2009/03/01

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(1/2)

日本現代音楽協会が主催する「現代の音楽展」は、5日間の日程に分化したコンサート・シリーズのことである。そのうち「フェスタ」は、年替わりで一つの楽器に焦点を合わせて、数多くの作品を公募・初演・蘇演するというコンセプトの基に開かれている催し、ということだ。今年はたまたま、サクソフォンにスポットが当てられたということになる。確か一年前に作品の新作募集要項を見た覚えがあるから、そのくらいの頃から準備が進められていたようだ。大石将紀さんによる、現代奏法のレクチャーも、ちょうどその頃かな?

とどのつまりは、新作の演奏会。14作品が演奏されたが、聴いたことのあるものは一つしかなくて、その他は全く未知の領域だった。サクソフォンの邦人による新作は、近年でもいくつか作曲されているが、傑作という点では、枯渇しているのかもしれない…と考えて、面白い作品を探しに行くつもりで聴きに行ってみた。演奏者も豪華だったし~。

以下、一作品ずつ振り返ってみる。総括は最後に。

♪寺内大輔「王の主題」/大沢広一郎(cbs.sax.)

到着したら、既に始まっていた。ロビーでの演奏で、コントラバスサックスの周りをぐるりと譜面台が取り囲み、演奏が進むにつれて奏者と楽器が回転していくというしかけ。もともとはアルトサクソフォンを想定して書かれたようだが、コントラバスサクソフォンという形態では、かなり難易度が上がっているような雰囲気だった。曲自体は、「音楽の捧げ物」のフリードリヒ大王の主題に基づくもの。主題の原型が執拗に繰り返される中で、音響的な遷移効果を狙って書かれたもの…ということになるのかな。独奏としては、けっこう面白いかなと思う。ちなみに、作曲者自身のウェブサイトで試聴可能(こちら→http://dterauchi.com/friedrich.html)。

♪古屋雄人「Twistor」/鈴木広志(s.sax.)、平賀美樹(b.sax.)

タイトルの「ツイスター」とは、竜巻のことだと思っていたら、twisterではなくtwistorなのですね。音の密度はそれほど高くないようだが、ほぼ無調の中からときおり調性のある響きが聴こえてくる部分が面白い。アンサンブルは至極難しそうだった。一貫したビート、テンポがあるわけでなく、one by oneのような時間設定を取っているように聴こえた。
サクソフォン四重奏団"ストライク"のメンバーでもある、鈴木広志さんのソプラノは初めて聴いたが、少し細めながらも良く響く、清潔感のある音色で好印象。平賀さんのバリトンは、相変わらずさすがです。デュエットだったが、前田ホールという空間は、少し会場が大きすぎるとも感じた。

♪松岡大祐「トリツカレ男」/津田征吾(s.sax.)、東秀樹(a.sax.)、橋本恭佑(t.sax.)、大塚遥(b.sax.)

先日の藝大サックス科定期でも聴いた、松岡氏の作品。コミカルな演奏効果、聴きやすいリズムなど、いわゆる普通のクラシックサックスの作品として、定着しうるものだ。例えば、上手いアマチュアの団体だったら、アンサンブルのコンクールなどで見事に演奏してしまうかもしれない。CDなどになれば、人気が出そうだ。
演奏は、洗足学園音楽大学の学生が担当。テクニカルな面は余裕でクリアした演奏で、今一歩のアピールやテンションが足りないだろうか?と思ってしまうのは、さすがまだまだ学生の演奏だからということなのだろうか。こうして聴いてみると、違いは大きい。

♪伊藤高明「3本のテナーサクソフォンのための山女魚」/江川良子、冨岡祐子、塩安真衣子(以上t.sax.)

