2007/07/30

白井奈緒美さんの演奏映像

パリ国立高等音楽院に在学中のサクソフォニスト、白井奈緒美さんの演奏映像を発見したので、リンクを貼っておこう。八幡在住のピアニスト、谷口淑子さんが主宰するコンサートシリーズの映像。

こちらのページ(→http://www.kitakyushu.tv/~mojiko/Tierra2004/)からたどることができる。もしくは、以下の直リンクからどうぞ。

・ドビュッシー「ヴァイオリン・ソナタ」
http://www.kitakyushu.tv/~mojiko/Tierra2004/move/SHIRAIandTANIGUCHI.wmv

・デクリュック「ソナタ」より
http://www.kitakyushu.tv/~mojiko/Tierra2004/move/SHIRAIandTANIGUCHI2.wmv

ノナカ・サクソフォン・フレンズ中のレポート、昨年のアドルフ・サックス国際コンクールにおいてもセミ・ファイナリストになるなど、いくつか活躍の様子が伝わってきていたが、録音・ライヴ問わず演奏を聴くのは初めてだ(もしかしたら、サクソフォン・コングレスのビデオ中の、エスケシュ「暗黒の歌」のラージ伴奏の中に座っていたかも知れないが)。

2004年の演奏とのことだが、しかしデクリュックの演奏など、解釈からテクニックまで、まさに師匠(ドゥラングル教授)譲りという感じだ。

2007/07/28

難物を編曲中

とある曲の編曲作業(楽譜書き)が忙しいので、しばらくブログの更新が滞るかもしれません。

(7/29 21:00追記)
見通しがついてきた…あと60小節!

(7/30 21:00追記)
できたー!とりあえず、目標は達成。日中はインターンで丸つぶれなので、作業時間が限られるのが苦しい。

書き終えた楽譜は、こんな感じ。強弱記号、アーティキュレーションまでは手が回らないため、とりあえず無視(スラーはつけた)。

2007/07/26

ドゥラングル教授リサイタル情報

今年11月の、クロード・ドゥラングル Claude Delangle教授の2007年来日リサイタルのチラシを手に入れたので、貼り付けておこう(ちなみにこちらにはすでにアップ済み)。クリックすると、拡大できます。カッコ良いチラシですねえ。

世界最高のサクソフォン奏者・教育者とも評されるドゥラングル教授だが、その久々の来日コンサートの、なんて強烈なこと!2004年アゴラ音楽祭のラインナップを思い出した(あ、「舵手の書」はこのときが世界初演なのですね)。以下、詳細。

・ドゥラングル サクソフォンライヴ"Quest"~探求!サクソフォンの可能性
出演:クロード・ドゥラングル、平野公崇、波多江史郎、井上麻子、有村純親(以上sax)
2007/11/23(金・祝)17:30開場18:00開演
静岡音楽館AOI
全席指定4000円(学生1000円)
プログラム:
- G.グリゼイ「アヌビスとヌト」
- P.ジョドロフスキ「Mixition」
- L.ナオン「センドロス」
- G.スピロプロス「SAKSTI(日本初演)」
- C.ドゥラングル「アラウンド(日本初演)」(L.ベリオ「セクエンツァVIIb」)
- A.マルケアス「Perilepsis(世界初演)」
- 鈴木純明「凧」
- M.ストロッパ「委嘱作品(世界初演)」
- J.t.フェルドハウス「Grab It!」
- M.タディニ「ブレリア(日本初演)」
問い合わせ:
054-251-2200(静岡音楽館AOI)
http://www.aoi.shizuoka-city.or.jp
チケット発売:
7/14(土)9:00~
取り扱いは、静岡音楽館AOI、チケットぴあ他

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すごい!!演奏者がドゥラングル教授に加えて、パリで学んだ日本人奏者たち。音楽監督が野平一郎氏で、音響デザイナー&エンジニアをIRCAMから呼ぶようだ。おそらく、この先一生聴けないプログラムを、最強の演奏と最高の音響設備で聴ける!のだ。貴重な機会になることは、間違いがない。

とりあえず、「Mixtion」「Grab It!」をラランさんのリサイタル以来また生で聴けるのが、楽しみ。ナオンの作品にも、興味津々。鈴木氏の「凧」という作品が、ソロサックス+サクソフォーン四重奏という編成であるので、日本人の奏者とはその辺で共演すると思われる。

東京でやらないのが残念ではあるが、思い切ってチケット、予約しました(学生券は1000円!)。かなり遠いが、休日だと言うのがありがたい。静岡観光も兼ねるつもり。

2007/07/25

文化論特講4日目

最終日の講義の内容の覚書を、wordのドキュメント形式でアップしてみた。

http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/lectures/

最終日は、戦後の日本のクラシック音楽史。さすがに「浅く広く」という感じだが、深く探求してみたいと思わせる内容が多い。来年も開講されるのかな。「フランス近代~現代音楽の歴史」とかやってくれないかしらん。

あ!そういえばですね、12音技法の解説のところに譜例を載せたのですが、その基本音列をぜひご覧ください(笑)。きちんとサックスネタになるように、コダワリました(わかる方はいらっしゃるかな?)。

2007/07/23

文化論特講3日目

もう少し早めにまとめるつもりだったのだが、時間がなくてこんな時期になってしまった。白石美雪教授による文化論特講I、「日本の洋楽史」レクチャーでの、講義の内容の覚書き。

ちなみに、講義中に聴いた作品の中に、サクソフォンが含まれている作品が2つあったのだが、おわかりだろうか?…イベールの「祝典序曲」も講義中に鳴らしてほしかったな、なーんて。

http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/lectures/

「Music Tomorrow 2007で聴いた新実徳英『エラン・ヴィタール』か金子仁美『nの二乗』を選択し、講義の内容などを参考にテーマを設定し、論じよ(2500~3000)」という課題レポートは、インターンやら学会発表練習やらが忙しくて書いている暇がほとんどないため、もしかしたら書かないかも。「聴講」はその点いくらか気楽で良い。

ネタはいくつか思いつくのだが。「スペクトル楽派作品に見られる方法論的作曲手法と、『聴こえる音楽』の差異~金子仁美氏の作品を聴いて」とか?「新実作品に聴かれる、民族主義的作曲技法の分析」とか?

しかし、なんだかマントヴァーニ作品の印象が強すぎて、レポートの対象になっている作品の音を思い出せないのは、困った。「『タイム・ストレッチ』における作品構成の、近代~現代フランス音楽からの影響」「マントヴァーニ作品における、管楽器法の分析」とかなら、書き易そうなのに。

最終日の講義の内容は、ノートが10ページほどに及んでいるので、まとめにはもう少し時間がかかりそうだ。

2007/07/21

買っちゃった…「Comprehensive Guide to the Saxophone Repertoire」

ジャン=マリー・ロンデックス Jean-Marie Londeix氏が著し、1970年に出版された「125 Years of Music for Saxophone」は、当時世界に存在した、ほぼ全てのクラシック・サクソフォンのための作品(6,000作品!)を網羅した書籍。サクソフォン作品が増えつつあった当時、作品を目録として整理することで、サクソフォン界に大きな影響を与えた。

その後、1994年には12,000作品をまとめた「150 Years of Music for Saxophone」が同じくロンデックス氏の手によって編纂された。そして2003年には、増え続けるレパートリーを追う形で、「Comprehensive Guide to the Saxophone Repertoire 1844-2003」が出版された。これは、古今東西のサクソフォンのための曲を、実に18,000作品(!!)網羅した書籍である。

で、その本を買っちゃったのです(^^;;;;

クラシック・サクソフォンの世界を研究するために、いつか欲しいと思っていたのだ。買うのを先延ばしても情報が古くなるだけだし、この際だと見切りをつけて注文してしまった。とにかく高い本なのだが、送料込みで10000円未満だった、とだけ言っておきましょう…。ああ、お金が…(涙)。

さて、届いた本を見て、びっくり!写真を見ても、やや大きさが分り辛いが、見開くとA4ページ×2のA3サイズで、臙脂色ハードカバー金文字入り、厚さ4センチ全646ページ、というボリューム。メインはオリジナル作品・アレンジ作品の作曲家のアルファベット順インデックスで、そのほかに、編成別インデックスが付属している。各作品に対して、ごくごく簡単な編成表と作曲年代、演奏時間、出版社などの情報が記されているというもの。著名な作品に対しては、フランス語または英語で解説が挿入されている。

