2011/01/31

西武園ゆうえんちでの演奏

昨日1/30は、西武園ゆうえんちにてTsukuba Saxophone Quartetのメンバーで演奏を行った。諸事情により、まずはつくば市で練習、お昼ごはんに牛タン定食を食べた後(たまの贅沢!)つくばエクスプレス→武蔵野線と乗り換えて、茨城県から埼玉県所沢市付近まで一気に移動し、会場入りした。

なんだか凄いイルミネーションの前で演奏できた!たくさんの写真をFacebookのTsukuba Saxophone Quartetのページに掲載しているので、ぜひご覧頂きたい(Facebookのアカウントを持っていなくても見られるはず)。…セットリストは、以下。客層が全く読めなかったのでこんな感じになった。今度やるときにはもう少し家族向けレパートリーを増やさなければ(今回はトトロだけだった)。

1st set:
ルパン三世のテーマ
グリーンスリーヴス
となりのトトロメドレー
チェッカーズメドレー

2nd set:
となりのトトロメドレー
ダッタン人の踊り
ルパン三世のテーマ
長崎は今日も雨だった

演奏後に、記念写真をパチリ。凄いイルミネーションでしょ!4月頃にも、もう一度演奏する機会を持つことができるかもしれない。

2011/01/30

今日は西武園ゆうえんち

(携帯から更新)

今日は夕方から、TsukubaSQのメンバーで西武園ゆうえんちにて演奏。かなり寒そうだが(笑)大丈夫かなあ。

2011/01/29

Mario Marzi plays Sedna

Massimo Botterというイタリアの作曲家が書いた「Sedna」という無伴奏バリトンサクソフォン作品を、同じくイタリアのマリオ・マルツィが吹いている動画を発見した。無伴奏の現代作品というジャンルも、クリスチャン・ロバのものを始めとして現在では広く市民権を得ているが、初めての曲を耳にするごとに新しい響きを構築しようとする試みを感じ取ることができる。



作曲者のページより楽譜がダウンロードできるため、対照しながら演奏を楽しむことができる。マルツィ氏の演奏はやや大雑把に楽譜を捉えているように聴こえるが、正確性とはまた違った魅力があるな。「Come un'improvvisazione」と指示された最終部分はまさに圧巻だ。ちょっとクリスチャン・ロバっぽい部分も出てくるが、聴こえてくる響きは違う。

Massimo Botter氏はサクソフォン四重奏のために「Sheet of Sounds」という作品を書いており、こちらの作品に関しても参考演奏(しかも演奏がArte Quartettときたもんだ)と楽譜が、公式ページ上で参照可能。こちらも「Sedna」と同じく一筋縄ではいかない雰囲気があるが、「おっ」と思わせる部分もあったりして楽しく聴けた。

2011/01/28

第2回サクソフォン交流会の打ち合わせ

昨日は新宿にて第2回サクソフォン交流会の打ち合わせwith西尾先生だった。お酒が入っていた割には(笑)なかなか有意義な話し合いができて良かったと思う。第2回の開催にむけて、前進している様子を再確認できたことも良かった。全体合奏等、ラージアンサンブル周りの企画についても、具体的にまとまってきている。

今回は交流会の事務作業のマネージャを仰せつかっているので、各作業の進捗にやきもき。とは言え、会社でやるような日毎の進捗ではなく作業全体に余裕があるため、幾分は気が楽である。また、パワーとノウハウのあるメンバーばかり、さらに西尾先生のバックアップも心強く、とても助けられている。

最後に、昨日の写真を小さく掲載。…って、自分が写っていないじゃん(笑)。

2011/01/26

地獄の門

ディヴィッド・マスランカ David Maslanka氏の作品に、サクソフォンを取り上げたものが数多く存在するのはとても幸いなことである。日本でのマスランカ・ブームのきっかけとなった「マウンテン・ロード」、プロフェッショナルから音大生までレパートリーとしている奏者も多い「アルトサクソフォン・ソナタ」、そして四重奏の傑作「レシテーション・ブック」といったところが良く知られている。最近では、雲井雅人氏が「サクソフォン協奏曲」の録音を行うなど、少しずつ日本でもマスランカ作品のレパートリー開拓が進んでいるが、メジャーどころだけ知っているのは勿体ない。

マスランカ氏の作品に、「地獄の門 Hell's Gate」という作品がある。15分間の単一楽章形式をとる吹奏楽のための作品。モンタナ州の、その名もHellgate High School Symphonic Bandにより委嘱、初演はJohn H. Combsが指揮する同バンドにより、1997年3月に行われた。非常に面白いことに、アルト、テナー、バリトンの3本のサクソフォンが終始表立つ作品である。3本のサクソフォンのための協奏曲、と言い切ってしまっても良いかもしれない。

マスランカ氏は「Hellgate」という学校の名前にインスピレーションを受け、ロダンの「地獄の門」と掛けあわせた作品を作るに至った。この「地獄の門」は、ご存知のとおりにダンテ「神曲」の地獄編に登場する、

我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり

義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛我を造れり

永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
(ダンテ「神曲」/山川丙三郎訳)

という三行三連の詩が書き付けられた、地獄の入口に位置する門のことである。3という数字が「三位一体」の象徴として使われるように、地獄すらも三位一体である神の創造物であるということを示すとされている。この3という数字が「3本のサクソフォン」へと繋がっているのは明らかだ。

冒頭からガツンと響く暴力的な響き、バンド全体がパイプオルガンのように鳴る荘厳なコラール、そしてサクソフォンのみによって奏でられる慰めの表情まで、多面的な要素を持つ傑作である。なかなか実演を聴く機会がないが、幸いなことにCD化されている。「MASLANKA: University of Arizona Wind Ensemble(Albany troy309)」というタイトルで、Amazon.comをはじめ各所で入手しやすいので、興味のある方はぜひ。

2011/01/25

Christian Wirth & Nicolas Prost on YouTube

YouTubeで、なんだか凄いものを見つけてしまった。なんと、クリスチャン・ヴィルトゥ氏とニコラ・プロスト氏の共演動画である。演奏曲目は、J.S.バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」。ソプラノサクソフォン2本と、弦楽四重奏+チェンバロという、なんとも豪華絢爛な編成である。演奏場所は、サン・モール音楽院(ニコラ・プロスト氏が教授を務める)のオーディトリウム。演奏された日は…なんと、2011年1月14日!ごくごく最近ではないか。驚いてしまった。

2者それぞれの美しい音と、音楽性である。比べるのが面白いが、やはりヴィルトゥ氏のほうがより楽器のコントロールに繊細さを感じられる気がする。ちなみにこの2人は、パリ国立高等音楽院のドゥラングル教授クラスを同じ1994年に卒業している。この時の卒業試験の課題曲こそが、あのアレクサンドル・ラスカトフの「Pas de deux」だ。

第1楽章


第2楽章


第3楽章

2011/01/24

スロヴェニアのサクソフォン事情

昨日バスの中でNHK-FMを聴いていたら、Michael Torke特集をやっていた(笑)なんとマイナーな。しっかりと「July」もやっていてびっくり。演奏はApollo Saxophone Quartetだった(「Worksforus」に収録されているのと同音源)。

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スロヴェニアのサクソフォンは、ミーハ・ロギーナ Miha Roginaを筆頭に、近年隆盛の傾向がある。ディナンでも多くのスロヴェニア出身のプレイヤーが健闘したのは、記憶に新しい。昨年のディナンのコンクールの時分に、李早恵さん(Duo Kalypsoでおなじみのピアニスト)から頂いた情報を、少し書いておきたい。

スロヴェニアのサクソフォン界における最大のキーマンは、Matjaž Drevenšek氏である。1965年生まれということでまだまだ若いのだが、彼がいなければ現在のスロヴェニアのサクソフォン界は存在しなかったかもしれない。ザグレブ音楽アカデミーを卒業し、リヨン音楽院でセルジュ・ビション氏(ドゥラングル教授らを育てた名教師)に一年間師事。その後帰国し、リュブリャナ音楽院、スロヴェニア国立大学のサクソフォンクラスの教授として後進を育成している。ザグレブ・サクソフォン四重奏団のバリトン奏者であり、CDでも彼の音を聴くことができる。

ちなみに、スロヴェニア国立大学にサクソフォンクラスが設立されたのは1995年ころ。現在は、Matjaž Drevenšek氏が教授として7人のクラスを受け持ち、ミーハ・ロギーナ氏は講師として5人のクラスを受け持っている。ロギーナ氏自身もMatjaž Drevenšek氏に3年間師事している。

レパートリーについても幾つか教えてもらった。まずは、ミーハ・ロギーナ氏がCDに収録している「Zakotne pesmi(sax, fl, pf)」を書いたMilko Lazarの作品は、特に有名であるそうだ。たしかに彼の公式ページを調べてみると、作品がサクソフォンを含むものばかりで驚かされる。また、「Impetus」を作曲したNina Senkは、女流作曲家としてこれからもヒットの予感。

