吹奏楽を聴くことはふだんあまりないのだが、お知り合いが3人も出演(しかもみんなバリトンサックスだ)されるとのことでご案内をいただき、伺った。サントリーホールに入るのなんて、いつ以来だろうか。いつだったか、須川展也さんと東京佼成ウインドオーケストラが共演した協奏曲尽くしのコンサートがあったが、もしかしたらそれ以来かもしれない。
私は吹奏楽畑の出身なので、佐川聖二氏の名前はもちろん聴いたことがある。文教大学吹奏楽部やグラールWOを始めとする数々のバンドを指揮し、全国大会へ幾度となく導いた、国内吹奏楽界を代表する指導者の一人だ。また、クラリネット奏者としても活躍し、長きに渡って東京交響楽団の主席奏者を務めた。ん、ということは、かつては十亀正司氏と並んで吹いていたってこと?そう考えると面白いな。また、アーノルド作品のインタプリターの筆頭格としても知られ、例えばあの有名な「第六の幸福をもたらす宿」などが国内で有名になったのは、佐川氏の功績によるとことが大きいだろう。
演奏会は、司会の石尾和子氏によるナレーション、そして鈴木英史氏と天野正道氏の"観客置いてけぼり系(笑)の暴走インタビュー"を挟みながら(この2人を相手にした時の、石尾氏のプロ根性がすごかった)、とても和やかな雰囲気の中で行われた。ずいぶんとホールが埋まっていたが、どういう方々だったのだろうか。佐川氏の教えを受けたことのある人たちばかり…ということでもなさそうだったが。
♪文教大学吹奏楽部
S.ラフマニノフ/瀬尾宗利 - 交響曲第2番より第3楽章(クラリネット:佐川聖二)
M.アーノルド/瀬尾宗利 - 交響曲第5番より第2,4楽章
M.アーノルド/瀬尾宗利 - 組曲「第六の幸福をもたらす宿」より第3楽章
トップバッターからさすがの演奏。全国常連だけあって発音の美しさや弱音における安定感は、素晴らしいものがあるなあ。自分の観ていた位置(上手の3列目)だと、ファゴットの良い音が飛んできた。「第六の幸福をもたらす宿」は、良く知っている曲であるということもあり、ドラマチックな曲作りにちょっと感動。
♪中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
E.ゴールドマン - 木かげの散歩道
E.カールマン/鈴木英史 - 喜歌劇「伯爵夫人マリツァ」セレクション
M.アーノルド/瀬尾宗利 - 交響曲第4番より第1,3,4楽章
こちらもレベルが高いバンドだ(中央大学の吹奏楽って、けっこう有名だよなあ)。「木かげの散歩道」のような、何のこともないような小品すら楽しく聴かせてしまうあたりは、やっぱり佐川氏への信頼あってのものだろうか。あとは、鈴木氏の編曲による「伯爵夫人マリツァ」が楽しかった。
♪デアクライス・ブラスオルケスター
鈴木英史 - ファンファーレ"S-E-A"
A.リード - Sea Scape(トロンボーン:荻野昇)
鈴木英史 - 大いなる約束の大地~チンギス・ハン
結成してまだ一年足らずのバンドだということだが、サウンドとして良く練られており、もともと何かつながりがあった吹奏楽団なのではないかなあ。東京交響楽団の荻野氏のトロンボーンソロの、感動的なこと!あとは、「チンギス・ハン」の冒頭で大見得を切ったフルートに、大喝采。ええと、ショスタコの7番が引用されていたのってこの曲だったかな?。
♪ソールリジェール吹奏楽団
S.ラフマニノフ/石毛里佳 - ヴォカリース(クラリネット:佐川聖二)
J.スウェアリンジェン - ロマネスク
R.ワーグナー/L.カイリエ - 歌劇「ローエングリン」より"エルザの大聖堂への行列"
ラフマニノフのアレンジャーだが、こんなところで石毛氏の名前を見るとは。途中からジャズ風に変わる仕掛けが施されており、PA機材を使って、技巧的なソロをこなしていく、佐川氏のプレイヤーとしての能力の高さをこんなところでも思い知った。エルザも素敵だったなあ。
♪グラールウインドオーケストラ
真島俊夫 - 「Birds」より第1,2楽章(サクソフォン:福本信太郎)
天野正道 - アダジオ・スロヴァンスキ
あ。「時の逝く」の委嘱元のバンドじゃないかな。今回はとにかく「Birds」のすばらしさに尽きたと思う。福本氏のサクソフォンは本当に上手くて、曲の素晴らしさとあいまって、客席としても大変集中して聴き入っているのを感じた。第2楽章"シーガル"の美しさは、筆舌に尽くし難い。
♪合同演奏
天野正道 - Hommage à maestro Seiji Sagawa(クラリネット:佐川聖二)
鈴木英史 - 吹奏楽のためのプレリュード~時計台の鐘の旋律による
P.チャイコフスキー/V.ハドレー - スラヴ行進曲
O.レスピーギ/木村吉宏 - 交響詩「ローマの松」より"アッピア街道の松"
E.エルガー - 威風堂々第1番~ハッピー・バースデイ(アンコール)
今回の出場団体の中から、合計170名ほどのメンバーが集った合同バンドという編成。天野氏の新作は、「...Seiji Sagawa...」の言葉を無理やり音列に変換し、ジャズ風のコードプログレッション上に展開した作品。どんな音になるのかなあと思いきや、意外にも聴きやすい印象で、びっくり。鈴木氏の「時計台」は、おなじみですね。スラブ行進曲、アッピア街道の松は、どちらも祝祭的な雰囲気を湛えたおおらかで感動的な演奏。特にアッピアでは、サントリーホールの5ヶ所に総勢50名ほどのバンダを配置した大迫力の演奏を堪能した。
エルガーでは、なんと最後のテーマに戻る直前からハッピーバースデーへとサプライズ的につなぐ演出付き(もちろん佐川氏は知らず)。うおおお。びっくりしたが、これは楽しかったなあ。
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終演は、予定を大幅に過ぎて17:50。この後、加藤里志氏の演奏会に伺う予定だったが、さすがにあきらめました(^^;