2008/03/31

録音機能

自分が持っている携帯音楽プレーヤー"iriver clix2"には、録音機能がついていることを最近知った。録音機能といってもごくごく簡易的なボイスレコーダーといった感じもので、スピーカーはモノラルで、バランス調整も効かないような代物なのだが、これが練習やレッスンのときに意外にも便利。

さらっと録ってさらっと聴ける。響きがない場所であればかなりクリアに録れる。バッテリーも半日くらいは余裕で持ち、録音時間もフラッシュメモリの空き容量がある限りは無制限に録り続けられる。…お気に入りのCDを取り込んで聴いている時間と同じくらい、録音機能のほうも利用しているかもしれない。個人でさらうときには、練習→録音→聴く→練習というサイクルを作ることができるし、他にも例えば以前、佐藤渉さんに四重奏のレッスンを受けたときの様子を記録したときなんかは、後々の復習にも使うことができた。

最近の音声や映像などのメディアを扱う機器の、機能性の向上っぷりは凄いですなあ。一昔前だったら、録音機能付のMDレコーダーとマイクを用意して…というものしか選択肢は無かったのに。ハイエンドではポータブルでSACDクオリティの録音が可能なものから、ローエンドでは携帯音楽プレーヤーの付属機能(しかもマイク内臓)のこんなにお手軽なものまで。便利な時代になったものだ。

2008/03/30

木下直人さんのお宅訪問

今日は、お世話になっている木下直人さんのお宅を訪問した。朝早くに実家を出発し、飯田線に揺られて目指すは飯田市。中央・南アルプスの景色を楽しみつつ、およそ2時間ほどの行程であった。東京の電車と比べて1/2くらいの速度で進むため、ゆったりで良いですなあ。カーブだらけ、橋だらけなのだが、そもそもこんな断層地帯の中腹に電車を通したことがすごい。

駅までは木下さんが迎えに来てくださった。ご挨拶ののち早速お宅へと向かい、オーディオルームにお邪魔すると目に飛び込んでくるのは巨大なスピーカー、アンプやターンテーブルを始めとする再生装置、おびただしい数のレコード!まずは、再生装置でいくつか写真に収めてきたものを紹介しましょう。

タンノイのスピーカー:オートグラフ。発売当時、家庭用では最高といわれた代物。1953年のモニターシルバー組み込み型を復刻したものであり、1950年代後期~1960年代のレッドとは違うものなのだそうだ。モニターシルバー独特のホコリ防止のカバーがかけられているのが見える。これが2本。定位置で聴くサウンドは、恐ろしいほどの空間的拡がりと密度を聴かせる。レッドにはレッドに合う木の材質が、シルバーにはシルバーに合う木の材質があり、その組み合わせを取り揃えるのに苦労されたそうだ。

右下に見えるユニット、ステレオでは世界を見渡しても最高の再生環境。当時の状態を目指すべく完璧にオーバーホールされたトーレンスのターンテーブルと、オルトフォンのカートリッジ。左上はマランツのFMチューナー10B(吹奏楽三昧でギャルドが放送されたときに、木下さんが録音を行ったのはこのチューナー)。その下はイコライザや電源部にも、こだわりがあるというマランツのアンプ"Model 1"。そしてCD-R録音装置が2台。周りを取り囲むLPやCDの数々。左側には"Model 7"の姿もあった。右上に切り取って載せたのは真空管。Telefunken EL34だが、左側が1950年代からあるベース端子がメタルのもの。右側が、後期のもの。ベースがメタルのものは、なかなかに手に入りづらいものであるようだ。

ピーエル・クレマン Pierre Clementのカートリッジ(SP用とLPモノラル用)。一部のフランス国立放送局ご用達のカートリッジで、フランスのギャルド関連やサクソフォン関連のLPやSPは、これらのカートリッジを使用しての復刻を行うべく準備を進めている段階だそうだ。木下さんがおっしゃることには、例えばヨーロッパでプレスされた盤とアメリカでプレスされた盤を比較したときに、当該地の機器で再生することにこそ意義があるということだ。なるほど…。フランス固有の音…もっと言えば、フランスの音楽性を再現するために、そういった再生環境が必要なのだということだ。

再生機器だけでも驚きっぱなしなのに、それに加えてレコードのコレクションである。とにかく、次から次へと紹介していただき、写真を撮る暇もないくらい&息つく暇もないくらいだ。例えばソシエテのラヴェル全集一つとってもイギリスの初版盤、ルボンの唯一と言われるフルートソロや室内楽、サクソフォン関連やギャルド関連のLondonやERATO発の超貴重なオリジナル盤、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のフランス国内盤・日本国内盤、パリ警視庁吹奏楽団のオリジナル盤、ロームがソプラノを吹くギャルド・レピュブリケーヌサクソフォン四重奏団のLP、フランスの放送用録音をLPで限定的に発売したもの…まだまだほかにもたくさん!管楽器のコレクションとして、これ以上ないというほどのものばかり。値段など、とうていつけられる代物ではない。

そんな中、オーディオルームの環境でかけていただいたのは、クリュイタンスが振り、ソシエテが吹くラヴェル「スペイン狂詩曲」。もちろん、イギリスのオリジナル盤ボックスセットのうちの一枚。当時の最高の状態の機器から再生される、えもいわれぬ音に酔いしれた幸福な時間。

そして、なんと3時間以上にわたって、時間も忘れていろいろにお話させていただいた。本当に、音楽に対して情熱・知識・経験のある方だ。私も今まで身につけてきたすべての知識と経験(といっても高が知れているが)の引き出しを開けて応じた。木下さんから発せられる言葉の一つ一つが、音楽を歴史の流れの一現象として捉える眼差しを感じる。例えば、この言葉は印象的だったなあ。「ブランとブートリーとブーランジェの何が違うか…なぜ、行進曲を振ったときにあんなに違うのか…戦争を経験しているか経験していないかの差だよ」と。

そうか、と妙に納得してしまった。コンサートマーチ云々ではなく、もっと根本的な差だったのか。環境こそが、指揮者を育て、演奏者を育て、機器を育て、音楽を育てるのだ。しかし、その中には確かに同時代の"糸"というものも存在することに間違いはないと。ブランとルボン、そしてリシャールが出会った奇跡、マランツ・トーレンス・オルトフォン・タンノイが同時期に存在していたという奇跡…。木下さんが行っている復刻は、単なる復刻ではない。その当時のATMOSPHERE(変な言い方だが、偶然と必然の産物とも言えるか?)を、現代に音という形で再提示しているのだということなのではないだろうか。

時間はあっという間に過ぎて、お昼前には失礼するつもりが、奥様も同行でお昼ごはんまでごちそうになってしまった。「かつ禅」という駅前のお店で食べたヒレカツ定食と角煮が、これまた美味。キャベツだけでご飯一杯食べられました(笑)。別れ際に再訪問を約束し、飯田線で一路北へ。午後から降り出した雨は、時間が経つにつれてますますその勢いを増していくのでした。

最後に、なんとお土産にと譲っていただいた、ロンデックスの室内楽曲集EMIフランス盤(パテ・マルコニ)、デファイエとデルモットが組みアンドレ・ジラールがORTFを振ったリヴィエのダブル・コンチェルト(RTF-Barclay)、マルセル・ミュールのSP4枚組(Selmer)の写真。そして、飯田名物の一二三まんじゅう…こちらも美味しくいただきました。

いやあ、凄かった。とても貴重な時間を、ありがとうございました。

進展

服部先生から電話でご連絡が!わ~い。何が「わ~い」かはまだ秘密だけれど、ラッシャー関連の研究で、少し進展があったのだ。さて、もう少し手直しをしないと…。

お礼に?と「Top Tones of the Saxophone」を贈ってくださった。ありがとうございます!

2008/03/29

mckenさんのお宅訪問

実家の新しいPCをセットアップするため、この土日は帰省。さきほど、アプリケーションのインストールを終えて、ようやく本格始動といったところ。あとは、メールのユーザ名とパスか…。それから、Windows XPを慣れた身には、Windows Vistaのユーザーインタフェースが使いづらくてしょうがない。

市販のアプリケーション以外の、デフォルトのオンラインソフトウェア環境は、Firefox+Lhaplus+TeraPad+FFFTP+IrfanView+VLC Media Player+ffdshow+ImgBurn+AVG Free Edition+Daemon Toolsといったところ。これだけあれば趣味の用途には不自由しないが、それどころかこれらのソフトウェアがすべてフリーというのも凄い。

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ところで今回は、帰省に際して、エスポワール&ロッソ&Ensemble TXのMJさんと一緒にmckenさんのお宅にお邪魔してきた。私の実家は長野県の中南信にあり、帰省の折には中央線(特急あずさ)もしくは中央道高速バスを利用するのが常…そしてmckenさんのお宅も、中央線&中央道のほぼ沿線に位置しており、こういった機会に立ち寄り易いのだ。

mcken(まっけん)さんは、クラシックサックスを吹いている方ならおなじみ、「Fantastic Classical Saxophone」を含むスーパーウェブサイト「mcken's wonderland」の管理人。数年前からお世話になっており、いつかご挨拶に伺いたいと思っていたのだが、この度ようやく実現した。MJさんとは某駅に10時に待ち合わせ、mckenさんに迎えに来ていただく。

ご自宅は、閑静な住宅地の一角。中に入ると居間のあちこちにレアなCDが!コーヒーを頂きながら、まだ紹介をアップしていないという、マ○○○○○の某協奏曲のピアノ連弾版なんてのも聴かせていただく。うおお。

そして地下室のCD棚!そもそも地下室があるというのも驚きだが、見てくださいこの写真!高さ2メートル、幅3メートルの一面のCD棚に整頓された、クラシックのCDの数々!MJさんと2人で、めちゃくちゃはしゃいでしまった。目測で3000枚くらい…すごい。「アレのソレがああでこうですよね」という話題で、小一時間盛り上がってしまった(笑)。廃盤となったCD、限定のCDなども多数手にとって見ることができ、ちょっと感動。

「an eye for a difference」「JacobTV Prism Quartet」「HOT」の3枚をピックアップして頂き、再び居間に戻って鑑賞。娘さんとのポケモン談義もしながら(最近は増えているのですねえ。最初の150匹しかわからなかった…)、楽しい時間を過ごさせていただきました。さらに、お昼ご飯に手打ちのうどん(とてもおいしい)まで振舞っていただき、感謝感謝。最後まで話は尽きなかったが、手塚治虫のアニメーション作品「展覧会の絵」を観たところで惜しくもタイムアップ。

いやあ、楽しかったです。どうもありがとうございました。今度は楽器を持って、ぜひ伺わせてください(笑)!

2008/03/28

動かない

ロベール・クレリスの「かくれんぼ」を練習しているのだが、なぜかどうしても苦手なポイントが出てきてしまった。問題の譜面は、ご覧の通りのクロマティックで、指定の速さは四分音符=84。最初の3拍は普通にできるし、4拍目単独も別に問題ないのだが、これを続けて演奏することができない。この場所だけ一時間ほどさらってみたものの、四分音符=60が限界。

私は、特に他の人と比べても格段に両手の薬指と小指が弱く、それら指が絡んでくる複雑な動きが苦手なのだ。薬指につられて、薬指以上に小指が動いてしまったり、なんてことはザラ。この楽譜はまさに、ドンピシャな難しさで、とにかく思い通りに動かない。それどころか、薬指と小指を動かした後の中指の反応の悪さもやっかい。「ミファ」と分かっているのに、中指が浮き上がってくれないのだ。

そんなこんなで、(記譜で)ファ⇔ミ、ミ⇔ミ♭、ミ♭⇔レのトリルをひたすら練習しながら、地道にさらい続けているところ。まだまださらう楽譜はたくさんあるのに、ここまでできないとは…先が思いやられる。ブエノスアイレスは、今のところ夏の中期。ここにもやっかいな指運びがあり、とりあえずすっ飛ばして、今日は秋をさらうのを楽しんでいた。4月上旬のうちには、ブエノスアイレスはなんとかさらい終えたいなあ。

そういえば、今日久々にアルトを持ち出して吹いてみた。タンギングの汚さはどうしようもないが、軽い抵抗に明るい音が出て、ちょっと楽しかった。

…なんて遊んでいる暇はなく、もうちょっとストイックにさらわなければダメですな。あー、集中集中。

2008/03/27

ミュールのアメリカツアー録音

The Legendary Saxophonists Collectionから。

マルセル・ミュールは、独奏者としてのキャリアの最終期(1958年)に、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のアメリカツアーに参加している。12の都市で公演を成功させ、例えばニューヨークのジャーナリスト、ルイ・ビアンコリは、ミュールの演奏を聴いて「サクソフォンのルービンシュタインだ!」と評したという。このときの公演プログラムは、以下の4曲。

