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2025/06/22

日下瑶子氏のマスランカ論文

日下瑶子氏の博士論文、「デイヴィッド・マスランカのサクソフォーン作品における表現の根源 : 作曲プロセスの考察を通して」が、国立音楽大学のサイトから参照可能となっている。内容について以前もブログで触れたが、マスランカ氏の音楽活動と思想を包括的に記録・分析したものである。

​彼の吹奏楽作品やサクソフォン作品を中心に、作曲背景、初演情報、作曲思想の変遷、演奏解釈などが詳細に記載されている。マスランカ氏の作品は技巧的な要素から静寂を強調する表現へと変化し、心理療法、メディテーション、仏教思想に基づくマインドフルネスの影響を受けている。自然的、​宗教的、現実的なテーマを音楽に反映し、深い精神性を追求したことを、論文中でつまびらかにしている。 ​

サクソフォン作品では、技巧的な内容からシンプルで静寂を感じさせる表現へ移行し、コラール旋律の引用や調性の明確化が特徴である。 奏者に対して演奏上の限界を超える表現を求め、精神的境地に迫ることで音楽の本質を追求した。 ​また、委嘱者や初演者との関係を深めることで、楽器の可能性を理解し、マスランカ氏が理想とする音楽を実現していった経緯が、関係者の言葉を用いながらリアルに語られる。 ​

さらに、楽譜やディスコグラフィーの詳細な記録を通じて、彼の作品が国際的に広く演奏されていることが示されている。

マスランカの音楽遺産を包括的にまとめあげた、非常に貴重な内容であり、今後、サクソフォンでマスランカ作品を演奏するときに必ず参照されるべき資料だ。また、マスランカ氏の作品に興味がある方にも、いちどぜひ一読いただきたい内容。



2024/04/15

ワシントン・ポスト紙上のデファイエ四重奏団記事

ワシントン・ポストの1985年6月25日の記事に、ダニエル・デファイエ四重奏団のアメリカにおける演奏(世界サクソフォン・コングレス開催に伴う)の模様を伝える記事を見つけた(機械翻訳にかけてみた)。

https://www.washingtonpost.com/archive/style/1985/06/26/world-saxophone-congress/1de5ed58-adb7-41a5-904f-0eb57ae2673e/ 

デファイエ四重奏団は、昨夜メリーランド大学で開催された第8回世界サクソフォンコングレスのオープニングコンサートに出演した。ソプラノ・サクソフォン奏者ダニエル・デファイエ率いるフランス人音楽教授のカルテットは、現代の作曲家によるカラフルで特異な3つの作品で、タウズ・シアターの満員の聴衆を喜ばせた。

アルト・サックス奏者のアンリ=ルネ・ポリンは、アレクサンドル・グラズノフの「四重奏曲」(5つの変奏曲が、豪快な冒頭楽章、激的なフィナーレに挟まれている)で、多くのエネルギーとリズミックなドライブを提供した。

今週アメリカで初演された12曲のうちの1曲目、イィンドジフ・フェルドの「四重奏曲」は素晴らしいアンサンブルだった。1982年に作曲されたこの5楽章の作品は、音楽スタイルの並置と音色の探求に成功しており、他のよく練られたアイデアの中でも特に優れている。

この夜の最後の四重奏作品、フローラン・シュミットの「四重奏曲」は、愛らしく官能的な4楽章からなる作品で、演奏家たちが優雅な名人芸を魅せた。


2023/06/07

サクソフォニストVol.33到着

日本サクソフォーン協会の協会誌「サクソフォニスト Vol.33」が到着。今回も協会誌の編集委員として携わっている。

・第37回日本管打楽器コンクール特集
・特殊奏法が開くサクソフォンの新しい音響的可能性
 -《息の道》に向かう野平一郎のサクソフォン作品群の考察を通して-
・日本のサクソフォン史 第2章
・キンダー楽器を活用したサクソフォーンの早期教育研究
・日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~
・サクソフォンにおける古楽的アプローチに基づいたバロック音楽演奏
・第19回ワールド・サクソフォーン・コングレス&フェスティバル倉敷 報告
・第39回ジャパン・サクソフォーン・フェスティバル報告

このうち、私は「日本のサクソフォン史 第2章」と「日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~」を担当した。

「日本のサクソフォン史 第2章」は、翻訳を行った。原文は杉原真人氏の英語論文である。「日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~」は、今年3月のジャパン・サクソフォーン・フェスティバルでポスター展示した「日本のサクソフォン史~現代に至る日本サクソフォン界の系譜と、日本に影響を与えた世界の奏者」の再構成版である。

