2009/11/30

ダニエル・デファイエの生徒たち(その14)

[1981]
新作課題曲:
Serge Lancen - Prélude et Scherzo
1er prix:
Frédéric Froin
Frédéric Juranville
Patrice Roquel
Pierre Grzeskowiak
Jean Claude Bersegol

おお、知っている名前がないなあ。

まず、新作課題曲の作曲家であるセルジュ・ランセンだが、1922年生まれということだから、デファイエ氏と同世代。この作曲家の名前を、私は今まで聴いたことがなかったのだが、これまでにサクソフォンのための作品を34(!)も手掛けているのだという。しかも、特定のプレーヤーに献呈するでもなく、1960年代から1990年代にわたってまんべんなくサクソフォンの曲を書いているようだ。きっとサックスが好きなんだろうなあ~。

Frédéric Juranvilleは、現在Orléans音楽院教授。初学者のためのメソードとして著した「Le saxophone」がVan de valdeより出版されている。

Pierre Grzeskowiakは、Douai音楽院&Arras音楽院教授。ぱっと探してみたら、なんとYouTubeに演奏動画があった!(こちら→http://www.youtube.com/watch?v=k-TwU6C943M)Guy Luypaertsという作曲家の、Un Bon Petit Diableという作品の演奏だそうだ。

Jean Claude Bersegolは、、Monosque音楽院教授も務めているようだが…MySpaceにJean Claude Bersegol Trioというグループのページがあって(→こちら)、ここでサクソフォンを吹いているのが本人だと思う。しかし、この編成は一体?ジャズ?ということになるのだろうか、なかなか不思議かつ魅力的な音響で、つい聴き入ってしまった。

他の2人については、めぼしい情報を見つけられなかった。

2009/11/29

【演奏会のご案内】有村さん&松浦さんリサイタル

演奏会のご案内を頂戴した。この日は私は伺えず、残念…。ピアノとサックス、ヴァイオリンで演奏されると思われる、サン=サーンスが面白そうだ…。そういえば、今年有村さんと松浦さんは結婚されたと伺った。結婚第一弾のリサイタルになるということなのだろう。ご盛会をお祈りしたい。

【有村純親&松浦真沙デュオリサイタルVol.4】
出演:有村純親(sax.)、松浦真沙(pf.)、保科由貴(vn.)、山田雄太(gt.)
日時:2009年12月4日(金)19:00開演
会場:サントリーホール(ブルーローズ)
入場料:全自由席3000円
プログラム:
R.シューマン「3つのロマンス」
C.サン=サーンス「死の舞踏」
P.ヒンデミット「ソナタ 作品11-4」
松浦真沙「ミラ~ギター、サクソフォーン、ピアノのために~(世界初演)」
B.バルトーク「ルーマニア民族舞曲」
P.スウェルツ「クロノス」
A.ピアソラ「天使の死」「ブエノスアイレスの四季より「夏」」

土日の練習

土曜日は四重奏練習。4月の本番に向けての練習なのだが、まだまだ楽譜がそろっておらず、申し訳なかったが、この響きを楽しむのも久々だ。いくつか良い曲の候補を見つけ、すでに楽譜を注文済みなので、届いて、合わせるのが楽しみだ。

そのあとは「どん平」に行って、ビールを飲みつつ、美味しい料理を食べつつ、にこらすうさんと楽器を吹きまくり。こんな場所があるとはねえ(店主の趣味らしいが)。楽器仲間のみなさん、こんど行きましょう(^∀^)ノ

今日、日曜日はラテン・サルサバンドのエキストラのためのリハーサル。mckenさん、にこらすうさん、お世話になります。バリトンサックスの本番というのも、5年ぶりくらいになるのかな。またブログで予定を告知するるもり。

2009/11/27

ダニエル・デファイエの生徒たち(その13)

[1980]
新作課題曲:
Ida Gotkovsky - Variations pathétiques
1er prix:
Thibault Lam-Quang
Marie-Claude Binette

おお!イダ・ゴトコフスキーの「悲愴的変奏曲」ではないか!デファイエ氏が教授を務めている期間の中では、ピエール・サンカンの「ラメントとロンド」が一番有名な作品だと思ったが、少なくとも日本では「悲愴的変奏曲」のほうが有名じゃないかな?非常に長大な作品であるため、さすがに全部取り上げられることは少ないと思うが…。

Thibault Lam-Quangは、最初サクソフォンを勉強し、パリ音楽院のデファイエクラスを卒業後、エコール・ノルマル音楽院に進み、ピアノを勉強した。さらに、続いて声楽を勉強し、最終的にLille音楽院で合唱指揮を学んだ。現在は、Mantes en Yvelines音楽院で合唱の指導を行っているそうだ。またえらく移り気な(笑)。それともやはり、サクソフォンで一等賞を獲ったといえども、食べていくのは難しかったということなのだろうか。

Marie-Claude Binetteについては、見つけられなかった。

2009/11/26

ダニエル・デファイエの生徒たち(その12)

[1979]
新作課題曲:
Roger Boutry - Cadence et Mouvement
1er prix:
Bruno Verdier
Roger Michel Frederic
Jean Pierre Baraglioli
Christian Joyeux

ブートリーは、1964年にもパリ音楽院の卒業試験のために課題曲を作曲しているが、そちらが有名な「ディヴェルティメント」。このこの「カダンスとムーヴメント」という曲は、聴いたことがないな。

卒業生の中で有名なのはJean Pierre Baraglioliかな?ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の首席アルトサクソフォン奏者で、NHKなどでギャルドの来日演奏会の模様が放送されると、お姿を拝見することができる。その他の演奏活動としては、4uatreという超アヤシイ四重奏団を結成しているのだが、このCDが面白いのですよ…。公式ページ(→http://4uatre.free.fr/)が存在するので、ぜひ覗いていただきたい。試聴もたっぷりできる。また、最近では日本の宗貞啓二氏、カナダのウィリアム・ストリート氏、アメリカのリチャード・ディーラム氏とともに、インターナショナル・サクソフォン四重奏団を結成している。その他にも、ギャルドの五重奏団でも吹いているし、シルヴァン・カサップ氏とも何か面白い室内楽をやっているし、ピアノとのデュオでCDも出しているし…室内楽が大好きなんだろうなあ。教育者としては、Montreuil sous Bois音楽院教授を務めている。

Roger Michel Fredericは、Toulon Provence Mediterranee音楽院教授。Christian Joyeuxhは、Metz音楽院教授。そのほかには際立った情報が見つけられなかった。うーむ。

2009/11/25

ダニエル・デファイエの生徒たち(その11)

[1978]
新作課題曲:
Marcel Bitsch - Aubade
1er prix:
Francis Caumont
Jean Paul Fouchécourt
Roger Muraro
Jean Pierre Solves
Jean Luc Lucidi

