2008/10/31

J.Y.フルモー サクソフォンリサイタル(ジャパンツアー2008東京公演)

うおー、すごかった!実はフルモーさんの演奏を生で聴いたのは、これが初めてだった。

【ジャン=イヴ・フルモー サクソフォンリサイタル(ジャパンツアー2008東京公演)】
出演(敬称略):ジャン=イヴ・フルモー(sax.)、羽石道代(pf.)、大森義基、波多江史朗、小森伸二、井上麻子、有村純親、塩安真衣子、栄村正吾、松原孝政、松井宏幸、國末貞仁、福井健太、平賀美樹(以上sax.)
日時:2008年10月31日(金曜)19:00開演
会場:第一生命ホール
プログラム:
Karol Beffa - Obssesions (Japan Premier)
Claude Pascal - Sonatine
Fernande Decruck - Sonate en Ut#
Alfred Desenclos - Prelude, cadence et finale
George Friedrich Handel/J.Y.Fourmeau - Arrivée de la reine de sabbat
Alessandro Marcello/S.Hatae - Concerto
Jérôme Naulais - Atout Sax
Jacques Ibert/J.M.Londeix - Concertino da camera

以下、プログラムの日本語名と、編成・演奏者の覚書き。敬称略。
キャロル・ベッファ - オブセシオン(Aフルモー)
クロード・パスカル - ソナティネ(Aフルモー、Pf羽石)
フェルナンド・デクリュック - ソナタ嬰ハ調(Aフルモー、Pf羽石)
アルフレッド・デザンクロ - 前奏曲、カデンツァと終曲(Aフルモー、Pf羽石)
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル - サバの女王の登場(S大森、A波多江、T塩安、B有村)
アレッサンドロ・マルチェロ - コンチェルト(S.Soloフルモー、S大森、A波多江、T塩安、B有村)
ジェローム・ノレ - アトゥ・サックス(Sフルモー、A波多江、T大森、T塩安、B有村)
ジャック・イベール - コンチェルティーノ・ダ・カメラ(A.Soloフルモー、Cond大森、Sn塩安、S松原、S松井、A國末、A波多江、A小森、T井上、T福井、B有村、B平賀、Bs栄村)

てなもんで、プログラム的にも渾身の一番という感じであるし、共演者も豪華であるし、もちろん演奏も素晴らしいしで、大満足の演奏会だった。

「オブセシオン」は、無伴奏のアルトサクソフォン作品。ベッファの映画音楽好きが昂じて?生まれたものだということだが、まるでニーノ・ロータの映画音楽エッセンスを一本のサクソフォンに詰め込んで、さらに技巧的なスパイスを存分に振りかけたような…。もの凄い跳躍の間を駆けずり回りながら、音を振り撒いていく作品だった。最初ステージに出てきたときのフルモーさんの顔は、さすがに連続5公演のうち最後の演奏会だけあって、なんだか険しい表情で疲れているようにも見えたのだが、まったくそんなことはなかったのだな(というか、ステージではああいう感じの表情なのですね笑)。4楽章に渡って、ぐーっと引き込まれてしまった。

続く3曲は、ピアニストに羽石道代さんを迎えてのフレンチ・スクールのオーソドックスな3曲。浜松アカデミーにてサクソフォンクラスを担当している縁で、今回の共演が実現したということなのだろうか(意外や意外、羽石さんの演奏は思ったよりも大人しく聴こえた。ピアノのせいかな?)。パスカルの「ソナティネ」から、どこまでもニュートラルで、いくら音量を出しても響きが損なわれない。サクソフォンは跳躍が苦手?そんなことないでしょ?というくらいのもの。とにかく、誰が聴いても美しい音楽であると思うに違いない(しかも、だからといって、決して無個性というわけではないのだ)。サクソフォンを取り巻く要素…音色、テクニック、タンギング、アルティシモ、フレージング等々を、何も犠牲にすることなく、高い次元で結実させているあたりは、全世界を探しても稀であろう。

休憩を挟んだヘンデルは、意外なことにフルモーさんは乗っていなかったのだが、続くマルチェロが独奏+SATB四重奏という編成で、納得。マルチェロは波多江さんの編曲だそうだ。第2楽章、フルモーさんは循環呼吸を使いながら、長大なフレーズを一息で吹ききっていた。しんと静まり返った会場に響く、美しいメロディ…。ノレの「アトゥーサックス」は、ギャルドのサクソフォンセクションにより結成された、パリ五重奏団のために書かれた曲。ぱっと聴くと、現代音楽っぽいが、実はかなりカッコイイ曲なのですよね。せっかくだから、「Sun, Sea, Sand and Sax」あたりやってくれたら、もっと面白かったかも…なんてね。

