2025/03/31

ルイ・アンドリーセン「De Stijl」

ルイ・アンドリーセンは、1939年生まれのオランダの作曲家。60年代にルチアーノ・ベリオに師事、ヨーロッパのモダニズムに触れたのち、70年代にはアメリカのミニマリズムに傾倒した。1973年から母校のオランダ・ハーグ王立音楽院で作曲を教えている。サクソフォンを多用した作品を多く書いており、四重奏の「Facing Death」や、「Hoketus」などが有名。

最近知った作品で、「De Stijl」という、5本のサクソフォンを含む作品が非常に面白い。ダンス・ミュージック風のリズムの動き、そして女声合唱との対比された響きが鮮烈である。


ロサンゼルス・フィルハーモニックのサイトにあった曲目解説を訳したもの(一部機械翻訳使用)を置いておく。若干高尚な文書で読みづらいが、「De Stijl(デ・ステイル)」についての前提知識:1917年にオランダで生まれた芸術運動のことで、絵画、建築、デザインなど多岐にわたる分野で展開され、シンプルな幾何学的構成と抽象的なデザインを追求したもの…という内容を知っておくと、比較的読み解けると思う。

https://www.laphil.com/musicdb/pieces/1515/de-stijl

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「デ・ステイル」は、4部構成の音楽劇「デ・マテリア」の第3部として1985年に作曲された。(全作品は1989年にロバート・ウィルソンの演出でアムステルダムで初演された。USCソーントン・コンテンポラリー・ミュージック・アンサンブルは、2001年にグリーン・アンブレラのプログラムで「デ・ステイル」を西海岸で初演している)。新形態主義としても知られる「デ・ステイル」(様式)は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に花開いたオランダの芸術運動であり、この運動に特化した雑誌のタイトルでもある。原色や白黒のモノクローム、直線や長方形の平面や領域、対称性の回避、比率や位置の関係によって強調されるバランスとリズムなどが「様式」の重要な要素であった。アンドリーセンは1985年7月に次のようなメモを書いている:

「デ・ステイル」は、1927年のピエト・モンドリアンの「赤、黄、青によるコンポジション」の音楽的イメージであるが、そのもっぱらコンセプチュアルなものである。4人のソプラノとトランペット、5人のサクソフォン、トロンボーンとギター、ピアノ・ソロ、そして低音楽器。低音楽器は24小節のディスコ風の主題を演奏するが、これは構造的にモンドリアンがこよなく愛したブギウギに関連している。ピアノ・ソロはモンドリアン自身が弾き、ダンサーがエスコートする。何しろモンドリアンは70歳になってもダンスのレッスンを受けていたのだ。彼は直立し、頭を斜め上に向けて「様式化された」ステップを踏む。作品の中には、モンドリアンの時代だけでなく、ダンス音楽への言及が多く見られる。スタイルはカールズラグの音楽家に合わせたものだが、作曲の「軽い」方法に陥ろうとはしていない。モンドリアンはアメリカのジャズバンドの先進性を認めていたが(彼はこれをフランス語の「シャスバンド」で表現していた)、ネリー・ファン・デスブルグに宛てたネオ・プラスティシズムについての手紙(1921年7月17日)でも、「ダンス音楽はまだシリアスな音楽としてカウントされることはないと思う」と書いている。この作品で歌われているのは、シェーンメールの『視覚数学の原理』(Beginselen der Beeldende Wiskunde)の断片である。一次性の絶対性についてのこの章は、モンドリアンの抽象絵画への展開に決定的な影響を与えたと私は考えている。いずれにせよ、シェーンメールの考え方と文章は、モンドリアンの『デ・ステイル』誌への寄稿に直接影響を与えた。


2025/03/30

第1回アドルフ・サックス国際コンクール(ディナン)のライブ盤

第1回アドルフ・サックス国際コンクールのライブ盤を入手。それなりに有名なCDだと思うのだが、Rene Gaillyレーベルの倒産以来手に入れづらくなってしまい、何年にもわたって入手できていなかった。 ケースも盤も状態は非常に良く、購入されたものの聴かれていなかったか、デッドストックだったか。