どうしても海外のサクソフォン事情はバイアスが掛かってしまって、まったく知らない部分が出てきてしまうため、実際に活動されている方からの情報は貴重だ。

2011/01/23

Jacques Terry氏、逝去

昨日に引き続き、これもThunderさんのブログ記事の受け売りになってしまうが…取り上げないわけにはいかない。

デファイエサクソフォン四重奏団のテナーサクソフォン奏者として、また、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の団員として活躍した、ジャック・テリー Jacques Terry氏が逝去したそうだ(葬儀は1/20にフォンテーニュブロー近くのSaint Fargeau Ponthierryにて執り行なわれたとのこと)。ショックであった。デファイエ氏逝去の折には、追悼文を寄せており、その時点ではまだまだ健在であることが判っていたのだが…たしかに、あれから9年ほどが経つのか。

今も昔も、私の中での最高のテナーサクソフォン奏者である。テリー氏の音楽は、私にとっての「永遠の憧れ」「決して手に入れられない物」の代表みたいなもんで…。5年以上前に、こんな走り書きを書いていた。実家から東京に戻る高速バスの中、デファイエ四重奏団のEMI盤とCBS SONY(ともに木下直人さんに復刻してもらった録音)を聴きつつ、ひとり静かに冥福を祈る。

…昨年から今年にかけて、近い人から遠い人までたくさんの人の死に接した。生きていく、ということは、自分の番が来るまでにひとつひとつ人の死を受け入れていく、ということなんじゃないかとも思えてきている。

2011/01/22

新井靖志氏の新CD情報

1/20に京青さんにこの情報を聞き、次の日にはThunderさんのブログでも紹介されていたので、私が改めてここに情報を掲載するまでもないかな…と思ったのだが、ブログ上の記録として残しておこう。

「夕べの歌 Abendlied(Florestan FLCP21011)」
新井靖志(sax)、小柳美奈子(pf)
E.ボザ:スカラムーシュ Op.53-2
V.ダンディ:コラール変奏曲
P.スパーク:パントマイム
E.イザイ:子供の夢
R.シューマン:幻想小曲集 Op.73
S.シュミット:コッペリウスの歌 Op.30-11
J.ブラームス:ソナタ 変ホ長調 Op.120-2
R.シューマン:夕べの歌 Op.85-12

Florestanという名前のレーベルは知られていないが、川口力氏や彦坂眞一郎氏がサクソフォンソロのCDを吹き込んでいる。「感動を与える音楽の創造をモットーとし、CD・コンサート等の企画制作を行」っている、小さなレーベルだが、サックス物以外にもなかなか興味深いラインアップが揃えられており、レーベルとしてのこだわりが感じられる。

そんなレーベルに吹き込まれた新井氏の新CD。去年のサクソフォン発表会で聴いたブラームスを含む、堂々たるプログラミングである。ボザの「スカラムーシュ」は珍しいな…つい先日Musik'it Saxophone Vol.2に収録されているのを聴いたばかりだが。ここまで書いておいて、実は私はまだこのCDを入手していない…(笑)見つけたら買わなくてはいけないな。

タワーレコードHMV等で取り扱いを開始している。発売は1/20だということだったのだが、いろいろと情報が錯綜しており確かなことは言えず。

2011/01/21

日記が6周年

ウェブページkuri_saxo時代から続けてきた日記(?)が、6周年を迎えた。5周年のときは、そういえばアレッサンドロ・カルボナーレのCDのプレゼント企画をやったのだった。10周年を迎えたらプレゼント企画やりたいなー。

さて、この日記の歴史を簡単に振り返ってみたい。

2005/01/21: デファイエのCrest盤を聴いて感動した勢いでYahoo!ジオシティーズにサイト「kuri_saxo」立ち上げ。日記はPDF形式で公開。
2005/04/25: 日記をHTML形式で書き始めた。
2006/11/24: 日記をブログ化(Google Blogger)。ブログ名「diary.kuri_saxo」。
...(x周年とか)...
2011/01/21: 6周年を迎える。

デザインの変更も殆どやっていないため、日記自体の大きな変化は、上記以外は皆無と言って良いくらいなのだ。

2011/01/20

mckenさんのサイト移転

Fantastic Classical Saxophoneでおなじみのmckenさんのサイト「mcken's wonderland」だが、ここ最近見られない状態が続いていた。この度、ホスティング先を変更して復活したとのこと。新URLはこちら。

http://mcken.web.fc2.com/

早速、15枚のCD紹介が追加されている!私も負けないように(?)更新を続けなくては。

JacobTV Showの曲目解説:後半

後半に演奏された作品の曲目解説。

・Syracuse Blues [サックス四重奏+ゲットブラスター]
 2008年にイタリアのシチリア島を訪れたJacobTVは、東海岸に位置するシラクサ市の魚市場で、"競り"の声にじっと耳を傾けていた。たまたま所持していた携帯レコーダーで、魚市場中に飛び交う競りの掛け声をいくつか録音したJacobTVは、その音素材を基に「Syracuse Blues」を作曲した。
 日本で競りといえば、激しい声が飛び交う場所を想像するが、シチリア島の競りは少し違う。声は大きいのだが、あくまでも美しくメランコリック、大きなグリッサンドを伴ったメロディをオペラ歌手が歌うような声で競りが行われていたのだ。ここで使われている言語は、ギリシャ語とアラビア語の混合言語。おそらく、何百年、何千年も前からずっと同じスタイルで続けられてきたのだろう。
 音素材の由来からは想像もつかないが、実はこの曲は海に対するラメント(哀悼の詩)だ。昨今の海洋汚染事故や魚乱獲などの海の生態系を狂わせる人間の行い…これこそが「Syracuse Blues」の主たるテーマである。


・BUKU [アルトサックス+ゲットブラスター]
 JacobTV作品のサウンドトラックは、声をミックスしたものが多いが、この作品では珍しいことに生楽器の音がミックスされて使用されている。しかもその音たるや、チャーリー・パーカー、キャノンボール・アダレイ、アート・ペッパーというジャズの巨人たちのサックスの音。演奏者は、このサックス奏者たちと時代を超えて共演する。
 ところで"BUKU"とは何だろうか。これについて、JacobTVは、チャーリー・パーカーがジャズ・トランペット奏者のディジー・ガレスピーについて語ったインタビューの次のような節を紹介している。
「はっきりとは覚えていない。だが、俺がただひとつ言えることは、ヤツはまるでBUKUの母国語のように楽器を操るんだ」
 インタビュアーが訊き返しても、パーカーは「BUKUはBUKUだよ」としか言わず、この言葉が何を意味するかは謎に包まれたままである。ある者はアフリカの奥地の地名ではないかと言い、ある者はフランス語で"とても"を意味する"beaucoup"の事ではないかと言う。JacobTVはこのエピソードにインスピレーションを受け、録音されたパーカーの音と生楽器を共演させるアイデアを思いついたという。


・The Garden of Love [ソプラノサックス+ゲットブラスター]
 1757年生まれのイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクが著した詩集「無垢と経験の歌 The Songs of Innocence and of Experience」所収のうちの一篇「愛の園 The Garden of Love」を基にした作品。2002年にオーボエとゲットブラスターのために書かれ、その後ソプラノサックス版、フルート版などが制作された。曲の冒頭でイギリスの俳優、Ralph Richardsonによって読まれる詩の内容は、次のようなものである。

I went to the Garden of Love,
And saw what I never had seen:
A Chapel was built in the midst,
Where I used to play on the green.

And the gates of this Chapel were shut,
And "Thou shalt not" writ over the door;
So I turn'd to the Garden of Love,
That so many sweet flowers bore,

And I saw it was filled with graves,
And tomb-stones where flowers should be:
And Priests in black gowns were walking their rounds,
And binding with briars my joys and desires.

 この詩で描写されているのは、人々を幸せにするはずの宗教が、眼前の繁栄に躍起になったばかりに人から幸せを奪っている様子だ。ウィリアム・ブレイク自身は伝統的なカトリック教会のあり方に疑問を抱いていたとも伝えられており、この詩はその反骨精神の現れとも言うことができるだろう。
 この詩を基にしたJacobTVの「The Garden of Love」の中には、ブレイクが感じた悲しみや怒りといった感情は表立って現れない。華やかなエレクトロニクスサウンドと鳥の歌で彩られた総天然色の音絵巻、といった趣である。映像は、Amber Boardmanによるものである。


・The Body of Your Dreams [サックス四重奏+ゲットブラスター]
 さあこのテレビをご覧のみなさん!今日ご紹介するのはダイエット界に革命を起こす商品です!テレビの前の奥さん、そう、その皮下脂肪やお腹のたるみ、気になりませんか?でも運動は面倒だし、汗をかくのだって気持ち悪いし、疲れるのだってイヤですよね!さて、どうしましょう…まずは落ち着いて、自分の身体を見つめてみましょう。そして、想像sてみましょう。何も苦労することなく、引き締まった身体を手に入れるのです!あなたが夢見る抜群のスタイルの身体(Body of Your Dreams)を…!
 
