2009/03/30

ぼちぼち出発

今日、実家から研修先へ出発。PC環境&ネット環境からしばらく離れるので、ブログの更新が滞る予定。PC環境に関してはミニノート(4万円ちょっと、安い!)を買ったので、2週間で復活予定。ネット環境に関しては、まったく未知。

いちおう携帯から更新することもできるが、さすがに大きい記事は書けないだろう。

ブログ以外では、Yahoo!メール(kuri_saxo@yahoo.co.jp)は少なくとも一日二回くらいは携帯から見てます。ミクシも携帯から時々…。

----------

会社の研修の関係上、しばらくは住所不定のままあちこちをふらふらするため、所持CDは実家に仮住まい。だけど、さすがにそれではあんまりなので、何枚か持ち歩こうと思いながら選んでみた。

木下直人さんに送ってもらった、ラヴェル全集の4枚、デファイエとロンデックスのCrest盤、ミュールのSP復刻盤。まずはこれだけあれば十分だろう。あと、ジョン・ハールやアポロSQのCDを、何枚かポータブルプレーヤーに入れた。そして、どうしても手元に置いておきたい3枚のCD。わかるかなあ笑(特に一番下のやつ)。

2009/03/29

フルモージャパンツアーDVD発売情報

噂にはなっていたが、ようやく発売。2008年のフルモー氏のリサイタルの東京公演の模様が、DVD化されたようだ。発売元は株式会社PALS東京で、価格は4800円。以下のリンクから直接購入することができる(作品→吹奏楽DVD、と辿れば良い)。

http://www.pals-tokyo.co.jp/

昨年暮れのフェスティバル、ヤマハのブースで未編集の映像が流れていたっけな。カメラが一本だけというのはちょっと残念、そのわりにやや高価だが、新生活が落ち着いたらたぶん買います。みなさんもぜひ。

以下、サイトからのコピペ。

----------

ジャン=イヴ・フルモー ジャン=イヴ・フルモー サクソフォン リサイタル ジャパンツアー2008

オプセシオン/K.ベッファ
Obssesions(日本初演)/Karol BEFFA

ソナチネ/C.パスカル
Sonatine/Claude PASCAL

ソナタ/F.デュクルック
Sonate en Ut#/Fernande DECRUCK

前奏曲、カデンツァと終曲/A.デザンクロ
Prelude, Cadence et finale/Alfred DESENCLOS

サバの女王の登場/G.F.ヘンデル(編曲:J.Y.フルモー)
Arrivee de la reine de sabbat/Georg Friedrich HANDEL(Arr.Jean-Yves FOURMEAU)

コンチェルト/A.マルチェロ(編曲:波多江史朗)
Concerto/Alessandro MARCELLO(Arr.Shiro HATAE)

アトゥ・サックス/J.ノレ
Atout Sax/Jerome NAULAIS

アルトサクソフォンと11の楽器の為の室内小協奏曲/J.イベール(編曲:J.M.ロンデックス)
Concertino da camera/Jacques IBERT(Arr.Jean-Marie LONDEIX)

アンコール
1.Mademoiselle Cendrillon
2.Joao et Stan
収録:2008年10月31日 第一生命ホール

2009/03/28

嬉しいこと

マスランカ氏への窓口となって連絡を取ってもらっていたメンバーのHに、TSQ Vol.3で演奏をしたという報告兼お礼、そして演奏をアップロードしたYouTubeのアドレスを連絡してもらった。数日前に返信があったそうで、メールの内容を転送してもらったのだが…うーん、嬉しいですね。もちろん、社交辞令的なものもあるのかもしれないが、すこし特別な演奏だったのかもなあと、再認識(思い上がりすぎだろうか?)。

THANK YOU for sending your wonderful performance of Recitation Book! It gave me such great pleasure to see you and your friends young people whom I do not know, from a distant part of the world, who have given yourselves so completely to this music. This is the hope of the world, to make music like this. It is very, very important that you continue.

All very best wishes,

David Maslanka

2009/03/27

H.R.ポラン参加の「神秘的六重奏曲」

サクソフォン奏者、アンリ=ルネ・ポラン Henri-René Pollin氏というと、何よりもまずダニエル・デファイエ四重奏団のアルトサクソフォン奏者としての顔が有名だろう。デファイエ四重奏団でのポラン氏の演奏というと、他のプレイヤーに比べてバランス的にはやや抑制されているものの、耳にずっと残る音色、上質のワインを味わうかのようなヴィブラート、さらに驚異的なフレージング能力といったところが印象深い。

また、フランスのルーアン音楽院のサクソフォン科教授となり、指導者としても手腕を発揮した。門下生も数多いが、たとえば日本人では、九州で活躍するサクソフォン奏者の荒木浩一氏が、ポラン氏の弟子にあたる。

そのポラン氏が参加した、ヴィラ=ロボス「神秘的六重奏曲」が収録されたLPというものが存在する。チュリビオ・サントスというギター奏者がメインのアルバムなのだが、このなかでパイヤール室内楽団の一員として、ポラン氏が演奏しているのだ。同曲の演奏については、私の手元に今までにロンデックスのEMI盤や、最近発売されたミーハ・ロギーナ氏&李早恵氏参加のメイヤー財団盤などがあったが、それ以外は…?というと、ちょっと思いつかない。しかし、まさかこんな大御所サックス吹きが参加した音盤があるとは!と、驚いてしまった。

H.Villa-Lobos - Concerto Para Violão & Pequena Orquestra
H.Villa-Lobos - Sextuor mystique
H.Villa-Lobos - Prelúdios

ヴィラ=ロボス作品集って感じですね。クレジットを確認してみると、指揮がフランソワ・パイヤールで、フルートがマクサンス・ラリュー、ハープがリリー・ラスキーヌ(ロンデックス盤と同じだ!)と、ずいぶん豪華なアンサンブルである。「神秘的六重奏曲」でのポラン氏は、やや神妙にフルートやオーボエとのアンサンブルを優先して吹いているものの、随所随所でアンサンブルの引き締めと色添えに一役買っており、さすがである。「コンチェルト」も、フランスの管楽アンサンブルという響きそのもので、実に心地よい。しかも、曲がとてもかっこいいのだ!冒頭部分のオスティナートからしてびびびっとしたものを感じるし、カデンツァの技巧や、そこからなだれ込むアレグロもにぎやか、というよりクールだなあ。

また、私はギターのことは良く分からないが、このサントス氏という奏者は、実にすばらしいギター奏者だと思った。テクニック、音色ともに、実にすばらしいと感じた。ギターの世界って、このくらいは普通なんだろうか(興味あるところだ)。誰か詳しい方がいたら、教えて下さい。

さよならつくば!

全ての準備を終えて、つくば駅へのバスの中。

みんなありがとう!また会う日まで!

2009/03/26

大学院修了

昨日大学院の修了式があり、これに卒業となった。昨日は修了記念に飲み会へと繰り出し、友人宅へ伺って二次会。今後もたびたび会うことを約束して、解散した。今日は朝から引っ越しの搬出。14時には全てが終わり、研究室に来てこのブログを書いている。

4年間の大学生活と、2年間の大学院生活のなかで、思い出深いことは多いが、何より学類(研究科)のほうでもサークル(楽器関連)のほうでも、双方でよき友人・仲間に恵まれたことは感慨深い。心から、楽しい学生生活だった!