そして圧巻のイベール。まあ、共演者の豪華さもさることながら、フルモーさんの独奏の貫禄はどエライものでした。11人のサクソフォン奏者を従え、時にその波を乗りこなし、時に猛烈なパワーで引っ張り…。その存在が、とっても大きく見えた。なんというか、世界的な音楽家の一人と呼ぶに相応しい姿を見た気がする。アンコールは、何だか不思議な二曲をピアノとサクソフォンで。レイモン・アレッサンドリーニの曲?かな?二曲目なんて、「イパネマの娘」かと思ったくらいだったのだが。

そうだ、さすが、いろんな方に会うことができました。かなり久しぶりの方、おなじみの方、初めてお会いした方も何人か(PさんやKei.Kさんなど…)、つくばの知り合いも。こういう場でのそんな交流もまた、なかなか楽しかったりするのです。

ダール「協奏曲」の初演ライヴ録音

The Legendary Saxophonists Collectionから。

インゴルフ・ダール Ingolf Dahlの「協奏曲」と言えば、数あるサクソフォンのための協奏曲の中でも、最も充実した作品のひとつである。サクソフォンに専門的に取り組んでいる方々でも登攀しがたい独奏パートの難易度に加え、さらにバックのバンドも非常に難しいということで、実演を聴く機会/録音される機会、どちらもあまりないほどのものだ。

独奏パートがここまで難しくなってしまった理由としては、やはり作曲者がこの作品を献呈したのがシガード・ラッシャー Sigurd Rascherであった、というところが大きい。彼ほどの名手がアメリカにいたからこそ、こんな作品が生まれた…この作品の誕生は、ほぼ100%がラッシャーの功績によるものである、とも言えるだろう。

さて、そんなダールの「協奏曲」であるが、幾度かの改訂を経て現在の形に落ち着いたのは、これまでもこのブログ上で何度も述べてきたとおり。それでは、改訂前の初演時のバージョンはいったいどんな響きがしていたのだろうか?という疑問は、自然と出てくるものだと思う。ここで紹介する録音は、そんな疑問に答えるものだ。そう、ダールの「協奏曲」が初演されたときの、ライヴ録音を復刻したものなのだ!

録音データを見てみよう:
University of Illinois Symphonic Band
Mark H. Hindsley, Conductor
Recorded Live 19:00 May 17, 1949
University of Illinois Hall

なんと、1949年の録音。バックはイリノイ州立大学の吹奏楽団。おそるおそる再生すると、想像を超えるほどの音質の悪さ(笑)!だが、聴き進めていくうちに、原典版大きな音楽の流れに飲み込まれてしまいそうにもなる。ラッシャーの技巧は冴えまくっており、どんな音域にあっても、自在にサクソフォンを操っている様子を聴き取ることができた。また、原典版の作品の様子だが、中間部から最終部にかけては、曲の構造にもかなり手が加えられているように聴こえる。

2008/10/30

Miguel Villafruela on YouTube

南米を代表するサクソフォン奏者、ミゲル・ヴィジャフレラ Miguel Villafruela氏。私は不勉強で、最近までこのプレイヤーの名前を知らなかったのだが、おなじみmckenさんのページでビジャフレラ氏のCDが紹介されているのを見て以来、興味がわいた。YouTubeを探索していたところ、ビジャフレラ氏の映像が大量にアップされているのを発見したので、ご紹介したい。

Miguel Villafruela氏の映像がアップされているチャンネル:
http://jp.youtube.com/user/tuncabajo

ざっと見ただけで、以下のような曲目の演奏映像がアップロードされている。
ソロ:
ディニク「ホラ・スタッカート」
トマジ「バラード」
イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」
ヴィラ=ロボス「ファンタジア」他
四重奏:
アルベニス「セヴィリャ」
フロレンツォ「南アメリカ組曲より」他

「ホラ・スタッカート」を貼り付けておく。


良いですなあ。気取らない小品を、こんなにあったかーいサクソフォンで聴くことができる幸せかな(実は技術的には相当凄いと思うのだが)。あと、このフィンガリングに注目すると、なかなか構え方が面白い:指の腹が、ほとんどフラットに貝と接しているようにも見える。

2008/10/28

エスポワール第7回定期演奏会

【エスポワールサクソフォンオーケストラ第7回定期演奏会】
出演:エスポワールSO、福井健太(cond.)
日時:2008年10月26日 13:30開演
場所:タワーホール船堀 小ホール
プログラム:
W.A.モーツァルト/金井宏光 - 歌劇「フィガロの結婚」序曲
C.サン=サーンス/野村秀樹 - 歌劇「サムソンとデリラ」よりバッカナール
オムニバス - なつかしのメロディ(4sax)
G.ビゼー/島田和音 - カルメン・ファンタジー(8sax)
真島俊夫 - ラ・セーヌ(8sax)
F.ショパン/中尾敦 - 華麗なる大円舞曲
P.I.チャイコフスキー - バレエ音楽「白鳥の湖」より