コンクール当時まだ20代だった、ヴェルサイユ音楽院教授のヴァンサン・ダヴィッド氏(第1位入賞)、ハバネラサクソフォン四重奏団テナー奏者のファブリツィオ・マンクーゾ氏(第2位入賞)らの、同コンクールでのライヴ演奏が聴ける、という、興味深い盤だ。

H.プッスール「Caprice de Saxicare」(第3位:Raf Minten)
A.グラズノフ「サクソフォン協奏曲」(第2位:Fabrizio Mancuso)
P.M.デュボワ「サクソフォン協奏曲」(第1位:Vincent David)
H.プッスール「Caprice de Saxicare」(第1位:Vincent David)

やはりというべきか、第1位のヴァンサン・ダヴィッド氏の演奏はかなり良いもので、デュボワもなかなかに説得力ある演奏であるし、プッスール作品の演奏でのキレもある。コンクールならではの若干の空回りや、表現の積極性がやや薄い、といった部分はあるが、これは録音のせいもあるかもしれない。マンクーゾ氏のグラズノフの演奏は、数あるグラズノフの録音と比べてしまうと緩徐部分にそこまで魅力を感じないし、ミンテン氏のプッスールの演奏も、やはりダヴィッド氏の演奏と比べてしまうと…というところ。

演奏そのもの以上に、資料的価値が高い録音であり、のちに発売された「Adolphe Sax International Competition」には含まれていないものも、ここでは聴くことができる。やや好事家向けかもしれない。

ライナーノートに書かれている、アドルフ・サックス国際サクソフォン・コンクールの成り立ちに関する部分を抜粋・翻訳してみた:

このコンクールは、ベルギー国王アルベール2世の後援のもと、国際アドルフ・サックス・イヤー実行委員会が、国際ジュネス・ミュジカル連盟 Federation of Jeunesses Musicales および1994年9月にサクソフォンに特化したTrompコンクール(オランダ)と共同で開催する。このコンクールは、1994年11月6日時点で31歳以下のサクソフォーン上級者を対象とし、国籍は問わない。コンクールの科学的・音楽的な企画は、フランソワ・ダニール(François Daneels)が主宰し、ベルギーの音楽院のサクソフォーン教授全員を含む委員会によって組織された。予選、セミファイナル、ファイナルの3ラウンド制。サクソフォーンであればどの楽器でも出場できるが、規定曲はアルトのみ。予選とセミファイナルはピアノ伴奏、ファイナルはジョルジュ・オクトール指揮ワロン室内管弦楽団の伴奏で行われる。

ライナーノーツから、写真で一部抜粋してみた。審査員のリストには、武藤賢一郎氏の名前が。各演奏者の写真は…若い!




2025/03/20

ブランフォード・マルサリス演奏のグラズノフ

ジャズサクソフォン奏者として有名な、ブランフォード・マルサリス氏が演奏するアレクサンドル・グラズノフ「サクソフォン協奏曲」の録音。私自身は昔インターネットラジオ配信された録音を持っていたが、Internet Archiveに置かれているのを見つけた。アンドレイ・ボレイコ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックとの共演である。2010年もしくは2011年の演奏会の模様。

https://archive.org/details/cd_schuller-berry-glazunov-menotti-compositio_gunther-schuller-wallace-berry-alexander-g

フレージングの作り方が、普段大多数耳にする演奏とだいぶ違う。カデンツァはさすがのマルサリス氏の独壇場、といったところだが、「Creation」のイベールで魅せた縦横無尽なカデンツァと比較すると、かなり抑制された印象を受ける。音はかなりクラシックに寄せてあるが、どのようなセッティングなのか、少し気になるところ。

ちなみに、ニューヨークフィルにおいて本作品を共演したことがあるのは、ブランフォード・マルサリス氏と、シガード・ラッシャー氏、の2名のみである。

写真は、2011年演奏会のプログラム冊子の一部。



2025/03/18

立花ハジメ「H」に…

音楽家、グラフィックデザイナーとして、1980年代から活躍する立花ハジメ氏のファーストアルバム「H」について。昨年末あたりの、お知り合いMさんのFacebook投稿を見て、備忘録的に書いておく。

冒頭のトラック「IF」は、デザンクロ「四重奏曲」第1楽章の、第2主題。最終トラック「MEMORIAL」は、グラズノフ「四重奏曲」第2楽章"カンツォーナ・ヴァリエ"の主題である。