 アメリカに滞在していたJacobTVは、テレビの通信販売番組を通じてダイエットベルトの存在を知り、実際に購入して利用した…かどうかは定かではないが、彼の注意を引きつけたのはダイエットベルトそのものよりも、むしろその過剰な宣伝を行う通販番組そのものだったようだ。ハイテンションに何度も繰り返される、通販番組の司会者の文句から、音楽的なポテンシャルを感じ取り、音楽作品としてまとめ上げることを思いついたのだという。
 そう、通販番組のコメントは、実に音楽的な要素に満ちあふれている。最初のつかみ、うれし泣き、わざとらしいほどの興奮、繰り返されるオススメ発言。肉声素材のコラージュを得意とするJacobTVにとって、通販番組は恰好のターゲット素材だったと言えるだろう。
 本作品のオリジナルバージョンは2002年に書かれ、オランダのピアニスト、Kees Wieringaによるラジオ収録演奏が初演となった。さらに2004年に改訂され、アメリカのピアニスト、Andrew RussoによってCDレコーディングされている。余談だが、元の音素材に引っ掛けて、Andrew Russoがフィットネス用のタンクトップ&ハーフパンツ姿でこの作品を演奏する姿を、YouTube上で観ることができるようだ。
 本日演奏される四重奏バージョンは、テネシー大学出身のサクソフォン奏者、Jose Oliver Riojasによってアレンジされたスペシャル・バージョン。もちろん日本国内での演奏は初めてとなる。

2011/01/19

JacobTV Showの曲目解説:前半

昨日の記事に引き続き、曲目解説の本編である。

・Pitch Black [サックス四重奏+ゲットブラスター]
 ジャズトランペット奏者、そしてヴォーカリストとしても名を馳せた、チェット・ベイカー(1929 - 1988)の肉声と、サクソフォン四重奏をミックスした作品。オランダのアウレリア・サクソフォン四重奏団のために書かれ、1998年に初演された。
 チェット・ベイカーは、かつてマイルス・デイヴィスを凌ぐほどの人気を誇ったが、1950年代からドラッグ(ヘロイン)に手を出し、しばしば警察に勾留されていた。1966年にはドラッグ絡みのケンカによって唇と前歯を負傷し、演奏活動の一時停止を余儀なくされるほどであった。破滅型の人生とも称されるベイカーだが、その哀愁を帯びた演奏に、現在でもファンが多い。
 1998年、ベイカーはアムステルダム滞在中に、自身の経歴についてインタビューを受けた。ここで彼は、ドラッグが原因で逮捕された際の獄中での生活、そしてマイルス・ディヴィスやディジー・ガレスピーといったジャズ・ミュジシャンとの邂逅について語っている。本作品は、そのインタビュー内容を音素材としてコラージュし、ジャズ風のサクソフォン四重奏と組み合わせたものである。タイトルの"Pitch Black"とは、刑務所の自室で経験した、底知れぬ闇のことを指している。

Yeah I was locked up in ‘62
It was pitch black in there you know
And you couldn’t see anything
comin’ out of the sunlight
My eyes got used to the darkness
I looked around
and then I saw… oh I saw…

そう、クスリをやって逮捕された。1962年のことだ。
刑務所の中は、真っ暗で何も見えない…。
そう、太陽が沈むと何も見えないんだ。
目が少しずつ暗闇に慣れていって、
ふと辺りを見回すと、そう、そこには…

forty trumpet players!
in there!
Yeah no no
All the trumpet players in LA you know
I saw Dizzy & Miles & Oh I guess
Lee Morgan and all those guys you know
40, 40 trumpet players
No no I mean 60!

40人のトランペット奏者がいたんだ!
まったく、とんでもないことだ。
ロサンゼルス中のトランペット奏者が集まっていた
ディジー・ガレスピーやマイルス・デイヴィス、リー・モーガン…有名な奏者ばかりだった。
40人のトランペット奏者、いや、60人だったかもしれない。

 このインタビュー後、ベイカーは滞在中のホテルの窓から転落し、その人生に自ら終止符を打った。


・Postnuclear Winterscenario No.10 [サックス四重奏]
 ゲットブラスターを利用しない純粋な器楽作品。JacobTV自身の解説を下記に引用する。
 
 1991年1月23日、第一次湾岸戦争が開戦した直後のことです。その頃、私は恐怖で口をきけなくなり、作曲もすることができないような状態にありました。核戦争の可能性も取り沙汰される中、マスコミは"核の冬"について連日報道しています。これは、気象学者によると、核兵器の使用に伴う爆発の粉塵や延焼によって巻き上げられた灰が地球を覆い、日光が遮られて生態系が破壊される、というものでした。
 私は、この恐怖を音楽で表すことを決意しました。ピアノに向かうこと数時間「Postnuclear Winterscenario No.1」が完成したのです。この時出来上がった音楽は、私がそれまで書いた中で、おそらく最もシンプルなものでした。ほぼ全ての音楽的要素を削ぎ落とし、核となるメロディはたったひとつ"ミ"の音…これは、曲中ずっと繰り返されます。ハーモニーは"シ、ラ、ソ、ファ#"の音の4つの音のみで構成しました。明確なリズム、口ずさめるようなメロディ、和声進行は、「Postnuclear Winterscenario」の中には存在しません。
 初演者であるKees Wieringaは、世界中でこの曲を演奏してくれました。彼は、イラクのバビロン遺跡の寺院で弾いてくれたこともあります。その後、たくさんの音楽家たちが、各種編成へのアレンジを依頼してきました。これまでに、弦楽四重奏、合唱、パーカッション、エレクトリックギター、オーケストラといった編成のために「Postnuclear Winterscenario」に基づいた作品を書いています。それぞれの作品は、外観上は異なったものですが、その根底にあるテーマはただひとつ…すなわち、戦争に対する恐怖なのです。


・White Flag No.4 [サックス四重奏+ゲットブラスター]
 2007年にエレクトリックギター、ベース、ドラムスのトリオのために書かれた、イラク戦争に対するJacobTVの反戦歌である。この戦争で退役したアメリカ海兵隊員、Robert Serraの衝撃的なスピーチ、そしてKristien Kerstensによる映像が、曲の基礎を形作っている。その内容は、次のようなものである。
 
 「動くものは…男も、女も、犬も、子供も、猫も…何であろうと、撃ち殺せ」と言われた。私たち兵士は、とにかくその命令のとおりに行動したんだ。
 ある町での戦闘の合間のことだ。遠くから、ブルカ(イスラム圏の女性の黒い衣装)を纏い、腕にバッグを持った女性がこちらに向かってくるのが見えた。戦闘用車両に乗っていた兵士は、彼女に向かって「止まれ!さもなくば撃つぞ!」と警告したが、いくら警告しても彼女は近づくことをやめないのだ。
 彼女が150ヤード(137メートル)くらいまで近づいた時、私は確信した。「彼女はこの車両に近づいて、自爆するつもりだ。」すぐさま銃を構えて放った2発の銃弾のうち、一発が彼女に当たった。ほんの僅かの間の出来事だった。続いて仲間の兵士が40ミリ口径のマシンガンを放った。
 何発もの弾丸を受けた彼女は地面へと倒れこみ、バッグの中から…白旗を…そう、爆弾でもなく、銃でもなく、白旗(White Flag)を取り出したのだ。
 私は銃を捨て、ただひたすらに泣くしかなかった。


・Grab It! [テナーサックス+ゲットブラスター]
 テナーサクソフォンとゲットブラスターのために書かれた「Grab It!」は、1999年の所産。オランダを中心に多方面に活動を展開しているサクソフォン奏者、アルノ・ボーンカンプに捧げられている。作品にリンクする映像は、Michael Zegers氏の手によるもの。
 スピーカーから聴こえてくるのは、1978年にアメリカで製作されたドキュメンタリー映画「Scared Straight!」の中で発せられる受刑者たちの声。彼らが憎しみや絶望を込めて発する言葉の力強さに心を打たれたJacobTVは、サクソフォン・ファミリーの中でもひときわ強い個性を持つテナーサクソフォンと、その「声」を掛け合わせることを思いついたという。
 初めは断片的だった彼らの叫びは、曲が進むにつれて徐々にその姿をはっきりと現す。「あいつは鉄パイプの片側に縄を引っ掛け、首を吊ったんだ。緑色のビニールシートに包まれた亡骸は、つま先に番号札を付けられて、外の世界に運び出されていった…でも、死んじまったら何もかもおしまいなんだよ!」…刑務所という絶望的な状況の中では、自殺という行為すら日常的な出来事なのだ。この曲のテーマは、死が身近にある状況の中で、生きることの価値を認識すること。メメント・モリ(生の中で死を想え)ならぬ、メメント・ヴィヴェレ(死の中で生を想え)のメッセージが、隅々に散りばめられているのだ。

