けて、パリ国立高等音楽院が作成したディスク。ジャケットには「のだめ」でもおなじみのコンセルヴァトワールの新棟が描かれている。この新棟、湾曲した屋根が随分と斬新な印象を残すけれど、デザイン性ばっかりで機能性はさっぱり…という話を聞いた事があるなあ。

ゆめりあホールで演奏されたジョドロフスキ「Mixtion」や夏田昌和「西、あるいは夕べの秋の歌」、さらにマントヴァーニ「Troisieme Round」、ピアソラ「天使のミロンガ」、エスケッシュ「ショーロス」が収録され、各トラック間をララン氏の完全即興が繋いでいく。アルバムを最初から最後まで通して聴く事を前提にしている、ということか。

各曲について少し書いていくと…「Troisieme Round」は弦楽器や管楽器の中規模のアンサンブル+四種のサクソフォーン持ち替えソロという20分に及ぶ大曲。ララン氏のこのソロ以外にヴァンサン・ダヴィッドによる録音もある/「Mixtion」はパリ国立高等音楽院の卒業試験の課題曲としてかかれたサクソフォーンソロ+ライヴエレクトロニクスの曲。ジャンヴィエ・アルヴァレの「On Going On」みたい。関西で活躍するサクソフォーン奏者井上麻子さんが卒業試験で演奏した…というような話を聞いたことがある/「西、あるいは夕べの秋の歌」はドゥラングル氏がレコーディングしたので有名だろう。尺八のような不安定な音程感をソプラノサックスでコントロールし、東洋的なイメージが付きまとう/「天使のミロンガ」は言わずと知れたピアソラの名曲。ここではサクソフォーンのソロに、ピアノ+チェロ+コントラバスという編成で演奏されている/「ショーロス」はサクソフォーンソロ+ピアノ+弦楽四重奏という編成。現代的な響きと古典的な響きがうまく折り重なって興味深い。

…ふう、疲れた(笑)。「Mixtion」を手元に置けるのは嬉しいなあ。

ララン氏、どの曲も大好きでしょうがない!という気持ちがにじみ出ている。なんと言ったらよいだろうか、どの曲に対しても本当に真摯に向き合って、自らの持てる音楽を凝縮させた結晶のような録音だと思う。しかも気持ちだけではなく、きちんとテクニックが追従しているあたりはさすが。

アルバムをプレーヤーにセットして最初から聴いていけば、編成も様式もコロコロ変わってずいぶん楽しくて、次はどんな響きが飛び出すのだろう?とワクワクさせられるけれど、実は一番楽しんでいるのは、演奏しているララン氏本人なのかも。

トラック間をつなぐ完全即興もある種聴きモノだけれど、その即興トラックに参加しているピアニストがアレクサンドロス・マルケアス氏でびっくり。最近発売されたハバネラ四重奏団のアルバム「L'engrenage」で作曲家としてのクレジットを見たばかりだ。

やり直し

「やり直し」ネタ二題。どちらも最近、人づてで聞いた話ですが。

・須川展也さんの高校時代、アンコンにボザ「アンダンテとスケルツォ」でソプラノで出演した時の事。東海支部大会の本番、「アンダンテ」冒頭、テナーが民謡風のメロディを奏で、いざソプラノが絡み始めたまさにそのとき。なんとソプラノのG#のタンポがくっついてメロディが台無しに!…すぐに異変に気付いた須川青年、すかさず演奏をやめ、タンポを剥がして改めて最初から演奏しなおしたそうな。当時の音源も、聴かせてもらったことがある(本当にやり直している)。
ちなみにこの演奏は東海大会で金賞を受け、見事代表の座を勝ち取るのであった。続く全国の演奏でも金賞を獲得。うーん、さすが。

・ジャン=マリー・ロンデックス国際サクソフォーン・コンクールに出場した平野公崇氏、本選まで勝ち進み最後はなんとボルドー・アキテーヌ管弦楽団との協奏曲の演奏。本選は自由曲のほかに当然のことながら課題曲の演奏が課せられる。バックで演奏するオーケストラは何回も同じ課題曲のオケパートを弾かされてだんだんとテキトーな演奏になっていくのであった。そして平野さんの出番。オーケストラが気の抜けた前奏を弾き始めると、オケのやる気なさに気付き、平野さんすかさず伴奏を制止!!指揮者もびっくり、演奏者もびっくり、審査員も観客もびっくりしたことでしょう。そして演奏者の方に向かって「君たち、同じ曲ばかりで気が抜けているんじゃないか(想像)」というような事を言い最初からやり直させたんだそうな。
そして平野公崇氏はなんとこのコンクールで優勝!日本人としては初めて国際コンクールの覇者となり、サクソフォーン界にその名を刻み付けたのでありました。うーん、さすが。

