グレン・グールドが1955年に録音した、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」をようやく聴けた。重厚な演奏が主流だった当時のバッハの演奏に革命を起こした快活極まりない演奏、というような話はよく聞くが、実際のところどんなもんなのか。
今まで自分の中にイメージとしてあったのは、1980年代グールドのデジタル録音と2004年の野平一郎氏の録音。それらと比べて聴いてみるとなんと生き生きとした演奏だろうか!50年も前に演奏されたということが信じられない。すっかりゴルトベルクに対する認識を改めさせられてしまった。
不眠症の伯爵のために書かれたというこの作品だが、グールドの録音は先の変奏の展開が読めないエキサイティングなピアノ…これを聴きながら眠れるはずがない!ほとんどの繰り返しを廃し、速めのテンポ設定をすることで生まれる効果が絶大なのだろう。64分音符のフレーズを滑るように弾いていくのは、バッハの手から即興的に曲が生まれたということを思い起こさせる。
聴きものだったのが、いくつかの変奏に形式として与えられたフーガやカノン。わざと各声部をずらしながら弾いているのだろうか、それぞれのパートがこれでもかというほど透けて見えるのだ。例えば野平氏の録音は、どうしてもその美しいピアノの和声バランスに耳が惹かれてしまって、対位法的なイメージからするとちょっと違った聴こえ方に(私は)なるのだが、このグールド1955年の録音はそれとは全く違うアプローチなのだという印象を持った。
ゴルトベルク変奏曲はさすがに全曲通して50分を超える演奏となると聴くのにも気合が必要だが、この録音は40分未満。ゴルトベルク変奏曲、初めて聴くときはこのくらいの長さの録音がいちばんいいかも。ゴルトベルクに慣れてくると繰り返しが聴きたくなることもあるのだが、まあしょうがないか。
そういえば最近知ったのだけれど、ゴルトベルク変奏曲の主題はアリアのメロディではなく、アリアの裏で鳴っている通奏低音なんだと。そ、そうだったのかー!
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