学類・研究科のみんなと。先日行ったハワイで、最後に撮った集合写真。みんな疲れてますね(笑)。





サークル(楽器関連)のほうでもいろいろやったけど、とりあえずはこの写真を。Tsukuba Saxophone Quartetのメンバー。

2009/03/25

ヴァンサン・ダヴィッド氏関連のウェブサイト

なぜだか知らないけれど、フランスのサックス関連のウェブページってFlashで作られているものばかりで、重い。まあ、最近のPCやネットワークの性能を考えると、リッチ・コンテンツも気にはならないのだが、やはり情報を早く手に入れたいときはストレスになる。おまけに、なかなかGoogle検索で上位に引っかからないのだよな。なんでだろう。

というわけで、ヴァンサン・ダヴィッド氏関連の公式ウェブをまとめておく。ヴァンサン・ダヴィッド Vincent David氏の公式ページはこちら。ブーレーズ「二重の影の対話」の、YouTubeにアップされているヴァージョンとは違う動画が観れたり、写真が面白かったりして、なかなか面白い。

http://www.vincentdavid-sax.com/

----------

そのヴァンサン・ダヴィッド氏がリーダーを務める、アルカン四重奏団の公式ページはこちら。とても面白い活動をしている四重奏団だと思う。大阪国際室内楽コンクールでは、ハバネラ四重奏団と一位の座を争っていた。

http://www.substance-arcanes.com/

メンバー:
Vincent David, saxophone soprano
Damien Royannais, saxophone alto
Gregory Demarsy, saxophone ténor
Erwan Fagant, saxophone baryton
ロイヤネ氏は、ドゥラングル教授とBISのCD、「The Russian Saxophone」でグバイドゥーリナ作品を共演してますね。エルワン・ファガン氏は、ブール=ラ=レンヌ音楽院教授。

試聴コーナーが面白くて、Monniotによるヴィヴァルディの四季を再構築した「Vivaldi Universal」にびっくりした。レコーディングのリリース予定もあるそうだ。うわー、楽しみ!ラヴェルとドビュッシーの弦楽四重奏曲を収録した「R+D」も、早く聴きたい(安井さんから買いそびれたのだ)。

2009/03/24

ラッシャーのブレスコントロールなど on YouTube

シガード・ラッシャー Sigurd Rashcerの演奏の特徴として、息をほとんど使わないブレス・コントロールがある。YouTubeにシューベルトの「蜂」を演奏した動画を観ていただければわかるが、長大なフレーズをノンブレスで、循環呼吸等を使用せずに吹ききっているのだ。この息の扱いには、まったく驚くほかない。

動画は、リクエストによる埋め込み無効、となっていたので、URLだけ貼り付けておく。

http://www.youtube.com/watch?v=HvLzR3QZcJo

というかこれ、The Legendary Saxophonists Collectionの一部ではないのか…ブッシャーのレクチャーフィルムもアップされているし…。

ちょっと怪しいが、ブッシャーのレクチャーフィルムも、いちおうURLを貼り付けておく。こちらは、上の動画よりも、さらに興味深い内容である。レクチャーのセクションでカーヴドソプラノを吹いている女の子は、なんと若き日のカリーナ・ラッシャー(!)。4分18秒からの、カリーナの驚異的なオーバートーン…!!

http://www.youtube.com/watch?v=nXTIYaCwQAM

2009/03/23

やりたいこと

ものすごい勢いで引越し準備中。CDと楽譜だけで、1.0x0.5x1.5サイズくらいの体積になった。荷物をまとめながら、これから先、どういうスタンスで音楽活動していくかということをぼんやりと考えている。

・ブログはしっかり続ける。

・個人でやりたいこと、何かの団体に属してやりたいこと、いろいろ。

・サクソフォンという楽器に関してのアプローチだけでは、音楽の本質に近づくことはできないし、かといって楽曲に対するアプローチばかりを考えていても、演奏技術の維持・向上は見込めないのかもしれない。結局どうすれば良いかというと、両者をバランス良くミックスしなければいけないということなのだろうが…。

・サクソフォンとエレクトロニクスのために書かれた作品への積極的な取り組みを、自らのライフワークとしたい。既にいくつか、キューイングしている作品がある。この分野では、大石将紀さんがかなり面白い活動を展開しているが、私だってもアマチュアなりにできることがあるのではないか?演奏会という形では準備が大変だが、例えば録音という形でならばどうだろう?

・個人的な演奏技術の向上。ひとつ考えていることがあって、それは今後の活動の中で最も優先度が高い。

・吹奏楽連盟のアンサンブルコンテストなどは、果たしてこの先縁があるのだろうか(笑)。サクソフォーン協会のアンサンブルコンクールなんかは、どうだろう。というかそもそも、この先アンサンブルを組む機会があるかどうかすら謎。

・サクソフォンのために書かれた作品や、歴史的録音に関する調査。これに関しては木下直人さん始め、周りの方々のお世話になっている部分が大きいが、積極的にブログもしくは別媒体で発信していきたい。

・数多くの英語資料の和訳。North American Saxophone Allianceあたりの人と、なんとか絡めないもんかね。とりあえず、もっときちんと英語を読めるように/書けるようにならないと…。

----------

まったく、脈絡がないなあ。具体的じゃなかったり、抽象的だったり。ま、なるようになりますよね。

2009/03/22

塙美里サクソフォンリサイタル Vol.1

【塙美里サクソフォンリサイタル vol.1】
出演:塙美里、原博巳(sax)、服部真由子(pf.)
日時:2009年3月22日(日)16:30開演
会場:水戸芸術館コンサートホールATM
プログラム:
A.カタラーニ - 歌劇「ワリー」より
C.ドビュッシー - ラプソディ
C.フランク/塙美里 - ヴァイオリンソナタ
J.ワイルドバーガー - ポートレイト
M.ブルッフ/塙美里 - コル・ニドライ 他
R.シューマン - アダージョとアレグロ
J.B.サンジュレー - デュオ・コンチェルタント
~アンコール~
J.オッフェンバック - 舟歌
G.テレマン - ファンテジーより 

かなり前からご案内を頂いていた演奏会で、卒業旅行の最終日と被っていたが、なんとか開演に間に合いそう!ということで予定に組み入れていた。が、まさかの飛行機の30分の遅延が、バスへの乗り継ぎの断絶を招いて…演奏会が終わる直前、アンコールが始まる前にようやく会場に駆け込んだ。そういうわけで本プロがまったく聴けず、残念(T_T)!!インタビューを経た後の、原さんとのデュエットでのアンコール、オッフェンバックの舟歌が、洗練されたシンプルな響きが心地よかった。

というわけで、アンコールは聴けたのだが、良い音色を持つ方だ。洗足学園音楽大学での勉学の後、現在はセルジー・ポントワーズ音楽院で学ばれているとのことだが、その中で自分自身の音を確立してきたのだろう。日本人の演奏という感じでもなく、フランスの音楽というわけでもなく、双方の間を行き来しながら自在に楽器を操っていた。ううん、そうするとやはり、各国の音楽性がでる本プロの演奏がやはり聴きたかったなあ…ドビュッシーやフランクは、いったいどういう演奏をするのだろう。

少し話題は変わるが、今回は塙さんにとってリサイタル、ご自身の地元での開催となったようだ。お客様も、関係者と思われる方が多数。そういうパーソナルな感じも、また良いなあと思えてしまうところが素敵ですね。終演後のロビーでのお客さんの反応をみるに、皆さんが「良かった」と口にしているのを聴いて、なんだかこちらまで嬉しくなってしまった。こんな形でサクソフォンの良さが、伝わっていってほしい。終演後、塙さんと原さんにご挨拶することができた。ロビーでは、塙さんのご両親から挨拶されてびっくりした…演奏会の映像をDVDで送ってくれるとのこと。楽しみ。