ラヴェル「マ・メール・ロワ」
イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」
トマジ「バラード」
メンデルスゾーン「交響曲第4番"イタリア"」

演奏会を聴いた聴衆の反応は、如何ほどのものであっただろうか。今となっては知る由もないが、幸いなことに録音が残されており、我々はその演奏に触れることができる(Legendary Saxophonists Collection CD 14)。オーケストラのみの2曲がカットされている上に、マスタリング状態がひどいというオマケつきなのだが、PCで上手く操作すれば、聴けないほどではない。いろいろ言うとバチが当たりそうだ。

イベールの神懸り的な演奏は、1930年代のパリ音楽院管との録音、そして1950年代のパリ・フィルハーモニー管弦楽団との録音、どちらをも上回るものではないかなと思う。ミュールが、フラジオの「ラ」に挑戦している様子を聴き取ることができる。爆速のトマジも、隅々まで躍動感に満ち溢れた、実に生き生きとした演奏で、これを聴くと他が聴けなくなってしまうぞ、と言う感じ。

ミュール自身も、インタビューでセッション録音の苦手さを語っており、ミュールの演奏の真価は、こういったライヴ録音にこそ、現れているのではないかなとも思った。長きにわたって、そもそも存在しないと思われていたこの録音を、21世紀という時代に聴くことができることを、心から嬉しく思う。

2008/03/26

冨岡先生のソロ録音(安部幸明作品集)

サクソフォン奏者、冨岡和男氏のことを、私はなぜかいつも冨岡"先生"と呼んでしまう。もちろん、レッスンについたことがあるわけでもなく、面識すらほとんどないのであるが、時々耳&目にする冨岡先生の外見・内面からは不思議とそう呼ばせてしまうオーラが漂っている。かつては奏者として、そして現在は教育者として、日本のサクソフォン界を引っ張っている(と書くと、少々語弊があるか?)存在であることに間違いはなかろう。

冨岡先生の録音や実演には、私はアンサンブルでしか触れたことがなかった。キャトゥル・ロゾー、そしてサクスケルツェットや、フェスティバル・オーケストラにおいて、ソプラノやアルトを吹いている姿を何度か拝見したことがある。が、そういえば独奏って聴いたことないよなあと、ふと思った。ドビュッシーを演奏した、2007年の「Saxophone Day」には伺えなかったしな。

じゃあ「冨岡先生のソロを聴けるCDはないのか?」と探したところで発見したのが、今回ご紹介するCDである。「安部幸明 室内楽作品集~音色と旋律の魅力~(LEKINE RLMT-0401)」。珍品。

安部幸明(1911 - 2006)は、戦後日本のクラシック音楽界を代表する作曲家の一人。京都芸術大学で教鞭をとりながら、オーケストラ曲、室内楽曲をいくつか手がけた。特に、自身がチェロを専攻していた経験から、15曲もの弦楽四重奏曲を作曲している。その安部氏の作品が2003年に「流亜風 日本の作曲家による室内楽連鎖演奏会」というコンサートシリーズで演奏されたときの、ライヴ録音をCD化したものだ。

・弦楽四重奏曲第8番(1952)
・アルトサクソフォンとピアノのための嬉遊曲(1951)
・弦楽四重奏曲第14番(1990)

この中の「嬉遊曲(ディヴェルティメント)」において、サクソフォンを冨岡先生が、ピアノを冨岡英子さんが担当している。「嬉遊曲」についての詳しい情報は、こちらのサイトをご覧いただければと思うが、鼻歌のごとき美しいメロディがシンプルに並べられた佳曲。初演は、阪口新氏であったそうだが、阪口氏の甘い音色を意識せずにとのことはあるまい。フランス産のサクソフォンのオリジナル作品などと比較すると、音の数はずっと少ないのだが、そのひとつひとつがとても洗練されているような感じも受ける。

そもそも、冨岡先生がこの時に独奏を務めることになった理由が気になるが、先生のソロ演奏がCDというメディアに記録されたことは、まずは幸いである。冨岡先生の演奏は、深いヴィブラートに柔和な音色、そしてよく繋がるレガートといったところが印象深い…やはりクランポン、って感じですな。中音域の輪郭が丸いこのタイプの音色って、どこかで聴いたことがあるんだがなあ、誰に似ているのかなあ。まあ、さすがに言葉で表すのは限界がありますので、この見事な演奏をぜひ聴いてみてください。あと、隅々までとても愛着をもって演奏しているな、ということがわかる。

「弦楽四重奏曲」も、なかなか面白かった。演奏は、Quartet Canoro。二つの作品の間には、40年近くの作曲時期の差があるが、根底に流れているポリシーみたいなものは、同じなのではないかなと感じた。でも、やっぱり1950年代の作品のほうが、若々しくて、溌剌としていて、聴いていて楽しいな。

※購入の際は以下の連絡先に注文してみてください(CDショップには出回っていない)。価格は2400円。電話注文だと、その日のうちか次の日には発送してくれると思います。

Email: ruah@music.nifty.jp
Tel: 042-391-8134
(櫟音/LEKINE くぬぎの会)

…そういえば、冨岡先生の日本音楽コンクールの、イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の録音(CDではなくて)があるという噂を聞いたことがあるのだが、もしどなたか情報お持ちでしたら教えてください。

シュール

今日は大学の卒業式。皆様、卒業おめでとうございます。で、変なメンバーで飲んで、今帰宅。楽しかったあ。ヨッパライーですヾ(゜∀゜)ノ明日は平日だというのに、起きれるのかしらん。

NHKの「みんなのうた」史上、もっともシュールだと言われる楽曲「哲学するマントヒヒ」の動画を貼り付けておきます。なんとなくです。


その他、みんなのうたで好きなのは、「まっくら森の歌」「秋唄(大江千里)」「メトロポリタン美術館」「月のワルツ」…あたりかなあ。

2008/03/24

木下直人さんから(デファイエQのEMI盤)

ちょっと追いつかないくらいですが(笑)少しずつ紹介を進めていきます。本日は、デファイエ四重奏団のEMI盤を2枚。デファイエQのEMI盤というと、数年前に「サクソフォーンの芸術」や「Le saxophone francais」として復刻されたことが思い出されるが、実は全部の音源が復刻されたというわけではないのである。まずは、原盤のプログラムをご覧頂きたい。

右のジャケット…「Quatuors de saxophones(C 069-14187)」
G.ピエルネ - 民謡風ロンドの主題による序奏と変奏
A.デザンクロ - 四重奏曲
J.リヴィエ - グラーヴェとプレスト
F.シュミット - 四重奏曲作品102

左のジャケット…「Quatuors de saxophones(C 069-16369)」
P.M.デュボワ - 四重奏曲
R.シャラン - Jacaserie
P.ヴェローヌ - 半音階ワルツ
P.ヴェローヌ - アンダルシアの騎士
R.クレリス - かくれんぼう
J.フランセ - 小四重奏曲
E.ゴージャック - 子供の夢
P.ヴェローヌ - イルカ
R.プラネル - バーレスク
F.デュクリュック - パヴァーヌ
R.ブートリー - 火花

というわけで、例えば「サクソフォーンの芸術」で復刻されたのは、C 069-14187のみ、また、「Le saxophone francais」で復刻されたのは、C 069-14187とC 069-16369の一部、ということになる。デファイエQのプラネルやクレリスなんて、誰しもが聴きたいはずであるのに、中途半端にしか復刻されていないのはちょっと残念である。

ジャケットは、両方とも輸入盤。C 069-14187のほうは国内発売もされたはずなのだが、敢えて輸入盤をお持ちとは、さすが木下さん!国内盤よりもずっと素敵なデザインで、ジャケットのカラーコピーを手にとって、思わずじっくり眺めてしまった。

ところで、C 069-14187…ピエルネ、デザンクロ、リヴィエ、シュミットが入った盤は、「サクソフォーンの芸術」として復刻されたCDを持っているが、今までの人生の中で、一番聴いた回数の多いディスクだ。高校のときに、アンコンでデザンクロをバリトンサックスとして取り組むことになり、このCDを購入。最初聴いたときは、「ええっ!?」と、驚くほど自由なアンサンブルにショックを受け、しまいこんでしまったのだが、いつからかひたすらこればかり聴いていた。第3楽章のアレグロ・エネルジコに突入する直前…ジャン・ルデューが他の3人を食って掛かるところを真似してみたり(笑)。とにかく、一番聴いたし、一番影響を受けた音源だった。

そして今回初めて聴いたC 069-16369だが、プラネルやクレリスも良かったのだが、デュクリュック「パヴァーヌ」や、ブートリーの「火花」の面白いこと!「火花」なんて、ジャン・ルデュー四重奏団の演奏で聴いたときはピンとこなかったのだが、この演奏で聴いてみると、何て素敵な小品なんだ、と考えを改めることになった。4人がバラバラに吹いているように聴こえて、要所要所でぴったりキメを作る、というのが、いかにもフレンチ・スクールという感じ。日本人が演奏しても、こうはいかないだろう。

復刻状態も、相変わらず素晴らしい(ありがとうございました)。盤起こしのはずなのに、まるでマスターテープのような音の鮮明さ。驚きだ。LPの溝が透けて見えるようなトランスファーの技術は、さすがだ。

TXな一日

つくば市の住民は、つくばエクスプレスのことを"TX"と呼びます。今日は、まさにそんな感じの一日。

昨年末のフェスで知り合ったMさん、福島のモアレで知り合ったゆうぽんさんらと一緒に行う予定の、四重奏「Ensemble TX(仮名)」の小さな演奏会に向けての初顔合わせ。お二人には、わざわざ音出しのためにつくばまでご足労頂いた。およそ二時間であったが、次から次へと初見をこなす。うーん、ぜんぜん吹けないけど楽しい。

練習後は、ちょこっと具体的な話をしながら、喫茶店で昼食。まだ仮決定の段階ではあるが、本番は8月頃@東京になるかもしれない。みなさまぜひお越しくださいませ。

そして、練習後はMさんと共に洗足学園音楽大学へ(TX→千代田線→半蔵門線→田園都市線)。そう、今日はサクソフォーン協会のコンクール。我々は今回はエントリーすらできなかったのだが(メンバーの都合がつかなかった)、昨年一緒のステージで演奏したお知り合いの皆さんが何人も出場されるとのことで、応援の意味も込めて聴いてきた。

相変わらずのレベルの高い演奏。というか、みなさん上手すぎて、もしかしたら今年はエントリーしたとしても、録音審査を通らなかったんじゃないかとも思えてくるほどだった。IBCさん、ベルカントさんはもちろんのこと、仙台サックスさんのグラズノフも大変印象に残りました。和音の響きの構築が見事。いやあ、勉強になりました。ちなみに一般の部、グランプリはベルカントさんでした。おめでとうございます!

