クリスチャン・ローバ(ロバ) Christian Laubaの「9つの練習曲 Neuf etudes」は、ロンデックスの委嘱により書かれた、無伴奏サクソフォンのためのエチュードである。ローバはサクソフォンのための作品を数多く書いているが、彼のサクソフォンのための作品の中では、「Hard」や「Reflets ルフレ」あたりと並んでもっとも有名な作品だろう。北アフリカのチュニジア出身のクリスチャン・ローバらしい、実に民族色溢れるカラーで染まった練習曲であり、次のような内訳でソプラノ~バリトンを網羅している。
Balafon, Savane, Sanza, Jungle [asax]
Tadj [ssax]
Gyn, Vir [tsax]
Ars [2 ssax]
Bat [bsax]
無伴奏の練習曲集というと、ラクールから始まりクローゼ、フェルリング、ブレーマンなど、全て無伴奏の練習曲集であるのだが、このローバの作品は、並みの「練習曲集」ではない。まずは、それぞれの曲が「何のための練習か」ということを記した解説が付されているのだが、こんな感じ…。各タイトルをクリックすると、reedmusic内の、60秒程度の試聴ができるページに飛びます。
Balafon:「循環呼吸のマスター」「繊細なダイナミクス」「完全にクリアな音~サブトーンまでの音色のコントロール」
Savane:「連続した重音」
Sanza:「重音のマスター」「スタッカート」
Jungle:「レガートなフレーズ」「循環呼吸のマスター」「スラップタンギング」
Tadj:「3つのモード」「音のアタック」
Gyn:「音のアタック」「音の響き」
Vir:「Balafon, Savane, Sanza, Jungle, Tadj, Gynの復習」
Ars:「連続したテンポ・チェンジ内における、五度音程と四度音程」
Bat:「トレモロ」「トリル」「メロディックなグリッサンド」「微分音」
ふむ、なんか凄いぞ。初っ端から「循環呼吸」だの「重音」だの言っているし、「音のアタック」「スタッカート」など、一見普通のことを言っているような曲も、聴いてびっくり超絶技巧の嵐。サックスの国際コンクールでは、課題曲に指定されたり、自由曲として取り上げられることすら、あるのだとか。現代のサックス吹きにとって、有名でありながらも容易に登攀しがたいレパートリーのひとつである、とも言えるだろう。
しかし、上に述べたように、どこか親しみのあるモードや、調性感のある響きが不意に現れることもあり、ワケノワカラナイ現代音楽と違ってすんなりとこの世界に入り込むことができるのだ。「Balafon」はその名のとおりアフリカの鍵盤楽器を想起させるし、「Tadj」はなんだかアラビック。「Ars」の響きは荘厳な教会音楽のよう。実際私の周りにも、現代曲は苦手だけれどこの曲は好き!という方は何人かいらっしゃるようだ。
前置きが長くなってしまったが、この練習曲だけを集めたCD「Christian Lauba - Joel Versavaud / Neuf etudes pour saxophones 1992-1994(Maguelone MAG 111123)」というものが存在する。フランスのボルドー音楽院において、ロンデックスとベルデナッド=シャリエに師事したジョエル・ヴェルサヴォー Joel Versavaudという奏者の演奏によるものだ。マイナーレーベルの出版であるため入手が難しく、実はずっと前から探していたのだが、最近ようやく入手に至った。
ボルドー音楽院出身と言うこともあり、ローバと比較的近い位置にいたヴェルサヴォーのこと、録音のリリースは自然な流れだったのだろう(実際、「Balafon」はヴェルサヴォーに捧げられている)。しかも、難易度トリプルAのこの曲にかかわらず、彼の演奏は「お見事!!」の一言。録音はイマイチだが、それを補った余りあるテクニックの高さは、一聴の価値あり。
ちなみにヴェルサヴォーのWebサイトでは、「ローバのエチュード専用の重音チャート」なるものがダウンロード可能。興味のある方はどうぞ。
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