その他、面白い記事が多く、ぜひ入手してご覧いただきたい。



2023/04/22

サクソフォーン協会誌向けの物書きが進行中

日本サクソフォーン協会の協会誌(Vol.33)向けに記事を2点準備している。

・杉原真人さんが書いた「日本のサクソフォン史」の論文Chapter2翻訳
・フェス向けに制作したポスター展示16枚の協会誌向け組版変更

これらの物書き作業がかなりボリュームがあり忙しく、なかなかブログのほうに割く時間が取れていない。

これはVol.32の表紙の一部分。



2023/03/26

杉原真人氏の論文を翻訳再開

1年に1チャプターずつ翻訳を実施し、日本サクソフォーン協会の機関誌に掲載している、杉原真人氏の論文「The History of the Saxophone in Japan」の翻訳を再開。昨年、チャプター1「19世紀後半の日本における西洋音楽」を翻訳して掲載した。

今年はチャプター2「公的機関におけるサクソフォン」。海軍バンド、陸軍バンド、宮内省式部寮雅楽課のそれぞれにおける西洋式バンドのサクソフォン採用についての詳細がおよそ40ページにわたって述べられている。なかなか面白い内容だが、人名(漢字)の調査等はなかなか大変そうだ。


    

2022/10/01

マルセル・ミュール氏のエッセイ"The Saxophone"(1950年)

1950年の"Symphony"誌より、マルセル・ミュール氏のエッセイ。1958年のアメリカツアーに際してプログラム冊子に英訳が掲載されたが、それを日本語訳した。ミュール氏の書いた、こういった長い文章を見るのは初めてだ。

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今日、サクソフォンほど流行している楽器はないだろう。どんな小さな村でも、その土地の守護聖人の祭りの日には、30年前にはまったく無視されていたこの楽器の音で踊るのである。100年以上前から存在していたサクソフォンだが、人気の開花にはジャズの出現を待たねばならなかった。

100年の間に自身の発明が成功に至ることになったが、ダンスミュージックの分野における成功は、気鋭の楽器製作者、アドルフ・サックスも予見していなかったのである。彼はサックスを、オーケストラにおいて木管と金管をつなぐものとして考えていた。そして、前世紀には、サクソフォンをこのように使って、素晴らしい結果を得た作曲家もいた。ビゼーは「アルルの女」で、マスネは「ウェルテル」と「ヘロデ王」で、アンブロワーズ・トマは「ハムレット」で、この楽器に第一級の重要な役割を与えている。その後、ドビュッシーが「ラプソディ」を、フロラン・シュミットが「レジェンド」をこの楽器のために作曲している。

しかし、ほとんどの作曲家はサクソフォンを無視し、サクソフォンが大規模な交響楽団の中に定常的に組み込まれることはなかったと言わざるを得ない。パリ音楽院にサクソフォン・クラスが設けられ、アドルフ・サックス本人に教授職が託されたが、創設後間もなく中断せざるを得なくなった。しかし、軍楽隊や合唱団がこの楽器を採用したため、完全に消滅したわけではなかった。

サクソフォンがスターダムにのし上がるにはジャズの出現が必要だったが、繰り返すが、このことをアドルフ・サックスは望んでいなかったことは明らかである。残念なことに、多くの人はジャズの側面でしかサクソフォンを知らない。クラリネットもトランペットもトロンボーンも、そしてヴァイオリンさえも、ジャズの中でしか聴いたことがないとしたら、どうだろう。シンフォニー・オーケストラに貢献するために考え出された楽器が、"シンフォニスト"に軽蔑され、ジャズの中だけで役に立っていることは、サクソフォンに起こったドラマのようなものだ。

シンフォニー・オーケストラにおける、こんな傾向もある。フランスでは現在、著名な作曲家たちがこぞってサクソフォンを採用しており、アルテュール・オネゲル、ジャック・イベール、ダリウス・ミヨーなどは、楽譜の中で忘れることはない。個人的には、サクソフォンの音色の豊かさと気高さ、表現の可能性、ヴィルトゥオーゾとしての均整のとれた演奏のすべてを高く評価している。私は長い間、サクソフォンのすべての能力を活用しようと努めてきた。私はカルテットを結成し、20年ほど前からフランス全土、そしてヨーロッパの多くの国々で演奏している。

私は"シリアス"なサクソフォンの唯一の擁護者であるかのように装っているわけではない。ヨーロッパにもアメリカにも、この問題に熱心に取り組んでいるアーティストがたくさんいる。すでに多くのカルテットが存在するが、私たちは少数派である。この運動が十分な広がりを見せるには、また、一般大衆がこの"甘ったれた"楽器の高貴さをようやく発見するためには、まだ長い時間が必要であろう。