終演後は、YWOサックスのmaeさんと初対面することができた。いくつか貴重な音源をお譲りいただいた(ありがとうございました)のだが、紹介できるものはまた紹介しようと思う。佐藤淳一さんにもお会いした。A.Petiotのことについてディスカッション…「Master of the Saxophone」の一部をきちんと翻訳しなくてはいけないな。

IBC、Duo Green Green、ベルカントの皆さん、ドルチェのK田さんと別れて、溝の口駅近くの飲み屋でモアレのみなさんと21時ころまで歓談。その後、Mさん、ゆうぽんさんと22時まで二次会(?)。たくさん、ご馳走になりました。22:07分の急行に飛び乗り、JRとTXを乗り継いで自分の部屋に戻ってきたのが0:00ちょうど。やっぱり東京の西側は遠いなあ。

そういえば、PASMOデビゥしました。これでちょっとは東京の複雑な乗り継ぎが楽になるかもしれない。

2008/03/22

デファイエの私家録音

ジェローム・ラランさんから送っていただいた(ありがとうございました!)。ラランさんの私家録音を送っていただいたお礼メールをしていた中で、ダニエル・デファイエ氏の話が出、お互いの所持するデファイエの音源をいくつかやりとりしたのだ。ラランさん曰く「I'm a fan of Deffayet sensei」とのこと。へえぇー。

内容は、各方面の方から頂戴して所持しているCrest盤の4曲、Erato盤のドビュッシー「ラプソディ」、Epic盤のイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」といったものの他に、聴いたことのないものでは以下のようなものが含まれていた。どれも大変状態が良い。

R.ブートリー「セレナーデ」
H.トマジ「バラード」
H.トマジ「サクソフォン協奏曲」
P.ボノー「ジャズのエスプリを伴う小品」
P.M.デュボワ「サクソフォン協奏曲」
A.ベルノー「デュオ・ソナタ」

各録音の出所であるが、例えばブートリーの「セレナーデ」などは、冒頭に女性の声による紹介が入るため、おそらく放送用のライヴ録音ではないかな、と思う。ベルノーの「デュオ・ソナタ」は、三楽章で終わっている…!ということは、1974年のボルドーで開催された世界サクソフォン・コングレスにおける初演、もしくはその直後のライヴ録音である可能性が高いということだ。1975年3月の、デファイエ四重奏団の来日公演では、すでに4楽章で演奏されているのだから…。

他も、一曲ごとに録音の状態が違うのだが、ライヴ録音ぽい雰囲気はしつつも、拍手がないっていなかったりと、まちまち。うーん、今度ラランさんに、これら録音の出所を聞いてみよう。

演奏だが、超高速なフレーズもなんのその、キラキラした音をあちこちに振りまきながら、快調にぶっ飛ばしてゆく、という感じ。そういえば、デファイエ氏のソロのライヴ録音て、あまり聴いたことなかったなあと思い返した。当時の空気を今に伝える、貴重な資料のひとつであると思う。

ベルノーも、すごいっす。ソプラノがデファイエ氏、バリトンを吹いているのはジャン・ルデュー氏なのだが、たった二つの絵の具で、こんな演奏ができることは驚異以外のなにものでもない。気がふれてしまったかのようなテンションと、聴き手を巻き込んでしまうようなオーラを、スピーカーの奥からひしひしと感じ取ることができた。

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そういえば、一緒に送ってもらったものの中に、録音媒体になっていないマルセル・ミュールの録音(ヴェローヌの「協奏曲」の全楽章!)があった。これまた、随分と貴重なものだな。日本にはおそらくないだろう…。

2008/03/21

いま気づいた

今日、3月21日はバッハの誕生日であり、そして今気づいたのだが、グラズノフの命日だ。つい昨日に、ブログでグラズノフについて取り上げたのは、偶然。

グラズノフが亡くなった時の部屋の様子を捉えた写真を見ると、仕事机の上には印刷会社から上がってきたばかりの「協奏曲」のスコアが慎ましやかに置かれている様子が、確認できるそうだ。印刷会社への発注は、1936年の2月10日。製本された楽譜が上がってきたときのグラズノフの喜びは、如何ほどのものであっただろうか!病気の苦痛に絶え続ける彼にとって、この曲のスコアを手にしたときは実に幸せな瞬間であったのだろう。皮肉にも、それはグラズノフの人生最後の喜びのひと時だった。

病魔に侵されながらも、最後の最後に「サクソフォン四重奏曲 op.109」「サクソフォン協奏曲」という傑作を遺してくれたアレクサンドル・グラズノフに、我々サクソフォニストはもっと感謝せねばならないのではないだろうか…。

サクソフォニスト、などと自らを名乗ることもおこがましい程度の私ではあるが…部屋でひとり、黙祷。

雲井雅人「サクソフォーン・リサイタル」

空があまりにも明るくて何かと思えば、月の輝かしいこと。ふと自転車をこぐ足をとめてみれば、浮雲に月光が降り注いで、実に美しい情景を織り出している…。

最近、各所(こちらこちら)で雲井雅人さんのデビューリサイタルの音源が話題に上っているが、聴いてみたいなあと思いつつ、とりあえずまずはデビューCDだろう!ということで、ヤフオクで探して落札してきた。1993年に録音・出版された「雲井雅人サクソフォーン・リサイタル(KING Record FIREBIRD KICC 99)」である。たまにオークションに出ると、定価を越える価格で取引されることもあるのだが、送料込みで2500円以内に収まったのは幸いであった。

プログラムは、以下。雲井さんがソプラノ、アルト、テナーサクソフォンを吹き分けている。ピアノは、服部真理子さんだ。

F.シュミット「伝説 作品66」
P.ヒンデミット「ソナタ」
P.ボノー「組曲」
H.ヴィラ=ロボス「ファンタジア」
V.ダンディ「コラール・ヴァリエ」
J.S.バッハ/雲井編「ソナタト短調 BWV1029」
G.マーラー/F.ヘムケ編「私はこの世に忘れられ」

決して、超高度なテクニックを要するような曲ではなく、息の長い旋律を持った作品も数多く選択されているところに、雲井さんのコダワリを感じる。音色は、たとえば最新の「Simple Songs(Cafua)」などと比較すると驚くほど違うが、根底にあるのは師であるフレデリック・ヘムケ氏の音なのかな、という感じを受ける。そういえば、ボノーなんて、ヘムケ氏もレコーディングしていたっけ。

そんな感じで聴き始めてみたのだが、シュミットやヒンデミットを進んで聴こうという気になったのは、実に久々であった。不思議と聴き手を惹きつける、そういう音楽が流れているのだ。ダンディの「コラール・ヴァリエ」なんて、その名の通りピアノを主体に展開するコラール変奏曲であるが、時折出現するサクソフォンの演奏も、実に良いのですよ。サクソフォンが中盤を過ぎた頃にようやく旋律を歌い始め、高潮ののちに服部真理子さんのピアノに受け渡される箇所…うおぉ、鳥肌がー!

こんな素敵な演奏は、静かな夜にこそふさわしい。一度聴き終えた後に、ちょっと明かりを落として、月の光だけを頼りにシュミットやダンディを聴き返してみたのでした。

聴く前から楽しみにしていた、バッハ「ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ第3番」は、テナーサクソフォンで演奏されると、ほとんど超絶技巧を求められる作品(息継ぎができない)となってしまうはずであるが、技術的な壁を軽々クリアして隅々まで良く歌われた演奏。ただし、演奏は軽くならないのが雲井さんらしい。自分でも演奏してみたいが、ちょっと難しすぎるかもなあ。

廃盤であるのは残念だが、ちょっと調べたところこの辺ではまだ手に入りそうだ。

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そういえば、雲井さんの録音つながりで、以前渡瀬英彦先生に頂戴した「ブランデンブルグ協奏曲第2番」の録音を掘り出してきた。一年以上聴いていなかったかもしれない。この録音、同曲のトランペットパートを、雲井雅人さんがソプラニーノ・サクソフォンに置き換えて吹いているのだが(ミュールの故事に倣っている)、これ以上何もいらないと思えるような…豪華絢爛な音楽が花開いている。

個人的には、「ドリーム・ネット(Cafua)」に収録されているものより好きだな。このブランデンブルグ、いろんな人に聴かれると良いと思うのだが、さすがに難しいのかしらん。

2008/03/20

ラッシャーのエッセイ(グラズノフ「協奏曲」)

シガード・ラッシャー Sigurd Rashcer氏が、グラズノフの「サクソフォン協奏曲」について書いたエッセイを翻訳してみた。委嘱者本人の口から語られる情報は、何にも増して説得力がある。エッセイの出典はイマイチ良く分からないのだが、1980年代に書かれたことはほぼ間違いない。

オリジナルの文章は、ここから参照できる。転載許可は取っていないので、まずかったら消します(といっても、この記事を書いたラッシャー氏も亡くなっているのだし、誰に許可を取れば良いというのだ?)。

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Alexandre Glazounov: Concerto pour Saxophone Alto avec l'orchestre de cordes
by Sigurd Manfred Rashcer

サクソフォンとオーケストラのために書かれた協奏曲は数あれど、アレクサンドル・グラズノフ Alexandre Glazounovの「協奏曲 Concerto」は重要な位置を占めていると言えるだろう。もっとも最初期に書かれた協奏曲の一つであると言うだけでなく、現在での演奏回数の多さも随一であり…プロフェッショナルなサクソフォン奏者を見渡せば、演奏経験がない者を探すほうが難しい。20世紀を代表する音楽家の一人であるグラズノフは、どのような経緯を経て、この協奏曲を作曲するに至ったのだろうか?きっかけは、1933年の出来事である。

1933年の晩秋(12月14日)、Societe Musicale Russeによるコンサートが、パリのTusse音楽院で開かれ、グラズノフ作曲の「サクソフォン四重奏曲作品109」が演奏された。ちょうどそのとき私はパリに滞在しており、その演奏を聴くことができた。それは素晴らしいものだった。今でも、4本のサクソフォンの均一なサウンドを思い出すことができるほどだ…あまりの興奮に、私は自分の手が真っ赤になるまで拍手をし続けた!長い長い喝采は、演奏者に対してはもちろんのこと、作曲者に対しても向けられたものであった。ホールには作曲者が臨席しており、背が高く、白髪を湛えたグラズノフは、客席からゆっくりと立ち上がった。彼は優しい笑顔を浮かべ、聴衆の拍手へと応えたのであった。生涯、数多くの喝采を受けてきたグラズノフといえど、あの晩の拍手は特別なものであっただろう。

興奮した勢いで、私は楽屋へと向かっていた。私はフランス語でこの興奮の様子を表し難く、かわりにグラズノフの手を取ってこう言った。「あなたのためにサクソフォンを演奏させてくれませんか?」

まるで父親のような声でグラズノフが答えて言うことには「おい君!私はかれこれ50年間近くも、サクソフォンについて知っているんだよ!」私はそれでも引き下がらずに嘆願し、ようやく訪問の約束を取り付けることができたのだった。

次の日の朝、私はBologna sur Seineに位置するグラズノフのアパルトマンを訪ねた。ためらいつつも階段を登り、呼び鈴を押すと…「おはようございます、ムシュー!どうぞお入りになって!」と、グラズノフのご令嬢が私を招き入れてくれた。音楽室へと通された私は早速楽器の準備を始め、グラズノフが音楽室に入ってくる頃にはもうサクソフォンを組み立て終わっていた。

「さあ、吹いてくれたまえ!」と、グラズノフ。私はここぞとばかりに、吹き始めた。小さい音、大きい音、低音から高音、速いパッセージ、カスケード…。

「素晴らしい!君は、どこから来たのかね?名前は?」グラズノフは多くの質問を私に投げかけ、私は時に言葉でなく、楽器で答えねばならないこともあった。私が協奏曲を書いてくれないか…ということをそれとなくほのめかすと、「ああ、君みたいなすばらしい音楽家のためならば、喜んで書こう」と、葉巻をくわえながら、私を笑顔で見て答えてくれたのであった。その後、数週間のうちに何度かグラズノフのもとに通い、サクソフォンのことに関してディスカッションを行った。

その後、私はデンマークのコペンハーゲンの住まいに戻り、しばらく過ごしていると、協奏曲のスケッチが完成したとの手紙が届いた。そして間もなく、独奏パートの楽譜が郵送されてきた。譜読みののち、私は再びグラズノフのもとを訪ね、彼の前で協奏曲のソロパートを演奏してみせ、いくつかの指示を頂戴した。指示は細かいところにまで及び、辛抱強くディスカッションが続いた。また、自作のカデンツァ(※1)を作曲して持っていったところ、グラズノフは何回か聴いた後に、演奏しても良いと言ってくれた。

この、ごくプライヴェートなリハーサルは、私にとってまさに忘れ難い経験であった。音楽に関して言われたことだけでなく、グラズノフの声、一つ一つの表情、音楽室に置かれていた家具までも、半世紀を経た今日にあっても、はっきりと思い出すことができる。

協奏曲の完成後、彼は私に、56ページに及ぶ自筆スコアを手渡してくれた。最初のページに書かれた献呈辞には、こう書かれていた。「A Mr Sigurd M. Rascher, 4 May 1934, Bologna s/S. Alexandre Glazounov」

こうして生まれたグラズノフ「協奏曲」の世界初演は、スウェーデンのNykopingに位置する聖ニコライ教会にてTord Benner指揮のもとに行われた。1934年11月26日のことである。そして次の日には、同じ指揮者のタクトの下、Norrkopingでの演奏が行われた。それから数年間にわたって、オスロ、コペンハーゲン、チューリッヒ、ストックホルム、ロンドン、メルボルン、オーストラリア、タスマニア、ミネアポリス、ケルン、ヒルヴェルサムなどで、50回以上に渡って再演を行った。

グラズノフの国際的名声にもかかわらず、しばらくの間、この「サクソフォン協奏曲」楽譜の出版はなされなかった。1934年の9月2日と11日にグラズノフが私に宛てた手紙によると、「残念なことに、まだ出版社を見つけることができていません」とのことであった。パリのAlphonse Leducが出版を決めたのは、だいぶ後になってからである。表紙には、このように記されていた。

A. Glazounov et A. Petiot - CONCERTO en Mi Bemol pour Saxophone Alto avec accompagnement de piano - Alphonse Leduc

そして、このような注釈が付与されていた:Existe egalement pour Saxophone-alto et Orchestre a cordes

これは、逆が正しい。本来オーケストラとサクソフォンのために書かれたものであるから、正しいタイトルは「Concerto for Saxophone Alto avec l'Orchestre de Cordes」のはずである。これは、自筆スコアの表紙にも書かれていたことだ。そして、注釈として「Existe egalement pour Saxophone-Alto et piano」とされるべきである。A. Petiotが書いた原稿は、グラズノフの意図からは外れているものである。後の版には、A. Petiotの名前は見られない。

しかし、これだけは明確である。初版の浄書前に、ソロパートが変更されてしまっていたのだ。練習番号[24]の前3小節間には、8分休符など無かった。そこまでの小節と同じように、オクターヴの8分音符が書かれていたはずである(※2)。それに、最終部の8va.指示に、ad libの但し書きなどされていなかったはずだ。

グラズノフが話してくれたことには、ある日グラズノフのもとを、パリの一流のサクソフォン奏者が訪れ、私がグラズノフの前で吹いて見せた高音域のことについて話が及ぶと、「我々はそのような高音を出すことはできない。我々はフレンチ・スクールのスタイルを学んでいるのだから」と言ったという。

また、他所で出版されたものに関しても修正が必要なものがある。1974年の6月3日から6日にかけて、ボルドーにおいて行われた世界サクソフォンコングレスのパンフレットには、こんな解説が記されていた:アレクサンドル・グラズノフは、楽譜の出版によってサクソフォンをプロモーションしたいと考えていたAlphonse Leduc氏(サクソフォン奏者)のために「協奏曲作品109」を作曲しました。

これは事実に一致するか?