2011/01/18

JacobTV Showの曲目解説:序文

昨年12月のJacobTV Showに曲目解説文を提供したが、その文章を公開しようと思う。ちなみに「Kaku!」の曲目解説については残念ながら公開できない。これは、当日聴けた人だけの特権、ということで(笑)。

まず最初に今日公開するのは、プログラム冊子冒頭に付け加えたJacobTV作品の紹介文である。「JacobTVの肖像」というタイトルで、800字程度を目標に書いた。面白いと思って書いたのだが、今読み返してみるとちょっと荒削りだなー。

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 今日の演奏会にお越しいただいたキッカケは何でしょうか。サックスが好き?大石氏のファン?VACANTの常連?その理由はどうあれ、本日はJacobTVの世界をたっぷりと堪能していただきましょう。
 JacobTVこと、ヤコブ=テル・フェルドハウス Jacob ter Veldhuisは、1951年オランダ生まれの作曲家。音楽家としてのキャリア初期においては、ロック・ミュジシャンとしての活動がメインだったそうですが、いつしか作曲の世界へと傾倒していきました。1980年にオランダの作曲賞を受賞して確固たる地位を確立し、それ以来、今日まで弛むことなくエキサイティングな創作活動を継続しています。
 JacobTVは、自らが創り出す音世界を"アヴァン・ポップ"と称しています。これはいわば、"ポップ・アート風のゲンダイオンガク"。世間一般に蔓延する現代音楽のイメージ…「難しい、良く判らない、美しくない」を根本からひっくり返し、ジャズやロックといった音楽ジャンルを取り込んで、まるでポップ音楽のような感覚で楽しめるような作品を次々に産み出しています。
 ポップな音楽の秘密は"ゲットブラスター"の活用です。聴きなれない言葉ですが、アウトドア用大音量ラジカセを表すオランダ語。1980年代のヒップホップ全盛期に、音楽を戸外で鳴らして踊るために使われたラジカセを想像してもらえれば良いでしょう。JacobTVは、サクソフォンを始めとするソロ楽器と、ゲットブラスターから流れる人の声をコラージュしたサウンドトラックとを組み合わせることで、現代音楽の世界に新たな地平を切り開きました。さらに一部の作品では、音楽と映像をリンクさせ、視覚的に訴えかける試みも。
 本日のメイン・パフォーマーである大石氏は、これまでも「Grab It!」を始めとするJacobTVの作品に何度も取り組んでおり、日本国内におけるJacobTV演奏のスペシャリストの一人です。今日は果たして、どんな刺激的な演奏が飛び出すのでしょうか。

2011/01/17

Musik'it Saxophone Vol.2

セルマーから出版されている音楽DVD、Musik'itだが、いつの間にかサクソフォン編のVol.2が発売開始していた。知らない方のために簡単に解説しておくと、サクソフォン学習者のためのサクソフォン作品の録音集で、参考演奏+プレイアロングトラックが60曲以上収録されているという充実した内容のメディアである。DVDと言っても演奏映像が収録されているわけではないのでその辺はご注意を。

…ということで、Vol.1に引き続いて買ってみた。ソリストは変わらずヴァンソン・ダヴィッド Vincent David氏、ピアノは交代して伊藤富美恵氏である。曲目リストが添付されていたが、Vol.1と同等の膨大な曲の量に驚いてしまった。ちなみに録音には符号化がかかっており、音質としては低い(ただ、普通に聴くぶんには十分だと思う)。この曲数を収めようとすれば、無理もないことだが。

Albert Beaucamp - Tarentelle
René Berthelot - Adage et Arabesque
René Berthelot - Siciliana Malinconica
Paul Bonneau - Suites
Eugène Bozza - Aria
Eugène Bozza - Pulcinella
Eugène Bozza - Prélude et divertissement
Eugène Bozza - Impromptu et Danse
Eugène Bozza - Scaramouche
Henri Busser - Asturias, op.84
Henri Busser - Aragon
André Caplet - Impression d'automne
Jacques Casterede - Pastorale
André Chailleux - Andante et Allegro
Jacques Charpentier - Gavambodi 2
Jean Michel Damase - Thème varié
Claude Delvincourt - Croquembouches
Edison Denisov - Deux Pièces
Pierre Max Dubois - Pièces caractéristiques en forme de suite
Pierre Max Dubois - Mazurka
René Ducros - Pièce brève
Paul Dukas - Alla Gitana
Pierre Durand - Saxoveloce
Thierry Escaich - Amélie's Dream
Jean Francaix - Cinq danses exotiques
Raymond Gallois Montbrun - Six pièces Musicales d'ètude
Jacques Ibert - Aria
Vincent D'Indy - Choral varié
Pedro Iturralde - Pequena czarda
André Jolivet - Fantaisie-Impromptu
Claude Henri Joubert - Barroco
Charles Koechlin - Etudes
Pierre Lantier - Andante et Final
Pierre Lantier - Sicilienne
Claude Pascal - Impromptu
Gabriel Pierne - Canzonetta, op.19
Robert Planel - Prélude et saltarelle
Maurice Ravel - Pièce en forme de habanera
Jeanine Rueff - Andantino et Scherzando
Jeanine Rueff - Chanson et passepied
Jean Baptiste Singelée - 5ème solo de concert
Jean Baptiste Singelée - Concertino, op.78
Alexandre Tcherepnine - Sonatine sportive
Henri Tomasi - Introduction et danse

また、Vol.1初学者向けということで曲のボリュームも押さえ気味だったが、今回は中級者向けのせいか、面白い曲が多い。普通にCDを作ったら3枚組か4枚組になりそうなところを、まとめて聴くことができるという点でお得だ。参考演奏を意識しているためか、あまり面白い演奏とは言えないかもしれないが、それでもさすがダヴィッド氏、伊藤氏ということで、演奏には付け入る隙すらない。お気に入りの演奏を見つけることもできるだろう。Vol.1よりはずっとオススメできる。

購入はセルマーのサイトからどうぞ。日本でも流通すれば良いのだが。

2011/01/16

Festivoとサクゴレンのジョイントコンサート2011

ゆうぽんさん夫妻他によって結成されたサクソフォン・アンサンブル"サクゴレン"を聴いてきた。四ッ谷の迎賓館付近を歩くのは初めてで、かなり余裕を持って到着したにも関わらず迷いまくり(そもそも駅との位置関係がイマイチわからなかった…)、一曲ぶん遅れて到着した。

【弦楽アンサンブル"Festivo"とサクソフォンアンサンブル"サクゴレン" ジョイントコンサート2011】
出演:アンサンブル"Festivo"、サクソフォンアンサンブル"サクゴレン"
日時:2011年1月16日(日曜) 13:30開演
会場:絵本塾ホール
プログラム:
~第1部(Festivo)~
踊り明かそう
ハウルの動く城
Batterfly
O.レスピーギ - リュートのための古風な舞曲とアリア
A.ヴィヴァルディ - 四季より"冬"

~第2部(サクゴレン)~
ゆうがたクインテットのテーマ
こぎつね
ハーレム・ノクターン
彼方の光
ドリカム・スペシャル・ソングブック
ひょっこりひょうたん島(アンコール)

~第3部(合同)~
M.ラヴェル - ボレロ
星条旗よ永遠なれ(アンコール)

第一部は、4vn,1va,1vcという珍しい編成の弦楽アンサンブル"Festivo"のステージ。会場に飛び込んで始めに聴いたのは「ハウルの動く城」のテーマ。…いやー、弦ってズルいなあ。こういうワルツのフワッとした感じは、サックスでは絶対に出すことができないだろう。それでも他の曲を聴いていくと、「やっぱりこれはサックスじゃなきゃ」と思うところもあった。例えば弓のアップから始まる時のフレーズ感や、基本的な音程(いくぶん聴き辛いところも…ゴニョゴニョ)、といった部分はサックスの方に軍配が上がるだろう。

それでも最後に演奏されたアントニオ・ヴィヴァルディの「四季より"冬"」は凄かった。Festivoを主宰するのは、とあるアマチュアオーケストラのコンマスの方なのだそうだが、三つの楽章に渡って見事なまでにソロをキメた。終わった後のその姿は輝かしくさえ見えた。いやー、びっくりた。

第2部がサクゴレンのステージ。あいさつ代わりに演奏された「ゆうがたクインテットのテーマ」が素晴らしく、一気に期待が高まる。そして「こぎつね」では、メンバー全員がきちんとポップスのバックグラウンドを持った演奏に感服。細かい仕掛け…しゃくりやグロウ、スウィングも、実にセンス良く曲中に織り込まれる。しかも、個々のバランスだけでなくアンサンブルとしてもかなり練り込まれている。凄かった。なんだかプロフェッショナルのきちんとしたステージを観ているみたいだ。MCはバリトンの"haratch"さんが務めていたがMCも凄く整っていて面白くて…。

「こぎつね」終わって楽器紹介。メンバーにマイクが渡っても、それぞれ個性的な紹介で楽しい。そしてゆったりとしたバラードも、イケイケ系統な曲も、丁寧なリハーサルの跡が見られる骨太なスタイル。「ハーレム・ノクターン(ゆうぽんさん・オン・ステージ!)」やドリカムメドレーなど、どれも心から楽しい演奏ばかりだった。素敵だなー。さらにパワーアップしたアンコールは、即興の振り付け(?)までついて会場大盛り上がり!いやはや。なんか凄すぎて涙が出てしまったのはここだけの話だっ。

第3部はふたつの団体合同で「ボレロ」の演奏。なんだか不思議なアレンジだった…?