サクソフォンは、交響楽団の中で、通常オーケストラに使われるすべての管楽器と同じ重要性をもって、第一級の役割を果たすことができる。そのため、他の楽器と同じように細心の注意を払って演奏しなければならない。つまり、音色の質、イントネーション、すべてのニュアンスにおけるアタックの正確さ、一言で言えば、非常に真剣な総合的テクニックを身につけることである。サクソフォン奏者は、名人芸の観点から、他のすべての楽器の奏者と同じように努力しなければならないし、確実に楽になるためには、音階、アルペジオ、エチュードに取り組まなければならない。美しいテクニックを身につけるには、すでに多くの練習曲や習作が存在し、それで十分である。

音の良し悪しについては、もちろん個人の好みの問題であるが、少し助言させてほしい。私の考えでは、美しい音を出すためには、まず喉が完全に自由であること、つまり収縮を防ぐことが不可欠である。「オ」「ア」と発音するように喉を開きながら、楽器の中に空気を送り込むことが必要だ。こうして、音の大きさとすべての音域での使いやすさを同時に手に入れることができる。この状態を実現し、音の下品さを避けるために、十分な硬さでマウスピースを維持し、かつリードに過度な圧力をかけないようにします。

この2つの要素、フリー・スロートとアンブシュアのコントロールは、音色の質を高めるために欠かせないものである。

サクソフォンの特徴ではないが、表現上の要素として、ビブラートというものが残っている。ヴァイオリンやチェロが「まっすぐな」音色であることは考えにくい。フルート、オーボエ、ファゴット、ホルンの表現力豊かな音色には、もう何年も慣れっこになっている。これらの楽器は弦楽器と表現力を競い合い、オーケストラに強烈な情感を添えている。この点ではサクソフォンも同じである。

ビブラートは、音の高さの変化によって得られる起伏と、起伏の速さの2つの要素から構成される。音色に俗っぽさが出ないように、うねりは大げさではなく、はっきりと感じられる程度でなければならない。連続するうねりの速さについては、メトロノームを使って作業し、震えや、遅すぎるうねりから生じるワウワウを避けるテンポを自分に課すことは、優れた練習方法である。

経験と味わいによって、音色に質の高い情感を与えるヴィブラートに到達することができる。

以上、短い文章ではあったが、私のサクソフォンに対する考え方を十分に明らかにすることができたと思う。最後に、多くの若いアマチュアが、この美しい楽器に期待されるあらゆる喜びを実感できるようになることを祈りたい。私は、ジャズ・サクソフォン奏者の演奏する効果にいち早く注目しているが、この素晴らしい楽器がもっと崇高な使命を果たすべき時に、大多数の大衆がこのような名目でしかサクソフォンを知らないことを残念に思っている。

2022/08/28

フェルド「四重奏曲」初演時のプログラム冊子

ダニエル・デファイエサクソフォン四重奏団が、イィンドジフ・フェルド「サクソフォン四重奏曲」をチェコ(当時はまだチェコスロバキアの連邦体制だった)のプラハ市で初演した際の、プログラム冊子のスキャン画像。アンリ=ルネ・ポラン氏の生前の所蔵資料である。

1985年4月23日、陸路(車)で現地入りしたカルテットのメンバーは、プログラム冊子にある通り、新作のフェルド「四重奏曲」ほか、全4曲を披露した。会場は(読み取れる限り)ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホール。

ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」
フェルド「サクソフォン四重奏曲」
グラズノフ「サクソフォン四重奏曲 作品109」
シュミット「サクソフォン四重奏曲 作品102」

(画像はクリックして拡大)


2022/08/21

日下瑶子氏の博士論文(マスランカのサクソフォン作品を題材として)

昨年度、国立音楽大学大学院の音楽研究科の博士課程を終了された日下瑶子氏は、作曲家ディヴィッド・マスランカ氏の作品やその作曲プロセスを研究されていた。博士論文のタイトルは「デイヴィッド・マスランカのサクソフォーン作品における表現の根源——作曲プロセスの考察を通して——」というもの。この度、最終稿前のバージョンをご厚意で送っていただくことができた。

先行研究のレビューとマスランカ氏の生涯、諸作品の統計、サクソフォンのために書かれた時代別各作品の概説(譜例を引用しつつ続くセクションへの足がかり)、マスランカ氏の作曲プロセスとして重要な側面である「メディテーション」の詳細、そして関連するコラール旋律の引用について、さらに、マスランカ氏とサクソフォンの関わり、初演の演奏者との関わりを明らかにして、結びへとつなげる…という内容。合計350ページの大作だ。

取り急ぎ、4時間ほど使って速読してみた。公開前ということで、あまり詳細な部分まで述べることはできないのだが、日下氏の研究成果を詰め込んだ壮大な内容。内容の詳細はまたの機会(公開後)に譲るとして、3点ほど印象的だった箇所について書いておきたい。