上に挙げたほとんどのことは、将来的に、音楽学者の興味の対象となるものである。我々演奏家にとっては、「協奏曲」そのものが興味の対象であるため、タイトルや解説といったものはちょっとした注釈に過ぎない。

本協奏曲は、単一楽章で書かれてはいるが、はっきりと「Allegro moderato」「Tranquillo」「Allegro」の3つの部分に分かれている。熟達の域に達した、折り紙つきの主題の展開法は、めくるめく楽曲自身を変身させ続けていくのである。サクソフォンによる抒情的な表現は、この後期ロマン派の作品の中に、最大限に表出する。この作品は、我々にとっての最も基本的なレパートリーと言えるのだ。

我々サクソフォニストは、アレクサンドル・グラズノフに、深く感謝しなければならない。

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「※1 自作のカデンツァ」「※2 練習番号[24]の直前」のそれぞれに関して、ラッシャーのグラズノフ演奏とミュールのグラズノフ演奏を聴き比べるためのページを作成しましたので、ぜひご覧ください。

ところで、最終部の2つのセンテンス、"The lyric expressivity of the saxophone comes forth in this late-romantic work to best advantage. It belongs to our basic literature."…に関して、どうも上手い訳を見つけることができませんでした。どなたかご教示いただければ幸いです(→追記:kimmyさんに、良い訳を教えていただきました。ありがとうございました!)。その他、翻訳のミスなどありましたらご指摘ください。

J.C.Umble「Jean-Marie Londeix: Master of the Modern Saxophone」

前々から欲しいと思っていた書籍を買ってしまった。送料込みで6000円くらいに収まったのは、円高の功である。James C. Umble著「Jean-Marie Londeix: Master of the Modern Saxophone」。言わずと知れたサクソフォン史上最も重要なサクソフォニストの一人、ジャン=マリー・ロンデックスの650ページ以上に及ぶ評伝(英語・フランス語)。なかなか面白い本ですので、皆様もぜひ円高の機会にお求めください。

この本に関しては、すでにThunderさんによる詳しい解説があるのだが(Thunderさん的経験を絡めた考察が、大変面白い)、じゃあ私はこの本について何を書こうか、と言ったところで、本からいくつかデータを面白い拾い出してみようかと思う。

たとえば、ロンデックスの日本人弟子は…と調べてみると(敬称略):
ハシヅメヤスオ、市川豊、木村義満、宗貞啓二、野田燎、齋藤貴志、佐々木雄二、下地啓二、田畑真美、上田啓二、上田卓、以上10名。昨日大石将紀氏のリサイタルで上田卓さんと話したときも、ちょっとだけ話題に上った。意外といらっしゃるのですね。

ロンデックス氏が考える、Recommended Worksのリストをアルトサックス作品に限って挙げてみましょう:

A.Caplet - Legende
C.Debussy - Rapsodie
F.Schmitt - Legende
A.Glazounov - Concerto
J.Ibert - Concertino da camera
B.Heiden - Sonata
D.Milhaud - Scaramouche
F.Martin - Ballade
P.Hindemith - Sonata
P.Creston - Sonata
C.Koechlin - Etudes
H.Tomasi - Concerto
M.Constant - Musique de concert
A.Desenclos - Prelude, cadence et finale
J.Charpentier - Gavambodi2
J.Rueff - Sonate
E.Denisov - Sonate
K.Stockhausen - In Freundschaft
M.Constant - Concertante
F.Rosse - Le frene egare
I.Nodaira - Arabesque III
L.Berio - Sequenza IXb
C.Ballif - Solfegitto 8
J.Wildberger - Portrait
C.Lauba - Sud
M.H.Fournier 5 Muses
C.Lauba - Steady Study on the Boogie

リストの最後のほうが良く分からない…聴いたことのない作品ばかりだ。ちなみに、他のセクションで「Points d'or」も挙げられており、やはりと言うか何と言いますか、ロンデックスコンクールの課題曲と通じるものが多く散見される。

最後に、私が所有するサクソフォン関連の書籍の厚さ比べをしてみた。おお、この本が(B5サイズとは言え)一番厚いぞっ。とは言え、半分はフランス語であり、読めないのだが。

2008/03/19

100th B→C(サクソフォン:大石将紀)

年度末に最も楽しみにしていた演奏会の一つ。期待以上の素晴らしい演奏を、存分に堪能した。大石将紀さんは、昨年の6月まで、パリ国立高等音楽院の第3課程で学んでいたサクソフォニスト。卒業後もしばらくフランスにとどまり、この3月から帰国されたとのこと。今回のB→Cリサイタルが、日本デビュー(?)第一弾リサイタルということになる。

…同時代のサクソフォンの地平線を、見事に描き出していた。この場に立ち会うことができて、本当に良かった!

【B→C ビートゥシー:バッハからコンテンポラリーへ】
出演:大石将紀(sax)、フランソワ・ミッシェル(gt)、望月友美(mez-sop)他
2008/3/18(火)19:00~
東京オペラシティ・リサイタルホール
全席自由3000円
プログラム:
・馬場法子「エチュード~ビスビリャンドのための」
・B.ヴィバンコス「ムスティックス・エチュード~指の超絶技巧と循環呼吸によるエチュード」
・鈴木純明「スラップスティック」
・S.ローロフ「リット・リズム」
(以上、「サクソフォンのための現代奏法エチュード」から)
・酒井健治「Reflecting space II - from Bach to Cage(日本初演)」
・J.t.フェルドハウス「Grab It!」
~休憩~
・J.S.バッハ「ソナタBWV1034~サクソフォンとギターによる」
・P.ルルー「緑なすところ - ジェラール・グリゼイへのオマージュ」
・野平一郎「舵手の書」
・藤倉大「SAKANA(委嘱作品・世界初演)」
~アンコール~
・H.ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ第5番より"アリア"」

これだけの作品が並んで、日本初演と世界初演が一つずつっていうあたりに、時代の移り変わりを感じた(と言っても、現代奏法エチュードは大石さん自身が昨年に日本初演され、ルルー&野平作品作品は、昨年の7月にジェローム・ラランさんが日本初演されたばかりなのだが)。こういった作品たちを、日本で多く聴くことができるようになったことを、大変嬉しく思う。そういえば、パンフレットの曲目解説が面白かったなあ。音楽学者の、有田栄氏の手によるものだったのだが、こんな人を惹き付けるような文章、自分でも書いてみたいものだ。

さて、演奏会である。今日はドルチェ楽器への訪問の後に、オペラシティがある初台までスタスタと歩いてみた。一駅分だからすぐ到着するだろうと楽観していたら、意外と遠くて、もうゼッタイ歩くまいと誓ったのであった。また、オペラシティへと到着した後は、リサイタルホールの場所が分からず四苦八苦(最初向かってしまったコンサートホールでは、BBCフィルが来日公演中)。小走りしながらなんとか到着したのは、開場の18:30ぴったり。すでに入り口には長い列ができていた。

リサイタルホールは初めて入ったが、高い天井&低いひな壇、奏者と聴衆の距離はとても近い。開演時間が迫るにつれてぞろぞろと集まってくる客層は、関係者と思しき人が多く、異様な光景であった。見渡せば、平野さん、須川さん、原博巳さん、ふと気づけば横の席にはフェスティバル以来となる上田卓さんが!かと思えば、大石さんの親戚かとも思えるおじさん、おばさん世代の方が客層の20~30%を占める。

最初の「現代奏法エチュード」は、アルト、ソプラノ、バリトン、テナーの作品を、まるで4楽章構成の組曲のように聴かせてくれた。この作品集、これから日本でも流行りそうだなあ。アルト、ソプラノの完璧なコントロールと安定した技巧(フェスティバルでも感じたことだ)、かと思えば、バリトン作品での強烈なオープン・スラップや、テナー作品での足を踏み鳴らすようなエフェクトでは losing his temper という感じのテンション。凄い。

酒井氏の「リフレクティング・スペース II」は、サクソフォンとライヴ・エレクトロニクスがオン・タイムで互いに絡み合い、様々な音のテクスチュアを編んでいく。CAGEの音列は追えたのだがなあ、なぜか良く知っているBACHの音列を追えなかった…。「波と記憶の狭間に」よりは、比較的おとなしいイメージを受けたが(フェスで聴いた同作品は、ギッチギチに音が敷き詰められた感じを受けた)、実際はどうだったのだろうか。酒井氏の両作品は、録音媒体で聴いても面白そうだ。

フェルドハウスの「Grab It! グラブ・イット!」は、ブログを読まれている方にはお馴染みですね。テナーサクソフォンとテープのために書かれた、最も優れた作品の一つだと思う。聴きながら、その解釈いただき!という箇所がたくさん。この曲が休憩前だったのだが、客席がかなり沸いていた。

休憩を挟んで、バッハからスタート。フランソワ・ミッシェルさんは、今回の演奏会のためだけに来日されたのだろうか。ソプラノサクソフォンとギターの調べは、こんな高天井のコンサートホールに良く似合う。同時代の音楽作品の連続の中に組み込まれても全く違和感のないバッハ。あらゆる西洋音楽の始原なのだなあと、改めて感じることができた。

続いて、メゾ・ソプラノの望月友美さんが登場し、フィリップ・ルルー「緑なすところ」、野平一郎「舵手の書」を連続で…。どちらの作品も、一度聴いたことがあるため驚きはしないが、それでも演奏の鮮烈さに鳥肌が立ちっぱなし。特に、「舵手の書」では、サクソフォン(サブトーンとノーマルトーンの切り替えが面白かった)と望月さんのこの上なく官能的な声が絡んだ結果生み出されるサウンドの、あまりの恐ろしさ。曲が鳴っている間、全く動けなくなってしまった。少しでも動けば、ステージから襲い掛かる音に、精神が切り裂かれそうだった。

「人間の死の充満せる
   花籠は
 どうしてこれほど
     軽い容器なのか?(吉岡実:舵手の書)」
のひとふしが、今でも耳にこびりついたまま、どうしても離れていかない。

最後に演奏された藤倉大氏が作曲した「SAKANA」は、無伴奏テナーサクソフォンのための作品。微分音と重音を多用しながら、ごく小さい音量でもって、複雑なミニアチュアの工芸細工を組み立てていくようなイメージ。さすがに一度聴いただけだと理解しづらいので、もう一度機会があれば聴いてみたい。原博巳さんのブログ記事を読んではたと気づく。そうか、タイトルの「SAKANA」とは、大石さん自身のどんな難パッセージにおいてもしなやかに演奏をこなす姿にこそインスピレーションを受け、名付けられたのかもしれない。さかな、魚、サカナ、SAKANAか…。

アンコールに、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハより"アリア"」。さわやかな風を残し、大きな拍手に包まれて終演。

…というわけで、素晴らしいコンサートでした。次代のサクソフォン界を担う一人である大石将紀氏、これからの活動にも期待したいものです。今度は、CNSMDPでも学んだという即興を中心にしたプログラムも、ぜひ聴いてみたい(アンコールが「On Site Labo」と同じく即興演奏じゃないかなあと、密かに期待していたのです(笑))。

2008/03/18

The Legendary Saxophonists Collection

中央アメリカのホンジュラス共和国に、アンディ・ジャクソン Andy Jackson氏という、クラシック・サクソフォンの研究家がいる。主に、サクソフォンの歴史をターゲットにして、すでに30年以上に渡って音源・楽譜・楽器・写真等の資料を収集し続けており、そのコレクションは3000点に及ぶそうだ。最近では、イェール大学に講師として招かれ、サクソフォンの歴史について特別講義を行ったとか。

そのジャクソン氏、現在までに収集した録音と映像を、CD-RやDVD-Rにして、格安で一般向けに販売しており、もちろん日本からも注文することができる。今までは英語のカタログしかなかったのだが、ジャクソン氏との共同作業により、日本語の音源/映像紹介ページを作成することができた。数ヶ月前から準備は続けていたのだが、ようやく公開することができる!