----------

今回の演奏会に、恐縮ながら曲目解説を寄稿いたしました。印刷に最終稿が反映されていなかったようなので、ここに全文を公開いたします。著作権は放棄しているので、自由に使っていただいて構いません。ブルッフについては、参考文献にかなり頼ったのですが、シテーションをド忘れ…(←ひどい)。というわけで、ブルッフに関してだけは扱いに注意してください。

アルフレード・カタラーニ:歌劇「ワリー」より「さようなら、ふるさとの家よ」

 生前、ヴェルディ、プッチーニといった大オペラ作家と対等の評価を得ながらも、若くして亡くなった作曲家、アルフレード・カタラーニ(1854 – 1893)。彼が遺した作品はわずかですが、いずれの作品も高い人気を博しています。カタラーニが亡くなる前年に完成させた傑作「ワリー」は、アルプスの美しい情景のなかで語られる若い男女の恋物語です。全編に溢れる豊かな旋律が人気を博し、現在でも上演回数の多いオペラの一つです。
 「さようなら、ふるさとの家よ」は、劇中で歌われるアリアの一つ。主人公の女性、ワリーが、父親の決めた相手と無理やり結婚させられそうになり、「それでは私は家を出て行きましょう」と歌う、第一幕のハイライトに置かれた美しいアリアです。
 サクソフォンは、その表現の幅広さから「歌う管楽器」とも呼ばれます。ジャズで使われる激しいブロウからオペラのアリアまで、旋律に込められた感情を自在に表現することができるのです。

クロード・ドビュッシー:ラプソディ

 ベルギーの楽器職人、アントワーヌ=ジョセフ(アドルフ)・サックス(1814 – 1894)によって、このサクソフォンという楽器が誕生したのが1840年代ですから、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンなどの大作曲家にとっては、サクソフォンはもちろん未知の楽器。クロード・ドビュッシー(1862 – 1918)ほどの著名な作曲家がサクソフォンのためのオリジナル作品を手がけた例は、そう多くはありません。
 しかし、その作品「ラプソディ」が作曲された際のエピソードは、サクソフォンの憂鬱として語り草になっているのです。20世紀始め、数々のピアノ曲や、「ペレアスとメリザンド」などの作品により、国際的な地位を確立しつつあったドビュッシーですが、ある日、エリザというアマチュア奏者から、サクソフォンとオーケストラのための作品制作を依頼されます。何気なしにその依頼を承諾し(しかも、相当の大金が支払われた!)筆を執ったドビュッシーでしたが、オーケストラ作品「海」の制作時期ともぶつかって、作曲は遅々として進みませんでした。この時期、友人に宛てた手紙の中で、ドビュッシーは次のような愚痴をこぼしています。
 「依頼人から頂いたお金は使ってしまったので、今さら作曲を断ることはできない。さらに悪いことに、私はサクソフォンという楽器についてよく知らないのだ。いったいどんな曲を書いたらいいのだろう。」
 サクソフォンという楽器は、最後までドビュッシーの創作意欲を刺激することはありませんでした。そして、ドビュッシーは未完成のピアノスケッチをエリザに送りつけて、この仕事から逃げてしまったのです。
 しかし、上記のような経緯を知った上でも、この作品が傑作の一つであることは疑いようがありません。淡い霧の中から浮かび上がるようなピアノのフレーズに続いて、サクソフォンが異国風のフレーズを奏で、やがて導かれるスペイン風のリズムに乗って音楽は徐々に高揚していきます。

セザール・フランク:ソナタ

 弦楽器のために書かれた作品をサクソフォンで演奏するというアイデアは、近年盛んに実現されるようになりました。サクソフォンは最低音から最高音までたったの2オクターヴ半しかない楽器ですから、広い音域をもつヴァイオリン作品を演奏することには、かつては困難が伴いました。演奏技術の進歩や楽器の改良により、サクソフォンがヴァイオリンのレパートリーに触れることが可能となった、と言えるでしょう。
 ベルギーに生まれ、パリにおいてその活動の幅を広げたセザール・フランク(1822 – 1890)は、フランスにいながらにして伝統的なドイツ音楽に根差した作曲活動を展開しました。自身が教会のオルガン奏者でもあったことから、オルガンやピアノのための作品を数多く残し、それらの作品は今日の演奏会でもたびたび取り上げられます。
 そのフランクの手による最高傑作と言われているのが、この「ヴァイオリン・ソナタ」です。フランス音楽界から生まれたヴァイオリンの作品の最高峰とも称されるこの作品は、フランク晩年の1988年ころに生み出され、当代随一のヴァイオリニストと言われたウジェーヌ・イザイに捧げられました。
 第一楽章で奏でられるメロディが、めくるめく形を変えながら楽曲のあちらこちらに顔を出す「循環形式」という作曲法が使われています。これにより4つの楽章の間には緩やかなつながりが感じられ、全体を通して何か一つの物語が構成されているような印象を受けます。独奏パートのみならず、ピアノパートが充実していることも、この作品の聴きどころの一つです。

ジャック・ワイルドバーガー:ポートレイト

 ジャック・ワイルドバーガー(1922 – 2006)は、スイスのバーゼル生まれの作曲家です。バーゼル音楽院に学んだ後、いくつもの作曲賞を受賞。欧州での評価を確立した後は、ドイツとスイスを股にかけて作曲活動・教育活動に奔走しました。
 「ポートレイト」は1982年に作曲され、同じくスイス出身のサクソフォン奏者、イワン・ロトに捧げられました。タイトルの「ポートレイト」とは、この曲がサクソフォンという楽器の機能性を映し出していることから名付けられています。例えば、速いフレーズを自在に駆け回ることや、音の跳躍の安定度、そして重音(同時に複数の音を鳴らす!)などの特徴においては、数ある管楽器を見渡してもサクソフォンの右に出るものはありません。
 この作品はピアノ無し、サクソフォン一本で演奏されますが、その「無伴奏サクソフォン」という特殊な編成の一翼を担う重要な作品です。フランスの権威ある研究家、ジャン=マリー・ロンデックスも、サクソフォンのための最重要レパートリーの一つとして、この作品を挙げているほどです。

マックス・ブルッフ:コル・ニドライ

 マックス・ブルッフ(1838 – 1920)といえば、ベートーヴェン没後以降のドイツ・ロマン派音楽を支えた一人として名高く、特に弦楽器のために作られた作品が有名です。ブルッフの作品はユダヤ系の民族音楽にヒントを得たものが多く見られますが、この「コル・ニドライ」もまた、そういった特徴をもつ曲のひとつです。
 14世紀の中ごろ、スペインやポルトガルには多くのユダヤ人が居留していました。キリスト教に改宗しない人々に対する迫害が広まる中で、多くのユダヤ人は先祖伝来の信仰を捨てなければならなかったと言います。しかし敬虔なユダヤ教徒は、改宗した罪を悔い、ひたすら神に許しを請い、いつかは本来の信仰に帰ることを誓い続けました。このような心底からの懺悔の思いを神の前に朗詠しているうちに、いつしかメロディがつき、「コル・ニドライ(=神の日)」と呼ばれる祈りの歌となったのです。
 このエピソード、そして旋律の美しさにインスピレーションを受けたブルッフは、原曲のメロディを用いながら、チェロと管弦楽のためにこの崇高な作品を作曲しました。導入部は暗く厳かな曲調ですが、後半の明るさにはいつか来る自由の日への希望が表現されているかのようです。

