木下直人さんより以前頂戴した、イベールの「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の録音を聴いている。Piérre Clémentのカートリッジによる、世界最高の復刻。その辺に売っている(失礼!)復刻CDなど、問題にならないほどの鮮明な音質、手で触れることができるような肉感的な印象を受ける。SPって、ノイズの抜きにすれば、こんなにすばらしい音を出すことができるのだなあ。
演奏も、勢いがあって、みずみずしくて、これは「生まれたての音楽」そのものだと思う。ラッシャーのヴィルトゥオジティに感銘を受けたイベールが、インスピレーションをそのままに楽譜へと書き写し、その楽譜を、さらにミュールがフィリップ・ゴーベールとともに解釈し、一発録りでSPに吹き込んだのだと。今聴くと「イベールはイベール」ということなのだろうが、当時としては本当に最先端の出来事だったんだなあと想いを馳せる。
そんな瞬間に立ち会うことができなかったのは残念だが、果たして立ち会った彼らは、この録音が80年先にこうしてスピーカーから流れている様子を想像できただろうか。流れてくる音楽は、相変わらず「生まれたての音楽」を奏でているけれど、外の世界はこうして80年も経ってしまった。"録音"と"時間"とは、誠に不思議なバランスの上に、感覚として存在しているものなのだな、と思う。
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