The Legendary Saxophonists Collection 紹介ページ日本語版

まあ、そもそもなぜ日本語版のページを作ろうということに至ったかというと:たまたまジャクソン氏のページを発見→ミュールやラッシャーの音源を注文→ありがとうございます~、このサイトのこと、日本に紹介して良いですか?→もちろん良いよ~→作ってみると意外と大変(汗)…という流れ。まあ、ヴィードーフの録音をいち早く送ってもらえるなど、嬉しいこともあった。

内容は、ミュール、ラッシャーといった、20世紀のサクソフォン界を支えた奏者の録音から、19世紀に活躍した奏者の録音まで、貴重なものばかりである。特に、おそらくこれが初出となるミュールの音源の凄いこと!シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団との共演による、1958年アメリカツアー時のライヴ録音、そして、インディアナ州のセルマー工場におけるコンサートのライヴ録音。こんなものが、21世紀に残っているなんて、誰が想像できただろうか。演奏も実に素晴らしく、愛聴盤です。

そして、個人的にオススメのラッシャー関連の録音。ラッシャー自身の演奏による、イベール、グラズノフ、マルタン、ラーション。そして、貴重なダールの初演ライヴ録音。ラッシャー自身の演奏映像などもDVDに収められており、興味深く拝見した。

そもそもの録音状態がひどかったり、リマスタリング状態が良くなかったりと、コンディションとしてはイマイチな録音もあるが、スピーカーから響いてくる音楽は、そういった制約を越え、耳を惹きつけるものばかりだ…。皆様も、興味があるものを見つけたら、ぜひ買ってみてくださいませ(円高ですし笑)。今後、ブログの記事で、特に注目すべきものについてポツポツと取り上げていこうと思っている。

ちなみに、Andy Jacksonはペンネームだそうで。本名のイニシャルは、B.K.です。同一人物ですので、お間違い無きよう…。

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※音楽大学でサクソフォンを教えられている方、学ばれている方へ。ミュール、ラッシャーといった歴史上重要な奏者の演奏を21世紀に伝える、貴重な記録だと思います。ぜひ、(リンク先のページにも書きましたが)共同のリファレンスとして、サクソフォン科での共同購入や、図書館でのリクエスト購入をオススメします。

2008/03/17

中沢けい「楽隊のうさぎ」

中沢けい著「楽隊のうさぎ(新潮文庫)」。普段あまり本を読まないのだが、いざ読み始めるとペースがものすごく早い(と手前味噌ながら思う)。読み終わるまでおおよそ3~4時間程度だったか。小説って、長距離移動の際にはもってこいです。

内容は、吹奏楽。花の木中学吹奏楽部という架空のバンドを舞台に、"克久"という名前の男の子の内面と外面、そして彼を取り巻く環境を描き出す、といった風。花の木中学の吹奏楽部は、全国大会の常連校とも言える強豪なのだが、「吹奏楽」「全国大会」という言葉から連想される"熱い青春"といったトゲトゲしい描写は、あまりない。彼が入部するところから、2年生のコンクールを終えるまでが、丹念に描写されている。

淡々と描写は進み、ところどころに仕掛けられた事件も、解決は比較的早い。誰かが交通事故にあって亡くなったり(LxIx○xE)、コンクールの申し込みをし忘れたり(○○ィング○ールズ)、マングースの着ぐるみをかぶって演奏会をしたり(の○め)、音楽を聴くことでセクシーになったり(○○○○バンバン)、そういった派手なエフェクトは、意図的に避けられているような気がする。こういった内容であると、ある種の期待を持って本を購入した読者は肩透かしをくらったりもするかもしれない。

この比較的フラットな日常は、我々のような中学で吹奏楽を経験してきた者に対して、とんでもないリアルさを描き出す。主人公の克久は打楽器奏者なのだが、「メトロノームを前にして、同期の女の子と並んで、ひたすらに机をスティックで叩いている」なんていう描写は、経験していない吹奏楽経験者のほうが珍しいだろう。私自身の中学~高校時代は吹奏楽部は弱小だった、そして、この本の中の吹奏楽部は強豪である…そんな違いを気にする暇もなく、むしろ共通点のほうが多く、ただただ、どこまでも現実感のある描写に関心しきりだった。

主人公の内面の一部を、"うさぎ"というキャラクターでもって表現していることが、面白かった。ここでのうさぎは、思春期独特の、自分ではどうにも捕獲できない心の一部と捉えれば良いのだろうか(違うかもしれない)。そうか、あれはうさぎだったのか…などと自分の過去を思い返してみると、そんな表現がぴったりとも当てはまるかもしれない。

ドラマティックな描写を求めるならば、野庭高校のドキュメンタリーでも読めばよい。決して明るい物語ではないけれど、あれはあれで読んでいて面白いです。「事実は小説より奇なり」は、この場合、使い方を間違っているが、なんとなく適用できる気がしなくもない。

あ、音の描写がなかなか面白いです。音楽に関係したメディアであるくせに音が出ないところが、小説の弱点ではあるのだが、「ほお、そう来ますか」という見事な表現である。だから、克久が2年生のときのコンクールの自由曲として標題音楽を選択したのは、無意識にということではないのだと思う。1年目の自由曲よりも、2年目の自由曲のほうが、ずっと演奏時の描写が多いのだ(何の曲であるかは、実際に読んでみて下さい)。

中沢けいさんは、もう一冊、吹奏楽に関する続編小説として「うさぎとトランペット」なる本を書いているようだ。興味が出たので、買ってみようかと思っている。あ、あと吹奏楽関連と言ったら、いしいしんじ著「麦ふみクーツェ」かな。こちらも、いつか買って読んでみよう。

2008/03/15

デファイエQの放送録音

静岡在住のアマチュアのサクソフォン吹き、Aさんから頂戴した、デファイエ四重奏団の放送用録音についてご紹介したい。1975年の3月から4月にかけて、デファイエ四重奏団のメンバー全員が来日し、リサイタル(デファイエソロ、四重奏)、クリニック、レクチャーコンサート、放送テープへの吹き込み等を行った。まずご紹介するのは、1975年4月2日にNHKのスタジオにて「NHK-FMリサイタル」として収録された録音である。放送は、同年5月5日 22:40~。

Daniel Deffayet ダニエル・デファイエ, saxo soprano
Henri Rene Pollin アンリ=ルネ・ポラン, saxo alto
Jacques Terry ジャック・テリー, saxo tenor
Jean Ledieu ジャン・ルデュー, saxo baryton
曲目:
J.Rivier - Grave et Presto
D.Scarlatti - Trois pieces
W.A.Mozart - Aver Verum Corps
L.Boccherini - Menuet
I.Albeniz - Sevilla
P.Vellones - Valse chromatique
R.Clerisse - Cache Cache

これを送っていただいた直後に、木下直人さんからも同じ音源を頂戴した。木下さんから頂いたものには、「Dream Music SR-70642」の表記があるのだが、もしや出版されていたのだろうか(今度、出どころを訊いてみなければ)。演奏は、ライヴ録音そのまま…ということなのだろうか。

たとえば「3つの小品」なんて、名演とされるCBSソニー盤よりも勢いがあって、個人的にはこちらのほうがお気に入りだ。もちろん、第3楽章でのミスもない。CBSソニー盤を聴いたことがある方はお気づきだろうが、本来AABBと演奏されるところ、CBSソニーのLPではなぜかABBBになっているのだ。編集のミスのためだという話を、どこかで聞いたことがある。

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もうひとつ。今度は1978年の来日時に、やはりNHKのスタジオで吹き込みを行った録音。放送自体は1979年のようであるが。番組は「NHK-FMクラシックアワー」。あ、解説の女の人の声が同じだ。

曲目:
F.Schmitt - Quatuor op.102
E.Lejet - Quatuor en cinq mouvements (Musique pour quatuor)
J.Francaix - Petit quatuor

シュミット、フランセは、LPへの吹き込みも行っているためお馴染みであるが、エディット・ルジェ Edith Lejetという作曲家の名前は初めて聞いた。調べてみたところ、1941年生まれ、リヴィエ、ミヨー、ジョリヴェに師事したフランスの作曲家で、サクソフォンの作品も数多く手がけているようだ。収録されている「四重奏曲」は1973年から1974年にかけて作曲され、デファイエ四重奏団に献呈されているが、そのほか多くのサクソフォニストのために作品を書いたとのころ(1986年には、ドゥラングル氏のために2つの作品を書いている)。

ところで、「エディット」という発音を聞いて、プーランクの「エディット・ピアフ賛」を思い出せず、スペルの調べが直ぐにつかなかったのが悔やまれる。Gee氏の著作の中で、たまたま名前を発見しなかったら、作曲家の正体がわからず終いだったかもしれない。

それはさておき、このルジェ作品、なかなかすごい演奏だ。Aさんも自身の日記の中で書いていらっしゃったが、ルジェの作品の中でデファイエ四重奏団がスラップタンギング(!)を使用しているのを聴き取ることができる。さらに終楽章ではフラジオも当てまくり、微分音も使用(たぶん)。驚異的な集中力に圧倒される。

シュミットは、第1楽章こそ乗り切れていない感じがするが、終楽章に向けて集中力が鰻上り。最後はスタイリッシュに決まります、さすが。ルジェの作品はワケの分からない曲ではなく、不思議と聴きやすいのは、フランスの作品だから?少なくとも、超個人的な感覚としてはティスネよりは面白いと思うのだが。フランセもとても楽しそうで、聴いているこちらがウキウキしてくる。

1975年、1979年の録音だなんて、日本中を探してもあまり残っていないだろうなあ。貴重な音源をお譲りいただき、ありがとうございました。

2008/03/14

トリガ

笹森氏、それからC.R.ヤングとP.コーエンの各氏に資料の転載許可を得た!よっしゃー、後は書くだけだ!ヤング氏とコーエン氏への連絡はメールだったけれど、笹森氏には電話をいたしました。久々に、大変緊張した。

何を書こうとしているかは、しばらく秘密。出来上がりをお楽しみに。

2008/03/13

ロシア周辺のサクソフォン on YouTube

2006年にディナンで行われた第4回アドルフ・サックス国際コンクールの覇者、セルゲイ・コレゾフ Sergey Kolesov氏の演奏動画。曲は、ハチャトゥリアン/シャポシュニコワ編の「剣の舞」…のはずなのだが、笑ってしまうくらい強烈な編曲&演奏である。グロウ&フラッターしまくりーの、重音使いまくりーの、フラジオ出しまくりーの、スラップタンギングしまくりーの。ディナンのコンクールの本選課題曲「Kotekan」の、強烈な演奏を思い出した。



そんなわけで、ロシアのサクソフォンなのだが、ロシア語でサクソフォンは"саксофон"と書くらしい。YouTubeにこのキーワードで検索をかけたところ、いくつか面白い動画が出てきた。

Andrei Eshpaiのソプラノ・サクソフォーン協奏曲からの抜粋。演奏は、Anna Stepanovaさん(何かの国際音楽コンクールの覇者らしい)。これまた並々ならぬ表現力の演奏であるが、演奏よりも、指揮者の不思議な動きや、アンナさんのセクシーな赤いドレスに目がいってしまうのですが。



さて、このアンナさんだが、ジャズとクラシックの両刀使いであるばかりか、歌も踊りもやってしまうらしい。

・まあ、チャルダッシュくらいならまだクラシックと言えるかな。


・ジャズを吹いていると思ったら、トークも溌剌とこなし、サックス吹いて、歌って踊ってしまっております。凄い。


・歌って踊って…すでにサックスメインではない。


…っと、方向性が良く分からなくなってきた。最後に、2007年にラトヴィアで行われたジュニアサクソフォーンコンクールのニュース映像を。内容としてはそれほど面白くないのだが、観ていてびっくり…審査員の顔ぶれに、明らかにジャン=ピエール・バラグリオリ Jean Pierre Baraglioli氏っぽい人がいる!