ロベルト・シューマン:アダージョとアレグロ

 ロマン派を代表するドイツの作曲家ロベルト・シューマン(1810 – 1856)は、ピアノ曲や歌曲の分野において、数多くの作品を残しました。そのどれもが美しいメロディと和声に満ち溢れ、150年以上を経た現代にあっても、演奏家や聴衆の心を捉え続けています。
 シューマンの創作の中心がピアノのための独奏曲に置かれていたのは、妻であったクララが優れたピアニストであったからという理由によります。しかし、クララが子供たちの世話に勤しむ中で、シューマンは徐々にピアノ独奏以外の分野にも創作の幅を拡げていくのでした。1849年には管楽器のための作品をいくつか手がけており、その中で作曲されたのが「アダージョとアレグロ」です。
 本作品は独奏ホルンのために書かれましたが、一つの特徴として当時開発されたばかりであったヴァルヴ・ホルン(半音階を出すことが可能)を想定していることが挙げられます。新しいもの好きだったシューマンの、その興味の片鱗を垣間見るような気がします。
 楽曲は、夢見るように美しい「アダージョ」と、一転して激しい跳躍が随所に聴かれる情熱的な「アレグロ」の、対照的な2つの楽章から構成されています。こんにちではホルン以外に、チェロやヴァイオリン、そしてサクソフォンなどで演奏されることも多く、多くの音楽家たちにとって重要な作品となっています。

ジャン=バプティスト・サンジュレ:デュオ・コンチェルタント より2、3楽章

 ジャン=バプティスト・サンジュレ(1812 – 1875)は、19世紀ベルギーのブリュッセル生まれのヴァイオリニスト・作曲家。ドビュッシーよりもさらに早い時期に、サクソフォンのためのオリジナル作品を世に送り出した一人です。
1850年代、フランスのパリ音楽院にはサクソフォンを学ぶための世界で初めてのクラスが開設され、発明者サックス自身がそのクラスの教授として招かれました。このサクソフォン・クラスの卒業試験課題曲の作曲を手がけていたのが、ほかならぬサンジュレだったのです。新参者の楽器のためのオリジナル作品がないことに頭を悩ませたアドルフ・サックスが、同郷の作曲家であるサンジュレに、試験のためのオリジナル作品を委嘱したであろうことは、想像に難くありません。サンジュレはその後もサクソフォンのために30近い作品を提供し、サクソフォンの黎明期における発展を担ったとされています。
「デュオ・コンチェルタント」は1858年の所産。ソプラノ&アルトサクソフォンとピアノのために書かれた、3楽章形式の美しく簡素な作品です。サンジュレと同じく、当時サクソフォンのためにオリジナル楽曲を提供した作曲家の一人、ジャン=ジョルジュ・カストネに捧げられました。本日は、その中から第2楽章と第3楽章を取り上げて演奏します。

帰国

帰国しましたー

楽しかったー。バンパーチューブから振り落とされたり、ビーチでのんびりしたり、ショッピングしたり、シュノーケルしながら熱帯魚にあげてみたり、アメリカンなディナーショーに参加してみたり、アメリカンサイズな食事を楽しんだり…。そして、現地で誕生日を祝ってもらえて、とても嬉しかった(3/21をもって、24歳になりました)。

一瞬体調を崩し、ダイヤモンドヘッドに登れなかったのだけがちょいと心残り。向こうの食事は口に合わないみたい(笑)。日本食が恋しくなった。

2009/03/18

ハワイー&演奏会案内

ちょっと今からハワイに行ってきます。卒業旅行です。わーい(^∀^)ノ

帰国予定は22日正午。Yahoo!メール、gmail、ミクシィ、携帯電話等々、いずれも繋がらなくなりますので、よろしくお願いします。次のブログ更新は、22日の夜かなあ。

あと、26日以降、とうとうつくばから引っ越します。8月くらいまであっちこっちに飛ばされるため、新住所は未定。

----------

演奏会案内をいくつか貼り付けておく。塙さんのリサイタルのほうは、帰国してそのまま成田空港から直行する予定。

【神奈川県立荏田高校第25回定期演奏会】
ゲスト:田村哲(sax)
日時:3月21日(土) 17:00開場 17:30開演
会場:宮前市民館(東急田園都市線宮前平駅徒歩5分)
料金:入場無料(チケットなし)
プログラム:
P.スパーク - パントマイム
P.スパーク - カーニヴァル


【塙美里サクソフォンリサイタル vol.1】
出演:塙美里、原博巳(sax)、服部真由子(pf.)
日時:2009年3月22日(日)16:30開演
会場:水戸芸術館コンサートホールATM
料金:前売り1500円 当日2000円
プログラム:
C.フランク/塙美里 - ヴァイオリンソナタ
C.ドビュッシー - ラプソディ
J.B.サンジュレー - デュオ・コンチェルタント 
M.ブルッフ/塙美里 - コル・ニドライ 他
主催:財団法人水戸市芸術振興財団
問い合わせ:
029-227-8118(水戸芸術館コンサートホールATM)
misatosax@hotmail.co.jp(塙美里)

2009/03/17

木下直人さんから(ミュールのSP復刻を公開)

木下直人さんから許可を得たので、以前頂戴したミュールのSP音源から「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」を公開。以下のリンクからどうぞ!できるだけ音質をそのままに、CD-Rからリッピングを行ったつもり。ノイズはもちろん無修正。SPとは思えない驚くほどクリアな音質、そしてその奥から聴こえる音楽に、酔いしれていただきたい。

http://awesomeband.hp.infoseek.co.jp/kuri_saxo/

(コメント欄等に感想を書いていただけると幸いです)

また、ラヴェル全集とCrestのリサイタルシリーズの2枚(デファイエ&ロンデックス)を、マランツCDR630で再度録音していただき、最終決定版として送っていただいた。CDR640やCDR632よりも、フランス盤には適合するのだそうだ。ありがとうございます!引越しでどたばたしているが、ただひたすらこればっかり聴いている。「マ・メール・ロワ」いいなあ。

CDを全て梱包したら、小型衣装ケース4つ分くらいになって驚いた。楽譜とあわせると、ちょっと驚くほどの量だ。

2009/03/16

Tsukuba Saxophone Quartet - Saxophone Concert Vol.3総括

ようやく演奏会が終わり、とりあえずTsukuba Saxophone Quartetとしての活動は休止状態に入った。6年間の学生生活の傍ら、好き勝手にやった四重奏も、良い形で区切りをつけることができて、とても良かった。

演奏会のプログラム冊子のために書いたプログラムノートは、Tsukuba Saxophone Quartetのページで公開中。ちょっと長くなってしまったが、ご覧頂けると嬉しい。いちおう残しておくつもりではあるので…。

----------

少し話は飛ぶが、学生のときにやった演奏で、(クラシックで)その時点での自分が関わった最高の演奏!というものがある。その時の精神状態とか演奏中の興奮とか練習の過程が総合的に充実していて、さらに本番の演奏も(疵はあるけれど)その時の最高レベルを達成したもの。不思議と何度も聴き返したくなるというものだ。それは今までに3つあって、

・3年生のときに吹奏楽コンクールで演奏したバルトーク「中国の不思議な役人」@東関東大会
・協会のコンクールに応募するために録音したグラズノフ「四重奏曲」の第3楽章。セッションレコーディングだった。
・TSQ Vol.2で、ソロで演奏したJacobTV「Grab It!」

ここに、TSQ Vol.3で最後に演奏したマスランカ「レシテーション・ブック」を付け加えたい。メンバーの皆さんにいろいろありがとう、ですね。

YouTubeに動画アップロードしました。撮っていただいたf_iryo1氏、ありがとうございました。下に第5楽章を貼り付けておきます。

ディヴィッド・マスランカ「レシテーション・ブック」第5楽章
Tsukuba Saxophone Quartet / Mar. 14 2009 Live Performance


さて、引越しの準備を進めないと…。

2009/03/15

TSQ Vol.3終演

演奏メンバーの皆様、スタッフの皆様、吹奏楽団の皆様、客演の渡瀬先生、支えてくださった家族、サクソフォン関係の友人・知人、ご来場いただいたお客さま、皆々様、心の底からありがとうございました!