1つ目:これまで私が持っていた疑問…なぜ、コラール旋律はこんなに人の心を捉えるのか、なぜ私はキリスト教徒ではないのにこの旋律に心惹かれるのか、という疑問があった。マスランカ氏が「コラールは『魔法の石』のようだ」コメントしている中で、まさにその理由について直接的に触れている箇所があり、その内容を読んで、長年の疑問が氷解するかのようであった。

2つ目:「レシテーション・ブック」について、雲井雅人サックス四重奏団が初演に至るプロセス、マスランカ氏との邂逅におけるやり取りがつまびらかにされている。極めて個人的な思いだが、その下りを読んでいて、10年以上前にこの作品を何度も(聴衆の前で抜粋含めて6回演奏している)演奏していた時のことを鮮やかに思い出し、また、なかなか納得して演奏できるようにならなかった頃のことを思い出して、ちょっと冷静でいられなくなってしまうほどだった。ダイナミクスやテンポについては佐藤渉さんから受けたレッスン、そのものだ。当時頻繁に活動していたTsukubaSQでの、音を出した時の異常な集中力、練習での試行錯誤、聴衆からの反応は、何物にも代えがたい経験だ。

3つ目:サクソフォンの様々な側面における柔軟性・適応性は、マスランカ氏の各作曲時期のいずれにおいても、ピタリと当てはまるものであったのだ、という、これまで持っていた朧げな印象が、体系的・具体的にまとめられていて、とても嬉しい気持ちになった。

…2つ目は、思い入れが強すぎて、だいぶ論文の内容とはかけ離れてしまったが…。

論文は、1年以内には正式版としてオンライン公開される予定とのことで、そのあかつきにはぜひ多くの方に読まれてほしい。そして、マスランカ作品演奏における日本語で書かれた水先案内の書として、極めて重要な位置を占めることになるだろう。

2022/08/17

フレデリック・ヘムケ氏のTeacher's Guide "Saxophone"

「Teacher's Guide "Saxophone"」アメリカ・セルマーが1977年(?)に発刊した教育者向けのガイドブックで、フレデリック・ヘムケ氏が執筆した30ページ程度の小冊子である。販促品のひとつではあると思うのだが、なかなかに凝縮された内容が面白い。下記から参照できる(なぜかJohan van der Linden氏のサイト…)。

http://johanvanderlinden.com/teachers-guide-hemke.pdf

雑な訳だが、イントロダクション部分を機械翻訳。読んでわかる通り、当時アメリカでは当たり前だった(と思われる)"クラリネットとサクソフォンの持ち替え"という行為に対する反論を出発点としている。

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サクソフォンが置かれた苦境と重大な誤用について嘆く必要はない。この楽器は、他の楽器と同じように、極めて真剣に、上手に教えることができることを認識することが必要である。しかも、サクソフォンは、教育学的類似性、という意味で、他の楽器を礎にしてから学び始めるような必要は無く、独立して学ぶことができる。言い換えると、そのような独立した楽器としての教え方が適している、ということだ。

アメリカでは、サクソフォンの指導は確立されているとは言い難い状態だったが、ヨーロッパでは長きにわたり、サクソフォンの技術、音、教育について、特にフランスで確立された流派が広まっている。そのため、この冊子では、フランス流の指導法を基本的な前提条件としている。

生徒の志向がジャズであれクラシックであれ、威厳と音楽性を持って楽器を演奏するためには、ある種の基礎が必要である。このガイドブックは、サクソフォンセクションがアンサンブルに新しいサウンドと重要なカラーを加えるために、あるいは将来有望なサクソフォン奏者が自分の選んだ楽器から最大限の力を引き出すために役立つものである。

すべての管楽器には、音色、音程、音質、音域、テクニックに関連する音響的な特徴があり、また、各楽器にはそれぞれの音響的な特徴がある。一つの楽器を完全に理解するためには、教師は一般的原則・応用面の両方を良く知っていなければならない。ここではサクソフォンの音響的な性質について概略を述べるにとどめ、楽器を教える際の予備的な手引きとすることにする。

サクソフォンは2つの音響的特徴、すなわち単一の拍動するリードと円錐形の管を組み合わせたものである。これらは偶然に組み合わされたものではなく、発明者であるアドルフ・サックスが創り出したものである。サックス氏は、オルガンのパイプを膨らませたような反応をする楽器を作り、倍音列の倍音を余すところなく出すことを可能にしたのである。クラリネットの1つ目の倍音は12度上だが、サクソフォンの1つ目の倍音は1オクターブ上である。そのため、指使いが比較的単純である。また、この楽器の特徴的な音質もこのためである。