日曜日に聴いた演奏会。土曜のモアレの演奏&打ち合げのあと福島に一泊して、Fさんの車でつくばへ。そのまま東京へ向かって聴いてきた。さすがに、第一部には間に合わなかったが、第二部の途中から聴くことができた。

アマチュアのアンサンブルの演奏会に出かけていって聴くのは、今までも何度も機会があったが、エスポワールのレベルは、そのなかでもかなり高いレベルに位置するものだと思った。5月ころに行われた小規模のアンサンブルコンサートのときは、さすがに各団体ごとに仕上がりにムラがあったが、この演奏会で聴いたものでは、どれもが高い水準で、私たちも見習うべきものだと感じた。

カルメンやラ・セーヌのような8重奏って、四重奏のような身軽さもなければ、ラージのような大合奏!という感じでもなく、作りこんでいくのがいちばん難しい編成ではないかと個人的には思っているのだが、カルメンも真島作品のどちらも素晴らしかった。重くなく、常に上を向いているようなスタイリッシュで軽やかな響き。技術的に危うげなところも微塵もない。

第3部のラージも、どんなもんなのかなあと思って聴き始めたのだが、こちらもかなり作りこんであって驚いた。さすがにこれくらいの大合奏(25人前後)になると、ひとりくらいはサボっていてもおかしくないはずなのだが、そうはならないところが凄い。細かいフレーズも、歯車がきっちりかみ合ったような高い技術レベルで、大変楽しめた。そして、中尾さんの(相変わらず)素晴らしいアレンジ!ところどころ、ニヤニヤしてしまいました。

2008/10/26

モアレSE第12回定期演奏会

モアレサクソフォンアンサンブルの演奏会に参加してきた。たまには、日記風に。

朝は4:30に起きた。前日に準備してあった荷物と楽器を抱えて、バイクでつくば駅へ。とにかく、雨が止んでいることが幸い。途中朝ごはんを買って、駅前でほおばる。5:42つくば発。南流山から武蔵野線に乗り換え、さらに京浜東北線に乗り換えて大宮まで。大宮7:30発のやまびこに乗車。

うっかり自由席券なんぞを買ってしまったものだから、座れずに1時間ほど立ちっぱなし。郡山で登山客が大挙して下車し、短時間だが座席に座って足を伸ばした。8:37福島着。演奏会場のテルサまでは、徒歩で移動。8:50前にはロビーへ到着し、一年ぶりの方々や、そうでない方々と挨拶を交わした。モアレの方々、啼鵬さん、F-Windsさん、ゆうぽんさん、名古屋からはフラミンゴのお二人、福島市周辺の吹奏楽団の方々…。

荷物を置いたら、とりあえず練習室にこもって問題のラージアンサンブルの曲を、もういちど音やリズムをチェックしながらさらいなおした。やはり難しい…一筋縄ではいかない。しかも、同じテナー1stのKさんが、仕事のためリハーサル参加不可能だと。やや不安を抱えつつ、啼鵬さんの指揮でラージのリハが開始。初めに一回通すが、案の定いくつかテンポのチェンジ部分に不安を感じた。いくつかの場所を取り出して、確認しつつ。アレンジが面白く、どの楽器のどのパートにも見せ場が用意されている。難しさの中にそれにまさる面白さを感じた。

ラージリハの後は、他のモアレステージのリハーサルをホールで鑑賞したり、お昼ごはんを食べたり。何気に、ダーハ(sax-ist)さんと初対面しました(笑)。開演まで時間があることがわかったので、仮眠。なんせ、4時間しか眠れなかったのだから…。

開演してからは、客席のほうに行ったり、袖に行ったり、割と自由に過ごす。モアレさんのレパートリーは、他のどのアマチュアアンサンブルにもないものだ。啼鵬さんのアレンジによる楽曲は、ポップでもあり、クラシカルでもあり、特に、ファイヴ・タンゴ・センセイションズなどはサックス4重奏+バンドネオンという編成で、これはここ以外ではできないだろうなあ。ところで、第2部の途中で、打ち合わせなしでなぜかサクソフォンの歴史について解説をする羽目になった…(なんのこっちゃ)。まあ、なんとか取り繕うことはできたので、良しとしよう。アントワーヌ=ジョセフ・サックス。ふう。

ラージは、上手くいった、かな?30人がぱっと集まってぱっと吹くには不釣り合いな、かなり難しい20分に及ぶ大曲だが、最後まで集中力が持った…。アンコールに、ロマネスクとお馴染み「森のくまさん」。やっぱり、森くまは盛り上がる!