明日は、聴きに来てくれた家族とお昼ご飯一緒に食べようと思います。

2009/03/14

【再度ご案内】Tsukuba Saxophone Quartet - SAXOPHONE CONCERT Vol.3

演奏会の日まで、この記事をトップにしておきます。第2回に比べ規模を縮小しましたが、凝縮された面白さを味わっていただければ嬉しいです。

【Tsukuba Saxophone Quartet - SAXOPHONE CONCERT Vol.3】
日時:2009年3月14日(土)開場19:15 開演19:30
会場:つくば市アルスホール
客演:渡瀬英彦(フルート奏者)
入場無料
プログラム:
P.ウッズ - ソナタより
M.ブンス - ウォーターウィングス
G.ロッシーニ - チェロとコントラバスのための二重奏曲
F.フェラン - ソナティナ~パールサックス
A.マルチェロ/波多江史朗 - 協奏曲(独奏:渡瀬英彦)
D.マスランカ - レシテーション・ブック
問い合わせ:
http://tsukubasaxophone.blog51.fc2.com/
kuri_saxo@yahoo.co.jp
後援:日本サクソフォーン協会、筑波大学吹奏楽団

2009/03/13

明日だなあ

もう明日はコンサートだなあ。アンコールはきちんと決まりました(笑)今日はリハーサルをやって、アンコール決めて、午後練習して、いろいろ雑務をこなしていたらもうこんな時間。さっさと帰って、明日は起きるまで寝てよう。

明日の演奏会、規模は小さくとも、周りの方々の協力もあって、なんとかここまでこぎつけた。私自身はつくばでの公式な演奏としては、明日でおそらく最後になる。Tsukuba Saxophone Quartet自体も、この演奏会をもって活動休止状態に入る(現在のコアメンバー4人のうち、私を含めた3人がこの春につくばを去るから)。

良く判らないけれど、やっぱり演奏会は聴いていて面白くあるべきなのだろう。Tsukuba Saxophone Quartetの演奏会って、ざっと見渡してみても割と面白い部類に入るんじゃなかろうか。もちろん自分たちが面白いと感じることを、どれだけのクオリティでお客様に提示できるかは、努力とセンス次第なのだが。明日の演奏会、そんな「面白み」をちょっとでも感じ取っていただければ幸いです。

2009/03/11

Russell Peck逝去

アメリカの作曲家、ラッセル・ペック Russell Peck氏が逝去したそうだ。1945年生まれとのことで、まだ早過ぎる…。サクソフォンのためには、「ドラスティック・メジャーズ」「アップワード・ストリーム」という2つの傑作を残してくれていた。これらの作品の面白さから、他の作品も聴いてみたいと思っていたが、結局まだ聴けていない。

そういえば、昨年、林田和之氏がフェローSQとともに「ドラスティック・メジャーズ」とCafuaに吹き込んだのは周知のとおり。国内サックス界での認知度も、ようやく上がってきた矢先の、急逝であった。

テナーサクソフォンのための協奏曲としては、最高傑作とされる「アップワード・ストリーム(上昇気流)」は、個人的な思い入れが大きい。いつか必ず、ライヴで(オーケストラ版で!)聴いてみたいと思っている。

…ご冥福をお祈りします。研究室から帰ったら、2つの曲を聴こうと思います。

結婚式場にて

もう昨日だが、とある中学校PTA会からの依頼で、懇親会のBGM演奏をしてきた。編成は、Cl(S.Sax持ち替え)+T.Sax+Pf+Dr+Bs。リクエストでJ-POPを数曲と、ファンクなどのスタンダードを数曲。Cantaloupe Islandは、やっぱ楽しいなあ。

場所は結婚式場で、下の写真は開宴前の様子。さすが、内装が豪華だった!

2009/03/08

何とかなりそう

PA機器を使用し、オペレータ兼サウンドデザインを友人に依頼して、(会場は違うものの)リハーサルを行った。「Waterwings」、以前ディレイの不具合が見られた問題に関しては、根本的な解決には至っていないものの、リバーヴやテープのバランスを上手くとることで何とかなりそうだ。サウンドバランスは重要なところだが、演奏を聴きながらその場で少しずつ調整していってもらうことにした。

4回ほどバランスを確認しながら通して合わせたが、冒頭部などで思いっきりリバーヴがかかると、けっこう面白いっす(笑)。今回の曲は、「Grab It!」とは対照的に、全編を通してずーーっと静かなので、その雰囲気が表現できれば良いなと思う。

あとは、ちょいと一癖あるMAX/MSPパッチの挙動が不安(^^;曲が始まらなかったらどうしようもないからな。これは元のプログラミングの問題なのだろうか。ま、何はともあれなんとかなりそうで良かった!

2009/03/07

マスランカ「レシテーション・ブック」内のメロディ(続きの続き)

昨年の記事で第2楽章と第5楽章について調べ、ひと月ほど前の記事で残りの楽章について調査を行ったものの、第4楽章だけはわからず終いだった。いくら調べても判らなかったのでマスランカ氏に訊いてみたところ、つい先日返答があった!「Chants of the Church」というグレゴリオ聖歌集の「O salutaris Hostia」というメロディを拾い出し、旋律線を重ねていくという手法で作曲した、とのことだ。

そこで早速「Chants of the Church」という書籍について調べてみたところ、これはCharles E. Spenceという人がグレゴリオ聖歌を編纂し、Gregorian Institute of the Americaという機関から1953に出版されているものだった。1953年出版ならば、パブリック・ドメインになっているはず…と思って探したところ、おお、あったあった。

早速楽譜を開いてみたところ、発見!Selected Gregorian Chantsのセクションの、32番「O salutaris Hostia. II」だ。以下がその楽譜となる(クリックして拡大)。読み方としては、楽譜の左上に付いている黒い点々がハ音記号ということなので、第2線、すなわちAから始まることになる。まさしく、あの第4楽章の音運びに間違いない!レシテーション・ブックではAbから始まっていたので、原曲とは半音の差があるということだ。

演奏会前に、なんとか調べがついて良かった。

【ご案内】東北大学学友会吹奏楽部サクソフォーンアンサンブル

仙台サックスのお知り合いの方の情報で知ったのだが、今日、しかも、もう1時間後の開演だそうだ(汗)。私たちTsukuba Saxophone Quartetと同じく、学生の吹奏楽団体から派生したサクソフォンアンサンブルとして、後輩から伝え聞いていた東北大学のサックスは気になる存在だったが、まさか演奏会の準備が進んでいたとは知らなかった。

直接の知り合いはいないし、演奏会についてもついさっき知ったので許可は得ていないのだが、せっかくなので情報を掲載しておく。プログラムに、「セントポール組曲」が入ってる!ご盛会をお祈りします!