見開き丸々、名前すら聞いたことのないような作曲家で占められている、ということは、ザラ。ページを開くごとに、新たな発見が。マルカス・ワイスがシェーンベルグの5つのカノンを編曲していたのかあ、とか、意外とサクソフォンと声やライヴエレクトロニクスの作品って多いぞとか、こんなヘンな編成の曲があるのかあ、とか。書ききれません。

書籍としての凄さと同時に、サクソフォンの世界の凄さを見せ付けられた感じだ。とりあえず、この大仕事をやってのけた編纂者のロンデックス氏と著者のブルース・ロンキン氏に、感謝の念を表しつつ、こう叫んでおこう。

「クラシック・サクソフォンの海は、実に広大なり!」

この本は、クラシック・サックス界という広大な海を航海するのに必要な、まさに海図そのものだ。…興味ある方は、(高価ですが)アマゾン等で探してぜひ買ってみてください。

祭にて

吾妻まつりにて、天久保オールスターズバンドで演奏。楽しかったが、疲れた…。「祭」のああいう雰囲気を見ていると、音楽というものの発生の理由が分かるような気がする。日常から切り離された、異様な空間。

打ち上げにも参加できず、これから学会に向けての発表資料を作らねばなりません。ああ…。

声とサクソフォーン、ピアノ「息の横断」

しばらく前から楽しみにしていた、ジェローム・ララン Jerome Laran氏によるコンサート。主催はヌオヴォ・ヴィルトゥオーゾで、コンサート自体は、アリオン文化財団の「東京の夏」音楽祭の参加公演なんだそうで。ソプラノ(声楽)にメニッシュ純子氏、ピアノに杉崎幸恵氏を迎え、日本では実現される機会の少ない、声楽+サクソフォンという室内楽形態での作品が数多く演奏された。

アプリコの小ホールをほぼ満員の聴衆が埋めていたが、どういった方々なんだろうか。やはり作曲界の人が多かったのかな?

・イェスパー・ノーディン「†火から生まれる夢&即興演奏(asax, computer)」
・堰合聡「‡狂言(ssax)」
・アンダーシュ・エリアソン「†大地(pf)」
・鈴木治行「‡編み目II(sop, ssax, pf)」
・小櫻秀樹「‡むかしむかしあるところにジェロッキオがいました…(ssax)」
・ジェラール・グリゼイ「†アヌビスとヌット(bssax)」
・フィリップ・ルルー「†青々とした緑に覆われたところ(mezzosop, ssax)」
・鈴木純明「‡赤と青の対句(asax, pf)」
・野平一郎「†舵手の書(mezzosop, asax)」
†:日本初演 ‡:世界初演

今回も、昨年の「サクソフォーン旋風」に引き続き、大変面白いコンサートだった!往年のフレンチスクール的プログラム・演奏も個人的には好きだが、今日のようなコンサートを聴くと、改めてサクソフォンの世界の広さを感じる。まあ、せっかくなのでひとつひとつ感想(レポート?)を書いてみよう。

ノーディン氏、スウェーデンでは活躍中の若手なんだそうだ。本日の作品は、スウェーデン民謡にヒントを得、リアルタイムの楽器音録音・素材とのミキシング・発音によってサウンドを作り上げていく、というプロセスが見て取れた(ノーディン氏はIRCAMに在籍していたこともあるそうで、おそらくMacBook上ではMAX/MSPが動いていたのでしょう)。途中から楽譜を離れて即興パートへ移行し、サックスから繰り出される超絶技巧の数々が多重的にミックスされ、かなり面白い効果を引き出していた。

一曲目を聴き終わった段階で、「いったいラランさんの"限界"なんてものは存在するのだろうか…」とふと思った(笑)。スタンダードなピアノからフォルテ、現代奏法から、フレーズの扱い等々、何から何まで凄いのですよ。アクタスで聴いたときにも感じたが、どんな曲に対しても99%のテンションを維持している、というか。うーむむむむ、うまく表現できない。

堰合氏のソプラノ・サックスのソロ作品は、去年の「サクソフォーン(ソロ)」に似ていたなあ。固定音列(移調すらしない)の中で、テンポとリズムの遊びを繰り返す感じ。ソプラノサックスの、軽々としたイメージとあいまって、可愛らしい作品・演奏だった。エリアソンのピアノ作品は、ちょっと苦手な感じでした…響きはとても美しいのだが、中低音の分厚い和声を起伏なく聴かされると、やや頭痛が…ああぁ。

鈴木治行氏の「編み目II」。ここでついにソプラノのメニッシュ純子さん登場、杉崎さんのピアノ、ラランさんのサクソフォンでの、トリオ演奏だった。基本的にポリフォニックな音運びをする作品で、互いのパートが付かず離れずを繰り返して、響きを作り出していくイメージ。ここで感じたのは、サクソフォーンと比べたときの「声」の表現力の高さ。

時折、声とサクソフォンが似たような(音高や音強の変化が幅広い)フレーズを、ユニゾンで奏でるのだが、ラランさんのサクソフォンだけ取り出してみれば、実に繊細なコントロールを行っているように聴こえるのに、ユニゾンになったとたんにどうしても「声」のほうに耳が傾いてしまうのだった。いくらサクソフォーンが、人の声に近い音、そして表現の幅が広いとはいっても、「声」と比べたら適わないのね…と感じた瞬間。案外、そこまで狙って書かれていたのかな。

休憩後は、小櫻氏の「むかしむかしジェロッキオがいました…」から開始。これは、サクソフォーンの楽器としての演奏に加えて、かなりのパフォーマンス要素を含んだものであり、ややコメントしづらいのだが、ラランさんのキャラクターをよく知っている(と思われる)小櫻氏ならではのもの、だったのかな。例えば、ダンサーを別に配置する等の試みでも聴いて(観て)みたい。途中のラランさんのあの顔が忘れられません…オチも楽しい。

続いて某音大のバスサックスを使用し、グリゼーの「アヌビスとヌト」。グリゼイ作品集にて、ドゥラングル教授の演奏を聴いたことがあるが、こんな曲だったっけ?「アヌビス」では一つの音高に留まりながら、さまざまな音色が飛び出すようなフレーズがあるのだが、バスサックスのようにアンブシュアに余裕があると、変化が極端に感じ取れるものだ。それほど響かなかった会場だったのは、実に惜しい。残響の多い環境でこそ、聴いてみたかった。

フィリップ・ルルー「青々とした緑に覆われたところ」。サクソフォンと声とのデュオ。どんな響きがするんだとハラハラ聴き始めたのだが、意外や意外、先ほど鈴木作品で感じた表現力の不利さは、こちらの曲では感じなかった。あるときはユニゾンで未だ誰も聴いたことのないような音を創り上げ、またあるときはお互いが後ろに回りこみながらと、スリリング。

鈴木氏の作品は、ピアノとサックスのデュオ。相変わらず?楽譜が横に長い。かなり演奏困難な作品だと思われるが、さすがラランさん、もちろん技術的には何の不安も感じさせず、むしろころころと変わるサクソフォンの表情を印象的に聴いた。ピアノとの精密極まりないアンサンブルも、見事。最終部、コーダで響いた音に、ゾクっとした。(他の作品がどうこう、というわけではないが)この作品は普通に再演されてもおかしくない。

で、楽しみにしていた野平一郎「舵手の書」。いやー、すごかったです。会場ではThunderさんにお会いしたのだが、終演後にお話したときに、この点意見がピタリと合った。とりあえず、声のパート、サクソフォンのパートは、いずれも超高難易度であることは間違いなく(ラランさん自身、難しいと仰っていた)、それを見事に切り抜けたこともすばらしかったのだが、それに併せて曲から受けるインスピレーション、曲の持つ構造、パワー、等々という点で、他の作品を凌駕していた。

私は作曲の専門教育を受けたことがあるわけではないのだが、いち聴衆として聴くだけで、この印象の違い。何というか、ある種崇高さに対する畏れのようなものすら感じた。大脳皮質の理性的な部分に留まってしまうのではなくて、自分の脳のもっと深遠なところまで突き刺さってくるような…そこで感じていたものは感動か、あるいは恐怖か。

野平氏が客席にいたのだが、「舵手の書」後に舞台に呼ばれたときの反応を見るに、かなり良い演奏だったようだ。いやあ、この機会に臨席できて良かったなあ。

さてさて、ラランさん、次は何をやってくれるんだろうか。来年頭にはドビュッシーなどの作品のレコーディングも予定されているようで、こちらも楽しみ。

2007/07/18

Russell Peck「The Upward Stream」

久々に良い曲を見つけた。吹奏楽畑でずっとサクソフォンをやってきた私だけに、この作品は、かなりツボ!

