※本アルバムは、6/13をもって発売となった。ぜひ多くの方に聴かれてほしい。
Wonki Lee 李源冀さんは、韓国人のご両親を持つ東京生まれのサクソフォン奏者。日本で育ち、その後ニューヨークのマンハッタン州立音楽院でサクソフォンを学び、現在、モンタナ州立大学にてAssistant Professor of Saxophoneとして後進を育成する傍ら、様々なプロジェクトで演奏活動を展開する。昨年11月、Leeさんが教鞭をとるモンタナ州立大学において、雲井雅人氏、日下瑶子氏らとともに、ディヴィッド・マスランカ「サクソフォン四重奏と吹奏楽のための協奏曲」を演奏している。このモンタナの演奏会には私は伺う予定だったのだが、たまたま本業の日本出張が重なり叶わなかったのだった。
だいぶ前…2013年に日本でお会いしたことがあり、また、演奏も直接聴いたことがあるのだが、テクニックがあるのは当然のこと、実に美しい音でサクソフォンを操る奏者であり、「ニュートラルな」という言葉でも片づけられない…日本、そしてアメリカで、サクソフォンを学んだ経験を上手く取り入れ、他の誰でもないLeeさん自身の音楽としてプレゼンテーションする能力のある方だ。その後はしばらく聴く機会が無かったが、2020年に発売された「American Sonatas」を聴き、これがとても良いアルバムだった(特にクレストンのWith Vigorが持つロマンティシズムを、くどくならずしてこのように聴かせられる奏者はちょっと思いつかない)。小品集、ミニアルバムと、いくつかのリリースを経て、久々の大作を集めたアルバムのリリースとなった(ご本人から直接送っていただいた、感謝!)。
「American Sonatas from Two Millennia(Clarinet & Saxophone Classics Recordings CC0080)」マスランカ、ムツィンスキー、オルブライト、という、いまでこそ技術的に吹いてしまう人はたくさん出てきてはいるが、音楽性や精神性を維持したまま登攀することは、一筋縄ではいかないようなレパートリー。一方で、アメリカ産のソナタとしては間違いなくいずれも傑作であり、多くの奏者がレコーディング、もしくは演奏会で取り上げている。
Leeさんの演奏は、驚くべきことに、美しい音や歌心をしっかりと維持している…のだが、これまでの演奏・録音で聴いたような、演奏の裏にあるキャパシティの余裕、というものを、敢えて取り去るまで、音楽へと没入しているように感じた。マスランカ氏の音楽は、奏者を限界を超えたところへ連れ去り、驚くべき表現を引き出すが、その方向性を地でいくような演奏だ。なかなか軽い気持ちで聴くことができず、受け取り手にも強い集中力が必要だ。
CDと一緒に同封されていたメッセージに書かれている「マスランカ氏がたどってきた経験(NYからモンタナ州に移住)を共感できた」との言葉通り、マスランカ「ソナタ」への思い入れの強さは尋常ではない。ライナーの冒頭に置かれたForwardには、ディヴィッド・マスランカ氏と、Wonki Leeさんの、不思議なほどの一致が語られている。ぜひCDを入手して全文を読んでいただきたい。また、Maslanka Pressによる再浄書版を初めて使った録音とのこと。のみならず、ムツィンスキー、オルブライトといったアメリカ産の傑作ソナタをも、同時代のアメリカの奏者による最高の演奏でもって堪能できる、多くの方に聴いていただきたい盤だ。
CDを送っていただいたときに頂戴したモンタナ州立大学のポストカード。素敵ですね。


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