…お二人とも、このエピソードから想像すればなかなかすごい度胸を持っていると推測できるが、まあしかし大物らしい堂々たる(?)エピソードではある。

2006/08/13

バリトン専門プレイヤー

バリトンサックスで思い出した。

クラシックサックスの世界というと大抵の奏者がアルトを専門としているのが常なのだけれど、オランダのヘンク・ファン・トゥイラールトという奏者は、なんとバリトンサックスを専門にしているのですよ。公式ページ(→http://www.saxunlimited.com/)を覗いてみるとわかるが、彼の活動は多岐におよび、世界でもっともパワフルなバリトンサックス奏者の一人だと言っても良いのではないだろうか。

四重奏団でのバリトン担当ならまだ話はわかるが、ソロ演奏もバリトンのみ、しかも弦楽器や声楽、ダンスとのコラボレーション、バリトンサックスのための新作委嘱、CDもバリトンのみ合計8枚!、カルテット参加も6枚!…とまあ、そのバリトンサックスへの偏愛っぷりは見ていて嬉しくなってしまうほど。

あいにく生の音を聴いたことはないものの、多岐にわたるジャンルの曲をレコーディングしているため、CDでその実力を確認することができる。…で、そのCDがものすごいのだ!本当に。

特にピアソラを取り上げた「Tango(Movieplay Classics)」は、巷に溢れているサックスによるのピアソラ演奏のなかで、ベストと言えるだろう。オーレリア四重奏団や、須川さんもピアスラ・トリビュートのアルバムを作成しているが、技術・テンション・選曲・アレンジ等々どれをとっても文句のつけようがないのが、このアルバムだ。

ソロヴァイオリン+バリトンサックス×弦楽五重奏団という編成の中で、バリトンサックスはめまぐるしく役割を変えながらエキサイティングなアンサンブルを繰り広げ、最初から最後まで一貫した完成度の高い演奏を聴かせてくれる。クラシックのバリトンサックスでベスト・アルバムを選べといったら、栃尾氏のアルバム「アルペジョーネ・ソナタ(Meister Music)」と並んで、これを選ぶだろう!バリトン奏者垂涎の的であることに間違いはない。

…が、トゥイラールト氏のアルバムは日本ではほとんど流通していないのですね。入手は至難。かく言う自分も件の「Tango」と、その他「Classical Tour」「Confesso」はかろうじて持っているものの、ヴィラ=ロボスやデューク・エリントンへのトリビュート・アルバム、バッハの無伴奏チェロ組曲を全曲演奏したアルバムなどなど…は未だ探索中。

2006/08/12

栃尾氏リサイタル情報

おーっと、栃尾克樹さんのバリトンサクソフォンでのリサイタルが開かれるようだ。ドルチェ楽器のミュージックマガジンを読んでいて発見したコンサート情報。ん?…ピアノはなんと高橋悠治氏!これはさらに注目度大ですな。

今でさえ私はテナーサクソフォンをメインで吹いている(?)けれど、昔はバリトン吹きだったのですね。そんな意味でけっこうバリトンサックスには思い入れがあって、2003年に東京文化会館で行われた栃尾氏×野平氏のコンサートもきちんと聴いたのだけど、まさかまたこのようなコンサートが聴けることになろうとは。前のコンサートがすばらしかっただけに、なおさら楽しみです。

早速プログラムも出ていた…おお、シューマン楽しみ。

・栃尾克樹 バリトン・サクソフォンリサイタル
出演:栃尾克樹(b.sax)、高橋悠治(pf.)
2006/10/16(月)19:00開演 浜離宮朝日ホール
入場料4,000円
バッハ「無伴奏チェロ組曲第一番」、フォーレ「エレジー」、シューマン「アダージョとアレグロ」、高橋悠治「影の庭(委嘱初演)」、ヌッシオ「ペルゴレージのアリエッタによる変奏曲」
お問い合わせ:ミリオンコンサート協会(03-3501-5638)
チケット取り扱い:ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京(03-5909-1771)