タイトルどおり、3本のテナーによる作品。重音、フラッター、キィノイズ、ブレスノイズ、サブトーン等々を駆使した、特殊奏法のオンパレードのようなハードな曲だった。演奏も、作品に触発されたのか集中力の塊のようなもので、会場が明らかに集中度を増しているのがわかった。冨岡さんが、マウスピースを外して吹く奏方"トロンペ"をやっていたが、「う、上手い…!」と、妙なところにも感心。作品自体は、かなり面白いと思ったのだが、少し長いかなー。終わりかけのところで聴き手の集中力が切れていったのを感じてしまった。テナーであるし、機会があれば演奏してみたいものだ(できるかどうかは別にして)。

♪平野義久「恋のうた」/福井健太(a.sax.)、細田真子(pf.)

作曲家の平野氏は、テレビ音楽等への楽曲提供で有名。最近でも、アニメ「Death Note」「はじめの一歩」の音楽を担当しているとか…知らなかった。海外でも、その筋ではかなり有名なようだ。サクソフォンとピアノのために書かれた「恋のうた」…タイトルからは、甘い響きを想像するでしょう?その予想通り、ピアノのMajコードから始まったのだが、次の瞬間サクソフォンによって調性が崩壊、かなりの難パッセージ、そしてジャズかロックのようなビートを纏いながら、両者が疾走していった。「恋のうた」というより、「ラヴァーズ・ロック」って感じ(笑)。かっこいい!演奏を担当した福井氏は、「Death Note Concertino」の初演も行ったそうで、そんなことからこの作品と初演が成立したのだろう。

♪松尾祐孝「ディストラクションIX」/大石将紀(a.&b.sax.)、中川俊郎(pf.)

「恋のうた」とは一転、再び無調の世界に引き戻された。この演奏会の奏責任者である松尾氏の筆によるもの。作品としての印象は、それほど残っていないのだが(苦笑)、演奏が凄かった…。大石将紀さん、大きい会場で生楽器の演奏を聴いたのはほぼ初めてだったが、長身から繰り出される音楽は、テクニックもさることながら、実にダイナミック!ソプラノからバリトンまで似合う奏者というと、国内では大石さんと平野さんくらいではないかな?そして、それに輪をかけて強烈な中川俊郎のピアノ!火花散ってましたね。両者とも、まったく一筋縄ではいかない…凄すぎ。

♪蒲池愛「Moment to moment」/斎藤貴志(a.&t.sax.)、蓮池愛、NAGIE(Electronics Ope.)

MAX/MSPを使用したリアルタイムエフェクト、あらかじめ用意したサウンドファイルのミクスチュア、そしてさらに、Jitterを使用した映像が投影される、不思議な空間。エフェクトの多さには、かなりびっくり…通常のアンプリファイ、エコー、ディレイといったところはそれほど珍しくないが、逆行再生、ハーモナイズ、タイム・ストレッチ等々をふんだんに使用し、華やかなエレクトロニクスのサウンドがロビー全体を埋め尽くしていた。とても情報量の多い作品だが、比較的調性は感じられ聴きやすい。CDにならないかなあ。斎藤氏の演奏は、ライヴでは初めて聴いたが、素晴らしい演奏家だと思った。特に、空間そのものを震わせるようなテナーサクソフォンの鳴りには、恐れおののくほかなかった。

♪サクソフォンとエレクトロニクスによる即興演奏/平野公崇(a.sax.)、松尾祐孝(Electronics Ope.)

エレクトロニクスと言えど、比較的単純な音素材とエフェクトによる即興。蓮池氏の作品は、エフェクトの種類がかなり豊富であったのに対し、こちらはディレイとエコーのみ。用意されたサウンドファイルも、数種類ということで、平野さんはかなり自由に即興演奏を繰り広げているような印象を受けた。しかしあれですね、平野さんて本当に素晴らしいインプロヴァイザーですね。なんでこんな奇跡のようなアンサンブルが可能なのだという驚き、即興自体が一つの作品として成立しそうなほどの練り上げられた(ように見えてしまうほどの)強固な構成等々、挙げていったらキリがない。コンピュータという、ある意味至極恐ろしい共演者相手に、対等もしくはそれ以上に絡んでいく平野氏、さすがです。

次の記事に続く。

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