マルセル・ビッチと言えば、パリ音楽院で対位法の教授を務めていたことで有名だ。サクソフォンとピアノのための「村の踊り」という、非常に親しみやすい小品を書いており、「村の踊り」がこんなに有名ならば、他にもサクソフォンの作品をたくさん書いているだろう…と思って調べてみた。しかし、「村の踊り」のほかは、本年課題曲「Aubade」、そしてあと一曲小さなエチュード(しかもフルート or サクソフォンという指定)を書いているだけということが判った。意外だなー。

卒業生の中でもっとも有名なのは、ジャン=ポール・フーシェクール。もっともサクソフォンで有名と言うわけではなく、今や世界的なテノール歌手として大活躍しているのだ。1982年、キャシー・バーバリアンのワークショップを受けた時に歌手となることを決意した後、あれよあれよという間にスター歌手としての地位を確立し、主要なオペラハウスに出演、また数多くのレコーディング等に参加している。数年前には、サイトウキネン・フェスティバルにも招聘されたとか。

サクソフォン奏者としてのLPもレコーディングされたらしく、ブートリー、クレストンなどをパテ・マルコニレーベルに吹きこんでいるらしいのだが、いつだったかeBayで落札に失敗して以来、一度も見かけない。聴いてみたいなあ。

1986年ころまでは、サクソフォンも吹いていたようである。そりゃそうだろう、なにせ、1978のギャップ国際コンクールでドゥラングル、フルモーに続く第3位を受賞しているほどの名手だったということだから…。ドゥラングルがソプラノ、フーシェクールがアルト、Bruno Totaroがテナー、Jacques Baguetがバリトンというメンバーで、Quatuor Adolphe Saxを結成し、レコーディングやコンサートを行っている。例えば、野平一郎の「サクソフォン四重奏曲」はこの四重奏団に献呈されており、1985年の第8回世界サクソフォンコングレスにおいて初演された作品である。

現在はもちろん解散しているカルテットなのだが、録音が残っている。「Musique franĉaise pour saxophones(Vandoren V001)」で、ピエルネとシュミットの演奏が聴けます。1986年の録音だということだが、めちゃくちゃ上手いぞ、これは…。購入はアクタスオンラインショップからどうぞ。

Francis Caumontは、Quatuor de saxophones de Parisのアルト奏者。他のメンバーとはちょっと卒業時期が離れているが、どういった経緯だろうか。Roger Muraroは、1977年にパリ音楽院のピアノ科を卒業した同名のピアニストが有名だが、いや、まさか同一人物じゃないよね…と、思いきや、同一人物だそうで(笑)。メシアン弾きとして、世界的に名の知れたピアニスト。Jean Pierre Solvesは、どうやらジャズに転向したらしい。いくつかのレコーディングに関する記述が引っかかった。Jean Luc Lucidiは、マルセイユ音楽院サクソフォン科教授。ジョエル・ヴェルサヴォーも同音楽院の教授である。

なかなか特徴的な年度だ(笑)。才能と努力って凄いものだな、と思う。

2009/11/24

榮村門下発表会@スペースDo

自分が出演したわけではなく、お知り合いのもっちさんが出演されるということで聴いてきた。そもそも、DACの訪問自体初めてだったため、出演時間が迫っているにもかかわらず軽く迷い、わりかしギリギリに会場に到着。

ウッズのソナタの第1楽章。かっこよかったなあ。怒涛アドリブパート(池上さんのCDを参考に構築したとのこと)が、とてももっちさんらしくて「すごーっ」と心の中で思いながら聴いていた。始まる前と終わった後のお茶目さも、楽しかったなあ。今度真似してみようかな…あ、テナーだと大きすぎるか(^^;

ちなみに、続けて演奏されたヴァイオリンの演奏もいくつか聴いてきたのだが、なんといえば良いのか、本質的に管楽器プレイヤーとはいろいろな意味で「違う」気がした(笑)。管楽器奏者は「生まれながらにして管楽器奏者だ」と表現すればいいのかなー。面白いものですな。

2009/11/23

アマリリス合奏団第22回オータムコンサート

アマリリス合奏団は、お馴染みmckenさんの参加する、木管アンサンブル団体。この日は各所でいろいろと催しがあったようなのだが(サックスのX-DAYだとか言われていたようだ…ミ・ベモル、ロッソ、昭和音大、裏サックスなど)、私はSaxophonyの合わせが終わったのち、これを聴きに行きました。

【アマリリス合奏団第22回オータムコンサート】
出演:アマリリス合奏団
日時:2009年11月22日 19:00開演
会場:府中の森芸術劇場ウィーンホール
プログラム:
G.ピエルネ - 民謡風ロンドの主題による序奏と変奏(sax4)
F.Y.ハイドン - Musical Clockのための作品(rec4)
P.ハーヴェイ - ロバート・バーンズ組曲(sax4)
嶋川聡 - クリスマスメドレー(sax4)
村松崇継 - 彼方の光(sax4)
織茂学 - ロンディーヌ(fl3)
L.フロレンツォ - 南アメリカ組曲(sax4)
J.ゲーゼ - タンゴ幻想曲(fl, pf)
サキソフォックスのお気に入りから - ルパン三世、長崎は今日も雨だった(sax4)
R.ヴォーン=ウィリアムズ - グリーンスリーヴス幻想曲
F.J.ゴセック - タンブラン

府中の森芸術劇場は、昨年に国立音楽大学サックス科の演奏会を聴きに伺って以来。このホールの、駅からの微妙な遠さと、商店街を抜けていく立地は、何だか地元(長野)のホールを彷彿とさせる。距離が2、3倍違ったりとか、平地と坂の違いとかはあるけど…長野の文化ホールは、基本的に車orバスでのアクセスを想定してますからね。

さて、第一部は、リコーダーで演奏されたハイドンの組曲、ポール・ハーヴェイの作品、そしてクリスマス曲集と、今まで聴いたことのなかった作品が、耳に新鮮に響いた。リコーダーの合奏というものも久々に聴いたのだが、本当に小型オルガンみたいな音がするのですね。びっくりした。ハーヴェイの「ロバート・バーンズ組曲」は、メロディアスな作品で、これは楽章単体でも取り上げやすいかもと思った。曲の可愛らしさに加え、演奏も素敵だった…。クリスマスメドレーは、自分たちでも演奏してみたい!