ある程度サクソフォン四重奏に取り組まなければ、これらの主題を取り上げることは無いであろうから、どういった経緯でこれらの作品を引用したのか、非常に気になっている。



2025/03/17

John Harle plays Johnstone

Internet Archiveを探索していたところ、ジョン・ハール氏の演奏を見つけた。イギリスのMaurice Johnstoneという作曲家の「バラッド」という曲である。

込み入ったクラシック作品、というよりは、どちらかというとライト・ミュージック的な装いがあり、演奏時間も10分を切る程度。ハールの真価を聴く、というようなものではないが、鼻歌のように軽やかなサクソフォンは、曲の雰囲気に非常にマッチしている。バックのアルスター管弦楽団の演奏も、鮮やかで非常に良い。

https://archive.org/details/cd_english-composers_julius-harrison-ruth-gipps-maurice-johnsto

Maurice Johnstoneの簡単な経歴は次の通り:1919年10月から1922年4月まで王立マンチェスター音楽大学(後に王立北部音楽院)で学ぶ。1921年夏にマンチェスター・シティ・ニュース紙に音楽批評を寄稿。1922年5月から1923年3月まで、ジョンストンはロンドンのキングス・カレッジで作曲と指揮を学んだ。1935年からBBCの音楽部門に勤務し、最初はロンドンで、その後1938年から1953年まではマンチェスターでBBC北地域音楽部長を務めた。1953年、新設された音楽部門の音楽番組責任者としてロンドンに出向、その後ハーペンデンに戻った。1959年にBBCを退職し、1976年4月に亡くなるまでハーペンデンに住み続けた。

写真は、Maurice Johnstoneの近影。



2025/03/16

ジャン=マリー・ロンデックスの訃報

2025年3月3日、ジャン=マリー・ロンデックス氏の訃報を知る。サクソフォン奏者、教育者、研究者など様々な側面を持ち、フランス・ボルドーに拠点を構えながら、現代クラシック・サクソフォン界における"トレンド"の多くの部分を担った、唯一無二の存在であった。

数々の教則本や著書、ソロ・室内楽・アンサンブルの録音、ロンデックス氏に献呈された作品や、ボルドーから生まれた作品、ロンデックスから直接的ないし間接的に薫陶を受けた奏者、ロンデックスの名を冠したコンクール…1970年代以降、現代に至るまで、そしてこれからも、クラシック・サクソフォン界において、ロンデックス氏の影響を避けて通ることはできない。

思いつくままに個人的なロンデックス氏についての思い出や、関わりを書いていく。

いちばん最初にロンデックス氏の名前を知ったのは、高校3年生の時に修学旅行先の長崎で買った「サクソフォンの芸術 (東芝EMI)」だった。このアルバムの2枚目は、まるまるロンデックス氏の室内楽アルバム「Musique de chambre avec saxophone(EMI France)」の復刻となっており、1曲目、ヴィラ=ロボス「神秘的六重奏曲」の、揺蕩うような雰囲気に惹かれ、何度も何度も聴いたものだ。このトラックを聴くと、未だにその頃の思い出が蘇ってくる。そして、ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団の、ドビュッシーの「ラプソディ」。これも何度も聴いた。後年、デファイエ氏が参加したマリウス・コンスタン指揮の盤も聴いたが、結局マルティノン盤に戻ってしまう。

木下直人さんにも、Vendome盤(アンドレ・シャルランが関わっている!)、SNE盤、Crest盤など、貴重な録音を数多くお送りいただき、ますますロンデックス氏の才気に触れることになった。特に若い時期の録音は瑞々しさに溢れていて、聴くのがとても楽しい。最近は、宗貞先生に来日リサイタルの模様などを聴かせていただく機会などもあった。MD+Gから出版された復刻4枚組はもちろん持っている。復刻ポリシーにやや難ありだが、ロンデックス氏の様々な時代における演奏をまとめて耳にできる、非常に良いアルバムだ。ボルドーの門下生が参加した、ロンデックス氏指揮Ensemble International de Saxophonesの録音「Sunthesis(Quantum)」も、耳にしておくべき内容だ。

ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクールについても、タイ開催となってからは良く経過を追ったり、データをまとめたりしていたものだ。その中での、センセーショナルな松下洋くんの1位入賞、入賞記念のフランソワ・ロセの新作初演の経緯など、ロンデックス氏の邸宅に泊まりながら練習した話など、洋くんから面白く聞かせていただいた。

初めてクリスチャン・ロバ作品を聴いたときの衝撃も忘れられない。平野公崇氏によるライヴ演奏だったが、これも、クリスチャン・ロバ氏がロンデックス氏とのコラボレーションとして生み出したものだと知って、驚かされた。

著作「サクソフォン音楽の125年」(の改訂版)も、2冊持っているが、何度引いたことか。曲目解説を書くときに、必ず手元に置いておかなかればならない本である。

直接的な共同作業も2度あった。1つ目は、ロンデックス氏の最後の著作となった「Pour une histoire du saxophone et des saxophonistes Livre1,2,3」について、日本の歴史において重要な様々なサクソフォン奏者の情報を提供した(宗貞先生にご紹介いただいた)。2015年頃に何十通もメールをやり取りし、著作内にはきちんと名前もクレジットいただいている。2つ目は2023年、第9回世界サクソフォン・コングレスの録音復刻作業の時、シャリエ氏、ロンデックス氏と、やり取りしながらマスタリングを行った。テープスピードが異常な録音ソースからの復刻となったため、ピッチを非常に気にされていて、442Hzで進めようとしていたところ、440Hzをリクエストされて何度も調整をしたことを思い出す。出来上がった復刻盤はロンデックス氏に送った。

2015年、2018年のコングレスでお会いしたこともある。著作への情報提供の話は出したものの、さすがに大多数のうちの1名であり、名前は覚えていてくれなかったが(^^;

ロンデックス氏の功績を体系的にまとめた最も有名な著作として、「Jean-Marie Londeix - Master of the Modern Saxophone(Roncorp)」があるが、インターネットでアクセス可能な部分には残念ながらそういったものはない。特に日本語のものは皆無と言ってよく、どこかできちんとまとめねばならないと思っている。

2015年、ストラスブールにて、ジャン=マリー・ロンデックス氏の講演後に撮らせてもらった、ロンデックス氏とウイリアム・ストリート氏の写真。


2025/03/11

展示が無事終了

多くの方に協力いただきながら、先週のサクソフォーン・フェスティバルにおける展示は、無事完了。一昨年に引き続き、多くの方に見ていただけたようで、良かった。

いつか、世界のサクソフォン史についても、似たような発表を作ってみたい、という構想はある。また、日本のサクソフォンについても、90年代のような比較的最近の情報も、インターネットからは引くことができなくなっているため、体系的にまとめていきたい、という思いもある。



2025/02/23

「日本のサクソフォーン史」展示@第41回フェスティバル

昨年7月から年末まで、本業超多忙につき、更新することができていなかった。今は少し落ち着いて、書きたい内容も溜まっているので、再開していくつもり。

…2025年の明けからは、以下の準備に時間を割いていた。フェスティバル来られる方々、よろしければスキマ時間にお立ち寄りください。

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3/1,2にわたって小金井宮地楽器ホールにて開催される第41回ジャパン・サクソフォーン・フェスティバルにおいて「日本のサクソフォーン史~日本から世界へ、世界から日本へ」と題した展示を行う。基本的に第39回の展示を加筆訂正、さらに新規展示を3枚制作、合計17ページの内容を掲示する予定。

https://saxfest.jp/program/bothdays1/

・阪口新と大室勇一
・第9回世界サクソフォンコングレス(川崎/横浜)の舞台裏
・アカデミアSQ ~日本初のプロ・カルテット~
・アカデミアに続くカルテット ~キャトルロゾー、東京SE、ファインアーツSQ~
・アメリカの風 ~ヘムケ、シンタ、ホーリック来日~
・現代サクソフォン演奏スタイルへの潮流
・国内クラシックサクソフォンの系譜 試作版 ←2025年新レイアウト版
・コングレスへの参加の歴史 ←2025年新規展示
・主要国際コンクール入賞の歴史 ←2025年新規展示

私は現在US在住のため、フェスには伺うことができない。現地準備は日本の方に依頼している。