ということで、初めてのサクゴレン体験は驚きの連続だった。東京にまたひとつ強力なアンサンブルが出てきたぞ、という感じ。こんどはもうちょっとシリアスな曲も聴いてみたいなー。月並みだが、例えばデザンクロとかパスカルとか、なんだか凄い演奏を聴かせてくれそうな気がする…。

2011/01/15

Dinant 2010:本選におけるSimon Diricq氏の演奏 on YouTube

今日は、大西智氏さんと打ち合わせだった。いろいろと話すことができて面白かった。

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なんだかもうずいぶん昔のことに思えるが、改めて第5回アドルフ・サックス国際コンクール(ディナン)の本選映像を見返してみた。一位はベルギーのSimon Diricq氏。本選での演奏曲目は、課題曲であるアンドレ・ウェニアン André Waigneinの「ラプソディ」と、選択曲であるフランク・マルタン「バラード」。

素晴らしい演奏だと感じた。いや、素晴らしい、というところに留まらず、感動的ですらある(ウェニアンは、曲も素敵だよなあ)。…心なしか、オーケストラも他の演奏者よりも気合いの入り方が違うような(笑)。

ウェニアン「ラプソディ」第1楽章


ウェニアン「ラプソディ」第2楽章&第3楽章


マルタン「バラード」前半


マルタン「バラード」後半

2011/01/14

このCDは木下直人氏の復刻!

以前の記事で取り上げたミュールの復刻CDについて、私は過去の記事で「音盤提供が木下直人氏、復刻は別のエンジニア」と書いた。しかし、どうやらそれは間違いであったようで、実は復刻も木下直人氏だとのこと(!)。もちろん、カートリッジはPierre Clement。

これは買いだ。これまでもブログに何度か書いているが、これ以上の環境でのミュールのSP復刻は事実上望めない。当時の再生環境…すなわちPierre Clementカートリッジでの復刻は、単なる音の復刻ではない。芸術と空気感の復刻である。Pierre Clementカートリッジでの復刻CDが、ギャルドに続いて、ミュールについても世に送り出されるとは…。喜ばしい限りである。

2011/01/13

Ralph Gari SQのCD?

NMLをさまよっていると、今まで気にもとめなかったような面白い盤を見つけることがある。ということで、また変テコな盤を見つけてしまった。

タイトルは「Saxophones Four(Orion Master Recording LAN0343)」。Ralph Gari Saxophone Quartetという、名前すら聞いたこともない団体のCDだ。NMLは消費者にとっては概ね利点くらいしか思い浮かばないのだが、ライナーノートを読むことができないのが苦しい。幸いにして、Harry R. Geeの「Saxophone Soloists and Their Music」にRalph Gariに関する記述を見つけることができたため、なんとか正体を掴むことができた。

Ralph Gariは、1927年生まれのサクソフォン奏者。幼い頃から幅広い音楽的キャリアを身につけ、サクソフォン以外にもクラリネット、フルート、オーボエを学んだそうだ。この時代のご多分にもれず、Gariはダンスバンドや劇場オーケストラの仕事を重ねながら次第にその地位を確立していったという。クラシックの奏者としてよりも、ジャズ畑での知名度のほうが高いのではないだろうか。1958年より、Sands Hotelのお抱えオーケストラの主席サクソフォン奏者、1959年にNBC専属オーケストラと南カリフォルニアの交響楽団での演奏活動を開始し、さらに1960年にはディズニーランド・バンド(!)の主席サクソフォン奏者となった。このころ、ディズニー映画のBGMで数多くの演奏を務めたそうだ。これだけ見るとクラシック奏者としての経歴は皆無だが、何気に1974年にボルドーで開かれたサクソフォンコングレスに参加している。1974年のコングレスのパンフレットを参照したところ、次のようなプログラムが書かれていた。

1974年7月5日 9:30 -
Ralph Gari, saxophone
Monique Vincent, pf
John Rarig - Danse Episode
William Reddie - Gypsy Fantasy
Pierre Vellones - Rapsodie, op.92
Jack Hayes - Concertino

そのGariが組んだ四重奏団が取り上げているのは、グラズノフ「四重奏曲」、ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」、デザンクロ「四重奏曲」という王道。演奏に関しては…正直、例えばピエルネやデザンクロなんかは、正直、既にこの時代にリリースされていたミュール四重奏団やデファイエ四重奏団の演奏とは技術的にも音楽的にも比べ物にならないが、とりあえず味わい深い、とだけ評しておこう。明らかな音ミスも数多い。

とは言え、こんな演奏を聴いたのも久々で、なんだか嬉しくなってしまった。何も無い状況から創り上げた演奏、アメリカの往年の奏者独特の甘い音色、わざとらしい電気的な残響、何もかも現代においてはほぼ失われてしまったものである。ピエルネやデザンクロの第1楽章など、無性に感動してしまった。ああ、なんだか良いなあ、素敵だなあ。

1986年1月5日の、ロサンゼルス・タイムズには、この盤(ただし、リリース媒体はLP)次のような記事が載っている。オランダサクソフォン四重奏団と比べられる、というのも面白い。

January 05, 1986 | EMMON SCOTT
"SAXOPHONES FOUR." Ralph Gari Saxophone Quartet. Orion ORS 85485. This record deserves the highest praise. Glazunov's B-flat Quartet seems a dull piece, yet it is here rendered with a spirit that lifts it to a higher plain, far above, a competing recording by the Netherlands Saxophone Quartet. Pierne's Introduction and Variations is a jewel here polished to finest splendor. The music surges forward without losing its clarity and phrasing. And the sound of Ralph Gari's soprano saxophone at times casts a spell so sweet that the tone alone, shorn of all else, would still be music, or at least a pleasant substitute.

2011/01/12

Michel Lysight - Chronographie

ミシェル・リサイト Michel Lysightは、1958年カナダ系ベルギー人。現在は作曲家・指揮者として活動している。

Schaerbeekアカデミーにおいてピアノを学び、1981年には政府よりメダルを授与された。
また、Université Libre de Bruxelles(ブリュッセル自由大学)において1976年から1978年まで芸術史を学び、その2年後にConservatoire Royal de Musique de Bruxelles(王立ブリュッセル音楽院)に入学した。ここでは音楽史、ソルフェージュ、教育学、和声、対位法、フーガ、バソンを学び、全ての分野で一等賞を得ている。また、指揮法をRené Defossezに学び、1997年に一等賞と特別賞を得、続いて2002年には同音楽院のRobert Janssensのディプロマ・クラスを卒業している。

作曲の分野においては、1989年にConservatoire Royal de Musique de Mons(モンス王立音楽院)のPaul-Baudouin Michelのクラスにおいてフルートとピアノのための「Soleil bleu」が賞を得た。同年、木管アンサンブルのための「Dexia bank」が委嘱されている。木管4重奏のための「Quatrain」は、1990年にAcadémie Royale des Beaux-Arts de BelgiqueのIrène Fuérison賞を得ている。また、1992年にはAcadémie Internationale de Lutèceより国際作曲コンクールで銀メダルを授与されている。さらに、1997年にはベルギー作曲連盟から邦人作品の発展に貢献した理由から「Trophée Fuga 1997」が授与されている。彼の音楽はSteve Reich、John Adams、Arvo Pärt、Henrik Mikolaj Goreckiらの影響を受けており、それぞれが彼の音楽上の個性を形成するターニングポイントとなっている。