第二部は、最近流行りの「彼方の光」、演奏メンバーとして舞台に乗っていらっしゃったピアニストが書いたオリジナル作品、「南アメリカ組曲」、フルートとピアノのデュオ、サキソフォックスの2曲、大合奏でのグリーンスリーヴスとポルカ。どれも楽しく聴いたのだけれど、ノリノリの「南アメリカ組曲」と、大喝采となった「ルパン三世のテーマ」「長崎は今日も雨だった」が良かったなあ。ソプラノとアルトの1stを吹いていた方は、何者なんだろう(笑)。

レパートリー、演奏の両面から、室内楽の醍醐味を味わうことができた。会場がちょっと大きい感じもしたが、ウィーンホールという空間が作り出す上質な響きに酔いしれた。

2009/11/22

デファイエ初来日の録音

デファイエ氏絡みで…。

木下直人さんを通じてお知り合いとなった栃木県のO様より、デファイエ氏が初来日したときの録音、というものを送っていただいた。初来日…すなわち、1964年の録音である。この時は、リサイタル等は行わず、いくつかの音楽大学でマスタークラスやクリニックを行ったようだ。このあたりの描写は、Thunderさんのページに詳しい。

この初来日の際、東洋大学を訪れてサクソフォンに関するクリニックを開いたというのだが、その録音が残っているというのだ。この話を聴いたときは大変驚き、「聴いてみたい!」と強く思ったのだが、O様のご厚意によりダビングしたものを送っていただいた。O様には感謝申し上げたい。ちなみにLR両チャンネルへの拡張は、木下直人さんによってなされたとのこと。

東洋大学に訪問したのは、デファイエ氏、クラリネットの稲垣征夫氏、そしてデファイエと言えばこの方、おなじみビュッフェ・クランポンの保良徹氏である。東洋大学吹奏楽団による歓迎演奏…プランケットの「サンプル・エ・ミューズ連隊」と、フレッチャーの「スピリット・オブ・ページェントリー」の後、デファイエ氏の紹介、サクソフォンという楽器に関する短いレクチャー、サクソフォンのオリジナル曲からのフレーズ抜粋(無伴奏)、質問コーナー、といった具合。演奏されている曲のリストは、以下。

G.ビゼー - 「アルルの女」第一組曲より
C.ドビュッシー - ラプソディの冒頭
P.ボノー - 「組曲」より第1楽章"即興曲"
J.イベール - コンチェルティーノ・ダ・カメラから第2楽章(緩徐部分)

およそ50年ほども前の録音ということで、録音状態は必ずしも良いとは言えないのだが、それにしても貴重な記録である。抜粋されたフレーズの、どこまでも瑞々しく溌剌としていること!録音セッションとは違う、臨場感だとか覇気だとか、そういったものを強く感じ取ることができた。

2009/11/21

ダニエル・デファイエの生徒たち(その10)

[1977]
新作課題曲:
Georges Delerue - Prisme
1er prix:
Jean-Yves Fourmeau
Rita Knuesel
武藤賢一郎
Claude Delangle
Francis Vallone

ます、新作の課題曲であるジョルジュ・デラルー(と読むのか?)の「プリズム」だが、録音を紹介しておく。アンドレ・ブーン André Beunという、マルセル・ミュールの弟子で、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の首席も務めたサクソフォン奏者が、LPを吹きこんでいるのだ。以前木下直人さんにトランスファーしてもらったのだ。いちおうCDも出ており(→こちら)、手っ取り早く入手したい向きにはオススメ…のはずなのだが、今は売ってるのだろうか?かつては、タワレコではよく見かけたのだが。

さて、卒業生の顔ぶれだが、実際当時からデファイエをして「パリ音楽院始まって以来の最高のクラスだ」と言わしめたほどのプレイヤーが集結していたということなのだが、今の時代にこうやって見てみると、余計にすごさがわかるというところか。

フルモー氏(セルジー・ポントワーズ音楽院教授)、ドゥラングル氏(パリ国立高等音楽院教授)、武藤氏(昭和音楽大学教授)は言わずもがな。リタ・クヌーセルは、アメリカ出身の女性奏者で、この方も凄いプレーヤーだったそうだ。実際、この年の卒業生5人中4人が、1978年に行われたギャップ国際サクソフォンコンクール(サクソフォン界としては初めての、国際コンクール)で入賞している。このコンクールについては、以前にも記事にした。基礎データはこちら、雑感はこちら。順位だけ、この記事にも再掲しておく。

1位:該当なし
2位:ドゥラングル、フルモー
3位:ポール・フーシェクール(1978年のデファイエクラスの卒業生)
4位:リタ・クヌーセル
5位:武藤賢一郎

2009/11/20

ダニエル・デファイエの生徒たち(その9)

[1976]
新作課題曲:
Jean Michel Defaye - Ampélopsis
1er prix:
Ghislain Mathiot
Daniel Kientzy
Patrice Saouter
Max Jézouin

この年度でもっとも注目すべきは、なんといってもダニエル・ケンジー氏だ。同時代の作曲家たちの作品を積極的に取り上げ、これまでに献呈された作品は300以上、リリースしたディスクは70~80枚にも及ぶという、ある意味史上最強のサクソフォニスト。教育活動は一切行わず、世界を駆け巡って次から次へと新作の初演を手掛けているというから、驚きだ。

ケンジー氏について、このブログでもたびたび取り上げているので、このページあたりをご覧いただくと良いかなと思う。

もともとはリモージュ音楽院の出身で、そこからパリ音楽院のデファイエ・クラスに入学したとのこと。1983年に、SACEM賞を受賞。どうやら、ちょうどその頃から精力的に新作の初演を行っているようだ。あのデファイエ氏のクラスを卒業して、コテコテの現代音楽分野に身を投じるというのも面白いが(デファイエ自身、それほど現代音楽や特殊奏法を好んで取り上げることはしなかっと聴くし)、ケンジー氏が、そういった方面に突き動かされた理由は、何だったのだろうか。気になるところだ。

ケンジー氏に関して取り上げなければならない、有名な著作が二点ある。重音のバイブルとも言うべきリファレンスである「Le sons multiples aux saxophones(Salabert)」と、100の特殊奏法を網羅したCD付きの論文「Saxologie」。いずれも、サクソフォンの現代奏法に関わる作曲家・演奏家必携の書籍であり、お世話になっている方も多いはず。私も、両方持ってます。

さて、この年の新作委嘱曲はジャン=ミシェル・デュファイの「アンペロプシス(野ブドウ)」。デュファイと言えば、クラリネットにかかわったことがある方ならば、「オーディションのための6つの小品」という作品タイトルは、どこかで耳にしたことがあるのではないだろうか。そう、サクソフォンの作品も手掛けているのだ。他の作品として、ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のサックス五重奏団のために「ディアローグ」を書くなどしている。

Ghislain Mathiotは、1975年卒業のジャック・シャルル率いるQuatuor de saxophones contemporainにテナー奏者として参加していた。Max Jézouinも、同アンサンブルのバリトン奏者。Mathiot氏は、現在はAdsnieres音楽院の教授。Jézouin氏は、Angoulème音楽院教授。Patrice Saouterは、Lorient音楽院教授。うーん、ケンジー氏以外は、あまり際立った情報が見つけられないな。

さて次回、1977年は、デファイエ・クラス伝説の年(?)。著名なプレイヤーが名を連ねます。お楽しみに。

2009/11/19

ダニエル・デファイエの生徒たち(その8)

[1975]
新作課題曲:
Jean-Pierre Beugniot - Sonata
1er prix:
Pierric Leman
Jacques Charles
Christiane Hecht
André Lemasson