ラッセル・ペック Russell Peckは、1945年生まれのアメリカの作曲家。ミシガン州立大学で作曲の博士号を取得した後は、数々のオーケストラ作品を手がけ、その作品はアメリカ、ヨーロッパにおいて頻繁に演奏されている。彼が1985年に作曲した「上昇気流 The Upward Stream」は、アメリカのサクソフォン奏者、ジェームズ・フーリック James Houlikに献呈された、テナーサックスとオーケストラのための協奏曲である。

…しかし、なんと珍しや、テナーサックスのための協奏曲とは。テナー作品は、リチャード=ロドニー・ベネットの「スタン・ゲッツのための協奏曲」あたりが、トドメを刺していたかとも思っていたのだが、「上昇気流」を聴いてその考えが吹っ飛んだ。個人的には、この二作品はテナーサックスのための協奏曲の二大巨塔であると考える。

曲は、緩-急-急の3つの楽章から成る。第2楽章のカデンツァ後には、いったん落ち着きを見せるが、その後再び、第3楽章冒頭から頂点へと向けて徐々に盛り上がってゆく。

バックはオーケストラであるが、管打楽器の効果的な使い方により、まるで吹奏楽バックであるような錯覚を受ける。随所で前面に顔を出す木管楽器のソロ、トランペットの輝かしいファンファーレ、ホルンの咆哮、トロンボーンのグリッサンド、ティンパニの連打、etc.オーケストラパートの見せ場がかなり多く見られる。

そして、ソロテナーサックスパートの超絶技巧。献呈を受けたフーリック氏は、もともとラッシャーの教えを受けた奏者なんだそうだ(最近では現代楽器を使うなど、かなり方向性を変えているようだが)。そんなこともあってか、テナーにしてはありえないほどの超高音も飛び出す。派手なオーケストラパートと対話を繰り返しながら、最終部に向けて前進する様子は、何度聴いても興奮する!実演で聴いてみたいなあ。かっこいいだろうなあ。どなたかオケとやっていただけませんかね(かなり本気モード)。

断言してもいいが、世のクラシック・テナーサックス吹きは、とにかく一度この曲を聴くべきだ。テナーサックスに対するイメージが変わってしまうことだろう。

吹奏楽っぽいカッコ良さ…クラシック作品でありながら、ポップスやジャズの要素を効果的に使用するジャンルが、なんとなく存在するとは思うのだが、まさにその「カッコ良さ」に、ピタリとはまるように、曲が書かれているのだなあ思う。たぶん、吹奏楽を好きな人がこの作品を聴いても(オーケストラ作品ではあるけれど)一発で気に入るのではないだろうか。

録音は、フーリック×ロンドン交響楽団のものが最高(というか、コレくらいしかないのでは)。アルバム名は「American Saxophone(Koch 3-7390-2)」。CDは廃盤であるためかやや入手しづらいが、eMusicのトラックダウンロード販売を通じても入手できるので、興味がある方はぜひ。ちなみにピアノとのデュオバージョンもどこかで聴いたことがあるが、オーケストラとの録音に比べると、何十倍も聴き劣りしてしまうので、聴くならオケ版を!

2007/07/17

御三方の演奏会予定、まとめ

先日聴きに言ってきた「原博巳&ジェローム・ララン&大石将紀ジョイントコンサート」に出演されたそれぞれの方の、今後の演奏会情報をまとめておこう。

ヌオヴォ・ヴィルトゥオーゾ Vol.3 声とサクソフォーン、ピアノ「息の横断」
出演:ジェローム・ララン(sax)、メニッシュ純子(sop)、杉崎幸恵(pf)
7/20(金)19:00~ 大田区民アプリコ小ホール
前売り2000円、当日2500円
プログラム:
・小櫻秀樹「‡むかしむかしあるところにジェロッキオがいました…(ssax)」
・鈴木純明「‡赤と青の対句(sax, pf)」
・ジェラール・グリゼイ「†アヌビスとヌット(bssax)」
・フィリップ・ルルー「†青々とした緑に覆われたところ(mezzosop, ssax)」
・堰合聡「‡狂言(ssax)」
・イェスパー・ノーディン「†火から生まれる夢(asax, computer?)」
・即興演奏(sax, computer)
・アンダーシュ・エリアソン「†大地(pf)」
・野平一郎「†舵手の書(mezzosop, asax)」
・鈴木治行「‡編み目(sop, ssax, pf)」
†:日本初演 ‡:世界初演
http://www.arion-edo.org/tsf/2007/program/concert.jsp?year=2007&lang=ja&concertId=s03
お問い合わせ:nuovovirtuoso@yahoo.co.jp(Nuovo Virtuoso事務局)

実に楽しみな週末の演奏会。昨年の強烈なリサイタルに引き続き、今年もなんだか凄いことになっている。とりあえず、全てのプログラムが世界初演or日本初演だという…。

とりあえず「舵手の書」、そしてグリゼイのバスサックス作品をライヴで聴くのが楽しみ(ドゥラングル教授の録音は聴いた事があるのだが)。イェスパー・ノーディンの作品も、なんか面白そう。世界初演の作品も、面白そう。…まあ、全部が楽しみってことです。同日同時刻のスピリタスも良いけど、こちらも要注目ですぞ!>サックス関係の皆様。

平日夜だが、是非にオススメ。ところでチケットまだあるのかなあ。

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B→C ビートゥシー:バッハからコンテンポラリーへ
出演:大石将紀(sax)他
2008/3/18(火)19:00~ 東京オペラシティ・リサイタルホール
全席自由3000円
プログラム:
・藤倉大「委嘱作品(世界初演)」
・バッハ「ソナタBWV1034~サクソフォンとギターによる」
・「『サクソフォンのための現代奏法エチュード』より」
・野平一郎「舵手の書」
・ヤコブ=テル・フェルドハウス「Grab It!」
・酒井健治「Reflecting space II - from Bach to Cage」他
問い合わせ:03-5353-9999(東京オペラシティチケットセンター)

100回目のB→C、大石氏のサクソフォンだそうな。演奏会のプログラムににチラシが挟まっていたので、情報を載せてみた。こちらもまた、実に興味深いプログラム。「On Site Labo」は聴きにいけず悔しい思いをしたのだが、プログラミングにやや関連性が見られる辺り、けっこう嬉しい。

「現代奏法エチュード」というのは、何人かの作曲家による連作のようで、なかなか興味深い。フェルドハウス「Grab It!」は、言わずと知れたものでしょう。テナーサックスのために書かれた、最も素晴らしいソロ作品のひとつだ(私の中では)。

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原博巳サクソフォーンリサイタル
2008/6/20(金)浜離宮朝日ホール

まさに、満を持して、といったところだろうか。クラシック・サクソフォーンの現在を、どういった切り口で魅せてくれるのだろうか。絶対行こう…今から楽しみです。

2007/07/16

Fabien Chouraki on YouTube

学会の発表資料作りが切羽詰っているので、YouTube上のムービーを紹介するお手軽モード。なんだか最近はムービー紹介ネタが多いが、観てくださっている皆様的にはどうなのかしらん。…私の書く駄文を読まされるよりは、いくぶんマシか(^^;

ファビエン・ショウラキ Fabien Chouraki氏の演奏ムービー。ショウラキ氏はフランスのサクソフォン奏者で、ロンデックス~ベルデナッド=シャリエと続いた、あのボルドー音楽院サクソフォン科の現職の教授だ。CDをいくつかリリースしており、エレクトロニクス系サウンドとの共演によるアルバム「Paysaginaire(Visages du Saxophone VDS-005)」は、以前このブログでも紹介した

・サンジュレのソロ曲…曲名はなんだろう。なんと驚きの、C管サックスによる演奏。素朴な音色がとっても新鮮。


・パガニーニ「『24のカプリス』より第24番」。おそらくロンデックスによる移調編曲版。こちらの演奏と聴き比べてみると面白いです。


・ダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」。って、ええ!?第2楽章で終わっちゃうの?最後まで聴きたかった…。


うーーん、ちょっと唸ってしまう。ショウラキ氏はやはり、現代音楽を吹きこなしていたほうが似合う気がするなあ(^^;

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「スカラムーシュ」といえば、他にYouTubeでは須川さんの中国での演奏ティエス・メレマ氏の演奏デール・アンダーウッド氏の演奏などを観ることができる。

