いやはやトンデモなかった。これまでも大石将紀さんの演奏や他メディアとの融合によるパフォーマンスは何度も聴いた/体感したことがあって聴くたびに新鮮な感動を覚えたものだが、今日のはさらにひとつ上の次元へと進んでしまったというか…。いまだに、コンサートの余韻を引きずって夢見心地である。
サクソフォン吹きならば、アマチュア・プロフェッショナル問わず聴くべき演奏会だった。そういえばブログでも紹介しようと思っていたところ、忘れてしまっていたのだった。ううう、私としたことが。
【Just Composed 2012 in Yokohama インタラクティブサクソフォン】
出演:大石将紀(sax)、清水靖晃(composition/sax)、神田佳子(perc)、カール・ストーン(computer)、有馬純寿(electronics/sound design)、小阪淳(projection)、渡辺愛(composition)、宮木朝子(composition/electronics)、佐野太平(lighting)
日時:2012年12月9日(日曜)18:00開演
会場:横浜みなとみらいホール・小ホール
プログラム:
酒井健治 - Initial S(サクソフォン+映像)
佐藤允彦 - 遊行より(サクソフォン+打楽器)
P.ジョドロフスキ - Mixtion(サクソフォン+エレクトロニクス)
宮木朝子 - Evangelium(サクソフォン+エレクトロニクス+映像)
渡辺愛 - Unimaginary Landscape~サクソフォンとオーディオのための~(委嘱初演:サクソフォン+エレクトロニクス+照明)
清水靖晃 - Carl's Wild Garden(委嘱初演:サクソフォンx2+コンピュータ)
即興演奏(アンコール:サクソフォンx2+コンピュータ+打楽器+照明)
梅沢さんの演奏会終了後、電車に飛び乗って池袋からみなとみらいへ移動。余裕だろうと思っていたところ、東横線の安全確認のための一時停止によりギリギリになってしまった。会場に到着すると、サクソフォン関係者は少なめだったが、濃い方々ばかりにお会いした(笑)。佐藤淳一さんにもお会いしていろいろお話したり…。
酒井健治「Initial S」は、無伴奏アルトサクソフォンのための作品。もう、のっけから驚いてしまった。これまでも大石氏の強烈なテクニックは分かっていたつもりだったのだが、なんか今日はさらに磨きがかっていたというか…細やかな部分から全体の構成感までをコントロールしながら、美しいサクソフォンの音色で吹きまくる。木目調の反響板に映された映像は、3Dグラフィックの木片?の回転と、画面全体を歪ませるようなエフェクト。演奏とシンクロしていたのだが、どのように同期を取っていたのだろう?(映像も誰かがリアルタイムで動かしていたのかな?)
佐藤允彦作品は、始まった瞬間に暗闇から雷のようなエレクトロニクスのような音が聞こえてきてなんだなんだと思っていたところ、いつの間にかスプリングドラムを持った神田氏がステージ上に。即興演奏のような「駒返し」、サクソフォンとマリンバの演奏となった「としたけて」「殺生石」、そして、サクソフォンとハイハット&タムタムによる炎のような速度の「はやぶさ」(まるでビバップ)。和の要素と西洋楽器を見事に融合させたパフォーマンスに感動してしまった。
楽しみにしていたジョドロフスキ。そういえば、11列目11番という素晴らしい座席(なんと有馬氏のコンソールの目の前の座席)だったのだが、この位置で聴く「Mixtion」は定位感が完璧で最高である。サウンドデザインの点で言えば、2007年のAOIで聴いたものに匹敵するか、それをも上回っていたかもしれない。羽のように軽い大石さんのテナーサクソフォンの演奏は、ジェローム・ララン氏や井上麻子さんの演奏とはやや趣が異なるものの、それでも唖然とするほどのテクニックに打ちのめされてしまった。
後半は「エヴァンジェリウム」から。実はこの曲を聴くのは二回目。一回目は、2009年に前田ホールのロビーで聴いたんだっけなあ。懐かしい。幻想的なサウンドと、ホールの壁面に映し出される幻燈(プロジェクションではなく、まさに幻燈という雰囲気)に、まるで浮遊するような心地よさを感じる。サクソフォンによって繰り返されるアルペジオは、まるで「Jackdaw」の中間部のようだ。YouTubeに本日の映像を提供した小阪淳氏の映像とともにアップロードされているので、興味ある方はぜひ。本日のライブでの印象とはかなり異なるが…。
委嘱新作、渡辺愛氏の「Unimaginary Landscape」…ジョン・ケージのタイトルに影響を受けていることは明らかだが、サウンドはまったく違うもの。ここでは、言葉で言い表すことができない体験をしてしまった。端的に言ってしまえば、サクソフォンの生音とミュージック・コンクレート、照明(レーザーとフラッシュ)の融合、ということなのだが、それらが有機的に絡み合い、まるで別世界を旅するような不思議な15分間を創り出していた。あの時間をあの場所にいた他の聴衆の方々共有できたことを嬉しく思う。ため息が漏れてしまうほどだ。
そして清水靖晃氏とカール・ストーン氏登場。「Seeds」「Rain」「Work」「Be Flat」という4部構成の大曲(おそらく30分弱くらい演奏していたのではないかな)。点描的なテナーサクソフォンの掛け合いにさりげなくエレクトロニクスが絡む「Seeds」、通路まで出てきての即興対決となった「Rain」、ステージに戻っての「Work」(時折挟み込まれる協和音は実に甘い味がする)、最終部、張り裂けそうな生命の鼓動のようなビートが印象的だった「Be Flat」。清水靖晃氏は、いまでこそバッハやペンタトニカでよく知られているが、そういえばもともとは1970年代から実験音楽を積極的に手がけた作曲家/プロデューサー/プレイヤーなのであった。本性を垣間見た思いがする。清水氏も大石氏もすばらしく、相乗効果により1+1が3にも4にもなるような瞬間を目の当たりにした。
アンコールは、全員参加の即興で、。最後の最後までトンデモ系。いやはや、参りました…凄かったなあ。
先の火曜日には、銀座でユージン・ルソー氏の演奏会を聴いたばかりだというのに。一週間のうちに、生ける伝説と呼ばれる巨匠の音楽に触れ、そして現代日本の最先端のサクソフォン音楽に触れ…というなんとも濃い体験が連続している。幸せなことだ。
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