演奏会後は、みんなで記念撮影。楽器を片づけてホテルにチェックインし、18:00から沖縄料理店で打ち上げ。とりとめもない話や不思議料理を肴に、大いに飲み食い騒ぎした。21:00過ぎから2次会、なぜか野菜スティックを食べまくる。2次会のあとは屋台でラーメンを食べて、3次会へ…さすがに3次会が終わるころにはギブアップ。それにしても、モアレ周辺の方々のパワフルさには、驚かされる。私が一番若いはずなんだが(苦笑)。

今日は福島を8:30にF-Windsさん、啼鵬さんとともに出発し(Fさんの車)、12時過ぎにつくばに到着した。

2008/10/24

明日はモアレ

福島に演奏しに行きます。ラージの楽譜が難しいのだが、なんとかなるんだろーか。土曜夜は一泊して、日曜につくばに帰還予定。

演奏会の詳細は、こちらから→http://moire.shinsuke.com/

2008/10/23

ご紹介:マルセル・モイーズ研究室

マルセル・ミュールが取り持つ縁でごく最近お知り合いになった、Sonoreさんのウェブページ:マルセル・モイーズ研究室をご紹介したい。ずっと昔から、ちょくちょく伺ってはいたのだが、この機会に改めて。

http://www.geocities.jp/marcelmoyse/

マルセル・モイーズは、1889年生まれのフランスのフルート奏者。パリ国立高等音楽院を卒業し、ソシエテ(パリ音楽院管弦楽団)の首席奏者として活躍する。教育者としてはパリ国立高等音楽院、ジュネーブ音楽院の教授を務めて後進を育成するなどした。主な弟子には、トレバー・ワイ、ジェームズ・ゴールウェイ、オーレル・ニコレというビッグネームが揃っている。その活躍のわりには、なかなかモイーズのフルーティストとしての功績にはあまりスポットが当てられていない。なぜかというと、モイーズ全盛期の主な録音はSPに吹き込まれたものであり、録音媒体がほとんど流通しなかったから、ということのようである。

今回ご紹介する「マルセル・モイーズ研究室」は、そのモイーズの功績にスポットを当てて、ディスコグラフィやモイーズ周辺のエピソードをまとめたウェブサイト。ディスコグラフィのほうは、単なるテキストの情報だけでなく、Sonoreさん手持ちのSPから復刻を行ったデータもアップロードされており、音源と対照しながらモイーズの録音を辿ることができる。モイーズの様々な録音がアップされている場所は、こちら(Sonoreさんから直接リンクの許可をいただきました):http://www60.tok2.com/home/sonore/

また、モイーズはパリ音楽院管弦楽団の首席奏者を務めていたということだが、エピソードの部分では、私も大変興味を引かれるソシエテ関連の記事がたくさんある。ギャルドの主席でもあったアンリ・ルボンの記事、指揮者であるフィリップ・ゴーベールの記事…デザインが洗練されており、さらに文字だけでなく写真も充実しており、久々に全部読み返してしまった。

サイトの開設は1999年。当時はインターネットの世界もまだ未発達であったが、その時から現在まで、国内のマルセル・モイーズの情報の集約地となっているようだ。

コミュオフ会@池袋

ミクシイの、波多江史朗さんコミュ、カルテット・スピリタスコミュのオフ会に参加してきた。私自身はコミュニティの住人ではないのだが、mckenさんにご案内いただいたのです(ありがとうございました)。

波多江史朗さん、松原孝政さん、平賀美樹さんが参加。Thunderさん、mckenさん、豊島四号さんらアマチュアサックス吹きや、音大生の方もたくさん参加されて、短い間ではあったがとても楽しい時間を過ごすことができた。波多江さんや平賀さんとも話せたし。初対面であっても、そこはみんなサックス吹き、という感じ(^^)

22:24池袋発の丸の内線に乗って、東京駅の西側に到着。かなり余裕をみたつもりだったが、八重洲南口までダッシュして、最終高速バスへ飛び乗り。ギリギリ。24:15くらいには、自宅まで帰り着くことができた。ふう。

…あー!!写真撮り忘れた!!

2008/10/21

エルカートでのミュールの演奏録音

The Legendary Saxophonists Collectionから。

1958年、マルセル・ミュールはシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団とのツアーに同行し、アメリカの9つの都市でイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」とトマジ「バラード」を演奏した。その成功により、ミュールの名がアメリカ全土に知れ渡ることとなったのは、周知の通り。

1958年2月9日、ミュールはそのツアーの合間を縫って、インディアナ州エルカートのセルマー工場において、ピアノのマリオン・ホールとのデュオリサイタルを行った。ミュール自身による英語の解説を挟みながら、グラズノフ、イベール、トマジといった、クラシック・サクソフォン代表的なレパートリーが見事に演奏され、聴衆からは惜しみない拍手が送られた。プログラムは次の通り。

