サクソフォン奏者、冨岡和男氏のことを、私はなぜかいつも冨岡"先生"と呼んでしまう。もちろん、レッスンについたことがあるわけでもなく、面識すらほとんどないのであるが、時々耳&目にする冨岡先生の外見・内面からは不思議とそう呼ばせてしまうオーラが漂っている。かつては奏者として、そして現在は教育者として、日本のサクソフォン界を引っ張っている(と書くと、少々語弊があるか?)存在であることに間違いはなかろう。
冨岡先生の録音や実演には、私はアンサンブルでしか触れたことがなかった。キャトゥル・ロゾー、そしてサクスケルツェットや、フェスティバル・オーケストラにおいて、ソプラノやアルトを吹いている姿を何度か拝見したことがある。が、そういえば独奏って聴いたことないよなあと、ふと思った。ドビュッシーを演奏した、2007年の「Saxophone Day」には伺えなかったしな。
じゃあ「冨岡先生のソロを聴けるCDはないのか?」と探したところで発見したのが、今回ご紹介するCDである。「安部幸明 室内楽作品集~音色と旋律の魅力~(LEKINE RLMT-0401)」。珍品。
安部幸明(1911 - 2006)は、戦後日本のクラシック音楽界を代表する作曲家の一人。京都芸術大学で教鞭をとりながら、オーケストラ曲、室内楽曲をいくつか手がけた。特に、自身がチェロを専攻していた経験から、15曲もの弦楽四重奏曲を作曲している。その安部氏の作品が2003年に「流亜風 日本の作曲家による室内楽連鎖演奏会」というコンサートシリーズで演奏されたときの、ライヴ録音をCD化したものだ。
・弦楽四重奏曲第8番(1952)
・アルトサクソフォンとピアノのための嬉遊曲(1951)
・弦楽四重奏曲第14番(1990)
この中の「嬉遊曲(ディヴェルティメント)」において、サクソフォンを冨岡先生が、ピアノを冨岡英子さんが担当している。「嬉遊曲」についての詳しい情報は、こちらのサイトをご覧いただければと思うが、鼻歌のごとき美しいメロディがシンプルに並べられた佳曲。初演は、阪口新氏であったそうだが、阪口氏の甘い音色を意識せずにとのことはあるまい。フランス産のサクソフォンのオリジナル作品などと比較すると、音の数はずっと少ないのだが、そのひとつひとつがとても洗練されているような感じも受ける。
そもそも、冨岡先生がこの時に独奏を務めることになった理由が気になるが、先生のソロ演奏がCDというメディアに記録されたことは、まずは幸いである。冨岡先生の演奏は、深いヴィブラートに柔和な音色、そしてよく繋がるレガートといったところが印象深い…やはりクランポン、って感じですな。中音域の輪郭が丸いこのタイプの音色って、どこかで聴いたことがあるんだがなあ、誰に似ているのかなあ。まあ、さすがに言葉で表すのは限界がありますので、この見事な演奏をぜひ聴いてみてください。あと、隅々までとても愛着をもって演奏しているな、ということがわかる。
「弦楽四重奏曲」も、なかなか面白かった。演奏は、Quartet Canoro。二つの作品の間には、40年近くの作曲時期の差があるが、根底に流れているポリシーみたいなものは、同じなのではないかなと感じた。でも、やっぱり1950年代の作品のほうが、若々しくて、溌剌としていて、聴いていて楽しいな。
※購入の際は以下の連絡先に注文してみてください(CDショップには出回っていない)。価格は2400円。電話注文だと、その日のうちか次の日には発送してくれると思います。
Email: ruah@music.nifty.jp
Tel: 042-391-8134
(櫟音/LEKINE くぬぎの会)
…そういえば、冨岡先生の日本音楽コンクールの、イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の録音(CDではなくて)があるという噂を聞いたことがあるのだが、もしどなたか情報お持ちでしたら教えてください。
2 件のコメント:
僕にとっては一生『先生』なんですが、、たしかに、そう呼ばせてしまうオーラ的なものは、お持ちなのかも知れません。
そのCD、以前から存在そのものは知っていましたが、購入方法がわかりませんでした。
奥様の英子先生も、とても素敵な方ですよ!
(洗足でピアノの先生をやっておられます)
> Pさん
Pさんは、確か冨岡先生の門下でしたよね。どのようなレッスンをなさるのか、一度聴講してみたいくらいです。奥様とのデュオもぜひ聴いてみたいですが、最近ではなかなか演奏される機会も少ないのでしょうか。
このCD、ぜひ買ってみてください。流通経路が通販しかないうえに、その唯一の取り扱い先の連絡先すら良く分からず、ずっと買えないでいました。最近、たまたま連絡先を見つけて、注文することができた次第です。
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