2007/07/15

Amstel Quartetの演奏会ムービー

今回はYouTubeではないので貼り付けはできないが、面白い動画を発見したのでリンクを載せておく。

http://www.trinitywallstreet.org/calendar/index.php?event_id=40361

上記リンク先から、Watch Nowをクリックすると観ることができる。オランダのサクソフォーン四重奏団、アムステル・クヮルテット Amstel Quartetの、アメリカの、ニューヨーク・トリニティ教会?での演奏ムービー。演奏曲目は、以下のとおり。

・スヴェーリンク「クロマティック・ファンタジー」
・グラズノフ「サクソフォーン四重奏曲作品109」
・バーバー「アダージョ」
・ナイマン「ピアノ・レッスンより」

アムステル・クヮルテットの面々は、なんと全ての曲を暗譜でこなしている!目玉はやはり、グラズノフの四重奏曲全楽章(!!)。もちろん暗譜によるミスがところどころに散見されるものの、全体を見渡せば技術的な不安はほとんどなく、むしろ一曲の中に見事な構成感を感じ取ることができる。そして、この25分に及ぶ長丁場を、すばらしい集中力で吹ききっている。第3楽章最終部の煽りは、Quatuor Alexandreに匹敵するかも。アマチュアとしては、奏法を確認できるのが嬉しい…って、ソプラノ奏者が循環呼吸を使ってフレーズを繋げているぞ(^^;テナーの最終部のトリルはやっぱり右手使わないと速くできない、とか。

バーバーやスヴェーリンクの作品は、ゆったりとした響きが教会に良く合う。音質がなかなか良いので、とても聴き応えがあるのが嬉しい。最後に配置されたナイマンのおなじみの作品では、曲が始まる前に「ピアノ・レッスン」だと紹介している割に、違う曲(○○○への歌)も顔を出すが、まあご愛敬(^^;;;

うーん、やや話が逸れるが、ここでのグラズノフの演奏、さらに最新アルバム「1 gram of time」には「XAS」や「Rasch」が入っていることから推測すると、やっぱり大阪国際室内楽コンクール狙っていたのかな…と思えてきますな。

※ストリーミングのクオリティを選択できるのだが、私の環境(Firefox)では、Highまでしか選択することができなかった。Internet ExplorerならばUltra Highまで選択できるが、どうやらUltra HighとHighの間に画質・音質の違いはなさそうだ。ちなみに保存したい場合は、GetASFStreamなどを使えば良いと思います。

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(オマケ)

オランダの野外音楽祭?におけるアムステル・クヮルテットの演奏 on YouTube。曲目が重複しているが、こちらは残念ながら抜粋。

2007/07/14

原博巳&ジェローム・ララン&大石将紀ジョイントコンサート

次第に強くなりつつある雨脚のなか、渋谷のセルマー・ジャパン(アクタス)まで足を運んで聴いてきた(フランスでは雨が降ると極端に客足が遠のくらしい…ホント?)。この三者が一堂に会したときに、どのような音楽が飛び出すのかは、まさに聴いてみなければ解からない、という感じだったのだが、これが面白いの何の!

言わずと知れた、世界の最先端を走り続けるトップ・プレーヤーたちの共演。日本を拠点とした活動を展開しながら、世界的にも認知されている原氏、フランスの現代サクソフォーンに精通したララン氏、藝大卒業後、六年間もの間フランスで音楽を学んだ大石氏と、それぞれに全く違ったプロフィールを持つ奏者たち。ソロ+ピアノで一曲ずつと、デュオを二曲、トリオを一曲、そしてアンコールでは、トリオ+ピアノという編成。ピアノは原さんとの共演でもおなじみの、原田恭子さん。

・ジャン=マリー・ルクレール「デュオ・ソナタト長調」(ララン氏&大石氏)
・ピート・スウェルツ「ウズメの踊り」(原氏&原田氏)
・アルフレッド・デザンクロ「前奏曲、カデンツァと終曲」(ララン氏&原田氏)
・パウル・ヒンデミット「コンチェルトシュトゥック」(原氏&ララン氏)
・アンドレ・カプレ「伝説」(大石氏&原田氏)
・バッハ「ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ第2番」(トリオ)
・アンコール:小森俊明「我々は歩んでいる(委嘱初演)」

フランス仕込みのスタイルだからどうだとか、日本で学んできたからどうだとか、そういうことまではあまり頭をめぐらせる暇もなかった。スタイルは三者三様で、しかも例えば、日本人ではあるがパリで長く学んだ大石さん<->ラランさんの音楽的距離感に比較して、日本で活動する原さん<->ラランさんの距離感をふと汲み取ろうとしたときに、前者のほうが近い、後者のほうが遠い、というような単純な分け方はできないようだ。その点、実際聴くまで想像していたのと違って興味深い。

まあとにかく、アンナホールというごく狭い空間の中で太い音楽の流れに飲み込まれた2時間(休憩含む)。お客さんもいっぱいで、良い演奏会だった。

原さんのウズメは、際限のないテクニックの中に、ストーリー性を感じることができた。洞窟の前で舞うアマノウズメの性格や表情を驚くほどに表現している至難な作品を、スラスラとこなしていた。ラランさんのデザンクロは(ドゥラングル教授のお弟子さんとは思えないほど)濃厚な歌い上げに、超速のテンポ。今まで聴いた同曲の演奏の中でも、かなり上位に位置するものだと感じた。大石さんのカプレは、ヴィブラートを控えめにしながら、徐々に空気を変えていくさまが見事。全体が一本の糸でつながったような、こんな構成感のあるカプレは初めて聴いた。

ソロも良かったのだが、やはり本日の聴きモノはデュオ、そしてトリオだ。1+1が3にも4にもなるような、激しい個性のぶつかり合い、そして絶妙な呼吸の連動。一曲目のルクレールから、スケールの大きな音楽にノックアウトされたのだった。ヒンデミット(ラッシャーとカリーナのエピソードも興味深し)は、すでに何度もデュオをこなしている原さんとラランさんだけあって、慣れたもの。丁々発止のやりとりの最中には、本当に音が2つ以上聴こえたかのような部分も。

トリオのバッハは、ラランさんソプラノ、原さんテナー、大石さんバリトン。ソロやデュオよりも、落ち着いた響きになるのが面白い。ラランさんは循環呼吸を使いながら、あの長いフレーズを一息でこなしてしまうのですよ!美しい。さらに圧巻はアンコール!委嘱曲とのことだが、ピアノも交えた総出演での演奏で、今日一番のノリっぷり(おそらく、ラランさんと大石さんは特に。即興科の血が騒ぐのかしらん笑)。客席が大いに沸いた。

しかしまあ、3人の奏者に対して、アンナホールは小さすぎたようだ。それはもちろん音量のこともあるのだが、それ以外にも、音楽の流れの大きさ、それぞれが放つオーラ、デュオやトリオワークにおいて奏者の間に散る火花(1+1が、3にも4にも!)、など。狭い会場内に音楽が飽和して、外に向かってはちきれそうだった。もう少し大きなホールで聴いてみたかったなあ。

終演後は、原さん、ラランさん、大石さんにそれぞれ簡単にご挨拶。あるきっかけで、ネットを通じた、ちょこちょことしたやり取りがあるのです。あ、それからmckenさんと、会場で思いがけずご一緒しました。

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(こぼれネタその1)

2階のアクタスにて、Jean-Luc Falchampsの「Decalcomanie de Reich et Ligeti ライヒとリゲティの鏡絵」の楽譜が驚きの105円(!)で売っていたので、思わず購入(吹きませんよ)。この曲、なんと2006年のアドルフ・サックス国際コンクールの2次予選課題曲。コンクール開催当時、2次予選の中継を聴きながら、「カッコイイ!」と思っていたのだ。

タイトルから想像できるとおり、ライヒ的ミニマリズム・パートと、リゲティ的トーンクラスター・パートに分かれた、とっても面白い作品。たしか原さんが、去年の暮れか今年の頭にアンナホールで演奏を行っていたと記憶する。

(こぼれネタその2)

東京の某図書館?にて、「Saxophone Soloists and Their Music, 1844 - 1985」なる書籍を借りた。世界各地のサクソフォーン奏者のプロフィールと、献呈作品、レコーディングについての詳細な解説本。載っているデータがものすごく面白い…。そのうち、ブログのネタにでもしようと思う。

ちょっと読んでみると、スティーヴン・コットレルの「History of the Saxophone」は、この本の単なる焼き直しにも見えてくる(^^;1985年のデータで停止しているのが、たまに傷。改訂版出ていないのかな。