2006/08/10

明日で終わり

明日で三週間にわたるインターンシップも終わり。快適な仙台から蒸し暑いつくばへ戻るのは少々気が引ける…(笑)。終わってみればずいぶん短かったなあ、もう少しやっていたかったかも。

つくばに戻った後は少し時間ができるので、日中は楽器を吹いて過ごそうかなと思っている。来週末にある吹奏楽の本番のこともあるけれど、やはり三週間も吹かないとうずうずしてくるものだ。

2006/08/09

ラッシャーのラプソディ

バーンスタインがニューヨークフィルを振って、ドビュッシー「ラプソディ」を録音した音源がある。サクソフォーン独奏はシーグルト・ラッシャー。個人的に、やはりこの曲はマルティノン×ORTF×ロンデックスの録音あたりがトドメを刺していると思うのだが、こっちのニューヨークフィルの録音も味わいがあって好きだな。

ラッシャーがソリストとして録音したものは今ではほとんど入手ができないのだが、その数少ない貴重な音源のうちの一つ。サクソフォーンの歴史上でのラッシャーの存在を存分に伝えてくれる演奏かな、と思う。オーケストラもかなり上手く弾いているが、若干ソロパートに変更を施しつつ存在感を示すラッシャーのサックスは見事と言うほかない。ラーション「協奏曲」を録音したLPも存在するとの事で、機会があればぜひ聴いてみたいものだ。

その独特の音色は、フレンチ・サクソフォーン界からは見向きもされなかったであろう事が推測できるけれど、ラッシャーの存在はドイツやアメリカにおいてのクラシカル・サックスの礎の一つとなっていることは間違いないのだろう。

2006/08/07

ロンデックスのCrest盤

かつてCrestから出ていたジャン=マリー・ロンデックスのLPの音源をお貸しいただいた。デザンクロ「PCF」、ロベール「カデンツァ」、ミヨー「スカラムーシュ」他入曲。収録時間から推測するに何曲か欠けているような気がするが、これだけでも十分貴重な音源だな。

ロンデックスの復刻音源と言えば、EMI Franceから発売された「Le saxophone francaise」に含まれるソロや室内楽の録音が大変注目すべき内容だが、アメリカのCrestにソロを録音していたことは良く知らなかった。Googleで検索をかけると、ポール・ブロディ氏との親交があったことが分かるが、そのあたりの繋がりで実現した録音なのだろうか。

しかしまたしてもCrest!古きよき時代のワンマン・マイナーレーベルの一つだが、1980年代に取締役が亡くなったために、今ではほとんどの音源が散逸しているという幻のレーベル。デファイエが演奏したブートリーやガロワ=モンブランのLPだってここで録音されているためか、復刻されないわ中古でもほとんど出てこないわ…。ごくごく稀にCrestのLPとめぐり合うことがあったら、それはけっこうラッキーなのかもしれない。

さて肝心の演奏だが、さすが大御所ソリスト、貫禄十分の演奏だ。テクニック的にかなりハイレベルな曲目が揃っているが、ドビュッシーの「ラプソディ」でも聴けるあの輝かしい音色で悠然と吹ききっていく。カッコイイ!中音域の音色がいかにもロンデックスの個性炸裂という感じで、このあたりの音域で速いパッセージを吹かれると圧倒されてしまう。中でもロベール「カデンツァ」のすさまじい集中力(まるで狂気)は、デザンクロをも抑えてLP全体の中核を担う演奏だと思う。終わった瞬間にスカラムーシュに突入すると、かなりホッとします(笑)。

この粘りのある独特の質感、今となっては時代錯誤もいいところだが、こういうスタイルがサクソフォーン界からほぼ完全に消えうせてしまったのはちょっと寂しいな、なんだか。現代のプレイヤーが同じ曲を録音したら、全く違った感じになるのだろう。

2006/08/06

各地の吹奏楽コンクール

各地で吹奏楽夏のコンクールの結果が出揃い始めてますなあ。夏の甲子園と重なるまさにこの時期、全国の至るところであの独特の緊張感に包まれた雰囲気が…。今年も実は何度か会場に足を運ぶ機会があったのだけれど、ホールのメインエントランスに向かって歩いていく時に徐々に鼓動が速くなるあの感じをちょっとだけおすそ分けしてもらっている。

…筑波大学吹奏楽団は今年も金を獲得し、東関東大会にコマを進めたそうだ!おめでとう!