すべてをオーバートーンで鳴らすことは現実的ではないので、高音域の演奏を機械的に補助する工夫がなされている。弦楽器では、指で弦の中間を止めるとオクターブが出る。サクソフォンでも原理は同じだが、空気の柱を分割しなければならない。そのためには、ボディの側面に小さな穴を開け、中の気柱を断ち切る必要がある。もし、Low DからMiddle C sharpまでを、C sharp以上の音を出すための基礎と考えると、これらの基礎を完全に1オクターブ上げるには、少なくとも12個の穴が必要であることがわかるだろう。

しかし、サクソフォンには2つのオクターブキーしかなく、これ以上の数は機械的に非現実的である。その結果、可能な限りの補正を施しても、完全に調律され、機械的に健全で、演奏者の妨げにならない楽器を作ることは、音響的に不可能であることがわかる。優れた楽器では、この問題は最小限に抑えられますが、楽器の先生はその意味を見過ごすことはできない。

サクソフォンのいくつかの音は、この楽器の音階の中でわずかにシャープまたはフラットになる傾向がある。このような音は、演奏者の感性が優れていれば、アンブシュアの微小な調整によって、正しい位置に近づけることができる。サクソフォンは、他の管楽器と同じように、ある特定の音程で最もよく調律されるようにできている。マウスピースの位置を変えると、ある音は他の音よりも大きく変化するため、この音程を上下させると、必ず調律が狂ってしまう。

弦楽器奏者が音程に注意を払うように、サクソフォンもその柔軟性から、初心者のうちは非常に音程に対して敏感でなければならない。サクソフォン奏者が成長するにつれて、口腔内、アンブシュア、息、あるいは別の指使いを微妙に調整しなければならないことに気づくだろう。しかし、サクソフォンは指使いが単純であるため、若いうちは技術的なことだけを考えて演奏してしまう。そのため、イントネーションや音質、音楽性などの習得が遅れてしまう。そのため、若いサクソフォン奏者は「ゆっくり練習すること」を学ばなければならない。

サクソフォンに特化したクラスを教える場合に比べ、異種混合楽器のクラスを教える必要がある場合、問題は深刻化する。この点で、資格のある教師によるサクソフォンの個人レッスンは、通常のクラス指導を補う貴重なものである。

サクソフォンから"最高の結果を得る"ためには、サクソフォンを高い音楽的成果を上げることができる主要な楽器として扱うことである。サクソフォン・セクションを充実させるために、クラリネットや他の楽器から始めて、後でサクソフォンに交代させるようなことはしないでほしい。このような古い習慣は、サクソフォンを始めるのに不適切であるだけでなく、この楽器の多くの問題を解決するのを妨げています。また、サクソフォンは副次的な楽器であるかのように思われていますが、決してそうではない。

2022/07/31

栄光のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団

赤松文治氏の著作「栄光のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団(音楽之友社)」を中古で入手。言わずと知れた表題の吹奏楽団について、下記のような情報を体系的・詳細に網羅した(おそらく)唯一の著書である。

I.フランス親衛隊の歴史と軍楽隊誕生までの背景
II.ファンファール隊の誕生から今日までの輝かしい歴史
III.親衛隊軍楽隊の現状
IV.歴代楽長のプロフィール
V.歴代の楽長補と副楽長
VI.歴代のメンバーと名楽手達
VII.演奏活動の歩み
VIII.ディスコグラフィー
IX.親衛隊喇叭鼓隊」と騎兵ファンファール隊

「I.フランス親衛隊の歴史と軍楽隊誕生までの背景」では、13世紀の儀伏隊時代から19世紀のパリ市親衛隊まで、時代とともに変遷した親衛隊の歴史を、「II.ファンファール隊の誕生から今日までの輝かしい歴史」では、ナポレオン大統領の下創設されたパリ共和国親衛隊時代のファンファール隊の誕生から、著作発刊の1988年当時までの楽団の変遷を、各時代の詳細な編成(どの楽器が何人、等)とともに述べている。「III.親衛隊軍楽隊の現状」は、1988年当時の楽団の、ブトリー楽長以下、楽団の主要メンバーに至るまでのプロフィールと、活動履歴(海外遠征含む)の詳細を述べ、「IV.歴代楽長のプロフィール」「V.歴代の楽長補と副楽長」で再びファンファール隊の誕生にさかのぼって、同隊の初代(楽長ではなく)伍長喇叭長であるポーリュスのプロフィールから、1969年まで楽長を務めたブラン楽長、1977年まで副楽長を務めたガレ副楽長のプロフィールまでを網羅する。「VI.歴代のメンバーと名楽手達」は、50ページ近くのボリュームが割かれた本著作で最もコアとなる章であり、1859年当時の、ファンファール隊から吹奏楽形態への移行当時の名簿から、時代ごとの名簿を元に、主要なメンバーのプロフィールを述べている。「VII.演奏活動の歩み」は、1867年の欧州軍楽隊コンクールで一等を獲得した時代から現在に至るまでの、主要演奏イベントとレパートリーを、「VIII.ディスコグラフィー」では、シリンダー時代からLP時代の最終期までの全レコーディングを網羅、さらに、国内盤の情報も掲載されている。「IX.親衛隊喇叭鼓隊」と騎兵ファンファール隊」では、乗馬演奏を行う騎兵ファンファール隊の成り立ち、演奏、ディスコグラフィが、短くまとめられている。