2007/07/12

クリスチャン・ローバの練習曲集

クリスチャン・ローバ(ロバ) Christian Laubaの「9つの練習曲 Neuf etudes」は、ロンデックスの委嘱により書かれた、無伴奏サクソフォンのためのエチュードである。ローバはサクソフォンのための作品を数多く書いているが、彼のサクソフォンのための作品の中では、「Hard」や「Reflets ルフレ」あたりと並んでもっとも有名な作品だろう。北アフリカのチュニジア出身のクリスチャン・ローバらしい、実に民族色溢れるカラーで染まった練習曲であり、次のような内訳でソプラノ~バリトンを網羅している。

Balafon, Savane, Sanza, Jungle [asax]
Tadj [ssax]
Gyn, Vir [tsax]
Ars [2 ssax]
Bat [bsax]

無伴奏の練習曲集というと、ラクールから始まりクローゼ、フェルリング、ブレーマンなど、全て無伴奏の練習曲集であるのだが、このローバの作品は、並みの「練習曲集」ではない。まずは、それぞれの曲が「何のための練習か」ということを記した解説が付されているのだが、こんな感じ…。各タイトルをクリックすると、reedmusic内の、60秒程度の試聴ができるページに飛びます。

Balafon:「循環呼吸のマスター」「繊細なダイナミクス」「完全にクリアな音~サブトーンまでの音色のコントロール」
Savane:「連続した重音」
Sanza:「重音のマスター」「スタッカート」
Jungle:「レガートなフレーズ」「循環呼吸のマスター」「スラップタンギング」
Tadj:「3つのモード」「音のアタック」
Gyn:「音のアタック」「音の響き」
Vir:「Balafon, Savane, Sanza, Jungle, Tadj, Gynの復習」
Ars:「連続したテンポ・チェンジ内における、五度音程と四度音程」
Bat:「トレモロ」「トリル」「メロディックなグリッサンド」「微分音」

ふむ、なんか凄いぞ。初っ端から「循環呼吸」だの「重音」だの言っているし、「音のアタック」「スタッカート」など、一見普通のことを言っているような曲も、聴いてびっくり超絶技巧の嵐。サックスの国際コンクールでは、課題曲に指定されたり、自由曲として取り上げられることすら、あるのだとか。現代のサックス吹きにとって、有名でありながらも容易に登攀しがたいレパートリーのひとつである、とも言えるだろう。

しかし、上に述べたように、どこか親しみのあるモードや、調性感のある響きが不意に現れることもあり、ワケノワカラナイ現代音楽と違ってすんなりとこの世界に入り込むことができるのだ。「Balafon」はその名のとおりアフリカの鍵盤楽器を想起させるし、「Tadj」はなんだかアラビック。「Ars」の響きは荘厳な教会音楽のよう。実際私の周りにも、現代曲は苦手だけれどこの曲は好き!という方は何人かいらっしゃるようだ。

前置きが長くなってしまったが、この練習曲だけを集めたCD「Christian Lauba - Joel Versavaud / Neuf etudes pour saxophones 1992-1994(Maguelone MAG 111123)」というものが存在する。フランスのボルドー音楽院において、ロンデックスとベルデナッド=シャリエに師事したジョエル・ヴェルサヴォー Joel Versavaudという奏者の演奏によるものだ。マイナーレーベルの出版であるため入手が難しく、実はずっと前から探していたのだが、最近ようやく入手に至った。

ボルドー音楽院出身と言うこともあり、ローバと比較的近い位置にいたヴェルサヴォーのこと、録音のリリースは自然な流れだったのだろう(実際、「Balafon」はヴェルサヴォーに捧げられている)。しかも、難易度トリプルAのこの曲にかかわらず、彼の演奏は「お見事!!」の一言。録音はイマイチだが、それを補った余りあるテクニックの高さは、一聴の価値あり。

ちなみにヴェルサヴォーのWebサイトでは、「ローバのエチュード専用の重音チャート」なるものがダウンロード可能。興味のある方はどうぞ。

2007/07/11

久々に音出し…凹

インターン先からダッシュで帰ってきて、20:00~22:00で楽器の練習。切羽詰っている曲が、いくつかあるのだ。いくつかここ一週間くらい練習場所を使うことができなかったため、かなり久しぶりにケースを開けたことになるが…。

衰えているなんてもんじゃなかった。指回りとか、そのあたりのことは30分もさらえばまあ回復してくるのだが、「音」だけはどうしようもない。もともと苦手な高音サイドキーが、さらに痩せた音になっていてびっくり&がっくり。この辺りの音域って、ちょっと楽器を吹いていないだけで、すぐにダメになる気がする。

まあ、嘆いてもしょうがない。時間をみつけて、できるだけ楽器に触れることにしよう(モチベーションだけは、常に高いのです)。さしあたって、土日はきちんと練習したいですな。

2007/07/09

爆速セクエンツァ on YouTube

ルチアーノ・ベリオ「セクエンツァVIIb」の演奏映像。奏者は、Javier Bonet(って誰?)。「セクエンツァVIIb」の録音はいくつか持っているけれど、ここまで高速な演奏は正直初めて聴いた。5分を切るって、ちょっと速すぎ…(途中で何回か映像が飛ぶが、とりあえず速いことには間違いない)。



詳細は良く分からないが、スペインの音楽院での、試験か何かでの演奏映像なのだろうか。

ベルリンフィルとサックス on YouTube

YouTubeにアップされている動画の中で、ベルリンフィルの中にサックス奏者が座っている曲の、演奏映像を抜粋してみた。

・ハチャトゥリアン「歌劇『ガイーヌ』より"剣の舞"」。指揮は小澤征爾。演奏はさすが、ベルリンフィルの強靭な響き。


サックスのなかなかアグレッシヴなソロを聴くことができる。思いっ切り紅く輝くこの楽器は、クランポンのプレスティージュだ。この人、どこかで見たことあるなー…と思ったら、次の動画の「ボレロ」でソプラノサックスを吹いていた。

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・野外音楽祭での、ラヴェル「ボレロ」。指揮はダニエル・バレンボイム。ちなみにサックスは前半の5:11くらいから。
(前半)


(後半)


サックスソロももちろん見事だが、もちろん他のどの奏者のソロも絶品(当然か)。ところで…両方の動画で共通してサックスを吹いている御方は誰だろう?もしどなたかご存知でしたら、教えてください。

ミュールとパリ音楽院管の共演記録

パリ音楽院管弦楽団の資料を集めたサイトなんてのがあるのだが、ちょっと検索をかけてみたら、サクソフォンに関する面白い記録がたくさん出てきたので、まとめておこう。主にマルセル・ミュール Marcel Muleとの共演によるプログラムの記録である。

・1937/11/7
1937-1938期第4回定期演奏会
フィリップ・ゴーベール指揮パリ音楽院管弦楽団
ジャック・イベール「室内小協奏曲(世界初演)」
http://hector.ucdavis.edu/SdC/Programs/Pr111.htm
なんと、あのイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」のステージ初演記録!ラッシャーが委嘱したにもかかわらず、結局ミュールが初演を行ったといういわくつきのプログラムだ。
SPに録音として残っているのは、この後に製作したものなのだろうか、それとも、録音が初演だったのだろうか。その辺の前後関係は、そのうちきちんとまとめておきたい。

・1939/2/5
1938-1939期第14回定期演奏会
ウジェーヌ・ボザ指揮パリ音楽院管弦楽団
ウジェーヌ・ボザ「サクソフォンのための小協奏曲」
http://hector.ucdavis.edu/SdC/Programs/Pr112.htm
ボザ「コンチェルティーノ」の初演記録。この作品も、SPに録音が残っている。この時期はシャルル・ミュンシュが常任指揮だったが、この作品に関しては作曲者自身が指揮を振ったようだ。

・1941/5/4(1941/2/9)
1940-1941期第27回(第17回)定期演奏会
ロジェ・ボーディン指揮(シャルル・ミュンシュ指揮)パリ音楽院管弦楽団
ジャック・イベール「室内小協奏曲」
http://hector.ucdavis.edu/SdC/Programs/Pr114.htm
カッコ内は、予定されていたプログラム。第17回のプログラムはラヴェル「クープランの墓」に変更され、結局イベールの演奏は第27回に置かれたようだ。

・1943/11/24
Grandes Associations Symphoniquesの主催による作曲賞演奏会
パリ音楽院管弦楽団(指揮者は不明)
ポール・ボノー「サクソフォン協奏曲」
http://hector.ucdavis.edu/sdc/Programs/Pr117.htm
パリ・オーケストラ協会?の作曲コンクールで、ミュールがボノー作品の独奏に抜擢されたときの記録。