Beugniotは、作品を聴いたことがあった。以前、木下直人さんから送っていただいたジャック・デスロジェ Jacques DeslogesのLPに、四重奏曲が収録されているのだ。「アナモルフォーゼ」という、オーボエ、ホルン、バリトンサックスのための作品も作っているそうだが、うーん、響きが想像つかない(笑)。

この年の卒業生で最も重要な人物は、おそらくジャック・シャルルだろう。サクソフォン科を卒業した1975年にQuatuor de saxophones contemporainを結成し、同時代の作曲家の作品を数多く取り上げた。アルトにピエリック・ルマンが参加していたというから、驚きである。1976年より、Rochelle音楽院教授。現在は、パリ区立15区(ショパン)音楽院教授。ちょっと忘れてしまったのだが、たしかAs.Sa.Fra(かつてのフランスのサクソフォーン協会)の会長だったかな…。

ピエリック・ルマンは、フルモーカルテットのアルト奏者としてもおなじみ。ルーベ音楽院出身で、パリ音楽院に入学したのが1971年。1975年にサクソフォン科を卒業した後も室内学科で勉強を続け、1977年に卒業した。カンブレ Cambrai音楽院(現在ジュリアン・プティ氏が教授を務めている)教授を経て、Issy-les-Moulineaux音楽院教授。

クリスティアヌ・ヘシェは、名前から想像するに女性奏者かな?Lille音楽院教授。André Lemassonについては、見つけられず…。

2009/11/18

ダニエル・デファイエの生徒たち(その7)

[1974]
新作課題曲:
Alain Margoni - Cadence et Danse
1er prix:
Yves Guicherd
Joël Batteau

ジョエル・バトー氏だ!おなじみ、フルモー・サクソフォン四重奏団のバリトン奏者。左の写真に代表される、髭を蓄えた姿は、一度見たら忘れられない。ルーベ音楽院のRené Desmon門下を卒業したのち、パリ音楽院に入学。現在は、母校であるルーベ音楽院の教授。ちなみに、フルモー四重奏団の結成は、バトー氏が言いだしっぺだったようだ(→波多江氏のインタビューを参照、非常に読み応えがある)。実はフルモー四重奏団の四人、ルーベ音楽院で同門なのだということだから、驚き。そういえば、フルモー四重奏団はライヴで聴いたことないなあ。まだ高校生のころ、長野に来たことがあったのだけど、大学受験を控えており、我慢したのだ。

新作の課題曲は、アラン・マルゴーニの作品。この作品を聴いたことはないが、「四重奏曲第一番」というサクソフォン作品が、フルモー四重奏団の演奏で聴けるCDがある。フェルド、マルゴーニ、ティスネ、ミゴというマニアックな曲目が収録された、非常に希少な自主製作盤で、この音源の入手にはmae-saxさんにお世話になった。「Cadence et Danse」はデファイエに献呈されており、現在はBillaudotから出版されている。

Yves Guicherdは、現在は作曲家として成功しているようだ。検索すると、いくつかの作品が引っかかった。

2009/11/16

ダニエル・デファイエの生徒たち(その6)

[1973]
新作課題曲:
Pierre Sancan - Lamento et Rondo
1er prix:
Daniel Cochet
Jean Pierre Caens

新作の課題曲は、ピエール・サンカンの「ラメントとロンド」。そう、この曲って、パリ音楽院の卒業試験曲だったのですよね。デファイエ氏が教授職に就いていた期間に、卒業試験に際して委嘱された作品中では、現在においてレパートリーとしてもっとも高い地位を獲得している作品ではないだろうか。録音も多く、モレティ氏、武藤賢一郎氏、ドゥラングル氏、フルモー氏という、パリ音楽院卒のスタープレイヤー達が、自分のアルバムに吹きこんでいる。ちなみにだが、オーケストラ版もあるそうで(聴いたことない…)。

私にとっては、サンカン=「ラメントとロンド」という風に結びつくのだが、ピアニストとしての活躍も有名。いつだったか、ラヴェルの「ピアノ協奏曲」の録音をいろいろと探していたときに、サンカンが独奏を務めた録音というものもあり、その存在を知った時は驚いたものだ(→ここから聴けます。上手い!)。作曲家としては、フルートのための作品が有名だが、たとえばピアノのためにこんなに可愛らしい小品(→ここから聴ける)も書いている。

Daniel Cochetは、1972年卒業のChristian Charnayと同じく、セルジュ・ビション氏率いるQuatuor de saxophones Rhône-Alpesのメンバー(アルト奏者)としての名前があった。

Jean Pierre Caensは、なんとモロッコ生まれのプレイヤー。1948年生まれということだから、やはり外国人は少し年齢が上になる傾向があるな。ディジョン音楽院でジャン=マリー・ロンデックスに師事したのち、パリ音楽院のデファイエクラスに入学した。在学中に、1970年のジュネーヴ国際音楽コンクールで、入選を果たしている。比較的早い時期からBesançon音楽院教授をつとめ、さらに1995年からはAix-en-Provence音楽院の教授職にもついている。現代作品に造詣が深く、N. Zourabichvili de Pelkenというという作曲家から、「Pointillés」というサクソフォンとテープ音楽のための作品を、1974年というサクソフォン界としては比較的早い時期に献呈されている。

2009/11/15

Impression d'Automne on WebRadio

ジェローム・ラランさんからご案内いただいた!Cafuaレーベルから発売されているラランさんのアルバム「Impressions d'Automne」の抜粋が、今ラジオ・フランスのウェブラジオで聴けるそうだ。

http://sites.radiofrance.fr/francemusique/_c/php/emission/popupMP3.php?e=80000063&d=395001520

最初はコマーシャル的なものが続き、本編は7分過ぎたあたりから。内容は、以下の通り。

出演:
ジェローム・ララン(sax)
原博巳(プーランクのみ, tsax)
棚田文則(pf.)
Constance Luzzati(hrp.)

プログラム:
F.プーランク - トリオ
J.S.バッハ - パルティータ第1番(Constance Luzzarti)
M.ラヴェル - ソナチネ
D.ミヨー - スカラムーシュ

「SPP」がないのがちょっと残念だが、プーランク、ラヴェル、ミヨーをまるまる聴ける。…なんとお得なラジオ。山中の涼しげな小川のような、絶えずよどみなく流れ続ける音楽に、現代フランス・サクソフォン界の最良の形を垣間見ることができる。「秋の印象」というタイトルとは裏腹に、暑い夏にさわやかな風と水しぶきを浴びているような、そんな気分にさせてくれる。

このCDについては以前レビューした。フィリップ・ルルーとか、デザンクロとか、他の作品の演奏も素晴らしい。

ダニエル・デファイエの生徒たち(その5)

[1972]
新作課題曲:
Roger Calmel - Concertino
1er prix:
Jean Bouchard
Alain Huteau
Christian Charnay