うーん、ロシアのサクソフォン、もっといろいろ観てみたいですな。

Graham Fitkin作品集

本業の研究と就活のエントリーシート書きに忙殺され、アリオンQのリサイタル行けなかったよー(T_T)ティエリー・エスケッシュ「ル・バル」の実演を聴き逃すとは、何たる不覚。この調子だと、大和田門下発表会聴きに行くのも無理かもしれない…ご盛会をお祈りします(私信)。

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グラハム・フィトキン Graham Fitkin氏は、ポスト・ミニマル(ミニマル・ミュージックと比較して、音響素材やリズムの点に関して拡張を行った音楽の総称)の流派に属する作曲家としては、イギリスで最も注目されている作曲家・ピアニストの一人である。複数台のピアノのための作品や、キーボードのための作品などが作品の中心ではあるが、サクソフォンのために手がけた作品も多い。

ブログをご覧の皆様も、比較的音源の入手が容易な「ハードな妖精 Hard Fairy(ssax, 2pf)」「ゲート Gate(ssax, pf)」「スタブ Stub(4sax)」の三つの作品をぜひ聴いてみていただきたい。おそらく、どの作品も日本初演はなされていないが、聴けば一発で虜になること間違いなし!だと思う。そんなわけで、私も以前から彼のサクソフォンの作品を注目しているのだ。

さて、そんなフィトキン氏であるが、Deccaから発売されているThe British Music Collectionというイギリスの作曲家の作品シリーズ(各CD2枚組)にて、若いながらもしっかり取り上げられているのだ。ホルストやウォルトンと言った作曲家たちと並んでカタログに載っているわけで、イギリスを代表する作曲家としての地位を、確立しつつあることが見て取れる。

そのCDを最近amazonのマーケットプレイスで発見し、送料込1900円と安かったこともあって、つい購入してしまったのである。「The British Music Collection - Graham Fitkin(Decca 473 434-2)」というCDで、内容は以下。すべてフィトキンの作によるものである。

Log, Line, Loud: 6 pianos
Hook: 4 marimbas and drums
Mesh: for Icebreaker
Stub: sax quartet
Cud: for John Harle Band
Aract, Fract: 2 pianos
Hard Fairy: S.Sax & 2 pianos
Fervent, Blue: piano solo
Piano Pieces (91, very early 92, early 92, mid 92, late 92, very late 92, 93): piano solo

環境音楽かヒーリング・ミュージックかと思えるようなものも面白く聴けるのだが、時々出現するエッジの効いた作品群のインパクトが、実に強い。すでによく知っているサクソフォンソロ、またはサクソフォン四重奏のための作品演奏は、例えば「Hard Fairy」はソプラノサックスがジョン・ハール、ピアノがジョン・レネハンとグラハム・フィトキン、「Stub」はデルタ・サクソフォン四重奏団という超豪華メンバー。素晴らしくないはずがない。

また、大編成のバンドのための作品の面白さにも、耳を奪われた。ジョン・ハールバンドのために書かれた「Cud」は、まるでナイマン・バンドのような分厚いベースとストリングス、そして鋭い管楽器の響きによって、冒頭から一気にトリップ。14分という時間を感じさせず、面白く聴くことができた。Icebreakerのために書かれた「Mesh」もおもしろいなあ。音色から判断するに、ジャズの人たち?

全体を聴きとおしてみて、サウンドはマイケル・ナイマンに似ているが、すっきりと見通しの良い和声構造や、尺の短いメロディといったところに、フィトキンのオリジナリティを感じ取ることができる。そんなわけで、大変面白いCDなのでありました。かなりの傑作とされる、2台ピアノとオーケストラのための協奏曲「Circuit」や、サクソフォン四重奏とオーケストラのための「Plan B」も聴いてみたいな。

2008/03/12

木下直人さんから(ギャルド関連その2)

ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の来日公演は、1961年の初来日以降は、1984年、1987年と続く。それぞれの年における、これまた貴重なものを頂戴したので、ご紹介したいと思う。今回は、1987年から順番に遡っていきましょう。

1987年の来日公演における、Cプロの録音(1987/11/19)。指揮は、ロジェ・ブートリー氏。
A.シェーンベルク - 主題と変奏
A.ドヴォルザーク - スラヴ舞曲より
R.ブートリー - アルテルナンス
M.ムソルグスキー - 展覧会の絵
~アンコール~
「カルメン」前奏曲、熊蜂の飛行、「アルルの女」よりファランドール、?、主よ人の望みの喜びよ、「フランス組曲」よりプロヴァンス

シェーンベルクの「主題と変奏」に「アルテルナンス」とは、Coreliaから出ている某CDを思い起こさせますな。「アルテルナンス」は、ライヴ録音ならではのテンションの高い演奏&複雑な曲構成で、なかなか面白い。「展覧会の絵」の「古城」における見事なサクソフォン独奏は、この時トップを務めていたアンドレ・ブーン氏だろうか。アンコールが6曲!!すごい。最後のフランス組曲は、爆速。

1984年来日時の、NHKホールにおけるライヴ映像(1984年9月30日)!なんと、衛星Bモードの生放送を録画したものであること。
J.S.バッハ - トッカータとフーガニ短調
G.ビゼー - 組曲「アルルの女」より
C.ドビュッシー - 「夜想曲」より"祭"
J.B.リュリ - 国王づき近衛騎兵行進曲
P.I.チャイコフスキー - 幻想序曲「ロミオとジュリエット」
R.ブートリー - ディヴェルティメント
R.シュトラウス - 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
~アンコール~
「カルメン」前奏曲、熊蜂の飛行、ダッタン人の踊り、「アルルの女」よりファランドール、?、主よ人の望みの喜びよ、

20年以上前の映像ということで、どのくらいの画質か観るまで想像がつかなかったのだが、驚きの高画質&高音質。池田裕子アナウンサー、ゲストに吉田雅夫氏を迎えての番組構成。(生放送なので)休憩時間中には、観客へのインタビューが入るなどして、面白い。ブートリー氏の指揮姿から、各団員の顔までじっくりと観ることができる。観客の熱狂っぷりも、凄い。

「トッカータとフーガ」の後に叫ばれる「良かったよー(良かったぞー)」というのが、いわゆる日本語版ブラボーか。なるほど。アンドレ・ブーン御大の、吹奏楽をバックにしたブートリー「ディヴェルティメント」のサクソフォン・ソロ演奏姿は、貴重なことこの上ない。

そして最後に、1961年来日時におけるモノクロの映像!ギャルドのこの時期の映像は、世界を探しても残されていないそうだ。す、凄すぎる…。映像の詳しい解説は、こちらのリンク先ページの第79話を参照していただきたい。残念ながら音は入っておらず、しかも時間にしてわずか1分少々なのだが、例えばサクソフォンセクションなど、かなりしっかり映っており、感激!!

この映像がどれほど貴重なものかということは、なかなか言葉では表せないほどなのであるが、そうだなあ…「日本の吹奏楽界の歴史上、最も重要な資料の一つである」ことには、間違いがない。

2008/03/11

サン=サーンスの「バソン・ソナタ」楽譜

原博巳さんのご厚意で、サン=サーンス「バソン・ソナタ」ソロパートのテナーサクソフォンへのトランスクリプション楽譜を頂戴した。これは嬉しい~(ありがとうございました)。Calliopeから復刻されたモーリス・アラール氏の演奏が大好きで、何度も聴いた作品だ。明日にでも、早速音を出してみよう!

改めて、CDを引っ張り出して聴いてみると…これは凄いや。第2楽章の吹き飛ばしっぷりといったらどうだろう!アラール氏の初見能力の凄さは伝説的だが、まるでその場で曲を生み出しているような瑞々しさを感じ取ることができる。こういった演奏、どこかで聴いたことがあると思ったら、ミュールのイベールのスタイリッシュな演奏に通じるものがあるような、ないような。オーケストラとぎりぎりのセッションを繰り広げているかのような即興的解釈。"直ちに音楽を発見する"って、こういう演奏に当てはめられる言葉なのかもしれない。

アラール氏の音色はまるでテナーサクソフォンかと思うような場所すらある。この曲のサックスとの相性は、かなり良いのかも知れない。ところで、編曲されたということは、原さんはどこかで演奏される予定があるのだろうか。聴ける機会を、楽しみに待ちたい。

音大生によるサクソフォーン四重奏の夕べ2008

【音大生によるサクソフォーン四重奏の夕べ】
2008年3月10日 16:30開演
川崎市高津市民館ノクティホール
入場無料
プログラム:
P.ランティエ「アンダンテとスケルツェット(常葉学園短期大学)」
A.スティラー「チェンバーシンフォニーより2,4(愛知県立芸術大学)」
A.デザンクロ「四重奏曲(武蔵野音楽大学)」
E.ボザ「アンダンテとスケルツォ(静岡大学教育学部)」
A.デザンクロ「四重奏曲(桐朋芸術短期大学)」
A.ドヴォルザーク「弦楽四重奏曲第12番"アメリカ"より1,4(洗足学園音楽大学)」
C.パスカル「四重奏曲(名古屋音楽大学)」
A.デザンクロ「四重奏曲(東京ミュージック&メディアアーツ尚美)」
G.フォーレ「ピアノ連弾のための組曲"ドリー"より(国立音楽大学)」
A.デザンクロ「四重奏曲(尚美学園大学)」
A.グラズノフ「四重奏曲より(桐朋学園大学)」
J.リヴィエ「グラーヴェとプレスト(名古屋芸術大学)」
A.デザンクロ「四重奏曲(東京音楽大学)」
J.リュエフ「四重奏のためのコンセールより(昭和音楽大学)」
A.デザンクロ「四重奏曲(東邦音楽大学・短期大学)」
A.グラズノフ「四重奏曲より1,3(東京芸術大学)」

真っ昼間に研究室を抜け出して、14:15大学発のバスで出発。銀座線と田園都市線を乗り継ぎ、ノクティホールへ。さすがに一曲目は遅刻してしまったが2曲目からはほぼ全て聴くことができた。駅ビルの11階と12階をぶち抜いて建設されたホールで、洗足学園音楽大学の講堂のような、低めの天井。残響時間は短いが、意外と心地よい響きである。音が上に逃げないためか、後ろの席で聴いていても、まるで眼前で聴いているかのようなサウンドが迫ってくる。

さて、聴き始めが16:30、終演が20:30。さすがに16団体も聴いていられないんじゃないかと、聴き始める前は思っていたのだが、意外と面白く聴くことができた。僭越ながら、印象に残った団体に関していくつか:

・愛知県立芸術大学…プレストは、なかなか勢いがある演奏。ただ、バリトンはCDのコピーでなくきちんと即興でやるべきだと思うし、Vancouverのセリフはきちんと叫ぶべきではないのか(笑)。
・洗足学園音楽大学…奏者の個性が4人それぞれ良い意味で発揮されており、実に楽しく聴けた。第4楽章のリズム処理の見事さに、耳を奪われた。
・東京ミュージック&メディアアーツ尚美…オーソドックスの極みともいえる解釈、また、奏者それぞれの美しい音色が印象的だった。先日の演奏会とは、ソプラノ奏者だけが同じ。
・国立音楽大学…楽器としての響きの豊かさとブレンド感は、もしかしたら一番だったかも。こういった特徴的なリズムを持つ曲の演奏は、上手だなあ。
・昭和音楽大学…すごい!かなりのアンサンブル精度を要求される作品ではあるが、細かいところまで突き詰められた表現ベクトルの一致が心地よかった。
・東京芸術大学…貫禄の演奏。第1楽章と第3楽章は、自分でも演奏したことがあって楽譜も良く覚えているのだが、どんな難所においても安定した技巧は、さすがというほかない。pの表現に4人全員が肉薄していたのは、ここだけかも。

聴きながらいろいろなことを考えていた。まず、アマチュアとは奏法・音量・音色の点についてはまったくレベルが違うのだな、ということ。どのくらいの合わせを経て、ステージに持ち出すのだろうかという謎。一つのステージに対してかける思いというか気迫というかは、アマチュアとはやはり違うのだろうかなあ、と思えてしまう団体もあったかな(最後まで通るのがやっと、という演奏も)。とにかく、いろいろ勉強することができ、聴きに行って良かったと思えた。

最後の団体の演奏が終わった後に、石渡悠史先生がアルベニス「セヴィリャ」に関して面白い話をされていた。昭和30年頃…石渡先生が藝大に入学された頃の楽譜は、現在出版されている今よりも半音高かったそうな。当時は、レコードを聴いて採譜した楽譜を使用し、おまけに藝大が所有していたバリトンの最低音がシ♭(記譜)までしかなかったため?であるとのこと。採譜に関しては、回転数やテープスピードとかの関係でも、変わってきますからね。そんな例を引き合いに出して、楽譜をきちんと分析して演奏を組み立て、音源は参考程度にしよう、ということをおっしゃっていた。

ロビーでは、今までメールでしかお話したことのなかった洗足のKさんにご挨拶することができた(プログラムを見るまでは知らなかったのだが、テナーで演奏に参加されていたのだ)。また、小田桐工房の小田桐さんと名刺を交換することができたのも嬉しかったなあ。あと、けこぅさんがまめこさんとこつぶさんを連れて聴きに来ており、びっくり!