【東北大学学友会吹奏楽部サクソフォーンアンサンブル第1回定期演奏会】
出演:東北大学学友会吹奏楽部サックスパート、赤崎裕之(cond.)
日時:2009年3月7日(土) 17:30開場 18:00開演
会場:仙台市民会館小ホール
料金:入場無料
プログラム:
渡部哲哉 - サクソフォーン五重奏のための舞楽「古都の彩」
A.デザンクロ - サクソフォーン四重奏曲
A.L.ウェバー - サクソフォーンオーケストラのための「THE MUSIC OF THE NIGHT」
G.ホルスト - セント・ポール組曲 他
問い合わせ:http://tohoku-sax.org/concert/

2009/03/06

木下直人さんから(ミュールのSP第1集)

木下直人さんから、CD-Rを送っていただいた。長年の調査・研究の末、Pierre Clementカートリッジを使用したSPの再生環境が整ったのだそうだ!!それに伴って、決定版の復刻を開始したということで、マルセル・ミュールのSPを復刻して送っていただいた。

これは、疑うことなく世界最高の復刻と言える。1950年代のPierre Clementを含む諸機器をオーバーホール(その方法も、試行錯誤を繰り返した驚くべき完璧さを誇る)し、当時の機器を当時の状態で再生しているのだ。まったく、素晴らしいというほかない。これを聴くと、SPよりもLPのほうが音質が良いだなんて言えなくなってしまう。ノイズなどまったく関係なく、その奥に存在する"音楽"が、そのまま眼前に広がる。

今回送っていただいた録音のリストは、以下。SP1枚ごとに洗浄→録音を繰り返すなど、大変な手間をかけているそうだ。深く感謝申し上げる次第である。

(Disque Gramophone DB-5062/5063)
Jacques Ibert - Concertino da Camera
Pierre Vellones - Rapsodie

(Disque Gramophone L-1033)
Gabriel Pierne - Introduction et Variations sur une ronde populaire

(Disque Gramophone K-5989)
Wolfgang Amadeus Mozart - Ave Verum Corps
Nicolai Rimsky Korsakoff - Scherzo

(Florige HP-2002)
Pierre Vellones - Andante (from "Concerto")

(Florige HP-2053)
Eugene Bozza - Concertino

(F.Columbia DF-2239)
Eugene Bozza - Scherzo (from "Andante et Scherzo")
Jean Françaix - Serenade comique (from "Petit Quatuor")

(Parlophone 80.755)
Joachim Raff - Inquietude, Explication

(F.Columbia DF-1557)
Gabriel Pierne - Canzonetta
Félicien Foret - Patres

(F.Columbia DF-853)
Camille Saint-Saens - Le cygne
François Combelle - Variations sur Malborough

(Disque Gramophone K-6007)
Felix Mendelssohn - La fileuse
Pierre Vellones - Le dauphin

木下さんから許可を得ましたので、いくつかのトラックを、ブログをご覧の皆様に対してMP3ファイルなどで公開したいと思っています。こちらは準備中…しばしお待ちください。例えば、ミュールの録音というと筆頭に挙がるイベールの「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」、復刻されたものは数多く出ているけど、これを凌駕するものはおそらく他には存在しないだろう。もちろん、そのほかのトラックに関しても同様。

CD-Rに記録されたデータを、できる限り忠実にPCにリッピングしようと思っている。音楽CDって、リッピング手法によっては、データの読み込みや訂正をすっ飛ばしたりして、音質が落ちることがあるのだ。CD記録時のリード・ソロモン符号化の仕組みを知れば、一定以上のデータが読み飛ばしや傷などによって情報が欠落すると、元のデータと差異が生じることがわかる。

2009/03/04

クレストン「ソナタ」のオケ版

ポール・クレストン「ソナタ」を、サックスとオーケストラにアレンジしたというものが登場したそうだ。アレンジしたのは、Marco Cicconeというイタリアのピアニスト。

…どんな響きなんだろ。しかも、なんとスコアとパート譜が以下のリンクからダウンロード可能!編曲に伴う著作権とかは、大丈夫なのか。

http://www.marcociccone.it/ENG/download.php

ふーん、と思っていたら、なんとここのページでは、ドゥラングル教授やフレデリック・ヘムケ氏がコメントを寄せているじゃないか!いったいどういう経緯?驚き。

それにしても、実際に聴いてみるまでどういう反応をして良いかわからないな。クレストンは、やっぱりピアノで弾いてこそだと思うですよ。かつては、ラッセル・ピーターソンによるデザンクロ「PCF」のオケ版というものも存在したが(ご存知だろうか?スペインのコングレスでも演奏されているのだ!)、あれは完璧に失敗していたしなあ、さーて、このクレストン「ソナタ」はどんなもんなのか。

2009/03/03

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(2/2)

MAX/MSPの問題は、少しパッチのパラメータをいじってみた。何とかなる…かなあ。

----------

前回の記事の続き。

♪生野裕久「四つの葦のための四つの章」/カルテット・スピリタス

生野氏とサクソフォン界のつながりは作曲・編曲両面において強く、私自身も生野氏が編曲したバーバー「思い出」を演奏したことがある。作曲も、例えば最近(でもないか)では雲井雅人サックス四重奏団のために書かれた「ミサ・ヴォティーヴァ」などが有名である。東西の中間を浮遊するような旋律線に面白みを感じるのだが、この作品もそういった特色をもつものだった。もともとはキャトル・ロゾーのために書かれた作品だそうだ。それぞれの楽章ごとにテナー、バリトン、アルト、ソプラノがフィーチャーされており、国産の四重奏曲としては大変素敵な作品。なんとかアマチュアでも取り組めそうで、CD録音などされれば良いのだが。
スピリタスの演奏は、フェスティバルやCDで聴いたそのままの、精緻かつ美音、そしてコンパクトにまとまったテクニックというところが印象的である曲のスタイルとも、かなりマッチしていたな。

♪大政直人「ダンス・ミュージック」/包国充(a.sax.)、中川俊郎(pf.)

えーっとですね。びっくりしました。だって包国充っすよ、包国充!!長らく、サザンのサポートメンバーとして活動をしていることでも有名で、クラシックとはおおよそ縁のなさそうなプレイヤーだけに、突然の登場に驚き。しかもピアノが中川俊郎ときたもんだ!曲の内容は、タンゴ、ワルツ、ロックという3つの楽章それぞれに性格が与えられたというもので、もともとは須川展也さんのために書かれたのだそう。タンゴなんかは、須川さんの節回しを想像しながら聴いてしまったが、ロックはお2人の独壇場ですなあ(笑)。アドリブセクションも用意されていたのだろうか。ヴァースの部分なんかは、かなりカッコヨイ感じだ。

♪南聡「2つの余韻の心得, op.50-5」/原博巳(a.sax.)、原田恭子(pf.)