ロジェ・カルメルの作品!サクソフォンの世界でカルメルというと、「サクソフォン四重奏と弦楽オーケストラ、打楽器のためのコンチェルト・グロッソ」という作品が群を抜いて有名である。その名の通り、四重奏とオーケストラのための作品なのだが、この特殊な編成のために書かれた作品の中では、もっとも演奏機会が多い作品だと思う。録音も多く、手元をざっと見るだけで、デファイエ四重奏団(最後の演奏となったライヴ録音)&東京都交響楽団、ルデュー四重奏団&ヤナーチェクフィル、キャトル・ロゾー&東京シティフィル、ディアフェーズQ&フォーラム・シンフォニエッタと、4つもの録音が見つかった。実際、かっこいいしなあ。

話が逸れたが、カルメルがサクソフォンのために独奏曲を書いていることは知らなかった。調べてみると、「コンテルト・グロッソ」「コンチェルティーノ」を筆頭に18もの作品がリストとして挙げられており、サクソフォンの世界とは縁が深かったようだ。「コンチェルティーノ」はおそらくこのときはアルトサクソフォン+ピアノ編成だったと思われるが、現在の標準編成は、アルトサクソフォン+吹奏楽なのだとか。

Jean Bouchardは、QuasarのJean Marc Bouchardとは別人で、おそらくカナダ生まれのサクソフォン奏者。ちなみに初期のデファイエ・クラスは、カナダからの留学生が目立つが、彼らはケベック音楽院においてPierre Bourqueという人物の下で学んだプレイヤーである。その留学生たちは、カナダ帰国後に師匠であるPierre BourqueとともにQuatuor de saxophones Pierre Bourqueを結成した。Bouchardもそのひとり。

Alain Huteauは、なんと現在では打楽器奏者として活躍しているのだそうだ。パリ音楽院で、サクソフォン、パーカッション、楽曲分析、和声、対位法で一等賞を獲得したのち、打楽器演奏、作曲、教育の各分野で活躍しているとのこと。奏者としては、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、フランス国立放送管、オペラ座管、Ensemble 2e2m(ドゥゼ・ドゥエム)などに参加したというから、相当のキャリアの持ち主だ!現在は、フルモー氏がサクソフォンの教鞭を執ることで有名なセルジー・ポントワーズ音楽院の打楽器科教授とのこと。へえ~。

Christian Charnayは、検索したらThunderさんのページが引っかかった。セルジュ・ビション氏率いるQuatuor de saxophones Rhône-Alpesに、バリトンサクソフォン奏者として参加していたそうだ。

2009/11/14

ダニエル・デファイエの生徒たち(その4)

[1971]
新作課題曲:
Désiré Dondeyne - Symphonie concertante
1er prix:
Michel Reydellet
Paul Denais
Jean-Luc Vignaud

おお、デジレ・ドンディーヌ Désiré Dondeyneの作品だ!往年のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団とともに、「フランスの管楽アンサンブルの響きを持つ」と称されるパリ警視庁音楽隊の、指揮者。ドンディーヌはもともとクラリネット吹きだったが、キャリア初期から作曲家として有名であり、非常に多くの作品を手掛けている。サクソフォンの作品も、非常に多く書いており、そのリストはフランスのWikipedia等から参照できる。

1949年生まれのMichel Reydelletは、Bourg-en-Bresseに生まれた。1967年から1971年にかけてパリ音楽院のデファイエクラスに在籍したのち、1972年にクリスティアン・ラルデの室内楽クラスに入りなおして、さらに研鑽を積んだ。Quatuor de saxophones de Parisの初期メンバーのひとり(現在は脱退)。グルノーブル Grenoble音楽院教授現職。

Paul Denaisというと、どうもオルガン奏者の記述が引っかかるのだが、まさか同一人物じゃないよなあ。生年については、ほぼ同じころなのだが、まさかね…。Jean-Luc Vignaudは、セルマーの公式ページに名前がリストされていた。が、肝心の情報はまったく記載なし…。Jean-Luc Vignaud Bigbandという記述が引っかかったので、ジャズに転向した可能性が高い。

2009/11/13

ダニエル・デファイエの生徒たち(その3)

[1970]
新作課題曲:
Jean-Paul Rieunier - Linéral
1er prix:
Daniel Liger
Jean-Pierre Vermeeren
Claude Brisson
Alain Jousset

Jean-Paul Rieunierなんていう作曲家の名前は初めて聴くなあ。1933年、フランスのボルドー生まれの作曲家で、アルトサクソフォンとピアノのための「Linéral」のほかに、「Volume 2」というバリトンサクソフォンと吹奏楽のための作品を作っているのだということだ。それぞれ、ダニエル・デファイエ、ジャン・ルデュー各氏に献呈されており、Leduc社刊。

この年の卒業生のリストを見ていると、アラン・ジュッセという名前が目にとまった。どこかで見たことあるなあと調べてみたところ、そうだ、小森伸二さんの先生だったのですね。パリ区立モーリス・ラヴェル音楽院にて講師を務めているということだから、そういったところから師弟関係になっているのだろう。アラン・ジュッセは、Quatuor de saxophone de Parisという四重奏団をDaniel Ligerとともに結成し、活動していた。CDもリリースされているようだが、私は所持していないため、ここはmckenさんのページにおまかせしてしまおう。

そのDaniel Ligerは、1950年生まれのサクソフォン奏者で、Tours音楽院にてAlfred Lockwoodに師事し、1966年に卒業、引き続いてパリ音楽院にてデファイエに師事した。1977年より、母校であるTours音楽院の教授職についている。ParisSQのメンバーとしての活動が、一番有名であるようだ。

Jean Pierre Vermeerenは、1948年、フランスのルーベに生まれたサクソフォン奏者。1960年から1967年までルーベ音楽院にてRené Desmonsに学び、その後パリ音楽院に進学した。1970年のジュネーヴ音楽コンクールで、銅メダルを獲得しているとのこと。ちなみにこのときの最高位は、Philip Glass Ensembleのメンバーとしても有名な、アメリカのジャック・クリプル Jack Kripl(!)。

Claude Brissonは、カナダのケベック生まれのサクソフォン奏者。Rémi Menardと比較的近い経歴を持っているようだ。1970年のジュネーヴ音楽コンクールで、銀メダルを獲得しているとのこと。ソプラノサクソフォンのための「ファンテジー」が有名なドゥニ・ベダールが、彼に「ソナタ」という作品を捧げている。

2009/11/12

ダニエル・デファイエの生徒たち(その2)

[1969]
新作課題曲:
Jean Lemaire - Musiques légères
1er prix:
Joseph Larocque
Jean-Louis Bousquet
Christian Thymel
Rémi Menard
Claude Louvel

Jean Lemaireという作曲家は初耳だが、この「Musiques légère」という作品のほかに、「サクソフォン四重奏曲」という、四重奏とオーケストラのための作品を作っているようだ。しかも、献呈先がデファイエ四重奏団…き、気になる…。