J.S.Bach - Flute Sonata No.6
A.Glazounov - Concerto
E.Granados - Intermezzo from "Goyescas"
G.Pierne - Cnazonetta
E.Bozza - Concertino
A.Tcherepnin - Sonatine sportive
C.Pascal - Sonatine
J.Ibert - Concertino da camera
P.Bonneau - Caprice en forme de valse
H.Tomasi - Ballade

その録音が、残っているのである。日本では全くと言っていいほど知られていないようであるが、アメリカでは常識的に流通しているのだろうか。だとしたら、こんなもったいないことはない!ミュールが演奏するグラズノフ、なんてのはこれはちょっと凄い。肉声のような自然な音とフレージング、というのはミュールの演奏を評する時に良く使われる文句だが、このグラズノフこそそんな言葉がぴったり当てはまるのではないだろうか。聴いているうちに、どこかへ連れ去られてしまいそうだ。

アンコールとして演奏された、ボノーやトマジのみずみずしく、パワフルな演奏!とにかくハヤイハヤイ!ミュール58歳。このツアーの直後に独奏者としてのキャリアから身を引き、その理由にはツアーの演奏で自身の技量に限界を感じたから、という説もあるが、この演奏を聴く限り、まったくそんなことは感じられない。

こんな録音が残されていたことを、大変嬉しく思うと同時に、ふと50年前のサックスに、思いを馳せてみるのである。

2008/10/20

私とマルセル・ミュールの出会い

高校では中学からの流れで当たり前のように吹奏楽部に入り、しかしどちらかと言えば惰性で続けていたようなもんで、何だかわからないうちに学指揮にもされてしまったし、毎朝の練習は大変だし、成績は下がるしさてどうするかな…という、そんな大方の高校生サックス吹きが陥る?状態にあった。

しかし、その年の頭にはアンコンをきっかけとしてサクソフォン四重奏というものを知ることになり、(演奏はこそしなかったが)デザンクロやパスカルの四重奏曲にハマるなど、徐々にサックスに楽しさを見出していた。高校2年の5月。そう、この年の4月に、トルヴェール・クヮルテットの超名盤「マルセル・ミュールに捧ぐ(EMI)」が発売され、パスカルの四重奏曲にハマっていた私はそのCDを即買い。フランセの「小四重奏曲」にも引き続いてハマることになる。

しかし、そのアルバムタイトルにもなっていたマルセル・ミュールという名前は、初めて聞いたのだった。昔に活躍したサクソフォン奏者らしい、ということは分かったものの、そもそも演奏を聴いたことがないのではしょうがない。ふうん、というくらいにしか思わなかった。

そして、ちょうどこの時期に、あの伝説の復刻シリーズが発売されたのである。東芝EMIが出版した、20枚に及ぶ「ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の芸術」。おなじみ木下直人さんが所有する音源を、デジタル化して一挙に発売するという、実現したのが信じられないほどの企画だ。そのうちの一枚、20枚シリーズのうち、19枚目忘れもしない「マルセル・ミュールの至芸II」と題された盤を、ある日部活の先輩が買ってきたのだ。

「これすごいよ!泣ける!本当に!」と言われて渡されたCD。早速、その日の午後部活に早めに出かけてゆき、楽器庫の片隅にあったCDプレーヤーで再生してみた。一曲目は、ふむふむ、ヴェローヌの「ラプソディ」という曲か。…ざー、ぱちぱち。うわっ、すごいノイズだ。前奏のこの音はハープ?と思っているうちに、最初の伸ばしの音が…。

その音を聴いた瞬間に、体が震えた。音が、からだの隅々にまで染み渡った。

そして、前奏のアルペジォの上向形、下降形。人の声のように滑らかで、艶っぽくて、身体に音が染み込んだそのまま、どこか彼方へ連れ去られそうだった。スピーカーから流れてくる演奏に取り込まれながら、気がついたら目から涙が溢れて、そして一曲が終わってしまっていた。

これが、マルセル・ミュールとの出会い。こうまで詳しく覚えているなんて、その時受けた衝撃は相当なものだったのだろう。そんなことを思い出しながら、ミュール演奏の「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」を聴いてみる。やっぱ凄いや。

木下直人さんによる「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」のトランスファー(Pierre Clementのアームとカートリッジ、トーレンスのターンテーブルによる、世界最高レベルの復刻):このページ、もしくはこのページから辿れます。

The Garden of Loveの和訳と解釈

JacobTV(ヤコブ=テル・フェルドハウス Jacob ter Veldhuis)の作品「The Garden of Love」の基となっている、ウィリアム・ブレイクの詩について調べてみた。

ティエス・メレマの演奏動画:


原文:

I went to the Garden of Love,
And saw what I never had seen:
A Chapel was built in the midst,
Where I used to play on the green.

