まるで夢のような、幸せな時間を過ごした。こういった聴後感というか、演奏会後の気分は初めてだ。
【ユージン・ルソー トーク&ミニコンサート】
出演:ユージン・ルソー(sax)、松浦真沙(pf)、佐藤渉(通訳)
日時:2012年12月4日(火)19:00開演
会場:ヤマハ銀座コンサートサロン
プログラム:
B.ヘイデン - ディヴァージョン
トーク(サクソフォン人生のこと、新しいサクソフォンを目指して・ヤマハとの出会い)
H.カーマイケル - スターダスト
トーク(世界の偉大な音楽家との出会い、若きサクソフォン演奏家へのメッセージ)
G.ガーシュウィン - ポギーとベスより
E.ヘイゲン - ハーレム・ノクターン(アンコール)
アメリカを、いや、世界を代表するクラシック・サクソフォンの巨匠、ユージン・ルソー Eugene Rousseau氏。1932年アメリカ生まれ。フルブライト留学生としてパリに渡り、マルセル・ミュール氏に師事。アメリカ帰国後は演奏活動・教育活動に携わり、世界各地の有名オーケストラとの共演、ドイツ・グラモフォンを含む複数レーベルへの録音、数々の新作の初演を行った。インディアナ大学、ミネソタ州立大学特別教授として後進の指導にあたり、著名な演奏家を輩出した。
私にとってルソー氏は、リアルタイムで接したことのない「CDの中の人」。よく聴いたのは、クラシック・サクソフォンに興味を持ったちょうどそのころにリリースされ、手に入れやすかったRIAXの4枚である。ソナタ集、アレンジ・コンチェルト集、弦楽器とのトリオ、フェルド作品集と、多岐にわたるジャンルが面白いことに加え、演奏のクオリティが非常に高いこともあり、愛聴盤だ。他にも、Delos盤、グラモフォン盤ほか、10枚ほど持っているはずだ。
そんなこんなで、まさかお会いできることになるとは思わなかったのだが、今年7月のWSCで、初めてルソー氏にお会いして(ごく短い時間ながら)お話できた。この時(石渡悠史先生にシャッターを押してもらって)ルソー氏とケネス・チェ氏と写真を撮ってもらい、とても嬉しかったのだった。ちなみにWSCではマスタークラスのために渡英したとのことで、演奏を聴く機会はなかった。
そして昨日!まさか2012年のうちに、再びルソー氏に接する機会を得ることができるとは、夢にも思わなかった。貴重な機会を準備して下さったYAMAHAのスタッフの皆様に感謝、である。…前置きが長くなった。
会場に着くと、客席がいつにも増して濃い。客席にギャラ発生しそうだよね、とはtfmさんの言葉。久々にお会いする方もたくさんおり、ご挨拶できて嬉しかった。
冒頭から難曲「ディヴァージョン」。ルソー氏が独奏をつとめるDelosの録音でも親しんだあの曲を、まさかライヴで聴くことができるとは!あのCDで聴くことのできた丸くニュートラル、そして暖色系の音色が眼前で発せられる。やや控えめで上品なヴィブラートが、華を添える。驚いたことに80歳にしていまだテクニックにはほとんど衰えがみられない。指回しも驚異的、そしてカデンツァでの輝かしい(しかし決して押し付けがましくない)フラジオ音域と、あと10年は余裕で吹き続けることができるのではないかと思わせる圧倒的な演奏で冒頭を飾った。松浦真沙氏のピアノも、もちろん素晴らしい。
トークでは、YAMAHAのH氏が司会をつとめ、佐藤渉氏が通訳を行った(通訳はさすが!であった)。プロジェクターで写真やその他資料を映しながら、ルソー氏が音楽家としてのキャリアの初期についてトークを行う。その言葉の隅々から巨匠としての風格を漂わせるが、しかし客席に語りかけるように、時にユーモアを交えながら親しみやすい口調で様々なエピソードが語られた。続いて、YAMAHAのサクソフォン開発において共同作業を開始したキッカケや、その開発時のエピソードについて話が進んだ。司会のH氏ご指名で、客席の石渡悠史氏と雲井雅人氏からもYAMAHAサクソフォンの開発に関する話がなされ、充実したセッションとなった。
そして、再びルソー氏の演奏。マイナスワンのCDを使った、カーマイケル「スターダスト」である。トークから感じられる人柄が、そのまま音楽となって溢れ出してきたような、素晴らしい演奏を堪能。思わず涙してしまうほどであった…。
休憩時間には、ホワイエに並べられた各時代のYAMAHAのアルト・サクソフォンのトップモデルを鑑賞。ミシェル・ヌオー氏が開発に携わった最初期のYAS-61、そしてルソー氏が開発に携わったYAS-62、最新のYAS-875EXまで。これはとてもおもしろかったので、後日写真をまとめてアップしたいと思う。
後半のトークは、ルソー氏と音楽家たち…マルセル・ミュール氏、ポール・クレストン氏、バーナード・ヘイデン氏、カレル・フサ氏について、エピソードが語られた。その後、客席からも質問OKということだったので、イィンドジフ・フェルド氏との関わりについてエピソードを質問させてもらった。Thunderさんは、グラモフォンの協奏曲集を吹きこむことになった経緯について質問されていた。最後に、日本の若いサクソフォン奏者へ、ということでメッセージ。本当に好きで、専門家として生きていくならば、人生はお金を稼ごうと思えばシンプルではないけれど、情熱を持って取り組みなさい…「Be the best you can be!」という力強い言葉が、いまでも頭の中をぐるぐる回っている。
最後に、ガーシュウィン。「世界のどこでバッハを吹いてもこれはバッハの音楽だとわかってもらえる。ガーシュウィンの音楽も、同じようなものであると考えている」という短い前置きのあとに、ソプラノとアルトを持ち替えての演奏。ここまでプリミティブな"音楽"として演奏されてしまうと、いま聴こえてきている音楽が、クラシック音楽なのか、ポピュラー音楽なのか、という境界がぼやけて、よく分からなくなってきてしまう。得難い経験だった。アンコールに「ハーレム・ノクターン」。最後まで幸せな時間だった。
終演後、サインを頂戴し、写真を一緒に撮ってもらい(ミーハーモード)、さらに木下直人さんから送ってもらったミュール氏参加のデュリュフレSPの世界初復刻を渡すことができた。なんだかほっこりしたまま会場を後にしたのだった。
トークの内容は、後日メモ書きをアップしたいと思う。
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