他にもいろんなところから朗報が!知り合いの愛知県のコンクールに出た子も、代表権を獲得したそうだ。おおー。あと例のあの団体とか、何だかんだ言って自分のことのように嬉しい(笑)

去年の、引退前最後のコンクールを思い出して、少し懐かしくなった。

2006/08/05

斬新な和声?

ゴルトベルク変奏曲を結構真剣に50分近く聴いた後に、間髪いれずショルティーノ「異教徒の踊り」を聴き始めたら、和声に耳がついていかなくてびっくり。いつもは綺麗に感じる「異教徒」の冒頭部分が、なんだかまるで不協和音のように聴こえたのだ。いや、こんな経験は初めて。

バッハの基本的な和音の連続で耳が洗われるということだろう。そりゃ確かに50分も古典的な和音バランスにどっぷり浸かっていれば、ちょっとでも4度や7度が出てきたり、意表をつく転回形、そして和声進行が出てくれば耳が驚くのは納得できる。

例えばいくら現在の聴衆がドビュッシーの「牧神」を美しく感じるからといって、それまで和声が生まれてから200年間もの間古典的和声進行に慣れてきた当時の聴衆にとっては、よほど不思議な響きに聴こえたことだろう。「牧神」を初めて耳にした瞬間の彼らの驚き、耳が驚きつつもなぜか美しく感じてしまうギャップ…現代にあっては「牧神」にセンセーショナルな響きを感じるという人はあまりいないが、「当時の聴衆が聴いている音楽」「今の聴衆が聴いている音楽」の性質をそれぞれ考えるとつじつまが合う。

「異教徒の踊り」と言えば…(話は変わるが)アンコンではサックス四重奏曲の定番だけれど、アンコン初演したのは誰だったのかなあ。1974年にはEMIから「異教徒」入りのギャルド四重奏団のLPが出ているから、それを聴いた誰かが楽譜を買って、誰かが全国大会まで行って…、ってところかな。そういえば大学一年のときこれ吹いてバリトンでアンコンに出たなあ、懐かしい。

2006/08/03

ヘムケ氏の録音

2005年にEnF Recordsから出たフレデリック・ヘムケ氏の「Simple Gifts」を試聴できるサイト(左側のPLAY ALL SONGSから聴けます→http://www.cdbaby.com/cd/enfrecords)を発見。聴いてみた。オルガンとアルトサクソフォンという編成のアルバム…クリスチャン・フォーシャウの「Sanctuary(Quartz)」を思い出したけれど、方向性はかなり違うみたい。

ヘムケ氏の音、実はほとんど聴いたことがなくて、しかし日本の雲井雅人さんとか佐藤渉さんとかはヘムケ氏の弟子だということで気になってはいたのだ。いくつか耳にしたことがあるのは、サミー・ネスティコの「Persuation」をCCBというバンドと一緒に演奏した録音(ここで聴ける→http://ccb.coin.org/sounds.html)とか、サンドロフ「ウィンド・シンセサイザーと弦楽のための協奏曲」の中間部のカデンツァくらい。

1975年にはLPで「The American Saxophone」「Music for Tenor Saxophone」という2つのアルバムをリリースしたとの事なのだが、もちろん今となっては入手するすべもなく指をくわえて待っていたところ(クラシックサックスの世界で音源を入手するのには、実は待つことが重要だったりする)、去年なんと新譜としてリリースされたのがこのアルバム「Simple Gifts」。さらに今年中に「The Americal Saxophonist」というアルバムも出すとの事。まあ、そちらが出たらまとめて買おうかと思っている。

さすが、歴史に名を残すソリストだけある。聴こえてくるのはタイトルどおりの確かに「シンプルな」音楽なのだけれど、こういうシンプルさを聴かせられる演奏家ってやはり稀なのだと思う。テクニックが凄いとか、音色が特徴的だとかは全くない。言ってしまえばただ単に普通のことをやっているだけなのに、心がこもったフレーズがはちきれそうだ。そういえば、隅から隅まで気配りしながらフレーズを形作ってゆく演奏って、雲井さんや佐藤さんの吹き方に似てなくもない。

