2009/03/03

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(2/2)

MAX/MSPの問題は、少しパッチのパラメータをいじってみた。何とかなる…かなあ。

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前回の記事の続き。

♪生野裕久「四つの葦のための四つの章」/カルテット・スピリタス

生野氏とサクソフォン界のつながりは作曲・編曲両面において強く、私自身も生野氏が編曲したバーバー「思い出」を演奏したことがある。作曲も、例えば最近(でもないか)では雲井雅人サックス四重奏団のために書かれた「ミサ・ヴォティーヴァ」などが有名である。東西の中間を浮遊するような旋律線に面白みを感じるのだが、この作品もそういった特色をもつものだった。もともとはキャトル・ロゾーのために書かれた作品だそうだ。それぞれの楽章ごとにテナー、バリトン、アルト、ソプラノがフィーチャーされており、国産の四重奏曲としては大変素敵な作品。なんとかアマチュアでも取り組めそうで、CD録音などされれば良いのだが。
スピリタスの演奏は、フェスティバルやCDで聴いたそのままの、精緻かつ美音、そしてコンパクトにまとまったテクニックというところが印象的である曲のスタイルとも、かなりマッチしていたな。

♪大政直人「ダンス・ミュージック」/包国充(a.sax.)、中川俊郎(pf.)

えーっとですね。びっくりしました。だって包国充っすよ、包国充!!長らく、サザンのサポートメンバーとして活動をしていることでも有名で、クラシックとはおおよそ縁のなさそうなプレイヤーだけに、突然の登場に驚き。しかもピアノが中川俊郎ときたもんだ!曲の内容は、タンゴ、ワルツ、ロックという3つの楽章それぞれに性格が与えられたというもので、もともとは須川展也さんのために書かれたのだそう。タンゴなんかは、須川さんの節回しを想像しながら聴いてしまったが、ロックはお2人の独壇場ですなあ(笑)。アドリブセクションも用意されていたのだろうか。ヴァースの部分なんかは、かなりカッコヨイ感じだ。

♪南聡「2つの余韻の心得, op.50-5」/原博巳(a.sax.)、原田恭子(pf.)

バッハの素材をコラージュしたという作品。これも、もともとは須川展也さんのために書かれたのだとか。2つのセクションに分かれており、「Ritornello Ritomico Doppione」「Bach Aria Doppione」という名が与えられているそうだ。1つ目のセクションは縦方向のリズムが面白く、2つ目のセクションはバッハの平均律第1巻の第1番プレリュードから始まり、横に流れていくようなイメージ。どこだったかなあ、とあるフレーズが、フーガの技法の最後のメロディにより分断されて「あっ!」て思ったのだが。基の素材を知っていれば知っているだけ、面白く聴けるのかもと思った。原博巳さんと原田恭子さんの演奏は、高い集中力を伴うものであり、堅牢な構造を持つ音楽がホールを満たしていた。

♪可知奈尾子「サルルンカム」/クローバー・サクソフォン・カルテット

アイヌ語で、サルルンカム=丹頂鶴を指しているのだそうだ。トリル、ブレスノイズや、フラッター、スラップを浅くした「チュッ!」という音が、4羽の鶴がリズミカルに会話するように繰り広げられていく。演奏会の最初からプログラム冊子の解説を読まずに聴いていたため、少々その響きに面食らったが、丹頂鶴といわれれば、なるほど可愛らしいですね。特殊奏法のみならず、そのバックで鳴る和音がちょっと不思議な感じだったりして、日本人的、女性的感性に裏打ちされたものでした。クローバーの演奏も、技術的にはもちろん、アンサンブル的にもけっこう練り込んである感じ。特殊奏法が多いとは言え、日本人の作品を日本人が演奏するときというのは、やっぱりハマる感じがする。

♪宮木朝子「Evangelium」/大石将紀(t.sax.)、宮木朝子(Electronics Ope.)