バッハの素材をコラージュしたという作品。これも、もともとは須川展也さんのために書かれたのだとか。2つのセクションに分かれており、「Ritornello Ritomico Doppione」「Bach Aria Doppione」という名が与えられているそうだ。1つ目のセクションは縦方向のリズムが面白く、2つ目のセクションはバッハの平均律第1巻の第1番プレリュードから始まり、横に流れていくようなイメージ。どこだったかなあ、とあるフレーズが、フーガの技法の最後のメロディにより分断されて「あっ!」て思ったのだが。基の素材を知っていれば知っているだけ、面白く聴けるのかもと思った。原博巳さんと原田恭子さんの演奏は、高い集中力を伴うものであり、堅牢な構造を持つ音楽がホールを満たしていた。

♪可知奈尾子「サルルンカム」/クローバー・サクソフォン・カルテット

アイヌ語で、サルルンカム=丹頂鶴を指しているのだそうだ。トリル、ブレスノイズや、フラッター、スラップを浅くした「チュッ!」という音が、4羽の鶴がリズミカルに会話するように繰り広げられていく。演奏会の最初からプログラム冊子の解説を読まずに聴いていたため、少々その響きに面食らったが、丹頂鶴といわれれば、なるほど可愛らしいですね。特殊奏法のみならず、そのバックで鳴る和音がちょっと不思議な感じだったりして、日本人的、女性的感性に裏打ちされたものでした。クローバーの演奏も、技術的にはもちろん、アンサンブル的にもけっこう練り込んである感じ。特殊奏法が多いとは言え、日本人の作品を日本人が演奏するときというのは、やっぱりハマる感じがする。

♪宮木朝子「Evangelium」/大石将紀(t.sax.)、宮木朝子(Electronics Ope.)

ロビーのエレクトロニクスステージでの演奏。機材は、Macと、RolandのFireWire接続のインタフェースであるFAシリーズを使用していたようだ。マイクを使用して、MAX/MSPを利用したエフェクトをかけていたよう。キラキラとした幻想的なサウンドファイルに乗せて、テナーサックスの音色がしなやかに空間を満たしていった。とても雰囲気のある作品で、これはなかなか感動的というか…素敵な感じだ。これ、いいなあ。機会があれば演奏してみたいものだ。繰り返し引き伸ばして発音されるアルペジォに、なんかJackdawの中間部のような感覚を覚えた。大石さんのテナーも、曲のスタイルにマッチしており、素晴らしかった。

♪山内雅弘「3 Movements for Saxophone Orchestra」/松元宏康(cond.)、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

どこかでタイトルを聞いたことがあると思ったら、そうか、2年前の東京藝大の「Saxophone Day」で初演されたやつだ。いかにもサクソフォン・オーケストラのオリジナル作品!という感じの、シンプルなわかりやすい響き。例えば、アマチュアのサクソフォンアンサンブルなどでも、これは取り上げられる可能性がある。アカデミア・ミュージックからレンタル譜が出版されているそうで、ミ=ベモルあたりがCDを録音しないもんでしょうか。今回の演奏会では、演奏が終わって拍手のときに一作品ごとに作曲家が呼ばれていたのだが、松元氏=作曲者が真後ろに座っていてびっくりした。ちなみに2つとなりには中川俊郎が!うおお。

♪荒尾岳児「多重振り子のあるカプリス」

公式なアナウンスは特になく、なぜか演奏されなかった。なんでだろう。曲目解説から想像するに、もしや演奏難度の問題…?どなたか教えてください。
かわりに、民謡をサクソフォンオーケストラにアレンジしたものが演奏されていたが、やっぱ気合の入り方が違うものだ(笑)。

♪二宮玲子「〈影像〉娘道成寺による」/松元宏康(cond.)、松尾祐孝(sub cond.)、洗足学園音楽大学現代邦楽研究所・和太鼓部「鼓弾」、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

和太鼓とサックスオーケストラ、例えば序盤では、日本的な時間感覚と西洋のリズムを伴う時間感覚の擦り合わせ方などを興味深く聴いた。最終部では、サクソフォンオーケストラのほうにも純日本的なテーマが与えられ、和太鼓と共に大盛り上がり。随所で独奏などの要素もふんだんに取り入れ、長時間ながらも聴き手を飽きさせないつくりになっていた。それにしても、ずいぶんと不思議な光景だ。面白いなあ。

----------

以上。多くが「また聴きたい」と思えるものであり、またいくつかは、「自分でも演奏してみたい」と思えるものであり、総合的にとても楽しく聴くことができた。ほとんどの作曲家が国内で研鑽を積んでいるため、日本的な要素に素材を求めている作品も多く、そういった点でも興味深く聴いた。ただ、新作が邦楽にヒントを求めることは少なくなってきているのではないだろうか、これだけの新作が披露される場が、例えば中国や韓国などで催された場合、自国の音楽に由来を求める作品はもっと多いはずだ。あからさまに邦楽を再構築/パロディとした作品、誰か書いてくれないかなあ。自国の音楽や自らのアイデンティティを取り混ぜた、作曲家たちの本気の作品を、サクソフォンという形態で聴いてみたいものだ。

演奏者側としては、こういう機会ならずともたくさん新作を取り上げて欲しいものだ(プロ・アマチュア問わず)。だが、やっぱり新作を大量に、というと、いろんなバックアップが必要なわけで、日本現代音楽協会の主催とは言わず、日本サクソフォーン協会もこういったコンクールを主催すれば、面白いと思う。昔はそういったコンクールがあって、伊藤康英先生の「ツヴァイザムカイトへの補足的一章」とか、サクソフォーン協会のコンクールから生まれた名曲なのだが、最近はあまり作品コンクールって聞かないよなあ。素晴らしいサクソフォン奏者がどんどんと出てきており、バックグラウンドは十分そろっているのだから、そんな企画があっても面白いのではないか。あ、あと、大物作曲家による新作もぜひ聴いてみたい。現代の音楽展2009のうち「唱楽」という児童合唱のコンサートは、作品提供の作曲家が間宮芳生、一柳慧、野平一郎、他、ってなもんで。委嘱プロジェクトみたいなものがあれば楽しそうだ。

2009/03/02

ヤバーイ

非常に良くない状況。

今度の演奏会で取り上げるサクソフォンとライヴ・エレクトロニクスのための「ウォーターウィングス」、今日、機材を一通り準備して本番に近い環境でテストしてみたのだが、大きな問題発生。ディレイが効果的な作品で、サクソフォンの音に追従して常に200msec弱の遅延エフェクトがかかるのだが、どうも、さらに+200msecくらいの余分な遅延が入っているような雰囲気。いくつかテストして原因を探ってみたが、ドライバやオーディオインタフェース等に遅延の原因はなく、どうやらMAX/MSP上のディレイのサウンド・プロセッシングが遅すぎるようだ。

このままでは演奏しても、作品として成立しないぞ。やばい。非常にやばい!

しょうがないので、ブンス氏から提供されたMAX/MSPのパッチの一部を少しプログラミングし直してみようかと思っている。あと、PCも取り替えていくつか試してみよう…。

MAX実行時って、ネイティブ・コードに変換している…わけないよなあ。もしかしてインライン処理なのか?そして、Runtimeが呼び出すAPIは何なのか?Macだと、こんな問題はないのだろうか。Windows上での実行は怖いですね。

----------

昨日の演奏会の感想の続きは、明日書きまーす。

2009/03/01

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(1/2)

日本現代音楽協会が主催する「現代の音楽展」は、5日間の日程に分化したコンサート・シリーズのことである。そのうち「フェスタ」は、年替わりで一つの楽器に焦点を合わせて、数多くの作品を公募・初演・蘇演するというコンセプトの基に開かれている催し、ということだ。今年はたまたま、サクソフォンにスポットが当てられたということになる。確か一年前に作品の新作募集要項を見た覚えがあるから、そのくらいの頃から準備が進められていたようだ。大石将紀さんによる、現代奏法のレクチャーも、ちょうどその頃かな?