さて、おそらくこの年の卒業生でもっとも有名なのは、カナダ出身のRémi Menard。1944年生まれ、Pierre Bourqueに師事して1965年にケベックの音楽院を卒業、ケベック州の助成を得てフランスに渡り、パリ音楽院に学んだ。帰国後、Pierre Bourque四重奏団を結成し、RCAレーベルへ吹きこみを行っている。SNEをはじめとしたレーベルから独奏のCDもいくつかリリースされており、演奏活動を通じてカナダの現代作品の啓蒙に努めた。カナダ・サクソフォン界の中堅~大御所といった位置にいるのだろう。

Jean-Louis Bousquetは、Clermont-Ferrand Montpellier音楽院とFontainebleau音楽院の教授職にある。どうやら現職のようだ。Christian Thymelは、ボルドー音楽院出身のサクソフォン奏者とのこと。Ensemble Aquitaineという室内楽団での活動実績を見つけることができた。Claude Louvelは、情報が見つからず…。

ちなみに、この年の卒業生について調べるうちに、第4回サクソフォン・コングレス@ボルドーの、プログラム冊子を見つけてしまった(笑)。めちゃくちゃ面白い資料なので、そのうちご紹介する予定。

2009/11/11

ダニエル・デファイエの生徒たち(その1)

以前、皆様ご存じのThunderさんのブログ「Thunder's 音楽的日常」上での連載「マルセル・ミュールの生徒たち」に触発され、「クロード・ドゥラングルの生徒たち」という記事diary.kuri_saxo内に連載した。残された課題として、ダニエル・デファイエ氏がパリ国立高等音楽院の教授だった時代の卒業生の状況を調べる必要が出て、ずっと手つかずだったのだが、本日よりデファイエ氏の生徒たちについての調査を開始したい。

今回は、長くなりそうなのでひとつの年度ごとやっていこうと考えている。年内に終わるといいなあ、いや、無理かなあ。

基礎データとなる卒業生の名前一覧と課題曲については、参考資料となるニコラ・プロスト著「Saxophone à la française」より引用。あ、そういえば2009年シーズンの卒業生のデータ、まだ調査していないなあ。どなたか教えてください…(^^;

[1968]
新作課題曲:
Pierre Max Dubois - 2ème Sonatine
1er prix:
Régis Manceau

課題曲はデュボワの「ソナチネ第2番」。デュボワの「コンチェルトシュトゥック」が1955年に課題曲として採用された実績があり、これが二度目の採用となる。Allegro - Andante - Prestoの三つの楽章からなる、およそ9分の作品で、Alphonse Leducから出版されているとのこと。

卒業生は、Régis Manceauただ一人。詳細な経歴は、Thunderさんの解説にお譲りしようと思う。

2009/11/10

楽曲にマッチする音

タイトルほど大げさな記事ではない(笑)。

ラッシャーに捧げられた作品、たとえばダールやイベールやグラズノフやマルタンといったほとんどの作品は、もちろんラッシャーの音色を想定して書かれているのだと思う。しかし、どちらかというと、伝統的なフレンチ・サクソフォンのキラキラした音色で演奏されるほうが、曲想にマッチしていると感じるのだ。

ダールの冒頭を想像した時に、あのヒロイックなフレーズは、細身な音色よりも、もっと重みのある音色のほうが「これだ!」と思えるのだ。作曲者に聴かせたら、どっちがいいと言うのかなあ。現代風と言われる、軽量化された音色についても同じことが言えると思う。

曲が生まれた時点で作曲家の頭の中に流れていた音色が最適だということもあるし、その後新たに創り出された音色が実はその曲に最適だということもある。作品が生き物だということを再認識する思いだ。

2009/11/09

フランクの「ソナタ」を…

言わずと知れたヴァイオリンの名曲で、もしかしてこの曲を好きな方の中には、「サックスでやるなんて…」と目くじら立てる向きもあるかもしれない。だが、サクソフォン界では周知の通り、この曲を取り上げているプレイヤーは多い。個人的な考えだが、この曲が持つ旋律を管楽器で演奏するのは、大いに"アリ"だと思う。弦楽器、特にヴァイオリンだと、力強さという点でかなり奏者を選ぶのだと思うが、管楽器が持つダイナミクスの幅は、ある意味では弦楽器の表現力を上回る部分もあるかと感じるのだ。

で、超個人的嗜好なのだが、バリトンサックスで演奏されたフランクの「ソナタ」がけっこう好きなのです。変かな?笑。ヴァイオリンで演奏されたものはもちろん、チェロやアルトサックスの演奏ももちろん好きなのだが、かなり独自の世界を確立しているバリトンサックス版は、ずいぶんと印象が強い。

たぶん、国内ではこれが一番有名だろう。栃尾克樹氏の「Caprice en forme de valse(Meister Music MM-2043)」。栃尾氏のバリトンサックスアルバム第3弾ということでおなじみ。それにしても栃尾氏のアルバム、次々に出てくるということは、それだけ売れているんだろうなあ(私も全部持ってます)。

あまりバリトンサックスらしくない。そのらしくないところが好きか嫌いかで好みが分かれるとおもうのだが、どうなのだろうか。低音特有の、ビリビリと震える成分をごっそり取り去ったようなとても柔らかい発声だが、なんだかフルートでも聴いているような不思議な音だ。これはバリトンサックスというよりも、栃尾さんが持つ音、そのものなのだと思う。

「バリトンサックスらしさ」を求めるならば、こちらに尽きるな。高校生のころから聴いている、私にとっての「独奏バリトンサックス」の標準。アメリカのサクソフォン奏者、トッド・オクスフォード Todd Oxford氏の「Finesse(Equilibrium EQ22)」。フランクに加え、バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」、ボザ「アンプロヴィザシオンとカプリス」、ボノー「ワルツ形式のカプリス」という、なんだかどこかで見たことがあるラインナップなのだが、こちらのCDは1999年発売ということで、栃尾さんの一連のアルバムと比較すると、かなり先行しているのだ。驚き。

暑苦しく、濃密・濃厚な音世界。フランクでは、ここまで歌い上げるか!というほどの強烈なフレージングに驚き、続くバッハ、ボザ、ボノーも、無伴奏の世界を非常によく表現している。アルバム制作にあたり、弦楽器のプレイヤーにアドバイスを受けたそうで、その経緯が生きているのではないだろうか。こちらのリンク先から試聴できるので、聴いたことのない向きは、ぜひ(栃尾さんの演奏しかしらないと、驚くかも)。アマゾンへのリンクは、こちら→Todd Oxford : Finesse

2009/11/08

Robert Black氏の経歴

シカゴ・プロ・ムジカに参加しているロバート・ブラック氏の経歴が気になったので調べてみた。おなじみ、Harry R. Gee著「Saxophone Soloists and Their Music 1844-1985」の、ブラック氏の項目を訳してみた。

