2025/03/16

ジャン=マリー・ロンデックスの訃報

2025年3月3日、ジャン=マリー・ロンデックス氏の訃報を知る。サクソフォン奏者、教育者、研究者など様々な側面を持ち、フランス・ボルドーに拠点を構えながら、現代クラシック・サクソフォン界における"トレンド"の多くの部分を担った、唯一無二の存在であった。

数々の教則本や著書、ソロ・室内楽・アンサンブルの録音、ロンデックス氏に献呈された作品や、ボルドーから生まれた作品、ロンデックスから直接的ないし間接的に薫陶を受けた奏者、ロンデックスの名を冠したコンクール…1970年代以降、現代に至るまで、そしてこれからも、クラシック・サクソフォン界において、ロンデックス氏の影響を避けて通ることはできない。

思いつくままに個人的なロンデックス氏についての思い出や、関わりを書いていく。

いちばん最初にロンデックス氏の名前を知ったのは、高校3年生の時に修学旅行先の長崎で買った「サクソフォンの芸術 (東芝EMI)」だった。このアルバムの2枚目は、まるまるロンデックス氏の室内楽アルバム「Musique de chambre avec saxophone(EMI France)」の復刻となっており、1曲目、ヴィラ=ロボス「神秘的六重奏曲」の、揺蕩うような雰囲気に惹かれ、何度も何度も聴いたものだ。このトラックを聴くと、未だにその頃の思い出が蘇ってくる。そして、ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団の、ドビュッシーの「ラプソディ」。これも何度も聴いた。後年、デファイエ氏が参加したマリウス・コンスタン指揮の盤も聴いたが、結局マルティノン盤に戻ってしまう。

木下直人さんにも、Vendome盤(アンドレ・シャルランが関わっている!)、SNE盤、Crest盤など、貴重な録音を数多くお送りいただき、ますますロンデックス氏の才気に触れることになった。特に若い時期の録音は瑞々しさに溢れていて、聴くのがとても楽しい。最近は、宗貞先生に来日リサイタルの模様などを聴かせていただく機会などもあった。MD+Gから出版された復刻4枚組はもちろん持っている。復刻ポリシーにやや難ありだが、ロンデックス氏の様々な時代における演奏をまとめて耳にできる、非常に良いアルバムだ。ボルドーの門下生が参加した、ロンデックス氏指揮Ensemble International de Saxophonesの録音「Sunthesis(Quantum)」も、耳にしておくべき内容だ。

ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクールについても、タイ開催となってからは良く経過を追ったり、データをまとめたりしていたものだ。その中での、センセーショナルな松下洋くんの1位入賞、入賞記念のフランソワ・ロセの新作初演の経緯など、ロンデックス氏の邸宅に泊まりながら練習した話など、洋くんから面白く聞かせていただいた。

初めてクリスチャン・ロバ作品を聴いたときの衝撃も忘れられない。平野公崇氏によるライヴ演奏だったが、これも、クリスチャン・ロバ氏がロンデックス氏とのコラボレーションとして生み出したものだと知って、驚かされた。

著作「サクソフォン音楽の125年」(の改訂版)も、2冊持っているが、何度引いたことか。曲目解説を書くときに、必ず手元に置いておかなかればならない本である。

直接的な共同作業も2度あった。1つ目は、ロンデックス氏の最後の著作となった「Pour une histoire du saxophone et des saxophonistes Livre1,2,3」について、日本の歴史において重要な様々なサクソフォン奏者の情報を提供した(宗貞先生にご紹介いただいた)。2015年頃に何十通もメールをやり取りし、著作内にはきちんと名前もクレジットいただいている。2つ目は2023年、第9回世界サクソフォン・コングレスの録音復刻作業の時、シャリエ氏、ロンデックス氏と、やり取りしながらマスタリングを行った。テープスピードが異常な録音ソースからの復刻となったため、ピッチを非常に気にされていて、442Hzで進めようとしていたところ、440Hzをリクエストされて何度も調整をしたことを思い出す。出来上がった復刻盤はロンデックス氏に送った。

2015年、2018年のコングレスでお会いしたこともある。著作への情報提供の話は出したものの、さすがに大多数のうちの1名であり、名前は覚えていてくれなかったが(^^;

ロンデックス氏の功績を体系的にまとめた最も有名な著作として、「Jean-Marie Londeix - Master of the Modern Saxophone(Roncorp)」があるが、インターネットでアクセス可能な部分には残念ながらそういったものはない。特に日本語のものは皆無と言ってよく、どこかできちんとまとめねばならないと思っている。

2015年、ストラスブールにて、ジャン=マリー・ロンデックス氏の講演後に撮らせてもらった、ロンデックス氏とウイリアム・ストリート氏の写真。


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