・1948/5/20
Musique contemporaineシリーズ
アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団
アンリ・トマジ「バラード」
http://hector.ucdavis.edu/SdC/Programs/Pr121.htm
「Musique contemporaine」でのミュールの演奏。このシリーズは、同時代の作曲家たちの作品を紹介するものなのだろう。

・(オマケ)1964年日本演奏旅行メンバー表
アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団
サクソフォン:ミシェル・ヌオー Michel Nouaux
http://hector.ucdavis.edu/sdc/Rosters/Ros137.htm
ギャルドでミュールの後任を務めた、ミシェル・ヌオーの名前を確認することができる。このあたりの話は、ThunderさんのWebページに詳しく乗っている。

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ミュンシュとの共演と言えば、引退直前のボストン交響楽団とのアメリカツアー(プログラムはイベールとトマジだったか)を思い出すが、パリ音楽院管弦楽団でも共演し「かけ」ていたのですね。知らなかった。

しかし、一つのオーケストラの記録を見渡すだけで、この共演回数の多さ。およそ10年間のうちに、演奏会の独奏曲で取り上げられたのは5回。サクソフォンを含むオーケストラ作品においてミュールが呼ばれた回数は、もっと多いだろう。さらに考えてみると、フランスのほかのオーケストラも含めて考えれば、その独奏者として・オーケストラ奏者としての招聘回数は相当数に上るのではないか。マルセル・ミュールというプレイヤーが、いかに当代随一の音楽家として認識されていたか…ということが、垣間見える。

2007/07/08

Music Tomorrow 2007

白石美雪教授による集中授業「文化論特講I」の一環で、NHK交響楽団の現代音楽コンサート「Music Tomorrow 2007」を聴いてきた。記録と感想を少々。

※「文化論特講I」全体の講義の内容は、こちらにまとめてあります。
http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/lectures/

・Music Tomorrow 2007
出演:パスカル・ロフェ指揮NHK交響楽団
日時:7/8(日)16:00~
会場:すみだトリフォニーホール
プログラム:
・新実徳英「協奏的交響曲~エラン・ヴィタール(尾高賞受賞作品)」
・ブルーノ・マントヴァーニ「タイム・ストレッチ(ジェズアルドの作品を下敷きに)(日本初演)」
・金子仁美「Nの二乗(自然・数)(N響委嘱作品・世界初演)」
・パスカル・デュサパン「エグゼオ」

これだけまとめて「現代音楽」を聴くのは初めて。相手が相手だけに、昨日の夜はしっかり寝、朝ごはんをきっちり食べ、もちろんお昼ご飯もしっかり食べ、軽くお昼休みをして、万全の体制(テンション)でコンサートに臨んだ。「客席はどのくらい埋まるのかなあ」とか、「オーケストラのテンションはどうなのかなあ」とか、「周り全員眠るんじゃないか」とか、いろいろな心配事があったと言えばあったのだが、結果的には杞憂に終わった。総合的に考えれば、実に面白いコンサートだったのだ。

とりあえず驚いたのが、客席の埋まりっぷり。すみだトリフォニー一階の、おおよそ7割方を埋めると言う盛況。客層も、ご年配の方から若い方まで幅広い感じ。実際に会場に行くまでは、4割くらいしか埋まらないんじゃないか、という心配をしていたのだが。コンサート中も、静音部分では水を打ったように静まり返るほど。Music Tomorrowって、毎回こんな感じなのだろうか。

本日日本デビューの指揮者のパスカル・ロフェ Pascal Rophe氏は、写真で見るよりもずっと若い御方。長身で細身の、まさにフランス人と言った風貌で、カッコ良い。ステージマナーから指揮振りまでも、細かいところは気にせずに全体が一本の線でつながったかのような"ゆるいオーラ"を放つ。かと思えば、肝心なところではこれでもかと言うほどルバートをかけたり、オーケストラをドライブさせる手腕は実に見事で、飽きないものだった。指揮棒はナシ…ブーレーズと一緒に仕事をしていたこととも、関係があるのだろうか。

一曲目、新実氏の作品は、尾高賞の受賞作品なんだそうだ。そもそもN響のMusic Tomorrowシリーズは、尾高賞の受賞作品の演奏+委嘱新作の演奏+コンサート指揮者が選んだ作品の演奏、というコンセプトで行われているのだという。ピアノを中央に据え(独奏は木村かをり女史)、特殊な打楽器を多数加えた編成。三部構成に分かれた曲の流れの詳細や、さらに講義の中で予習を行っていたせいか、まあ普通に聴けた。ピアノパートはずいぶん大人しい書き方で、ピアノが顔を出す部分ははかなりの迫力だったものの、ちょっと物足りない感じ。

マントヴァーニの「タイム・ストレッチ」。ジェズアルドのマドリガル第五巻から、「S'io non miro non moro」の和声構造を抽出、組み立てなおした作品だとか。…この曲、不意に感動してしまった。曲の中間部、ヴィオラとチェロが静かな協和音を奏でる上に、ジャズ風の走句があちこちでソロorユニゾンで駆け回る。和声進行は、まるで天へと昇るような美しさ。妙な取り合わせが、余計に魅力的な響きを引き出していた気がする。個人的には、本作品が今日の白眉。

休憩を挟んで、金子仁美氏の世界初演作品。左右対称に弦楽器を配し、中央にはハープとチェレスタが。その姿は、まるでステージ上に羽を広げる巨大な鳥のよう。金子氏の「方法論的シリーズ」の最新作であるが、フィボナッチ数列だとか、黄金比だとか、そういったことはやはり聴くだけでは全く解からない。結局聴衆は響きに身を委ねるしかないのだが、わりと面白く聴けた。ところどころに出現するパルスのような音形は、何か方法論にのっとった数だけ演奏されていたのかなあ。曲の最終部は本日の最強奏。シートの上でのけぞる。

「エグゼオ」。予習段階では、かなりゲンナリしていたのだが、同じ曲とは思えない熱演だった。予習で聴いた演奏は、あまり良くなかったのですね。フレーズの始まりを少し強く弾かせることで、面白い効果を引き出していた。13分間集中して聴いていたら、いつの間にか今まで感じたことのない感覚へとトリップ。不思議な浮遊感を持つ作品だと思った。

総括して考えると、面白いコンサートだったなあ。ただ、今日聴いたような作品が、果たして本当に「明日の音楽」になりえるのか、と言うと、首をひねらざるを得ない。「現代音楽」は、所詮「現代音楽」という一分野へ踏みとどまることを余儀なくされるのではないか。そんなことを強く感じた。コンサート名は「Music Tomorrow」だが、企画する方も本気で「明日の音楽」になる、などとは考えていないのではないか。

そういえば、帰りがけに、鈴木純明氏らしき方を見かけた(笑)。作曲家界にとっては、サントリーホールの音楽祭に匹敵するような一大イベントなのだろう。

2007/07/07

未来を教えてください

クラシック・サクソフォンの未来について、時々考えることがある(私のような一アマチュアが思いを巡らせたところでどうしようもないと言えば、そうなのだが)。楽器そのものが持つある意味での脆さ・不安定さは、そもそも折衷楽器として生を受け、急速な発展を余儀なくされてきたサクソフォンならではの特徴だ。すでに楽器として完成されている鍵盤楽器、弦楽器、打楽器、多くの管楽器に比べ、サクソフォンの未来は不確定な要素が多すぎると感じる。

・楽器
サクソフォンの操作性の向上は、数々の管楽器メーカーのたゆまぬ努力の賜物だ。オクターブキーの統合、同時押しキャンセル、人間工学に基づいたキー配置。また、金属加工技術の進歩により、様々な素材、そして形状の管体が登場してきた。各メーカーが特徴を打ち出しながら、特徴的なサクソフォンをいくつも発表している。

現在はコンピュータで管体形状を設計していると聞くが、さらに響きを追い求めた理想的な形へ近づいていくのだろうか。また、管の溶接、組み立て等、調整などは、現在では職人技的な部分に頼ることがほとんどであるが、オートメーション化される日が来るのだろうか。楽器が個性を捨て去る日は、果たしてやってくるのか。最近の傾向として、クラシック用の楽器(セルマーのSerie3, ヤマハの875)と、ジャズ用の楽器(セルマーならReference、ヤマハの82Z)に分化していく流れがあるが、このままそれぞれの機種は違う道を歩み始めるのか。マウスピースやリガチュア等、小物のことまで考え始めると、さらに考えは膨らむ。