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1951年10月21日、オクラホマ州センチネルの生まれ。1969年まで、Interlochen Arts Academyにて、ジャック・クリプル Jack Kripl氏にサクソフォンを学んだ。その後ノースウェスタン大学に入学し、フレデリック・ヘムケ氏のもとでさらに研鑽を積んだ。シカゴでいくつかの音楽賞を受賞したのち、1971年、M.H.Berlin Foundationの助成を得てフランスへ留学し、ジャン=マリー・ロンデックスのもとで学んだ。フランス在住時には、ボルドー管弦楽団との共演の模様がしばしばフランス国立放送で放送されるなど活躍し、最終的にボルドー音楽院で一等賞を獲得して卒業した。ブラック氏は、イギリスでも活躍している。1972ん年に、Wigmoreホールにて演奏を行い、1976年の世界サクソフォンコングレスでも演奏を行っている。
ブラック氏はこれまでに、シカゴ市民交響楽団、セントルイス交響楽団をはじめとする、数々のオーケストラと共演している。また、シカゴサクソフォン四重奏団のソプラノサクソフォン奏者としても活躍している。教育者としては、1977年よりルーズヴェルト大学の教授職に就任し、後進の指導にあたっている。

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以上。この書籍に掲載されている情報は、1985年時点のものなので、この後さらに経歴を積んでいったと思われるが、この若いころの経歴を見るだけも、おおまかな流派は読み取ることができる。というか、シカゴSQのソプラノサックスプレイヤーだったのですね(今はメンバーが変わっている気がするが)…知らなかった。

また、1932年生まれの作曲家、ウィリアム・カーリンズ William Karlinsが「協奏曲」と「四重奏曲第二番」をブラック氏に捧げているようだ。親交が深かったのだろう。

Kenneth Tse plays Scaramouche on YouTube

ケネス・チェ氏が、コスタリカ大学サクソフォン・アンサンブルと共演した映像がYouTubeにアップロードされていた。サウンドが分離しないのは、サックス⇔サックスという編成上仕方がなく、おまけに伴奏がかなりの爆音で全体的にやや聴きづらいのだが、それにしてもチェ氏の独奏の、実に見事なこと!!

第1楽章や第3楽章でのテクニックも見事だが、聴きどころは緩徐楽章での上品な歌い方だろう。

2009/11/07

サンジュレの録音

サンジュレ「四重奏曲第一番」の録音というのはけっこう少なくて、私も2、3枚しか持っていない。実演ではプロ・アマチュア問わず何回も聴いたことがあるのに、録音が少ないのは、やっぱり尺が長い割に演奏効果が低いということもあるのかな。

サンジュレと言えば!とすぐに思い浮かぶのが、この録音。ジャン・ルデュー御大率いるサクソフォン四重奏団の、デビューアルバム「Singelee, Pierne, Pascal, Absil(Opus 91 2408-2)」。私にとってのサンジュレの演奏の録音媒体としてのスタンダード。1970年代の美的感覚でもって、同四重奏曲を演奏されており、ともすればつまらない演奏になりがちな本曲を聴く楽しさを気付かせてくれる(どうやら自分は、演奏しつくされた曲ほど、昔のスタイルの演奏を好む傾向にあるなあ)。併録されているピエルネ、パスカル、アブシルもなかなかイイです。

ああ、これにも入ってますね。New Art Saxophone Quartetの「PRIMAVERA(Ars Musici AMP 5090-2)」。こちらもデビューアルバムだなあ。ルデュー・カルテットの演奏と比較すると、こちらはぐっと現代風な演奏で、とても見通しが良く演奏されている。「長い」というこの曲の弱点部分については、なんと第4楽章をカットするという暴挙(笑)により、飽きさせない工夫が。だがしかし、カットしてしまうというのは少し考えづらいなあ。編集のミスだったりして…。

日本のカルテットもレコーディングしてます。アルディSQの「Amazing Grace(Meister Music MM-1173)」。ナイマン、サンジュレ、リヴィエ、デザンクロといった、サクソフォン四重奏曲のスタンダードを集めたCDで、がっちりとした構成と高い技術力は、いかにも日本の四重奏団らしい演奏特徴だと思う。個人的には、リヴィエが好きかな。サンジュレは、ちょっとここまで生真面目に聴かされるとZzz...笑。

2009/11/05

Chicago Pro MusicaのCD

以前、アバト氏参加のディスクをレビューしたときに話題にしたアルバム。シカゴ・プロ・ムジカの「The Medinah Sessions(Reference Recordings RR-2102)」という二枚組CD。シカゴ・プロ・ムジカは、1979年にシカゴ交響楽団のメンバによって結成された室内楽集団。レパートリーはバロックから現代音楽までと幅広く、その演奏能力の高さゆえ、1985年にリリースされたデビューアルバムによって、第28回グラミー賞クラシック部門最優秀新人賞の栄誉に浴したとのこと。メンバーには、クラリネット奏者のJohn Bruce Yehを筆頭に、以下のメンバが参加している。

Robert Black, saxophone
Easley Blackwood, piano
Willard Elliot, basson
Patrick Ferreri, banjo & guitar
Jay Friedman, trombone
Daniel Gingrich, horn
Richard Graff, flute & piccolo
Joseph Guastafeste, bass
Eric Hansen, trumpet
Michael Henoch, oboe
Albert Igolnikov, violin
Donald Koss, percussion
Walfrid Kujala, flute
Burl Lane, saxophone
Rex Martin, tuba
James Moffitt, clarinet
Don Moline, cello
Nancy Park, violin
Jonathan Pegis, cello
James Ross, percussion
Wilbur Simpson, basson
Herman Troppe, accordion
Charles Vernon, trombone
George Vosburgh, trumpet
John Bruce Yeh, clarinet

ジョージ・ヴォスバーグ、ジェイ・フリードマン、ロバート・ブラック(シカゴ響メンバではないが、同オーケストラには縁が深いとのこと)他、シカゴ交響楽団を代表する名ソリストの名前を見てとることができる。シカゴ響というと、アメリカ、いや世界最強とも言える金管楽器セクションを始めとした、数々の名プレイヤーを擁したオーケストラであり、シカゴ・プロ・ムジカはそんな音楽家たちが室内楽を吹いているという、非常に贅沢なアンサンブルなのだ。

W.ウォルトン - ファサード
R.シュトラウス - もう一人のティル・オイレンシュピーゲル
A.スクリャービン - ワルツ変イ長調
C.ニールセン - セレナータ・イン・ヴァノ
I.ストラヴィンスキー - 兵士の物語
N.リムスキー=コルサコフ - スペイン奇想曲
K.ワイル - 「三文オペラ」組曲
P.ボウルズ - 喜劇のための音楽
B.マルティヌー - 料理雑誌
E.ヴァレーズ - オクタンドル

もともと3つに分けて発売されていたアルバムを、二枚組のCDにまとめたアルバムなのだそうだ。すでにDONAXさんがこちらのページで絶賛しているが、驚異的なまでの楽器の鳴りと、リズム処理の正確性において、この録音の右に出るアンサンブルを探すのは、至難だろう。