1991年には、アンサンブル「Nouvelles Consonances」を結成した。このアンサンブルは、自作の普及と作品録音のために創設された。

リサイトは、ベルギー作曲家連盟"Sabam"、Centre Belge de Documentation Musicale(CeBeDeM)の各メンバーである。これまでに手がけた作品は50を超えるが、多くがCDにレコーディングされている。例えば、「Labyrinthes」 はCyprèsレーベルにおいてレコーディングされ、「Ritual」はKalidiscレーベルにレコーディングされている。

また、教育の分野においては、Royal Brussels Conservatory(王立ブリュッセル音楽院)において教授職にある。また、Kaufmann European Music Competitionの審査員を務めている。また、トルコのBilkent University of Ankaraのマスタークラスに定期的に招聘されている。

(以上、公式ページより)

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ということで、ミシェル・リサイトである。「Chronographie IX」という作品がディナンの国際コンクールで課題曲に取り上げられることが多く、興味を持っていた。そう、往々にして一次にはベルギーの作曲家の作品が頻繁に登場するが、そのなかでも特に良い内容を持つ作品だと感じた。「2006年にアドルフ・サックス国際コンクールのために作曲された」という記述を見かけたのだが、本当のところはどうなのか。ご存じの方はぜひ教えてください。

角口圭都さんのディナンでの演奏があったので貼りつけておく。バッハに続いて「Chronographie IX」が演奏される。


また、「Chronographie VII」という作品にも興味がある。同じくサクソフォンとピアノのための作品だ。ここのリンク先の楽譜販売サイトでMIDIファイルを試聴できるが、ライヒやアダムズの影響を受けた、と経歴に書いてあるとおりに、こちらのほうからはミニマル・ミュージックの影響を強く感じることができる。

2011/01/11

國末貞仁&中村真理門下発表会2011

【國末貞仁&中村真理門下発表会】
日時:2010年1月9日(日曜)13:00開演
会場:ドルチェ・アーティストサロン(ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京内)

静岡の"あかいけ"さんのご案内により聴いてきた。そういえば、あかいけさんにお会いするのも久々だ。一番最初にお会いしたのは2007年のドゥラングル教授の伝説的なリサイタル@静岡音楽館AOIにて、だったが、それから3年以上も経つのか。京青さんのご紹介していただき、それ以来、主にデファイエ関連の録音のやりとりを頻繁に行なった。大変貴重な録音を数多くお送りいただき、木下直人さん、島根県のFさんとともに、私のサクソフォンに関する歴史的録音の研究が進むきっかけを作ってくださった方だ。

門下発表会、本当にいろいろな演奏がある。そして、演奏者を見守るお二人…國末さんと中村さんの後ろ姿も印象的であった。毎回、國末さんと中村さんの生徒は合同で発表会を行っているそうだが、ピアノのときは中村さんが、サックスのときは國末さんが、という具合に、それぞれ不安と嬉しさと緊張が入り交じったその気持ちを背中から感じさせ、それは親を見守る子供のようなもので、きっと私たちは簡単には理解出来ない感情なのだろうとも思った。

あかいけさんは、ジャニーヌ・リュエフ「ソナタ」を演奏していた。アマチュアがこの曲に取り組むというのもすごいことだが、これまでにもデザンクロの「PCF」やP.スパークの「カーニヴァル」等演奏しているということだから、凄いことだ。美しいヴィブラートを伴った第2楽章が印象的であった。サイドキーのキラキラした音は、デファイエを意識してのことだろうか(テンポ設定も?)。

牧さんとか、久々に会う方もいらっしゃったりして、また後半のプログラムも面白そうだったのだが、自分の練習のため、聴けずに退散することになってしまった(^^;ちょっと残念なり。

2011/01/10

Armand Qualliotineの室内楽作品集

Armand Qualliotineは、アメリカ生まれの作曲家で、現在バークリー音楽院の作曲科教授を務めている。自身がギター奏者だったことから、作曲以外にギターを教えていたこともあるようだ。あまり聞いたことの名前であったので、少し興味が湧いて彼の室内楽作品集を聴いてみた。おなじみAlbanyレーベルからの出版、相変わらずLR分離がやや弱いこもり気味の録音だ(苦笑)。

「ARMAND QUALLIOTINE Chamber Works(Albany Troy935)」
全てArmand Qualliotine氏の作品:
BACH Fantasia [Radnofsky SQ, John McDonald, pf]
Hummingbird [Pei-Chun Lin, pic, Anny Chang, pf]
Love Feat of the Fireflies [Kenneth Radnofsky, ssax, John McDonald, pf]
Phonocopia [Jill Dreeben, pic&fl, Linda Bento-Rei, fl, Avien O'Leary, alt.fl]
Terzetto [Kenneth Radnofsky, asax, Emmanuel Feldman, vc, John McDonald, pf]
La Farfalla Verdi [AUROS Group for New Music]

サクソフォンが含まれている作品だけざっと聴いてみた。とてもジトッとした暗い雰囲気のなかに、煌めくような美しさを見出すことができる。あまりこれまでには聴いたことないタイプの音楽だ。Radnofsky Saxophone Quartetが演奏する「BACH Fantasia」は、タイトル通りにBACHの音列からヒントを得た作品。もともとの音列も暗いが、その雰囲気をそのまま継承して肉付けしたような感じ。サクソフォン四重奏とピアノという編成はありそうであまりないが、デニゾフを始めとする他の傑作たちと比較してしまうとちょっと厳しいか。

ソプラノサックスとピアノで演奏される「Love Feat of the Fireflies」は、このCDで聴くことのできる(サクソフォンが含まれている)作品のなかでは一番好きかな。ありふれた編成だが、あるフレーズをどう響かせれば美しいのか、ということが確信を持って書かれているため、美しいものを美しいと感じることができる。「Terzetto」は、珍しや、サクソフォン、チェロ、ピアノという編成。他の2曲と比べると、楽章が4つに分かれていることもあり最も起伏に富んでいる。3楽章まではなんだか良く解らないなあと思いながら聴いたのだが、4楽章が充実した音楽的内容で驚いた。

2011/01/09

三連休

(携帯から更新)

年明けの仕事が始まったと思ったら連休。調子が狂ってしまうというか、年末年始明けのリハビリにはちょうど良いというか。

昨日はTsukuba Saxophone Quartetの練習だった。バッハを練習したかったが、吉松作品が重く時間が取れなかった。どちらも難しい。速い曲での楽器のコントロールが苦手。

今日はサクソフォン交流会関係の仕事をしたあと、あかいけさんにご案内いただき、ドルチェ楽器で國末先生門下の発表会を少しだけ聴いてきた。牧さんにお会いするのも久々だったなあ(残念ながら演奏は聴けなかった)。この発表会の感想は、また後日きちんと書こうと思っている。

その発表会を聴いて、今はつくばでのラージアンサンブル練習に向かっているところ。このまま泊まり、明日はつくば市で個人練習をしようと考えている。

2011/01/08

大宅裕さんのプライベートコンサート

昨日は、ピアニスト大宅裕さんのプライベートコンサートに伺った。

【大宅裕プライベートコンサート】
出演:大宅裕(pf.)
日時:2011年1月7日(金曜)20:00開演
会場:北里楽器レンタルスタジオ"フェルマータ"スタジオ001
プログラム:Morton Feldman - Triadic Memories

大宅裕さん、そしてコーディネイターの短いコメントののち、ごく小さな空間のなかで、空調を全て消し、最近はほとんど経験したことのなかった静寂のなかから始まる。

大宅裕さんのピアノソロはこれまでも聴いたことがあって(確かウストヴォリスカヤの「ソナタ」)、聴くたびに特にそのタッチに大宅裕さんの個性を感じている。そのタッチをひと言で表すなら「肉感的」。指で押しているのは鍵盤だが、ハンマーの先端に指がそのままくっついてて(想像するとちょっと不気味だが)指でピアノ線を叩いているような音色がピアノから飛び出すのだ。

曲は全編通して美しいppp。まずは執拗に繰り返されるメロディパターンと和声に意識が集中していた。10分くらい過ぎたところから感覚が研ぎ澄まされてきて、まずは指と鍵盤が触れ合う音が聞こえてきた。次に聞こえてきたのはピアノのメカの音…鍵盤が押されて木製の噛み合わせを伝ってハンマーが動き出す…が耳に入ってきた。さらに、ハンマーが当たってピアノ線が震え出す瞬間の弦の振動、ハンマーが離れてピアノ線が自由になったあとの不規則なうねり、そして減衰の様子がくっきりと浮かび上がってきた。

このような体験は初めてだ。普段ピアノの曲を聴くときに気にすることなど、曲のメロディと和声とリズム、あとはプレイヤーごとの音色くらいだが、ごくごくシンプルな曲想と繰り返し、さらに小さい空間でのライヴであったことが、普段気付かないピアノ演奏の要素を認識するきっかけとなったのだろう。