・スタイル(音色)
クラシカル・サクソフォーンの大きな特徴である「音色」は、世界各地に分布するスタイルとともに存在するものだと言える。「フランス・アカデミー派」「イギリス・ギルドホール派」「ネイティブ・アメリカ派」「ラッシャー派」「日本のやや没個性派」等、様々な派閥が存在し、まず統合されることはないのではないのだろうか。教育レベルで対外的に閉じた国ならばまだしも、同一国内で複数のスタイルが存在する場合、少数派は淘汰される方向に向かうのではないだろうか。現在、アメリカにおけるラッシャー派は、どのくらいの割合を占めているのだろう。

また、各スタイルは時代とともに進化している。例えばフランス。ミュールやデファイエに比べて、作品の多様化やヴィルトゥオーゾの出現に合わせて、ドゥラングルの時代はスタイルに革命的な変化が起こったとも言える。

アジア圏のサックスは発展途上だが、これから先どうなるのだろうか。横目でチラチラ見ておかないと、気が付いたときには大勢力、ということになりかねない。少し入ってくる情報では、主にフランスアカデミーとの交流が頻繁に行われているようだが、今後は輸入がメインとなるのか、それとも独自のスタイルを確立していくのか、興味あるところだ。

・次代の才能
いつになったらミュール以上の才能が出現するのだろう。各スタイルの内部では、10~20年単位で見れば稀な才能が出現しているとも言えるのだが、そうではなく、世界全体のサクソフォン界を席巻してしまうような、素晴らしい才能…21世紀のヴィルトゥオーゾを心待ちにしている。

地球の裏側にはほんの数秒あれば情報が届く現在、インフラ的な問題は皆無である。しかしそんなスーパーマンが現れるのは、100年後か、200年後か。

ピアノやヴァイオリンと違って、楽器それ自体の完成度が低いことがあり、幼いころからの研鑽を積むことができないことにも、実は関係があるのかもしれない。ある程度身体がしっかりしてこないと、音を出すことすらままならないからなあ。

・レパートリー
サクソフォンには、バッハやモーツァルトの曲がない。古典~ロマン派の曲がレパートリーが存在しないことで、クラシック音楽の「名曲」として存在する作品は、わずか数点を数えるのみである。フランスのネオ・クラシカルな作品は、1970年代以降のもので、レパートリーとして定着したものは少ない。もっぱらミュールが委嘱した作品群に依存している感は否めないところだ。

デニゾフ「ソナタ」の出現以降、現代音楽(モダンな音楽)としてサックス界に投げられた作品は多い。単純にピアノとのデュオやサックス四重奏だけの形態にとどまらず、テープとサックス、声とサックス、その他、様々な試みがなされている。興味深い作品が多いのは事実だが、一般的に受け入れられるか…と言われると、首をひねりざるを得ない。

世界中でクラシック・サクソフォンの認知が進むにつれて、様々なサクソフォン音楽が書かれつつあるが、そんな中から世界レベルでレパートリーに定着するような作品が出てくることを、期待したい。

・中高吹奏楽部の現状
多くのプレイヤーが、サクソフォンに触れるきっかけとなる場であるが、コンクールに傾倒した"吹奏楽部"という場では、なかなかサクソフォンを音楽的な勉強をする機会は訪れることがない。せいぜい、四重奏をプロの方にレッスンしてもらうとき、位のものだろうか。

また、吹奏楽のなかでサクソフォンを吹いているときに、面白さを感じられる、というのはなかなか中高生のころでは無いのではないだろうか。様々なバックボーンがあってこそ、吹奏楽の中での愉しみを見つけることができるのだと思う。サックスの演奏に魅力を感じない学生が、吹奏楽部の引退と同時にやめてしまう、というのは、ちょっと悲しい。

…うーん、「中高吹奏楽部の現状」は、もう少し書き足すかもしれない。

・総括
白石美雪教授の言葉を借りれば:
「現代というこの時代は、サクソフォン音楽は未来へつながる始まりに位置しているのか、それとも終焉期に位置しているのか」に尽きる。サクソフォンはこれからどの方向へ向かっていくのだろうか、それとも、このまま収束(もしくは、多様になりすぎて発散)してしまうというのか。

週末の宣伝

明日はMusic Tomorrow 2007を聴きに行っているため、自分は出演しないが、宣伝しておこう。あれ?明日はもしかしてはらぺこ音楽隊オンリー?

予報は雨だったが、どうやら降水確率が下がったようだ。つくば市近郊の方は、ぜひおいでください。

・天久保オールスターズバンド&はらぺこ音楽隊
7/8(日)13:00~&15:00~
つくばセンター前「石の広場」

Quatuor Jean Ledieu

ジャン・ルデュー Jean Ledieu氏は、フランスのサクソフォン奏者。デファイエ四重奏団にバリトンサクソフォン奏者として参加していた、ということが良く知られている。サクソフォン四重奏のスタンダードなレパートリーに関して、後世に向けて唯一無二の録音を数多く残した。また教育者としても、ナンシー音楽院のサクソフォン科教授に就任し、数々の優秀なサクソフォニストを輩出した。

ところで、デファイエ四重奏団の演奏は、頭の中に完全に刷り込まれている。EMIに吹き込まれたピエルネやデザンクロの、あの言葉では言い表せない魅力を放つ、バリトンパート。高校時代~大学の初期にかけては、私は主に四重奏でバリトンを担当していたが、一体全体どうやったらこんな音色が出るんだ!と、驚いたものだ。そのとき以来、私がもっとも好きなバリトンサックス奏者は、ジャン・ルデュー氏だと言い張っている。叶うものなら、ルデュー氏の眼前で、「あなたのサックスが大好きなんです!」と大声で言いたいくらいなのだ。←謎

まあそれは良いとして、話を元に戻そう。1988年8月、川崎での世界サクソフォン・コングレスにおいてデファイエ四重奏団は大野和士指揮東京都交響楽団とロジェ・カルメルの「コンチェルト・グロッソ」を演奏した。そのコンサートを最後に、デファイエ四重奏団は解散してしまったのだが、その後ルデュー氏が自身の門下生とともに四重奏団を結成した…というのは、あまり知られていないかも。

メンバーは以下のとおり。ちなみにテナーは、後にヤン・ルマリエ Yann Lemarieと交代している。下に掲載するジャケット写真を見ても判るとおり、「世代が違う」どころか、「親と子」かと思うような年齢の離れっぷりが特徴的。

ファブリス・モレッティ Fabrice Moretti(ss)
ドゥニ・バルド Denis Bardot(as)
フィリップ・ポルテジョワ Philippe Portejoie(ts)
ジャン・ルデュー(bs)

CDが何枚か存在するので、私の持っている二枚を紹介しておこう。一枚目は、ルデュー四重奏団のデビューアルバム「Singelee, Pierne, Pascal, Absil(Opus 91 2408-2)」。

・サンジュレ「四重奏曲第一番」
・ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」
・パスカル「四重奏曲」
・アブシル「ルーマニア民謡の主題による組曲」

ルデュー四重奏団が、サクソフォーン四重奏曲の定番曲ばかりを集めて、1992年にレコーディングしたもの。5年近く前に、amazonで偶然買った。amazonにはそれっきりほとんど入荷が無いため、今考えるとラッキーだったかも知れない。アブシル、サンジュレなどは、数ある実演やCDの中で、いまだにこの演奏が私の中でのスタンダードとなっている。

サンジュレを聴いてみよう。伝統的なフランス・アカデミックの流れを汲む、耳に優しい音色が心地よい。ともすれば縦の線は合っていないような感じも受けるが、4本の繊細な糸を紡いでいくようなポリフォニー的な音楽作りは、ため息が出るほどに美しい。変な例えだが、デファイエ四重奏団がサンジュレを録音したらこうなったのだろうな…、という思いが巡る。

その思いの基となるのは、ピエルネやパスカルの演奏。まるでフランス人同士の、他愛の無いおしゃべりを耳にしているかのように聴こえてくるのだ。かなりのアンサンブル力を必要とされるような難所も、それぞれの奏者の半端ないセンスでもって、いともたやすく切り抜けていってしまう。日本人が陥りがちな、ガチガチの解釈とは無縁の演奏だ。

もう一枚は、2002年の四重奏団解散の直前にレコーディングされたCD。「Bach, Boutry, Pascal, Planel, Rueff(Polymnie POL 490 115)」