帰り際には、会場で一緒になったつくばサックスのNとともに、友人に招かれて3人で?銀座のLIONにて食事。友人はそこで働いているのだが、けっこうご馳走になってしまいました(写真はチーズ・フォンデュ)。美味しかったあ。

2008/03/09

夕べ2008、聴きに行きます

服部先生からお誘いを受けて、明日は「音大生によるサクソフォーン四重奏の夕べ2008」聴きに行く予定。実はこのイベントに伺うのは初めてだったりする。しかし…16:30開演って、早すぎ!研究室は、途中で抜け出すしかないか。

http://homepage2.nifty.com/jsajsa/news.htm

プログラムを上記リンクから覗くことができる。最近は、静岡のほうのサクソフォーン専攻生(静岡大とか、常葉学園短大)も参加されているのですな。あと、愛知県立芸術大学が、「チェンバー・シンフォニー」ですか。デザンクロをやる団体が、1、2、3、…6!?あと、これはどうでも良いのだが、「コンセール」っていう表記、もっと流行らないかなあ。

ヴィードーフのライヴ録音

サクソフォンの歴史的録音の分野の研究で名高い、A.Jackson氏から飛び込んできたニュース。ルディ・ヴィードーフ(ウィードフト) Rudy Wiedoeftの放送用ライヴレコーディングを、つい最近ロシアで発見したそうな。ろ、ろしあ?なんでロシアなんだ!?それはともかく、テキサスでのマスタリング作業が終わったそうで、早速送ってもらうことになり、楽しみ。当たり前だが、日本に入ってくるのは初めてということになる。

今までヴィードーフの最後のレコーディングだと思われていたものは、1927年12月製作のSP「La Golondrina」。だが、今回の録音は1933年6月8日のもの。これは貴重ですなあ。A.Jackson氏のメールからも、興奮した様子が伝わってきた。

サクソフォン研究家、A.Jackson氏とは、昨年の10月ころから付き合いがあり、現在は日本語版のウェブページ作成関連での協力をしている。氏に関しては、いろいろと目からウロコなエピソードがあるので、またご紹介したい。サクソフォン界のインディ・ジョーンズかララ・クロフトか、っていう感じの御方なのだ。詳しい話はまた今度に譲るが、オーストラリアの洞窟の中でラッシャーの録音を発見したり、アリゾナの砂漠の掘っ立て小屋でルフェーブルの録音を発見したり…世界を見渡すと、凄い方がいるんだなあ、という感じ。

彼が収集した音源は、CD-Rで比較的廉価に販売されており、日本からでも購入することができる。購入方法その他に関しては、専用のウェブページを公開する予定なので、乞うご期待。

2008/03/08

「レシテーション・ブック」、名曲です

すでに雲井雅人サックス四重奏団の演奏・録音等で、ディヴィッド・マスランカ David Maslanka 氏の新作「レシテーション・ブック Recitation Book」に触れられた方も多いことだろう。この作品、昨年5月の東京文化会館での日本初演以来、聴く人のほとんど魅了しているのではないだろうか。技巧的には決して真新しいことをやっているわけではないのだが、ぐいぐいと惹きこまれてしまう。いろいろな意味で、こんな作品は今までになかったよなあ。

…「レシテーション・ブック」、作品・演奏とも、想像をはるかに超えた強靭さと、美しさを兼ね備えたものだった。ホールの中に凄いことが起こったのは覚えているのだけれど、あれはいったい何だったんだろうか。究極の慰めの表情から、天地がひっくり返って世界が終わってしまうのではないかというような狂気の渦、そして昇華。本当の音楽は、私たちを日常から切り離し、はるか彼方へ連れ去ってしまうのだな、と実感した瞬間。

私が最初に聴いたときは、この曲に対して書いた感想である。なんとか文字で表そうと書いてはみたものの、こういった"言葉"を鼻の先で吹き飛ばすような作品であることは間違いない。何せ、タイトルから連想されるキリスト教的な世界観といったものは単なるフレームワークに過ぎない、というのだから。作品のコアは、もっとずっと作曲者の内面に近いところにあるのだそうだ。それは、次のように名づけられた楽章ごとのタイトル(「瞑想曲」が3つも!)からも感じ取ることができる。

打ち砕かれた心:コラール旋律「三つにして一つなる汝」による瞑想曲
序奏/コラール:「イエスよ、わが喜びよ」による瞑想曲
ここで死にゆく!(ヴェノーサ公ジェズアルド、1596)
グレゴリオ聖歌「おお、救い主なるいけにえよ」による瞑想曲
ファンファーレ/変奏:「アダムの罪によりて」による

使用されているメロディは、以前このブログでも取り上げたように賛美歌(Hymn)から引用したものばかりである。中には、第2楽章のコラール(「Sehet, welch eine Liebe hat uns der Vater erzeiget(見よ、いかなる愛を父はわれらに示されたるか)」の第8曲「イエスよ、わが喜びよ」)やカルロ・ジェズアルドのマドリガルのように、コラールの音符の一つ一つそのままを使用したものもある。神道や仏教徒である我々にはなじみが薄いはずのメロディだが、なかなかどうして、どのメロディにも懐かしさ・親しみを覚えるのは、ちょっと不思議な気もする。

もちろん、単純な引用だけであればそれだけの音楽にしかならないのだが、単旋律のメロディにインスピレーションを得て、この巨大な作品を構成してしまうのが、マスランカ氏のすごいところだ。独自の和声感覚による、クラスターとテンションと三和音の絶妙な混合。ロックにも通じるような現代的なリズム。奏者に対して過酷な楽器のコントロールを強いる、幅の広いダイナミクス。

大変幸運なことに、つい最近自分たちの手で演奏する機会を得ることができたが、スコアを眺めてまず驚いたのが、音符の数がとにかく少ないこと。第5楽章ですら、アルト・テナーはそこそこ黒い楽譜だが、ソプラノやバリトンはむしろ白丸が目立つほど(ただし、難所も多いといえば多い)。これがどうやったらあんな音楽に化けるのだろうと訝しがりながら音を出してみると、驚きの音が響きわたるのだ。ヒイヒイ言いながら練習し、なんとか形にして人前に出した演奏会では、演奏中もかなりの手応えを感じ、終演後には多くの人からの好評を得た。まだ、取り組む団体はごく僅かではあるが、この曲がサクソフォン音楽の重要なレパートリーとして定着する日も、そう遠くはないだろうと感じることができた。

2/27に発売されたばかりの雲井雅人サックス四重奏団の最新アルバム「レシテーション・ブック(Cafua CACG-0108)」に、同曲が所収されている。CDとしては珍しい、かなりダイナミック・レンジの広い音作りをしており、マスランカ「レシテーション・ブック」の音世界を存分に感じ取ることができた。紙一重の場所で激走を続ける、ハイ・テンションさも存分に伝わってくる、素晴らしい演奏だ。まだ聴いたことのない方には、一聴をおすすめする。

Doug O'Connor plays "Jungle" on YouTube

締め切りが迫っている某R社のエントリーシートを書くために昼から研究室にいる。"職種"をターゲットにして就職活動をしていると、その会社を志望する理由、というのがちょっと書きづらいですな。いや、ないというわけではないのだけれど、上手く文字数に合うように組み立てるのが、難しいということです。

先の第2回ロンデックス国際コンクールで第2位を受賞した、ダグラス・オコナー Doug O'Connor氏が、クリスチャン・ロバ Christian Laubaの「Jungle」を演奏した動画があった。公式ガイドブックによると、オコナー氏は一次予選でも「Jungle」を演奏していたらしいが、この動画自体はロンデックスコンクールの予選映像というわけではなく、アメリカでの演奏の様子をアップしたものである、とのこと。



うーん、見事。全体の印象としては、かなりがっしりした構造を作ることを目指すような、骨太な印象を受ける。ちなみに、コメントのリスト中に、若干16歳?にしてオーストラリアからロンデックスコンクールに参加していたYo-Yo Suがいる(笑)。彼のほうは「ファジイバード・ソナタ」と「デビルズ・ラグ」の演奏映像をアップしているようだ。

2008/03/07

B→C、近し

今年度は、現代音楽におけるサクソフォンの位置付けをテーマにした演奏会を数多く聴いたが、それらを締めくくるにふさわしい、オペラシティ主催の演奏会。しかも、サクソフォーンは、これが帰国第一弾のリサイタルとなる大石将紀氏(暮れのフェスティバルで聴いた氏による酒井作品の演奏は、井上麻子さんの演奏とともに、まさに"圧巻"であった)。今回のB→C、聴かないわけにはいかない!

【B→C ビートゥシー:バッハからコンテンポラリーへ】
出演:大石将紀(sax)、フランソワ・ミッシェル(gt)、望月友美(mez-sop)他
2008/3/18(火)19:00~ 東京オペラシティ・リサイタルホール
全席自由3000円
プログラム:
・藤倉大「委嘱作品(世界初演)」
・J.S.バッハ「ソナタBWV1034~サクソフォンとギターによる」
・V.A.「サクソフォンのための現代奏法エチュード」より
・野平一郎「舵手の書」
・J.t.フェルドハウス「Grab It!」
・P.ルルー「緑なすところ」
・酒井健治「Reflecting space II - from Bach to Cage」他
問い合わせ:
http://www.operacity.jp/concert/2007/080318.php
03-5353-9999(東京オペラシティチケットセンター)

個人的な観点から、聴き所をいくつか挙げておこう。まずは、パリ国立高等音楽院作曲科の学生と、サクソフォン科の学生のコラボレーションによって生まれた「サクソフォンのための現代奏法エチュード」。聴いたことがないのだが、ソプラノからバリトンまでを持ち替えながら、無伴奏でどんな音世界を描いてくれるのだろうか。鈴木純明氏の作品が演奏されるということでも、楽しみだ。

J.t.フェルドハウス「Grab It!」は、井上麻子氏が日本初演、その後もジェローム・ララン氏、クロード・ドゥラングル教授が国内の演奏会で相次いで取り上げている、テナーサクソフォンとゲットブラスター(テープ)のための作品。小難しいことは全く感じさせず、ロックかジャズではないかと見まがうような、聴衆へのアピール度が大変高い作品。私も、楽譜持ってます(笑)。東京で、これだけ多くの聴衆を相手に「Grab It!」が演奏されるのは、もしかしたら初めてでなのではないかな。さらなるブームのきっかけとなれば良いが。

P.ルルー、そして野平一郎氏の作品は、サクソフォンと声のために書かれたものであるが、私自身は昨年7月のララン氏の演奏会で聴いている。今度聴くのは初めてではないため、サクソフォンと声の、それぞれの役割をじっくり追うことができるかなと期待している。もちろん、国内初演・世界初演の邦人作品2つも、楽しみ。

そしてバッハ、か。こんなプログラムの中でも、不思議と違和感がないのだな。

2008/03/06

ドイツサクソフォン界の黎明期

以前、mckenさんのブログのとある記事に自分がコメントした内容を、こちらでもまとめておこうと思う。

ドイツにおける、オーケストラ作品へのサクソフォンの使用例は、1902年から1903年にかけて作曲されたリヒャルト・シュトラウスの「家庭交響曲」がほぼ最初期にあたる。「なぜ、シュトラウスが4本ものサクソフォンをオーケストラに導入したのか」というのは、なかなか知られていないことなのだが、この謎を解く鍵は、20世紀初頭に活躍したドイツのサクソフォーン奏者、グスタフ・ブムケ Gustav Bumcke(1876 - 1963)の存在が大きい。