And the gates of this Chapel were shut,
And "Thou shalt not" writ over the door;
So I turn'd to the Garden of Love,
That so many sweet flowers bore,

And I saw it was filled with graves,
And tomb-stones where flowers should be:
And Priests in black gowns were walking their rounds,
And binding with briars my joys & desires.

邦訳(長尾高弘訳):

愛の園に入っていくと、
決して見たことのないものがあった。
かつて遊んでいた緑のまんなかに、
教会が建てられていたのだ。

教会の門は閉じられており、
扉にはするなと書かれていた。
そこで私はとてもすてきな花が、
たくさん咲いていた愛の園に向かった。

そこは墓で覆われていた。
花が咲いているはずのところに墓石が立っていた。
そして、黒衣の僧がそれぞれの持ち場を歩きまわり、
私の歓びと望みを次々に茨で縛っていった。

邦訳(壺齋散人訳):

心はずませ 愛の園に出かけてみたら
見たことのない光景に出会った
いつも遊んでた広場の上には
教会の建物が建っていたんだ

教会の門は閉じられていて
立ち入り禁止と書いてあるんだ
仕方なく花壇のほうへ引き返し
すずしい木陰を探そうとしたら

そこは墓地に変わっていたんだ
花のかわりに 墓石が並び
牧師たちが 見張りをしている
僕は茨で縛られたように 悲しい気持になったんだ

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しっくりこなかったので、自分で訳してみた→こちら

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ウィリアム・ブレイクは、1757年生まれのイギリスの詩人。詩集「無垢と経験のうた The Songs of Innocence and of Experience」が有名であり、この「愛の園 The Garden of Love」もその詩集に含まれているものである。内容としては、伝統的なキリスト教の批判、というところだろうか。人々が直接神と向き合うことのできる「愛の園」が、権力を濫用する教会によって、踏みにじられているという内容のようだ。私は、あまりキリスト教のことは判らないが、ブレイクの怒りと悲しみを感じることができた。

2008/10/19

Willow Wind Orchestra第2回定期演奏会

妹(オーボエ吹き)と高校時代の吹奏楽部の同期(フルート吹き)が乗っているということで、まあ付き合いのつもりで長野まで出かけて聴きに行ったのだが、びっくりするほど素晴らしかった!!こんな演奏会だったら、いくらでも聴きたい。ウィロー・ウィンド・オーケストラの定期演奏会。

【Willow Wind Orchestra第2回定期演奏会】
出演:藤井貴宏(cond.)、Willow Wind Orchestra
日時:2008年10月19日 13:30開演
会場:千曲市文化会館あんずホール
プログラム:
J.ヴァン=デル=ロースト「フラッシング・ウィンズ」
内藤淳一「マーチ・グリーン・フォレスト」
福島弘和「稲穂の波」
N.リムスキー=コルサコフ「スペイン奇想曲」
B.ウィーラン「リバーダンス」
J.スウェアリンジェン「ロマネスク」
天野正道「"GR"よりシンフォニック・セレクション」

例えば、吹奏楽コンクールの全国大会や支部大会まで出てくるようなバンドとは違う演奏の魅力がある。メンバーは、見た感じ私と同世代くらいの若い人たちで、出てくるサウンドは、良い意味でパワフルで、すがすがしい。個人の技量は比較的高く、時々出現するソロなんか、アマチュアらしからぬ貫禄を湛えている。

そして、このウィンド・オーケストラを魅力的たらしめていることには、優秀な指揮者の存在が大きいだろう。指揮を務めるのは1980年生まれのオーボエ奏者、藤井貴宏氏。長野県内の高校を出たのち、東京芸術大学に進学・卒業し、兵庫芸術文化センター管弦楽団のオーボエ奏者に着任。まだ28歳?と若いのに、並々ならぬ努力によって活躍の場を広げつつある方のようだ。どの曲においても、最初から最後まで一本の線を通したような音楽作りは、ぐっと聴衆を惹きつけていた。

選曲も(個人的にとても)良かった。まあ、コンセプトも何もあったもんじゃなくて(^_^;やりたい曲やりました、という感じだが、そこは若い団体ならではというか。「フラッシング・ウィンズ」「マーチ・グリーン・フォレスト」「稲穂の波」「リバーダンス」だなんてねー。私にとっては、まさに青春の音楽というところだし。「稲穂の波」は、歴代課題曲の私的トップ3に入るくらいだ!!