このように、盛りだくさんの内容だが、これは著者の赤松氏が、調査・執筆当時、楽団最古参の演奏者であり楽手長でもある、コントラバス・サクソルン奏者のルネ・マゾー氏から入手した種々の資料を活用しているとのこと。マゾー氏自身も、独自に「La Musique de la Garde Republicaine de ses origins a ns jours」という、ギャルドの歴史をまとめた著作を手掛けている。

読み進めていくと、マルセル・ミュール氏ほか、ギャルドに参加していたサクソフォン奏者のことも詳しく記されており、いずれ抜粋して紹介していこうと思う。

著者の赤松文治氏とは、果たして何者だろうか。吹奏楽関係の研究者として名が知られているが、詳細な経歴等が調べきれなかった。巻末に著者の連絡先として住所が掲載されているのだが、国会議事堂と同じ地区の「永田町一丁目...」とのこと。只者ではなさそうだ。

2017/10/15

ロンデックス氏の注目著作、発売開始

ジャン=マリー・ロンデックス Jean Marie Londeix氏著"POUR UNE HISTOIRE DU SAXOPHONE ET DES SAXOPHONISTES"の第1巻が発売開始となった。

ロンデックス氏による、アドルフ・サックスから現代(2000年)までの、サクソフォン史を網羅し解説した著作である。何年も前から執筆が始まっていたことは知っており、また、日本のサクソフォンについてロンデックス氏に情報提供していたため、発売を心待ちにしていたのだが、まずは第1巻(Livre 1)が発売。今後3巻までが順次発売予定となっている。

Livre 1 - 1814-1899 Adolphe Sax
Livre 2 - 1900-1942 Internationalisation du saxophone
Livre 3 - 1942-2000 Le saxophone de concert

Delatour Franceからの出版で、第1巻は22ユーロとのこと。次の第2巻以降も楽しみだ。ちなみに…第2巻は1900年から1942年となっているが、1942年はパリ音楽院(現在のパリ国立高等音楽院)のサクソフォン・クラスが、時の院長クロード・デルヴァンクールの尽力によって再開された年だ。

http://www.editions-delatour.com/fr/organologie/4006-pour-une-histoire-du-saxophone-et-des-saxophonistes-livre-1-9782752103420.html

日本語版…と贅沢は言わないので、せめて英語版が出ないかなあ…。

2017/05/25

The SAX Vol.83に寄稿

5/25発売のThe SAX Vol.83に、The Rev Saxophone Quartetの演奏会(ミューザ川崎 ランチタイムコンサートとミューザ川崎 Night Concert 60)のレビューを1200字で程度で寄稿した。昨年の引っ越しのせいか、まだ献本が到着せず中身は未確認だが(笑)。

1200字にどう収めるかということに苦労し、巡り巡って回りくどい表現を多用してしまったのだが、一言で表すのは難しいほど、素晴らしい演奏だった、ということで…(言い訳)。

本号に関する内容の概要は、以下のリンクより参照できる。
http://www.alsoj.net/store/view/S83.html

Amazonからの購入リンクはこちら:
http://amzn.to/2qfKQwE

2017/01/12

書籍「Il Saxofono」がPDFで購入可能に

イタリアのサクソフォン奏者、マリオ・マルツィ Mario Marziの著作「Il Saxofono(Zecchini Edition)」は、サクソフォンの歴史、奏者、作品、演奏法等について示した、さながらサクソフォンの百科事典ともいうべき書籍である。

400ページ超の圧倒的ボリューム。豊富な図や写真の中には貴重なものも多く、さらに特筆すべきは、イタリアにおけるサクソフォンの歴史やイタリア産の作品について詳しく言及されていること。これまで少なくとも日本ではほとんど知られていなかった内容だと思う。さらに、ジャズにスポットを当てた章があったり、女性サクソフォン奏者にスポットを当てた章があったりと、とにかく話題豊富。サクソフォン奏者必携の書だろう。