グスタフ・ブムケは、音楽的キャリアの最初期にはトランペットと、作曲を習っていたそうだ(作曲は、マックス・ブルッフに師事していたらしい)。ブムケは1900年から1903年にかけて、劇場の音楽監督を務める機会が増え、それに伴ってサクソフォンへの興味が増していったと言われている。事実、1902年にはサクソフォンを含む室内楽曲を作曲しているほどだ。

同年(1902年)、アドルフ・サックスの息子に師事するために、パリへ遊学。8本のサクソフォンを持ち帰ったと言われている。このタイミングこそ、リヒャルト・シュトラウスの「家庭交響曲」の作曲時期と重なるのだ。シュトラウスの書いた「13の管楽器のための組曲」を初演するなど、シュトラウスとブムケの間には少なからず親交があったとされており、シュトラウスが、このドイツに輸入されたサクソフォンに興味を示して、サクソフォンを使い始めた、という説は、ほぼ間違いがないのではないだろうか。

ちなみにブムケはその後もドイツサクソフォン界の発展に尽力する。1926年にはドイツ語で書かれた初めてのサクソフォーンのエチュードを執筆。1931年に、サクソフォーンオーケストラ(1snino, 2sop, 7alt, 3ten, 1bar, 1bass)を組織し、続いて1932年にはベルリンサクソフォン四重奏団を結成した。第2次世界大戦勃発による財政難により、収集したサクソフォンを売却せざるを得なくなるなど、かなり苦労もされたそうだ。

ところで、ブムケがパリから持ち帰ったサックスの「8本」という本数が、大変気になっている。ここから先は想像の域なのだが、もしかして、C-Fの組み合わせを4本、Bb-Ebの組み合わせを4本、だったのではないかな。だからこそ、シュトラウスの「家庭交響曲」のスコアには「C soprano, F alto, F baritone, C bass」が指定されているのではないのだろうか。うーーん、本当のところは、どうなのか。

録音を聴きながら

3/1の演奏会録音の、マスタリング作業を行った。最初拍手を含めたマスタリングを行っていたのだが、あまりにバランスがひどく、思い切って拍手をカット!すっきり。出来上がったファイルは、全部合わせてCD一枚に収まる程度の尺となった。

演奏会直後に聴いたときは「けっこう良いところもあるじゃん」と思いながら聴いていたのだが、改めて冷静に聴いてみると…うーん、聴いていられない(苦笑)。まあ、ライヴレコーディングなんてこんなもので、我々アマチュアがどれだけ突き詰めて練習して、どれだけ本番上手くいったところで、「音楽」という名の空間を漂う小惑星の上で、精一杯威張っているに過ぎない、ということだ。

「音楽」という大宇宙の、なんと深遠なことか!!←話が飛躍しすぎです。

…と言いつつも、ここ3日は楽器を全く吹いていなかったので、今日は楽器を吹きに行きました。音作り・基礎練習・曲練習と、どれも楽しかったな。個人練習を行うとき、もう少しストイックにならなければいけないなと思いつつ、どうしても集中力が途切れるのは、何とかならんもんか。

2008/03/05

木下直人さんから(ギャルドQのAFA盤)

ギャルド・レピュブリケーヌ四重奏団のLPと言えば、原盤AFAで東芝EMIからも発売された「サキソフォン四重奏の魅力」というレコードが有名であるが、ギャルド四重奏団は、なんともう一枚AFAレーベルへの吹き込みを行っているのだ。東芝EMIとAFAは、かつて提携を行っていたのだが、なぜかこちらのLPは国内発売されていない。その理由は良く分からないが、収録曲目がやや現代的であること、が少し関係しているのかもしれない。「Quatuor de Saxophones de la Musique de la Garde Republicaine Paris(AFA 20893)」というタイトルで、製作は1975年。ちなみに、このLPは木下さんも実物はお持ちでないとのこと(!)

Aubert Lemeland - Epilogue Nocturne
Rene Nicolas - Passim
Maurice Bagot - Saxophonie a quatre
Patrice Sciortino - Agogik
Jacques Bernard - Andante et Scherzo

うーん。知らない作曲家ばかりだ。オーベール・ルムランに、ルネ・ニコラですかい。バゴの名前は、もう一枚のAFA盤で聴いたことがあるし、パトリス・ショルティーノはあの有名な「異教徒の踊り」の作曲家ですね。ジャック・ベルナールの名前も、何かのCDで聴いたことがあるような…。

ちょっと現代的な作品ではあるが、聴きづらいということはない。どの作品を聴いても、管楽器を愛する国フランスの作曲家&フランスアカデミーの潮流の中にある作曲家、の手によるものだなあ、ということを感じ取ることができる。ギャルド四重奏団も、思いっきりヴィブラートをかけている(^^;もし、現代のサックス四重奏団が演奏したのなら、こういった演奏にはならないだろうなあ。

ショルティーノの作品が特に面白かった。「異教徒の踊り」あたりを想像しながら聴き始めるとびっくりするが、音遊びに徹した興味深いもので、最終部ではジャズの影響を受けた筆致も聴くことができる。響きは現代的ではあるが、特殊奏法を全く使っていないところに、「1975年」という時代を体感することができる(デニゾフの「ソナタ」は1970年)。たしかに、音のパレットという点では、ここに収録された作品はかなりの"限界"を感じ取ることができるような気もする。作曲家がうずうずしている、という表現が正しいかもしれない。

大変貴重な音源、ありがとうございました。例によって、私の知り合いで、これらの音源に興味ある方は、メールかmixiのメッセージでご連絡ください(木下さんからもお許しを得ています)。

2008/03/04

木下直人さんから(デファイエQのCBSソニー盤)

またまたいろいろ頂戴したのだが(ありがとうございます)、今回はCBSソニー盤の2枚を、木下さんがトランスファーしたものをご紹介。デファイエ四重奏団のCBSソニー盤のうち、リュエフ「四重奏のためのコンセール」、ティスネ「アリアージュ」、パスカル「四重奏曲」が収録された赤いLPは、私も中古盤を持っているのだが、まるでLPをそのまま聴いているような相変わらずの素晴らしい復刻で、感激!四重奏の録音に関しては、これ以上何を望めば良いというのだ!!

ジャケットの原寸大コピーを付けていただいたのだが、このLPに関しては初来日時(1975年)のバージョンと、再来日時(1978年?)のバージョンの2つがあるそうだ。左が再発盤のジャケットで、右が初期盤のジャケット。同一の赤い背景だが、メンバーの顔を良く見てみると、明らかに少しお年を召しているのが分かる。

マウスピースも変わっているなあ。たとえば、バリトンのジャン・ルデュー氏のマウスピースは初来日時はブリルハートのトナリンだし、ジャック・テリー氏のマウスピースに至っては世界に2つしかないと言われる、伝説の「ネジ一本で開きが変えられる」メタルマウスピースだが、再来日時はお二人ともクランポンのマウスピースに変更しているようだ。ちなみに、再来日時のLPには「Esprit Nouveau de france saxophone quartette」のタイトルが付与されている。

ちなみにどこかで聞いた話だが、こちらのLPの録音製作は、伝説の録音技師、アンドレ・シャルラン率いるCECE(Centre d'Enregistrement Champs-Elysee)への外部委託。つまりソニーにはマスターテープは残っておらず、存在するとすればCECEにあるはずなのだが、破産に伴う財務整理の際、無知な税官吏の手によってテープは全て海洋投棄されてしまったのだそうだ(!)。つまり、我々はもう、盤起こしによってしか、この録音を聴くことができないのである。なんとも残念な話だ。

もう一枚は、1978年の来日時に石橋メモリアルホールで録音された小品集。付与されたタイトルは、「L'art supreme du quatuor de saxophones」。この時だろうか、NHK-FMでエディット・ルジェの「四重奏曲」やフローラン・シュミットの「四重奏曲」を録音したのは。こちらの録音に関しても、またの機会にご紹介したい。さて、この小品集であるが、収録曲目は以下の通り。

J.S.バッハ - G線上のアリア
D.スカルラッティ - 3つの小品
L.ボッケリーニ - メヌエット
W.A.モーツァルト - アヴェ・ヴェルム・コルプス
R.シューマン - スケルツォ
P.I.チャイコフスキー - アンダンテ・カンタービレ
I.アルベニス - カディス
I.アルベニス - コルドバ
I.アルベニス - セヴィリャ
C.ドビュッシー - 小さなネグロ
C.ドビュッシー - 小さい羊飼い
C.ドビュッシー - ゴリウォーグのケークウォーク

どれもが、ミュール編のもの。こういう小品に取り組む機会は現在でも多々あるが、その全てのお手本となるような演奏だ。ミュールらの演奏よりもスタイリッシュで、しかしフランスの薫りをたっぷりと含んだ名演。古臭くなく、しかし淡白でもなく、こういった小品は、こんなスタイルでこそ演奏されるべきだ!と、聴きながら叫んでしまいそうになる。

個人的に一押しなのが、スカルラッティの「3つの小品」。サイコーです。現在で幅広く演奏される曲ではあるが、音楽的にはもちろん、技術的にもこの録音を超える演奏って、未だ存在していないのではないかな。

2008/03/03

尚美サクソフォーンアンサンブル第20回定期演奏会

某社の説明会参加(就職活動)の後で、「専門学校東京ミュージック&メディアアーツ尚美 管打楽器学科 サクソフォーン専攻生による SHOBI Saxophone Ensemble 第20回定期演奏会」を聴きに行ってきた。春日という駅は初めて降り立ったのだが、A2出口から尚美の校舎の近いこと!近すぎて、最初場所が分からず迷ってしまった。

P.I.チャイコフスキー「フィレンツェの思い出」より第4楽章
真島俊夫「ラ・セーヌ」
A.デザンクロ「四重奏曲」
~休憩~
G.ガーシュウィン/金井宏光「パリのアメリカ人」
R.シュトラウス/徳備康純「楽劇『サロメ』より7つのヴェールの踊り」
J.シュトラウス2世「トリッチ・トラッチ・ポルカ(アンコール)」

どうしても先日聴きに行った、東京芸術大学のサクソフォーン科演奏会などと比べてしまうのだが、第一部の、なんとなくな大味さというか、ちょっと垢抜けない感じというか、こんなサックスの音色で奏でられる8重奏というものが、私は好きだ。各個人の技量の差が浮かび上がってくるのも、なかなか面白い。第1部最後に演奏されたデザンクロの「四重奏曲」は、とても堅実な印象を受けた。いつも思うのだが、音楽を専攻されている方たちって、どのくらいの練習や合わせを経て、本番をこなすのだろうか…これは、けっこう興味があるところだ。

しかし、今日の目玉は何と言っても第2部だろう!松雪明先生の指揮のもと、かなーり気合いの入った「パリアメ」と「サロメ」。特に、「サロメ」の徳備氏のアレンジが物凄い仕事だと思った。「この曲を、どうやってサクソフォンオーケストラにアレンジするのだろう」と、聴き始めたのだが随所に技巧的に・音楽的に練り上げられた筆致が見受けられ、ははーっ、恐れ入りました、という感じ。これは、とどめておくのがもったいない!ぜひ、再演されるべきだと感じた。演奏も、その高難易度の譜面を、再現しようとする気迫が感じられた。大喝采。

終演後はアルト&ソプラノのN(ちさ)と共に楽屋に押しかけ、松雪先生にお会いした。短い時間だったが、お話ししたのは半年振りくらいかも。また四重奏でレッスンを受けたいなあ。久しぶりとなる、松雪先生門下のT大学のアマチュアサックス吹きの方とも思いがけず再会した。

2008/03/02

Tsukuba Saxophone Quartet - SAXOPHONE CONCERT

昨日は演奏会。客演の佐藤さんと田村さん、スタッフの方々、指導を賜ったサクソフォン奏者・作曲家の方々、ご来場いただいた方々、共演者・共催者のみなさんすべてに、改めて感謝申し上げます。

明日からは、いつものスタイルの更新に戻る予定(笑)

(追記)
Tsukuba Saxophone Quartetのブログ上で、演奏会のプログラム冊子に掲載した曲目解説全文を公開しました。リンク先のページから、「プログラムノート」をクリックしてください。

(さらに追記)
録音聴いてます…アラが目立つけれど、良いところもある…かな?さらに精進しなければ。とりあえず、レシテーションの最後は速すぎ。