ロビーのエレクトロニクスステージでの演奏。機材は、Macと、RolandのFireWire接続のインタフェースであるFAシリーズを使用していたようだ。マイクを使用して、MAX/MSPを利用したエフェクトをかけていたよう。キラキラとした幻想的なサウンドファイルに乗せて、テナーサックスの音色がしなやかに空間を満たしていった。とても雰囲気のある作品で、これはなかなか感動的というか…素敵な感じだ。これ、いいなあ。機会があれば演奏してみたいものだ。繰り返し引き伸ばして発音されるアルペジォに、なんかJackdawの中間部のような感覚を覚えた。大石さんのテナーも、曲のスタイルにマッチしており、素晴らしかった。

♪山内雅弘「3 Movements for Saxophone Orchestra」/松元宏康(cond.)、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

どこかでタイトルを聞いたことがあると思ったら、そうか、2年前の東京藝大の「Saxophone Day」で初演されたやつだ。いかにもサクソフォン・オーケストラのオリジナル作品!という感じの、シンプルなわかりやすい響き。例えば、アマチュアのサクソフォンアンサンブルなどでも、これは取り上げられる可能性がある。アカデミア・ミュージックからレンタル譜が出版されているそうで、ミ=ベモルあたりがCDを録音しないもんでしょうか。今回の演奏会では、演奏が終わって拍手のときに一作品ごとに作曲家が呼ばれていたのだが、松元氏=作曲者が真後ろに座っていてびっくりした。ちなみに2つとなりには中川俊郎が!うおお。

♪荒尾岳児「多重振り子のあるカプリス」

公式なアナウンスは特になく、なぜか演奏されなかった。なんでだろう。曲目解説から想像するに、もしや演奏難度の問題…?どなたか教えてください。
かわりに、民謡をサクソフォンオーケストラにアレンジしたものが演奏されていたが、やっぱ気合の入り方が違うものだ(笑)。

♪二宮玲子「〈影像〉娘道成寺による」/松元宏康(cond.)、松尾祐孝(sub cond.)、洗足学園音楽大学現代邦楽研究所・和太鼓部「鼓弾」、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

和太鼓とサックスオーケストラ、例えば序盤では、日本的な時間感覚と西洋のリズムを伴う時間感覚の擦り合わせ方などを興味深く聴いた。最終部では、サクソフォンオーケストラのほうにも純日本的なテーマが与えられ、和太鼓と共に大盛り上がり。随所で独奏などの要素もふんだんに取り入れ、長時間ながらも聴き手を飽きさせないつくりになっていた。それにしても、ずいぶんと不思議な光景だ。面白いなあ。

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以上。多くが「また聴きたい」と思えるものであり、またいくつかは、「自分でも演奏してみたい」と思えるものであり、総合的にとても楽しく聴くことができた。ほとんどの作曲家が国内で研鑽を積んでいるため、日本的な要素に素材を求めている作品も多く、そういった点でも興味深く聴いた。ただ、新作が邦楽にヒントを求めることは少なくなってきているのではないだろうか、これだけの新作が披露される場が、例えば中国や韓国などで催された場合、自国の音楽に由来を求める作品はもっと多いはずだ。あからさまに邦楽を再構築/パロディとした作品、誰か書いてくれないかなあ。自国の音楽や自らのアイデンティティを取り混ぜた、作曲家たちの本気の作品を、サクソフォンという形態で聴いてみたいものだ。

演奏者側としては、こういう機会ならずともたくさん新作を取り上げて欲しいものだ(プロ・アマチュア問わず)。だが、やっぱり新作を大量に、というと、いろんなバックアップが必要なわけで、日本現代音楽協会の主催とは言わず、日本サクソフォーン協会もこういったコンクールを主催すれば、面白いと思う。昔はそういったコンクールがあって、伊藤康英先生の「ツヴァイザムカイトへの補足的一章」とか、サクソフォーン協会のコンクールから生まれた名曲なのだが、最近はあまり作品コンクールって聞かないよなあ。素晴らしいサクソフォン奏者がどんどんと出てきており、バックグラウンドは十分そろっているのだから、そんな企画があっても面白いのではないか。あ、あと、大物作曲家による新作もぜひ聴いてみたい。現代の音楽展2009のうち「唱楽」という児童合唱のコンサートは、作品提供の作曲家が間宮芳生、一柳慧、野平一郎、他、ってなもんで。委嘱プロジェクトみたいなものがあれば楽しそうだ。

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