…と、充実の内容なのだが、なんと全編イタリア語!英語版無し!これじゃ読めない!「せめてPDF等になっていれば、翻訳にかけたりして読み進めていけるのになあ…ブツブツ」などと購入を先延ばしにしていたのだが、最近PDFで購入できることを知った。これでGoogle翻訳にかける等、翻訳の手間が一気に小さくなる。嬉しいことだ。

以下のページからどうぞ。私も早速購入した。

http://www.zecchini.com/il-saxofono-0

2016/06/22

協会誌"サクソフォニスト"校正開始

次回のサクソフォーン協会誌"サクソフォニスト"の初稿が届き、校正を開始している。まずコングレスの記事を見始めた所で、記事間で整合をとるのが大変そうな印象。あまり時間もないので、がんばらなければ。

他には、田名部有子さんの記事が、大変興味深かった。内容については発行まで差し控えるが、あまりこういう着眼点の記事ってなかったような。それだけ少ない、ってことなのかな。

2015/11/01

「音楽コンクールってなんだろう?」(子ども音楽新聞より)

公益財団法人ソニー音楽財団が発行する「子ども音楽新聞」の2015年8月第23刊に、「音楽コンクール」の特集が掲載されていた。「子ども音楽新聞」は、同財団法人が発刊する子供向けに音楽知識を易しく解説するフリーペーパーで、「国際オーボエコンクール・軽井沢」が10月に開かれていたこともあり、それに合わせて音楽コンクールの特集が組まれていたようだ。

同財団が主催するコンサートにチラシとともに挟まれているようだが、以下のリンクから閲覧できる(第22刊から第23刊になったとたんにデザインが突然変わっているのが面白い。閑話休題)。

http://www.smf.or.jp/kodomo/


音楽ライターの片桐卓也氏による文章で、「音楽コンクールとは何か?」を一般的に、平易に解説した内容。コンクールの歴史、現在の音楽コンクール、コンクールの目的について、短いながらもわかりやすく丁寧に書かれている。例えば、コンクールの目的については次のように記されている(本文を引用)。

コンクールの大きな目的は、優れた才能の演奏家を発掘することですが、それだけではありません。コンクールによって、その楽器の演奏のレベルを高くすること、コンクールの名前に付けられた作曲家や楽器の作品を世の中に広めること、などがコンクールの目的です。

コンクールの目的ってなんですか?と聞かれたとき、これまでは、私はこうもシンプルにすぐ答えられることはできなかったなあ。目的の項目他、歴史、現在の実情についても、子供向けの内容とはいえ、大変勉強になったのだった。

2015/10/29

パイパーズ2015年11月号にコングレス・レポート掲載

杉原書店が出版する管楽器専門誌「パイパーズ」の2015年11月号(411号)に、サクソフォン・コングレス"SaxOpen"のレポート記事を掲載いただいた。巻頭から2番目にぶち抜きで6ページという好スポット・大ボリューム。私は本当に駄文と写真をごそっと提供しただけなのだが、素敵なレイアウトにしてくださり、感謝感激だ。見出しは「アルザスの古都で繰り広げられた過去最大規模のサックスの祭典」という、これまた目を引くテロップ(これも考えていただいたのだ)。

ブログのレポートとはまた違った構成・雰囲気で書いたので、興味ある方はぜひ手に取っていただけると嬉しい。昔から目にしていた雑誌に自分の記事が載るというのは、不思議だがとてもうれしくありがたいことだ。

詳細はこちらのサイトから。https://www.pipers.co.jp/

2015/10/02

パイパーズのゲラ修正

引続き仕事が多忙。なかなかブログを書いている時間も取れない。

パイパーズに、サクソフォン・コングレスのレポートを寄稿したのだが、先日ゲラが送られてきた。平日の帰宅後の時間を2日間ほど使い、ゲラの修正作業を実施していた。8000字ほど書いて、写真も含めると6ページぶち抜きという、なかなかのボリューム。

それにしても、毎度のことながら素敵なレイアウトにしてくださって感激である。私なんかは、正直なところ駄文と写真をごそっと提供しているだけで、レイアウトにはまったく関わっていないのだが、レイアウトがきちんとするだけで、なんだか記事に貫禄が出てくるような気がするのだから、ありがたいことである。

発売は来月くらいかなあ。ぜひ手にとってお読みいただければ幸い。

2015/09/23

プログラム冊子の整理

社会人になってから聴いたコンサートのプログラム冊子は極力保管してある。保管してある…とは言っても、雑多な感じでどさどさっとダンボール箱に放り込んであるような形であったため、引っ越しを機に日付順にクリアファイルへと入れていくことにした。