ずっと聴いていたい感覚に襲われた。頬をピアノの側面にくっつけて、ピアノの音を、振動を、表面の温度を感じ取っているような不思議な体験。じっと静止しているうちに、脳と目と耳だけが身体を離れて会場をフワフワと浮遊してピアノに、鍵盤に、メカに、ハンマーに、ピアノ線にゆっくりと近づいていった。そんななかでも理性を保っていられたのは、大宅さんの演奏のおかげだ。フレーズごとに見事なまでに音色を替え、繰り返しの中にも絶妙な変化をつけ、あくまでも音楽として作品を捉えている。大脳皮質でから湧き出る、これは「音楽」だ。例えば、もしこれをずっと同じパターンで演奏する機械などを使った演奏を聞いたら、普通の精神状態ではいられなくなってしまったかもしれない。

最後の美しいフレーズを繰り返し、最後の一音が宙に消えてなくなった後の長い静寂。ふと気づけば80分超が経過していた。非日常的な体験…長い長い旅を経て現実世界に戻ってきたような。新年早々すごいものを聴いてしまった。

コンサート後は、江古田の飲み屋で大宅さんを囲んで一杯。久々に味わう日本酒が美味しかった。

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大家さんが、モートン・フェルドマン「トライアディック・メモリーズ」について解説した文章を転載しておく。

Yutaka Oya: Triadic memories is one of my earliest experiences of contemporary music; I heard it for the first time in the version by Jean-Luc Fafchamps early in the 90s, and it made a great impression on me. It is music that has great beauty and intensity. It is also a very difficult work that requires great concentration. It comprises a large number of parts in which a few bars are repeated in an unpredictable way, first twice, then three or four times, up to eleven times, and often in the middle of a bar. The pianist has to find the proper balance between the repetition and the minor and especially rhythmic variations. Feldman indicated that the whole work must be played in triple pianissimo and in this way he accentuates the most beautiful sounds of the piano, touching the strings softly rather than attacking them. The pianist controls the quality of the sound, but precisely by abstaining from responding himself he creates the emotion that is inherent in the work. This is what is so fascinating about Feldman: the musician must efface himself completely and is the devoted servant of the music.

2011/01/06

ミカラ・ペトリ with コペンハーゲンSQ

現代の最も優れたリコーダー奏者のひとりとして、ミカラ・ペトリ Michala Petriの名がすぐに挙がるだろう。彼女の名前を知らなずして管楽器を吹いてはいられまい。圧倒的なテクニックと音楽性でリコーダー界に君臨し、世界中の著名な奏者・オーケストラと共演、その美貌も相まって聴衆からの人気も高いプレーヤーである。

なんとそのミカラ・ペトリが、サクソフォンと共演したアルバムが存在する。しかも、あのコペンハーゲンサクソフォン四重奏団と、である。コペンハーゲンSQは、パスカルとリュエフが収録されたアルバムでは悪名高い事この上ないが(失礼)、そういえばミカラ・ペトリはデンマークの出身であった。たしかに共演することに不思議はないのだろう。

「Scarlatti(Classico CLASSCD489)」というタイトルのスカルラッティ作品集で、ミカラ・ペトリとの共演は2曲のみ「Sonata in D minor, K.90/L.106/P.9」「Solo Sonata in D minor, K.89/L.211/P.12」である。他にはサクソフォン四重奏のみの編成で、10曲の鍵盤ソナタが収録されている。

聴いてみると、さすがにリコーダーとサクソフォンということで、やや不自然…おそらく、リコーダーだけオンマイクで収録してバランスをいじっているのだろう。そのせいで、想像していた響きとはかけ離れた音が聴こえてくるのだが、慣れてしまえばOK。自在、かつどこまでも可愛らしくフレーズをもて遊ぶペトリの明るい音楽性に感嘆するばかりである。コペンハーゲンSQのメンバーは、音色のコントロール含めてかなり控えめで、そのギャップがちょっとおかしくもある。

ペトリの演奏も、他の録音で聴かれるような圧倒的な覇気はややここでは薄まっており、完全という状態ではないとも感じられた。50歳記念のクレメラータ・バルティカとの共演ライヴ録音などと聴き比べてしまうと、さすがに分が悪いか。コペンハーゲンSQに受け止められるだけの器がなかったのか、それともペトリが単に気乗りしていないだけなのか判らないが(笑)。

とはいえ、世界最強のリコーダーとサクソフォンの共演などめったに聴けるものではないから、貴重な録音である。ぜひ探して、聴いてみていただきたい。

2011/01/05

ミュールの新復刻盤

マルセル・ミュールの新復刻盤の情報。

グリーンドア音楽出版より、マルセル・ミュールの新たな復刻盤が発売となった。今回復刻されたのは1940年代~1950年代の録音で、セルマー、デッカが出版したSPに含まれているものを中心に、パリ四重奏団、ピアノとのデュエットなどが収録されている。音盤提供は、おなじみ木下直人氏(残念ながら復刻は木下氏ではない 訂正:復刻も木下直人氏だとのこと!しかもPierre Clementカートリッジ)である。今回が初めてのCD化となる録音も数多く含まれており、貴重である。

アレクサンドル・グラズノフ - カンツォーナ ヴァリエ~スケルツォ…サクソフォン四重奏曲 作品109 Ⅱ楽章より
ルイジ・ボッケリーニ - メヌエット
ピエール・ヴェローヌ - イルカ…8つの子供の小品より
ドメニコ・スカルラッティ - スケルツォ…クラブサン・ソナタ K.519/L475より
ニコライ・リムスキー=コルサコフ - 熊ん蜂の飛行
フリッツ・クライスラー - クープランの様式による才たけた貴婦人 
フリッツ・クライスラー - 愛の喜び
ジャック・イベール - 机の下で…子供のためのピアノ小品集「物語」より
ポール・ボノー - ワルツ形式によるカプリス
モンドンヴィユ - タンブーラン
フランソワ・ゴセック - ロンドとタランテラ…村祭りより
ガブリエル・ピエルネ - カンツォネッタ 作品19
ジャック・イベール - アリア 変ニ長調
エンリケ・グラナドス - スペイン舞曲 作品37より…5番アンダルーサ
モーリス・ラヴェル - ハバネラ形式による小品
アレクサンドル・ローレンス - パヴァーヌと速いメヌエット
ベートーヴェン - メヌエット
ジャン=フィリップ・ラモー - ガヴォット…歌劇”栄光の殿堂” より
エンリケ・グラナドス - 間奏曲…ゴイェスカスより

このトラックリストだが、以前木下さんに送っていただいたCD-Rと並び順が同じで、驚いてしまった。というわけで、木下氏による復刻の音盤を所持しているのだが、聴き比べる意味でも入手しようと考えている。Amazonではまだ取り扱いを開始していないが、いずれ買えるようになるだろう。

2011/01/04

ララン氏のスカラムーシュ

昨日は、鈍行で長野の実家から東京まで帰ってみた。実家の最寄り駅から東京のアパートの最寄り駅までぴったり5時間。携帯音楽プレーヤーで楽しんでいたら、あっという間だった。

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必要があって、ダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」の録音(サクソフォン+ピアノ版)をいくつか聴いてみた。ぱっと思いつくのが須川展也氏、クロード・ドゥラングル氏、ジェローム・ララン氏、ジャン=マリー・ロンデックス氏あたりの各録音。技術的な部分は完全にクリアした上で、どれも個性的で面白いのだが、聴き比べてみて一番良いなあと思ったのがジェローム・ララン氏の録音だった。

この曲は細かい仕掛けが多く曲芸的に演奏しようと思えば演奏できるのだが、なんとなく今日は極端な中断やダイナミクスよりも、もっともっと自然な演奏が聴きたいと思っていたところだった。ララン氏の演奏は、ピアノ(棚田文則氏)ともども、全楽章にわたって実にスッキリと聴かせている。あまりラテン音楽っぽくなくて、本当にお洒落なフランス音楽そのもの、という感じ。サクソフォンというよりもクラリネットあたりを耳にしているような気になる。

ララン氏の演奏は、サクソフォンの自在なコントロールとすっきりした音色などでもって、現代のフレンチ・サクソフォンを最良の形態で具現化した例のひとつだ。ごくごく自然体、特殊奏法とかフラジオとか一切無い状況で、鼻歌でも歌うようにスラスラと音符を並べていく。一見簡単そうに見えることを、自然に湧き出るがごとく演奏しているのが素敵である。

CDではないがYouTubeでミーハ・ロギーナ Miha Rogina氏と李早恵氏のDuo Kalypsoの演奏を聴くことができる。こちらも、ララン氏と同じ傾向の演奏だと言えると思う。
第1楽章:http://www.youtube.com/watch?v=kIM4pe3W-YA
第2楽章:http://www.youtube.com/watch?v=xdAhvfZsMDw
第3楽章:http://www.youtube.com/watch?v=O-X7r-qrfds