月に1、2回の練習で、こういった盛りだくさんの演奏会を開いてしまうとは。まだノウハウの蓄積も少なく、演奏会の開催には多くの困難を伴うはずだが、ぜひこのフレッシュな感じを保ちつつも、長く続けていただきたい。

惜しむらくは、まだまだお客さんが少ないこと。600席のホールで、250弱くらいだったか。コンクールに参加しないバンドであるし、集客に関しては回を重ねるごとの増加に期待だろう。

なめら~か第8回定期演奏会

Thunderさんが主宰するアンサンブル。つくばから横浜に出て聴いてきた。横浜に行ったのは就職活動をやっていた頃以来だけれど、やっぱり遠いなあ。

【なめら~かサクソフォンアンサンブル第8回定期演奏会】
日時:2008年10月18日 18:00開演
会場:みたとみらいホール・小ホール
プログラム:
F.&M.ジャンジャン - サクソフォン四重奏曲
G.ラクール - サクソフォン四重奏曲
A.デザンクロ - サクソフォン四重奏曲
A.リード - 春の猟犬
G.ガーシュウィン - ラプソディ・イン・ブルー(ピアノ:古関美香)

前半にフランスのオリジナル作品を、後半にスペシャル・アレンジ作品(アメリカもの)を配置。全五曲、すっきりまとめあげたプログラム。最近までモーツァルトにも取り組まれていたそうだが、さすがにこのプログラムの中では浮いてしまう、ということだったのだろうか…?

会場は、驚くほどの大入り。もしかしたら7割くらい埋まっていたかもしれない。楽章間で拍手が入っちゃったり、ちょっとご年配の方が多かったり、という感じ。ラクールのようなちょっと聞きづらい曲であっても、拍手の大きいこと!

プログラム前半、ジャンジャンは、けこぅさんがソプラノ、ゆうぽんさんがテナー。デザンクロのソプラノがThunderさん。ジャンジャン、ラクール、デザンクロ、どれも何度も吹いたことがあったり、吹いたことはないけど大好きだったりと、私個人的に大変思い入れのある曲だ。首都圏のアマチュアのアンサンブルって、つくばのような閉鎖的な土地のアンサンブルとは、根本的に鳴らし方や音楽の作り方が違うんだなあと思いながら聴いていた。どの曲も楽章カットなし、全曲に渡って堪能いたしました。客席の沸きっぷりもすごかった!

そして圧感は第2部。「春の猟犬」のラージへのアレンジは、原曲の色彩感に劣らない見事な音楽が流れてきたし、ラプソディ・イン・ブルーは熱演!古関美香さんというピアニストの名前は初めて聞いたが、舞台上の振る舞いは小柄でかわいらしい感じなのに、ピアノを弾けばどっしりとした貫禄のある演奏で、驚き。テクニックも、音楽の流れもすばらしい。そして、バックのラージアンサンブルは、なんと指揮なし!そういえば去年も大栗司麻さんとのグラズノフの演奏で、指揮なしだったことに驚いたが、「ラプソディ・イン・ブルー」をここまでまとめ上げてしまうことに、またしても驚かされた。

アンコールは、おなじみ「サンダーバード」。ピアノつき。大きな拍手の中、終演。ロビーで出演者のみなさんと一言二言交わすこともできた。

2008/10/18

怒涛の週末

今週末は、なめら~かサクソフォンアンサンブルの演奏会→長野でWillow Wind Orchestraの演奏会(オーボエ吹きの妹や、高校時代の友人が参加している)。来週末は、モアレサクソフォンの演奏会に乗って、次の日はエスポワールの演奏会を聴きに。次の週末は、H.C.社の秋祭りでの屋外演奏。どれも楽しみだ。

ぼちぼち交通費もバカにならなくなってきたぞー(^_^;

2008/10/15

David Brutti plays Fitkin, Heath, JacobTV on YouTube

この人とは、すごく趣味が合いそうな気がする。YouTubeにアップされている映像が、

Graham fitkin - Gate
Dave Heath - Out of the Cool
Jacob ter Veldhuis - Grab It! 他

ってなもんで。ソプラノサクソフォンとピアノのための作品だったら、お気に入りNo.3以内には入るグラハム・フィトキンの「Gate」に、同じくBbサクソフォンのための傑作、「Out of the Cool」。そして、JacobTVの「Grab It!」だ!吹いているDavid Bruttiという人は、イタリア人だそうだ。ちょっとジャズ寄りな感じながらとても熱い演奏で、素敵。

Graham fitkin - Gate


Dave Heath - Out of the Cool


Jacob ter Veldhuis - Grab It!
なんとなくだが、ティエス・メレマのアルバムの録音の解釈に、けっこう似ている気がする。

筑波研究学園都市吹奏楽団第22回定期演奏会

一昨年から毎回聴きに行っているが、年を経るごとにレベルアップしているように聴こえるのは気のせい…?今回も楽しかった。

【筑波研究学園都市吹奏楽団第22回定期演奏会】
出演:野宮敏明、高橋新太郎(cond.)、筑波研究学園都市吹奏楽団
日時:2008年10月13日 14:00開演
場所:つくばセンタービル ノバホール
プログラム:
G.パレー - 序曲「リシルド」
C.ウィリアムズ - パストラーレ
P.A.グレインジャー - リンカーンシャーの花束
M.アーノルド - 序曲「ピータールー」
O.リード - メキシコの祭