特に、グラミー賞受賞対象となったウォルトン、シュトラウス、スクリャービン、ニールセンにおけるアンサンブルは、誤解を恐れず言えば神業とも言える領域に到達しているのでは、とすら思わせる。「ファサード」あたりを聴いてもらえばわかるのだが、冒頭からして音ひとつひとつの密度がとても高いのだ。だからといって野暮ったいわけではなく、小回りのきく溌剌としたアンサンブル。この一見矛盾したサウンドが、とてつもないグルーヴ感を生み出し、聴き手の耳をひきつける。

サクソフォン的興味としても、「ファサード」や「三文オペラ」で聴かれるロバート・ブラック氏の演奏は、実に見事。ちょっと真面目すぎるかな?と思われなくもないが、逆にフランス的な演奏が、このアンサンブルの中に入ってしまうと、それはそれで雰囲気が壊れてしまう気がする。まさに適材適所というところか。

管楽器や室内楽を勉強している向きには、かなりおすすめできるCD。私は海外から買ったのだが、amazonでも扱っていることを最近知った。しかも、送料とか考えればamazonのほうが安いじゃん…。こちらのリンク先から買えるのだが、まさか二枚組で2000円程度とは…すごい時代だ。

2009/11/04

ライヴ・エレクトロニクス過去形/未来形

Benoît Menut氏からメールが返ってきた!やったー!

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佐藤淳一さんからご案内いただいた演奏会。あいにくこの日は予定があるため伺えないのだが、非常に興味深い内容だ。予定がなければ、ほぼ確実に伺っていたかも(笑)。

【現音・秋の音楽展2009 - 電楽IV「ライヴ・エレクトロニクスの過去形・未来形」】
日時:2009/11/6(金)19:00開演
会場:アサヒ・アートスクウェア
料金:2000円
プログラム:
J.ケージ - 心象風景 No.1
P.ブーレーズ - 二重の影の対話
レクチャー「ライブ・エレクトロニクス再考」
K.ニコル - Dream away the time
水野みか子 - 整列効果
問い合わせ:
http://www.jscm.net/(日本現代音楽協会)

以下、プログラムの詳細。公式サイトよりコピペしてきたもの。…いま気づいたのだが、「心象風景第1番」やるんだ!!ますます聴きたかったなあ。この曲の独特なポルタメントって、てっきりラジオの音かと思っていのだが、レコードプレーヤーの音だったのですね。知らなかった。

●第1部/ライブ・エレクトロニクス過去形(歴史的作品の上演とシンポジウム)
[1]ジョン・ケージ/Imaginary Landscape No.1 (1939)
岩崎真(Player 1 レコードプレーヤー) 山田香(Player 2 レコードプレーヤー)
牧野美沙(Player 3 打楽器) 山本清香(Player 4 ストリング・ピアノ)
[2]ピエール・ブーレーズ/二重の影の対話(Sax ヴァージョン)(1985)
佐藤淳一(サクソフォーン) 森威功(コンピュータ)
[3]レクチャー/沼野雄司「ライブ・エレクトロニクス再考」
●第2部/ライブ・エレクトロニクス未来形(新作初演コンサート)
[4]キム・ニコル/無声映画「真夏の夜の夢」による箏とピアノのライブ・エレクトロニクスのための「Dream away the time」(2009/初演)
吉川あいみ(生田流箏) 山本清香(ピアノ) キム・ニコル(コンピュータ)
[5]水野みか子/バスーンとコンピュータのための「整列効果」(2009/初演)
桑原真知子(バスーン) 新美太基(映像プログラム) 水野みか子(コンピュータ)

2009/11/03

行けなかったよー(泣)

雲井雅人サックス四重奏団&マーフィ夫妻のジョイント演奏会にも、なめらーかさんの演奏会にも、ドリーム・ジャズ・オーケストラの演奏会にも行けなかったよー(泣)。

ま、いまさら悔やんでもしょうがないので、次の機会を楽しみにしておこうっと。

筑波大学吹奏楽団第62回定期演奏会

Espoir Saxophone Orchestraの本番ののち、府中からつくばへ2時間近い大移動。後輩たちの演奏会を聴いてきた。

【筑波大学吹奏楽団第62回定期演奏会】
出演:筑波大学吹奏楽団
日時:2009/11/01 18:30開演
会場:つくば市ノバホール
プログラム:
~第1部~
L.バーンスタイン - 序曲「キャンディード」
八木澤教司 - 空中都市「マチュピチュ」
J.ヴァン=デル=ロースト - カンタベリー・コラール
V.ネリベル - 二つの交響的断章
~第2部~
A.シルヴェストリ - バック・トゥ・ザ・フューチャー
E.モリコーネ - 海の上のピアニスト
J.ザヴィヌル - バードランド
D.ギリス - 台所用品による変奏曲
D.ホルジンガー - スクーティン・オン・ハードロック
~アンコール~
M.ルグラン - キャラバンの到着
伊藤康英 - 舞子スプリングマーチ

到着したのが、「マチュピチュ」の直前。そんなわけで最初の「キャンディード」は聴けなかったのだけど、第一部はどれも完成度が高く、楽しめた。特にネリベルはすごかったなあ。第二部は、バードランドではっちゃけてからの3曲が良かった!「バードランド」の強力なノリは昔と変わっていないし、「台所用品」は可愛らしい演出が楽しかったし、ホルジンガーはこの曲が好き!という雰囲気が伝わってきて…。

アンコールも、高い技術に大人な雰囲気で、楽しかった。そして、やっぱり「舞子」は名曲!

Espoir SO 8th

もう11/1のことになるが、ご来場ありがとうございました。

やっぱり一番苦労したのはベルノーだったのだけれど、いままで一緒に演奏したことのないメンバーがほとんどだったこともあり、大変勉強になり、そして楽しかった。大編成の演奏曲目については、個人的には試行錯誤の連続であり、まだまだ「こう演奏すれば良い!」というメソッドを獲得しきれていない部分があるなあ。しかし、周りの皆さんは上手かった…。そういった意味では、こちらも大変勉強になった!

【Espoir Saxophone Orchestra 8th Regular Concert】
出演:Espoir Saxophone Orchestra、福井健太(指揮)
日時:2009年11月1日(日)13:30開演
会場:府中グリーンプラザけやきホール(京王線府中駅下車徒歩1分)
プログラム:
J.シュトラウス/圓田勇一 - 喜歌劇「こうもり」序曲
P.デュカス/中尾敦 - 交響詩「魔法使いの弟子」
J.ノレ - アトゥ・サックス
久石譲/中尾敦 - ハウルの動く城
A.ベルノー - 「サクソフォン四重奏曲」より第1, 4楽章
たかのなおゆき - グリーンスリーヴス変奏曲
C.サン=サーンス/佐藤尚美 - 交響詩「死の舞踏」
G.ビゼー/ミ・ベモルSE - 「アルルの女」第二組曲
アンコール:J.シュトラウス - 雷鳴と雷光