テクニックに「おおっ」と驚いて感動することはありがちだけれど、シンプルで力強い堅牢な音楽は普遍的なんだろうなと思う。変な話だけれど、こういう演奏だったら他の管楽器の人や、弦楽器、果ては声楽家の人が聴いたって頷くのではないかな。数多のプロにとって、そしてもちろんアマチュアにとっても、こういうところに目指す理想があることが良いのだろう。…そうそう、ガロワ=モンブランの第一楽章を吹いて聴き手を感動させられなければ、いくら指が回ったって意味がないじゃないか(なんだそりゃ笑)!自分はまだまだですがね…。

さて、これはこれで良いとして、やっぱりLPも気になってしまう。ダールやフサの作品が入っているという「The American Saxophone」、それから「Music for Tenor Saxophone」聴いてみたいなあ。中古で売り出されていないか検索をしょっちゅうかけているのだが、どうやらどこにも出ていなさそうなのだ。うむむ、まあ気長に探すか。

2006/08/02

演奏家のアイデンティティ

上野の森美術館で、9/23から「生誕100周年記念ダリ回顧展」なるものをやる予定なのだそうだ。ほお上野か、ハバネラ四重奏団聴きに行くついでに行ってみようかな。あのよくわからない不気味なとろ~っとした感じの絵(そればかりではないけれど)、そして画家本人の特徴ある肖像(くるりとしたヒゲ!)、何かの本で目にして以来どちらも一度見たら忘れられない。作品を観たとたんに「ダリだ!」とわかるようなああいうのこそ、芸術家としてのアイデンティティの一つと言うのだろうか。

…そうすると、芸術家たる演奏家は自分の演奏を聴いた人が、「○○氏の演奏だ!」とすぐに分かるような演奏をすることこそが、芸術家としてのアイデンティティの有無につながってくる、とかそういう話になってくるぞ?そう考えると、音楽の世界ってなかなか美術や彫刻に比べて芸術家のアイデンティティというのがまだまだ希薄な世界なのかも。…いやいや、きっと自分の耳が悪いから分からない、ということかもしれない。

グールドのゴルトベルク

グレン・グールドが1955年に録音した、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」をようやく聴けた。重厚な演奏が主流だった当時のバッハの演奏に革命を起こした快活極まりない演奏、というような話はよく聞くが、実際のところどんなもんなのか。

今まで自分の中にイメージとしてあったのは、1980年代グールドのデジタル録音と2004年の野平一郎氏の録音。それらと比べて聴いてみるとなんと生き生きとした演奏だろうか!50年も前に演奏されたということが信じられない。すっかりゴルトベルクに対する認識を改めさせられてしまった。

不眠症の伯爵のために書かれたというこの作品だが、グールドの録音は先の変奏の展開が読めないエキサイティングなピアノ…これを聴きながら眠れるはずがない!ほとんどの繰り返しを廃し、速めのテンポ設定をすることで生まれる効果が絶大なのだろう。64分音符のフレーズを滑るように弾いていくのは、バッハの手から即興的に曲が生まれたということを思い起こさせる。

聴きものだったのが、いくつかの変奏に形式として与えられたフーガやカノン。わざと各声部をずらしながら弾いているのだろうか、それぞれのパートがこれでもかというほど透けて見えるのだ。例えば野平氏の録音は、どうしてもその美しいピアノの和声バランスに耳が惹かれてしまって、対位法的なイメージからするとちょっと違った聴こえ方に(私は)なるのだが、このグールド1955年の録音はそれとは全く違うアプローチなのだという印象を持った。

ゴルトベルク変奏曲はさすがに全曲通して50分を超える演奏となると聴くのにも気合が必要だが、この録音は40分未満。ゴルトベルク変奏曲、初めて聴くときはこのくらいの長さの録音がいちばんいいかも。ゴルトベルクに慣れてくると繰り返しが聴きたくなることもあるのだが、まあしょうがないか。

そういえば最近知ったのだけれど、ゴルトベルク変奏曲の主題はアリアのメロディではなく、アリアの裏で鳴っている通奏低音なんだと。そ、そうだったのかー!