順番がバラバラ、ということで丸一日作業ではあったが、なんとか完了(作業は先々月完了していたのだが、ブログネタにし忘れていた)。最初1冊辺り40ポケットのクリアファイルを6部用意したのだが足らず、さらに1冊足してようやく収まった。2009年4月5日のSaxofono Rossoの演奏会を先頭に、250以上の演奏会のプログラム冊子が整列。いくつかの演奏会については、チケットやチラシも出てきたので、同じポケットに入れてある。今後は、チケットやチラシも極力保管しよう。

こうして眺めると圧巻。20年位継続して集めたら、面白い資料になりそうだ。

2015/09/06

コングレスの記事書き進行中

某管楽器系雑誌に掲載用の、サクソフォン・コングレスのレポート記事を準備している。

まずは草稿で12000字を一気に書き、そこから構成を整えつつ8000字程度に減らしていく作業の真っ最中。ひたすらコンサートレビューを書けば良いなら楽だが、それが連続すると単調になってしまう。いかにして、最後まで読み手に興味を持ってもらえるか…というポイントに腐心しながら書き進めている。

締め切りは9/15だが、ようやく終わりが見えてきた。発売されたらまたお知らせする予定。

2015/08/06

楽隊用吹奏楽器教本より「第三章 サキソホーヌ」

 サキソホーヌ種は黄銅製なれども其性能に依る時は木製楽器の部類とす。
 此の種族は四種にしてソツプラノー、アルト、テノール及びバリトンの四種とす 而して之れ四種の楽器は吹奏団中に於て総て須要の位置を占むものなり。
 本器の構造は四種共各形状を異にして大小あれども指法は同一にして各種共六個の孔と十三の鍵とを有せり、ソプラノーの音色はクラリネットに近きも之れに比して酸音なり 然れどもクラリネットの代用たり得べし 而して音調の困難なる本器を以て真の美音を出す吹奏者は甚だ稀なり 難も時に独奏に用ひて好結果を博することあり 合奏中多くは吹き流し及びクラリネットの奏する所を重複するに過ぎず アルトは本種属中最美き音色を有する楽器にして女声に近く優美にして総て愉快なり 音階の鋭部は悲哀の意味ありて多く独奏中に之れを採用す 中部は稍大にして鈍部は威大なり 而して難所を奏するに容易く客に好く音力を増減するの能力あり 且つ流奏、「スタカト」等も見事に奏し得るも鈍より鋭に若くは之れに反するものを迅速に奏することは稍困難なり、テノールはセロに相類したる音色を有し鈍部は雄大にして中部は円滑温柔にして鋭部は稍鼻音なり、中鈍ノ二部はトロムボーヌ及びバリトンの代用たるを得て好果を奏することあり其他の鮎(?)は略アルトに同じバリトンはダブルバスの音色に相類し鋭、中、鈍共深厳なり 鋭部は微力悲哀なり 本器は独奏に美妙の成績あり 然れども困難の地位を吹奏すること容易ならず特に切れたる音譜に於て然とす 其他前項に同じ。

(一部、旧字体を新字体に直したが、送り仮名が違う箇所が多々あり、書きづらい…)

大正3年(1914年)発行の書籍、小畠賢八郎の「楽隊用吹奏楽器教本(十字屋楽器部)」から、「第三章 サキソホーヌ」を文字起こししてみた。全文(画像)は以下のサイトから参照可能だ。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/923582

内容は、非常に興味深い。なぜなら、現代においても通じる箇所がとても多いからだ。それだけ楽器や奏者の基本的性質が変わっていない、ということにもなるのだろうか。「而して音調の困難なる本器を以て真の美音を出す吹奏者は甚だ稀なり 難も時に独奏に用ひて好結果を博することあり」など、まったくその通りである。書き起こした箇所ではなく、音階部の説明書きには「…此の種族特有の美音を発するものは稀れにして反て酸音に陥る者多し 故に初学に富り音階を十分練習したる後に在らざれば楽曲に移るべからず」…ドキッ。ごめんなさい(誰に謝っているんだ)。

また、もう一点、音楽用語の違いが面白いと感じた。例えば"高音部"のことを"鋭部"と言っていたとは知らなかったし、汚い音のことを"酸音"と言っていたとは知らなかった。ストラップは、"釣革"だそうな。西洋音楽黎明期の日本の音楽教育界における、苦労の跡がかいま見える。

十字屋ってあの十字屋?とか、著者が参考にした本(きっと西洋の本から引き出した情報が多いのだろう)はなにか?とか、なぜサクソホーヌの章の演奏姿がバスクラなのか?とか、いろいろ疑問点は多いが、それにしても楽しい資料だ。サクソホーヌの章に限っては、画像ファイルは下記からも参照できる。

(クリックして拡大)