2011/01/03

Facebook

世界最大のSNSということで何かと話題の「Facebook」を頻繁に利用するようになった。

これまではTwitterをそれなりに利用していたが、Twitterと比較してメディア(写真・リンク)のシェアがやりやすいこと、海外の利用者との交流を持ちやすいこと、グループを作成できること、などいくつかの利点がある。そのため、Twitterは既にほとんどほったらかしで、Facebookをメインに利用し始めた。

使い始めはなかなか面白さがよく判らなかったが、大学時代の仲間がいろいろと活用しているのを眺めつつ試行錯誤しているうちに、いつの間にか楽しく利用するようになった。アプリケーションの追加によりいろいろと機能を追加することもでき、使い方の拡がりがあるところも面白いと思う(アプリの活用ここについてはまだまだこれからだが)。

サックス界では最近Twitterが拡がる傾向があるが、その次はFacebookが来るのではないかな…と予想。今後、私はTwitterのほうを段階的にトーンダウンさせて、Facebookを積極的に使っていこうと考えている。

JASRACからの請求:顛末

以前、2年前の演奏会に対してJASRACから演奏料の請求があった話を紹介した。初めてJASRACからコンタクトがあったときに、次のような説明を受けた。

「入場料無料のアマチュアの演奏会にゲスト(ギャラあり)が出演し、その演奏会にJASRAC管理曲目が含まれていた場合、その管理曲目に対して演奏料がかかる。」

請求のきっかけとなったTsukuba Saxophone QuartetのSaxophone Concert Vol.2を例にして考えてみよう。同演奏会は、次のようなプログラムだった。

客演(*):松雪明
C.サン=サーンス「オーボエ・ソナタ」(ssax, pf)
C.A.ドビュッシー「チェロ・ソナタ」(bsax, pf)
J.t.フェルドハウス「Grab It!」(tsax, ghettoblaster)
J.フェルド「サクソフォン四重奏曲」より1,5(4sax)
*A.K.グラズノフ/柏原卓之「サクソフォン協奏曲」(solosax, 8sax div)
*G.ホルスト/TsukubaSQ「セント・ポール組曲」(8sax div)
*伊藤康英「木星のファンタジー」(8sax div アンコール)

このうち、JASRACの管理楽曲は、フェルドハウス「Grab It!」、A.K.グラズノフ「サクソフォン協奏曲」、伊藤康英「木星のファンタジー」である。上のJASRACの説明からすると、この3曲全てについて演奏料がかかることになる。フェルドハウス「Grab It!」においてはゲスト奏者が客演していないにもかかわらず、である。納得がいかなかったのだが、演奏料も安いし、交渉すればするだけ時間が無駄になってしまうしで、結果的にマイナスの側面のほうが大きかったため、疑問を言うだけ言って大人しく支払うことにした。

ということで、上の説明を鵜呑みにして(だって、著作権云々に関しては、相手はプロフェッショナルですからね)、請求書を待ち構えていたところ、なななんと!請求書の到着とともに別の説明を受けた。それによると、上の説明は間違っており、正しくは次の通りだとのこと。

「入場無料のアマチュアの演奏会にゲスト(ギャラあり)が出演し、ゲストがJASRAC管理曲目を演奏した場合、その対象楽曲に対して演奏料がかかる。」

つまり、演奏料がかかるのはA.K.グラズノフ「サクソフォン協奏曲」、伊藤康英「木星のファンタジー」だということだ。以前の記事、私自身の知識のなさを嘆いたが、まあ、著作権のプロフェッショナルであるJASRACの職員にしてこの程度の知識で仕事をしているくらいなのだ。これがプロの仕事か?…かなりイラッとしつつ、とにかく無知は罪であるとの思いを強くした出来事であった。

2011/01/02

第3回JML国際コンクール審査員

2011年7月に開催される、第3回ジャン=マリー・ロンデックス国際サクソフォンコンクール The Third Jean-Marie Londeix International Saxophone Competitionの審査員が、いつの間にか公式ページ上で発表されていた。それによると:

Jean-Marie Londeix, President of Jury
Dr. William Street, Coordinator
Arno Bornkamp
Lars Mlekusch
Daniel Kientzy
Debra Richtmeyer
Narong Prangcharoen

とのこと。凄いメンツだ…まず目を引くのは、何と言ってもダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏!!あまりコンクールの審査員などに登場するイメージはなかったのだが、まさかここに審査員として登場するとは…驚いた。サクソフォン奏者にとっては、この人の前で現代作品を吹くことは、恐れ多くもあり名誉なことでもあり…というとことではないだろうか。

アルノ・ボーンカンプ、デブラ・リヒトマイアーの両名については、いまさら説明の必要もないだろう。Lars Mlekuschという方の名前は初めて聞いたが、この方はウィーン音楽院のサクソフォン科教授だそうだ。また、Narong Prangcharoen氏は、サクソフォン奏者ではなく、作曲家。調べてみたところ、公式ページがあった。

2011/01/01

アニヴァーサリー作曲家

2011年…ピアノ界ではフランツ・リストの生誕200年などと騒がれているようだが、リストはサクソフォンのために作品を書いていないし、いまいちピンと来ない。そこで、新年恒例、声楽家・松平敬氏の「アニヴァーサリー調査」を眺めてみたところ…ふっふっふ、良い感じの「アニヴァーサリー」がたくさんあるではないか(´ー`)

"ニーノ・ロータ生誕100周年"
ちょうどニーノ・ロータに関連した作品を、Tsukuba Saxophone Quartetで演奏しようと考えているため、なんだかタイムリーだと感じる。映画音楽のみならず純粋なクラシック音楽の作曲家としても活躍したとのことだが、私自身、映画音楽以外のニーノ・ロータ作品は良く判っていない。やはりニーノ・ロータの真髄は映画音楽にあると感じるのだ。特にフェデリコ・フェリーニとタッグを組んだときの、驚異的に美しい映像に付与される、人間の血が通っているような音楽こそ、まさに映画音楽の巨匠と評されるにふさわしい。
YouTubeの映像を貼り付けておく。8 1/2(はっかにぶんのいち)で、大女"サラギーナ"が砂浜でルンバを踊るシーンだ。夢のように光輝く幻想世界、そこに割って入るニーノ・ロータのルンバ。8 1/2でも評価が高い場面のひとつである。



"アラン・ペッテション生誕100周年"
サクソフォン吹きなら誰もが知っている(はず)「交響曲第16番」のペッテションである。そもそも、ニーノ・ロータと同じ年の生まれだということが驚きだ。悲劇的な人生のイメージばかりが強く、楽曲そのもの私も聴いた作品は「交響曲第7番」「交響曲第16番」くらい。ということで、新年早々NMLで「交響曲第5番」を聴いてみた。…うっ、く、暗い。新たな年の初めに聴くものではないかもしれない。
第5番といえば、ベートーヴェンでありメンデルスゾーンでありチャイコフスキーでありショスタコーヴィチだが、ここまで救いようのない第5番も他にはないと感じた。今年は他の交響曲も、少しずつ聴いてみることとしよう。

第5番を聴いておきながら、ここでは再び第7番と第16番のCDを紹介する。Amazonへのリンクはこちら→「Allan Pettersson: Symphony 7 & 16(Swedish Society SCD 1002))」。「交響曲第16番」はジョン=エドワルド・ケリーが参加した盤もあるが、ヘムケ氏が参加しているこの盤が大変素晴らしい。オーケストラのffと対等に渡り合うヘムケ氏の輝かしいサクソフォンは、「オーケストラ+サクソフォン」という編成の録音媒体の中では、最高のものの一つだ。

"パーシー・グレインジャー没後50年"
サクソフォンとは関わりが深い作曲家。以前ブログの記事でも取り上げたが、グレインジャーは第一次世界大戦従軍時に音楽隊でサクソフォンとオーボエを吹いていたということで、サクソフォン吹きとしてのキャリアは筋金入りだ。ただ、例えばサクソフォンのソロ作品があったりするわけではなく、専ら管楽アンサンブル作品、サクソフォンラージ作品の中での用法に限定されるのが、ちょっと意外なところ。

…ということで、サクソフォンとの関わりはとりあえず置いておいて(いいのかっ)、このCD「グレインジャー・エディション15 管弦楽作品集3(Chandos CHAN9839)」を聴いた。私が大好きな三つの吹奏楽曲のうちのひとつ、「ローマの権力とキリスト教徒の心」のオーケストラ版が収録されている。吹奏楽版よりも壮大な印象。大伽藍…じゃなかった、大聖堂のような巨大な建築物の前に立ち尽くしているような、そんな気分にすらさせられる。幸いNMLにはシャンドスのグレインジャー作品集がすべて揃っている。2011年、グレインジャーに関してはここから聴いていこうかな。