とどのつまりは、新作の演奏会。14作品が演奏されたが、聴いたことのあるものは一つしかなくて、その他は全く未知の領域だった。サクソフォンの邦人による新作は、近年でもいくつか作曲されているが、傑作という点では、枯渇しているのかもしれない…と考えて、面白い作品を探しに行くつもりで聴きに行ってみた。演奏者も豪華だったし~。

以下、一作品ずつ振り返ってみる。総括は最後に。

♪寺内大輔「王の主題」/大沢広一郎(cbs.sax.)

到着したら、既に始まっていた。ロビーでの演奏で、コントラバスサックスの周りをぐるりと譜面台が取り囲み、演奏が進むにつれて奏者と楽器が回転していくというしかけ。もともとはアルトサクソフォンを想定して書かれたようだが、コントラバスサクソフォンという形態では、かなり難易度が上がっているような雰囲気だった。曲自体は、「音楽の捧げ物」のフリードリヒ大王の主題に基づくもの。主題の原型が執拗に繰り返される中で、音響的な遷移効果を狙って書かれたもの…ということになるのかな。独奏としては、けっこう面白いかなと思う。ちなみに、作曲者自身のウェブサイトで試聴可能(こちら→http://dterauchi.com/friedrich.html)。

♪古屋雄人「Twistor」/鈴木広志(s.sax.)、平賀美樹(b.sax.)

タイトルの「ツイスター」とは、竜巻のことだと思っていたら、twisterではなくtwistorなのですね。音の密度はそれほど高くないようだが、ほぼ無調の中からときおり調性のある響きが聴こえてくる部分が面白い。アンサンブルは至極難しそうだった。一貫したビート、テンポがあるわけでなく、one by oneのような時間設定を取っているように聴こえた。
サクソフォン四重奏団"ストライク"のメンバーでもある、鈴木広志さんのソプラノは初めて聴いたが、少し細めながらも良く響く、清潔感のある音色で好印象。平賀さんのバリトンは、相変わらずさすがです。デュエットだったが、前田ホールという空間は、少し会場が大きすぎるとも感じた。

♪松岡大祐「トリツカレ男」/津田征吾(s.sax.)、東秀樹(a.sax.)、橋本恭佑(t.sax.)、大塚遥(b.sax.)

先日の藝大サックス科定期でも聴いた、松岡氏の作品。コミカルな演奏効果、聴きやすいリズムなど、いわゆる普通のクラシックサックスの作品として、定着しうるものだ。例えば、上手いアマチュアの団体だったら、アンサンブルのコンクールなどで見事に演奏してしまうかもしれない。CDなどになれば、人気が出そうだ。
演奏は、洗足学園音楽大学の学生が担当。テクニカルな面は余裕でクリアした演奏で、今一歩のアピールやテンションが足りないだろうか?と思ってしまうのは、さすがまだまだ学生の演奏だからということなのだろうか。こうして聴いてみると、違いは大きい。

♪伊藤高明「3本のテナーサクソフォンのための山女魚」/江川良子、冨岡祐子、塩安真衣子(以上t.sax.)

タイトルどおり、3本のテナーによる作品。重音、フラッター、キィノイズ、ブレスノイズ、サブトーン等々を駆使した、特殊奏法のオンパレードのようなハードな曲だった。演奏も、作品に触発されたのか集中力の塊のようなもので、会場が明らかに集中度を増しているのがわかった。冨岡さんが、マウスピースを外して吹く奏方"トロンペ"をやっていたが、「う、上手い…!」と、妙なところにも感心。作品自体は、かなり面白いと思ったのだが、少し長いかなー。終わりかけのところで聴き手の集中力が切れていったのを感じてしまった。テナーであるし、機会があれば演奏してみたいものだ(できるかどうかは別にして)。

♪平野義久「恋のうた」/福井健太(a.sax.)、細田真子(pf.)

作曲家の平野氏は、テレビ音楽等への楽曲提供で有名。最近でも、アニメ「Death Note」「はじめの一歩」の音楽を担当しているとか…知らなかった。海外でも、その筋ではかなり有名なようだ。サクソフォンとピアノのために書かれた「恋のうた」…タイトルからは、甘い響きを想像するでしょう?その予想通り、ピアノのMajコードから始まったのだが、次の瞬間サクソフォンによって調性が崩壊、かなりの難パッセージ、そしてジャズかロックのようなビートを纏いながら、両者が疾走していった。「恋のうた」というより、「ラヴァーズ・ロック」って感じ(笑)。かっこいい!演奏を担当した福井氏は、「Death Note Concertino」の初演も行ったそうで、そんなことからこの作品と初演が成立したのだろう。

♪松尾祐孝「ディストラクションIX」/大石将紀(a.&b.sax.)、中川俊郎(pf.)

「恋のうた」とは一転、再び無調の世界に引き戻された。この演奏会の奏責任者である松尾氏の筆によるもの。作品としての印象は、それほど残っていないのだが(苦笑)、演奏が凄かった…。大石将紀さん、大きい会場で生楽器の演奏を聴いたのはほぼ初めてだったが、長身から繰り出される音楽は、テクニックもさることながら、実にダイナミック!ソプラノからバリトンまで似合う奏者というと、国内では大石さんと平野さんくらいではないかな?そして、それに輪をかけて強烈な中川俊郎のピアノ!火花散ってましたね。両者とも、まったく一筋縄ではいかない…凄すぎ。

♪蒲池愛「Moment to moment」/斎藤貴志(a.&t.sax.)、蓮池愛、NAGIE(Electronics Ope.)

MAX/MSPを使用したリアルタイムエフェクト、あらかじめ用意したサウンドファイルのミクスチュア、そしてさらに、Jitterを使用した映像が投影される、不思議な空間。エフェクトの多さには、かなりびっくり…通常のアンプリファイ、エコー、ディレイといったところはそれほど珍しくないが、逆行再生、ハーモナイズ、タイム・ストレッチ等々をふんだんに使用し、華やかなエレクトロニクスのサウンドがロビー全体を埋め尽くしていた。とても情報量の多い作品だが、比較的調性は感じられ聴きやすい。CDにならないかなあ。斎藤氏の演奏は、ライヴでは初めて聴いたが、素晴らしい演奏家だと思った。特に、空間そのものを震わせるようなテナーサクソフォンの鳴りには、恐れおののくほかなかった。

♪サクソフォンとエレクトロニクスによる即興演奏/平野公崇(a.sax.)、松尾祐孝(Electronics Ope.)

エレクトロニクスと言えど、比較的単純な音素材とエフェクトによる即興。蓮池氏の作品は、エフェクトの種類がかなり豊富であったのに対し、こちらはディレイとエコーのみ。用意されたサウンドファイルも、数種類ということで、平野さんはかなり自由に即興演奏を繰り広げているような印象を受けた。しかしあれですね、平野さんて本当に素晴らしいインプロヴァイザーですね。なんでこんな奇跡のようなアンサンブルが可能なのだという驚き、即興自体が一つの作品として成立しそうなほどの練り上げられた(ように見えてしまうほどの)強固な構成等々、挙げていったらキリがない。コンピュータという、ある意味至極恐ろしい共演者相手に、対等もしくはそれ以上に絡んでいく平野氏、さすがです。

次の記事に続く。