・ブートリー「花火」
・バッハ/パスカル編「フーガの技法より」
・パスカル「四重奏曲」
・パスカル「スケルツォ」
・リュエフ「四重奏のためのコンセール」
・プラネル「バーレスク」

テナーがヤン・ルマリエ氏に交代した、最初で最後のアルバム。何といっても、パスカルとリュエフが含まれているのが目を引くだろう。デファイエ四重奏団の伝説的LP(CBSソニー盤)を思い起こさせる。

かなりデッドな会場である上に音場が近く、録音状態でかなり損をしているが、演奏は見事だ。特にルデュー氏、このとき73歳くらいだったはずだが、そんな齢を微塵も感じさせない楽器のコントロールと音色。これ聴いて、自分の中で「73歳になっても(バリトン)サックスを吹く」という密かな目標を設定したのは、いつのことだったか。

リュエフ、パスカルは、さすがにデファイエ四重奏団の全盛期の録音に采配が上がるだろうが、それにしても(おそらくほとんど意識せずに)曲の魅力を存分に引き出しているのは、さすが。本質的に"音楽家"であるということは、こういう演奏ができる人たちのことを言うのでしょうね。アンコールとして配置されたプラネル「バーレスク」の、エスプリたっぷりの演奏を聴きながら、何だか嬉しくなってしまった。

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そういえば、デュボワとカルメルのサクソフォーン四重奏協奏曲に、フェルド「四重奏曲」とリヴィエ「グラプレ」がカップリングされたCalliope盤、どこかにないかなー。在庫情報ありましたら、どなたかお教えくださいませ。

2007/07/06

伊藤康英・音楽の夕べ ポッドキャスト版

主に吹奏楽分野、歌曲の分野で知られる作曲家の伊藤康英氏が、「伊藤康英・音楽の夕べ ポッドキャスト版」なる企画を始めたのだという(f_iryo1氏のブログで知った)。
http://itomusic.cocolog-nifty.com/blog/

毎回、伊藤康英先生が作曲したピアノ曲、吹奏楽曲、歌曲の中から、一曲ずつを紹介していく、というスタイルになるらしい。先生自身の肉声による解説も入っており、まさにヴァーチャル・コンサート、といった趣だ。しかもたっぷり20分!

こうやって自分の作品を音源として紹介してゆく試みは、大変珍しい。普通に作曲家がこういった企画をやろうとすると、団体ごとの権利などが絡んでくるのだろうが、康英先生の場合は友人と共演したようなものや音楽大学の指揮を振った音源が大量に存在するため、比較的実現は容易なのだろう。

初回のプログラムは、「だんだんサンバ(ピアノ)」「Violinissimo!~ヴァイオリンと吹奏楽のためのカプリツィオ」「あなたのほほえみは」。特に「Violinissimo!」は、ヴァイオリンの名曲を知った人には大変面白い。例えば前半では、「スペインのフォリア」のコードの上に、バッハ「シャコンヌ」のメロディがステップを踏み、さらに続いてパガニーニのカプリスが聴こえてくる…と言った具合(さすがに全部は分からなかったが)。

歌も良いなあ。先生は歌を手がけ始めた時期はかなり遅いはずだが、メロディの美しさはまさに絶品。今回の録音ではオブリガード声部としてフルート・ダモーレを加え、豪華な響きに仕上がっている。

話は飛ぶが、先生の本来の(昔の)作風って、上の三曲からはかなりかけ離れたものなのだよなあ。創作音列を基に曲を展開していくような、昔の作品も好きで…「サクソフォーン協奏曲」とか「協奏的幻想曲」とかも流してくれないかなあ。…まあ、それはともかく、末長く続いていってくれることを願う次第。

冨岡先生のイベール

ずいぶん前にとある方に聞いた話なのだが:冨岡和男氏のプロフィールを見ると必ず書いてある、日本音楽コンクールの入賞時の録音、イベールの「室内小協奏曲」が、一時期音大生の間で出回ったことがあるそうな。しかも、そのイベールが、ものすごく素晴らしい演奏だそうなのだ。うーん、本当に存在するものなら、聴いてみたい。

…まあ、しょせん噂だが。実際の話で、詳しくご存知の方などいらっしゃいましたら、こっそり教えてください。

と、タイトルの割には、ただの独り言でした(笑)。

2007/07/03

文化論特講1日目

白石美雪教授を迎えての、講義一日目。いやー、面白かった。今まで見たり聴いたりして知っていたことが、フレームにピタリピタリとはまっていくのが何とも快感。単純なマニア話との違いは、構造的な知識体系をレクチュアしてくれる、ということだろう。

うーん、まさか大学の講義で2e2mの名前を聞けるとは思わなかった(笑)。

…2e2m(ドゥゼ・ドゥエム)というのは、作曲家ポール・メファノが主宰する、現代音楽専門アンサンブル集団。わたしゃ、同アンサンブルが演奏するドナトーニの「HOT」のCDが大好きなのです。もちろん2e2mが話題に上るということは、つまりアンサンブル・アンテルコタンポランやアンサンブル・モデルンも当然のように話題に上るわけで。

講義の覚書をWordのドキュメント形式で書いてアップしてみたので、興味ある方はどうぞ。
http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/lectures/

2007/07/02

パート欠損


海外通販にトラブルはつきもの、と言えど。

先々週Musicroom.comで、とある四重奏曲の楽譜を買ったのだが、その楽譜がようやく本日到着した。「わ~い!」と喜んで開封してみると…なんと、どこを探してもバリトンサックスのパートが見当たらない。えー!

版元のChester Musicで既に欠損していたのか、はたまたMusicroomに落ち度があったのか。とりあえず、クレームのメールをMusicroomに出してみた。海外からの通販はトラブルが多いなあ。いい加減、英語でやり取りするのにもなんだか慣れてきてしまった。

ちなみに写真は、きちんと届いたソプラノパートの一部。さて、何という曲でしょうか?(分かる人は分かるでしょう)

(追記)

すぐ返信があり、きちんと送ってくれるそうです。良かった。

驚き!

某shiさん日記から(勝手に)頂戴してきたネタ…。

↓リンク先は、吹奏楽コンクール静岡県大会のプログラム。
http://sound.jp/suiren/concours/2007/program.html

これだけ見ると何のことやらさっぱりだが、職場の部、ヤマハ吹奏楽団浜松の指揮者にご注目。あれー…どこかで聞いたことのある名前が!驚き。

うおぉ、しかも審査員に宗貞啓二氏がいるぞ!

2007/07/01

フェリペ氏のサックス・フラジオ運指表

(※記事中に出てくる音名表記は、全て"記譜音による表記"です。)

Adolphesax.com内に、あのアントニオ・フェリペ=ベリジャル Antonio Felipe-Belijar氏のフラジオ運指表が存在する。フェリペ氏といえば、数々の国際コンクールで入賞しまくっている、スペインのクラシック・サクソフォン界随一の名手だ。1年前くらい前に、この運指表の存在を知って以来、けっこうお世話になっていたのだが、そういえばブログに書いたことなかったなあと思い立ち、いまさらながら貼り付け。クリックすると拡大します(かなり巨大な画像なので、注意)。ちなみに転載許可は取っていないので、まずかったら消します。

キーマップ記号を簡単に解説しておくと、
・範囲は、記譜でミ~最高音のオクターブ上のファ#の、さらに上のラ#まで
・1~6は白い貝のキー
・XはフロントFキー
・C1~C2オクターブキー+レ以上を出すときに、順番に押していくキー
それぞれ、C1(レ、左手サイド手前)、C2(レ#、左手サイド上部)、C3(ミ、右手サイド上部)、C4(ファ、左手サイド奥)、C5(右手の最高音ファ#)
・TaとTcは右手サイド下段、中段キー
・pは、1の下にある小さなキー
…という感じ。分かりづらくてごめんなさい。

この表の何が便利かと言うと、まず音域が広いこと、さらに一つの音に対する候補が多いため良い連結を探しやすいこと、さらにびっくりするほど"当たる"こと。私自身、この表のおかげでレ#まで開拓できたようなものだ。

さあ、これであなたもラーション(最高音ファ#)、マルタン(最高音ソ)、さらにイベールのad-lib.カデンツァ(最高音ラ♭)吹き放題!(ホントかいな)

実はクロード・ドゥラングル教授(ソプラノやバリトンごとに分かれている)やファブリス・モレティ氏のフラジオマップ(クランポンサックスに特化したもの)、なんてのも存在するので、また後日記事にしようと思っている。