このマニアックなプログラムは、どうだろう!ギャルドの楽長でもあった、パレーの「リシルド」から始まり、ウィリアムズの秘曲、「リンカーンシャー」も大変挑戦的だし、休憩をはさんだ第2部も、ピータールー&オーウェン・リードという手加減なしの濃ゆさ。そこらへんの「吹奏楽の演奏会」とは違う、ある種の貫録というかスタンスを見ることができる。

団員指揮の前半2曲は、リラックスした響きとダイナミクスで美しく聴かせる。「リンカーンシャー」は、指揮者の要求にさすがに演奏者側が応え切れていない部分もあり、ドキドキしながら聴いていたが、休憩後の第2部は圧巻だった。「ピータールー」の兵隊が行進してくる部分なんか鳥肌が立ったし、オーウェン・リードの「メキシコの祭」は祝祭的な雰囲気が演奏にも満載で、聴きながら会場内が明るくなるような錯覚をした。

アンコールに、「ブロックM」。この締めを聴かないと帰れませんね。Mぽん、たー氏、M田さん、おつかれさまでした。Mぽん、チケットありがとう!また聴きに来れたら来たいな。

2008/10/14

学園祭終了

一日目は、研究室のデモ公開のお手伝いと、High-Jinks Wind Orchestraでの演奏。HJWOはこれが解散ライヴ。お客さんも多く、もの凄く盛り上がって、とても楽しかった。それから、吹奏楽団の友人がやっている演奏などを観た。Fatman Bros.は、とてもカッコ良かったし(かわいかったし)、私的懐メロ特集って感じで、個人的にもすごく良かった。まだ一日目だというのに、夜は飲み会に参加。久々に酔っぱらった。

二日目は朝の5時に起きて、研究科の友達とたこ焼き屋さんの出店。10時から20時までひたすらたこを焼き&呼び込み。たこ焼き作る能力がレベルアップ!一日中立ったり歩いたりしていたせいで、足首が伸ばせなくなってしまった。しかし、とにかく薄利多売の方針がが功を奏したらしくずいぶん売れたなあ。二日目&三日目の出店なのに、この日の売り上げだけで支出をカバーできてしまったようだ。たこ焼きを焼くときのBGMは、熱帯JAZZ楽団のアルバムを7枚ループ!

三日目は、後輩たちがやっているバンドを観、続いてブラスパラダイスという大所帯(50人規模!)のバンドに乗る。こちらの盛り上がりも凄かった。れっどりばー氏、纏め役&指揮お疲れ様です。知人の団子屋さんに顔を出した後、筑波研究学園都市吹奏楽団の定期演奏会を聴きに。コアなプログラミングで、かつ演奏もなかなか良くて、面白かった。すぐに大学に戻って、たこ焼き屋さんを再び手伝う。18時には出店が終わり、片付けて、出店のために貸していたウチの冷蔵庫のタコ臭をひたすら消して、21時くらいから今度は吹奏楽団のほうの打ち上げ。みんなはしゃぎすぎ、自分もはしゃぎすぎた(笑)。面白かったなあ。二次会の後輩宅に移動し、3時半まで…(笑)。まだまだ若いかも…。

さっき起きたところ。これからステージ関係の片付け。

大学入学してからの六年間、毎年何らかの形で毎年学園祭に関わることができたな。ありがたいことです。来年は本格的に参加することがないと考えると、準備がないぶんほっとするような、やっぱりちょっと寂しいような。遊びにこれたらいいなー。

今日も

酔っぱらったーヾ(゜∀゜)ノシ久々に?みんながみんなノン・ストップ&スーパーハイテンションって、感じでした。面白かったー。二次会まで参加して、もうすぐ朝の4時じゃん…。

学際期間中のいろいろは、明日書いていきます。

2008/10/12

飲んだー

酔っぱらったーヾ(゜∀゜)ノ

学園祭です。今日は演奏、明日はタコ、もといたこ焼きを焼きます。来てね。なんとなく、コントラバスサックスの画像(しかも吹いているのはラッシャーだ!)を貼り付け。

2008/10/11

筑波大学管弦楽団第64回定期演奏会

【筑波大学管弦楽団第64階定期演奏会】
日時:2008年10月10日(金曜)19:00開演
会場:つくば市ノバホール
プログラム:
J.シュトラウス - 喜歌劇「こうもり」序曲
P.チャイコフスキー - 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
J.ブラームス - 交響曲第一番

友人の案内で聴いてきた。なんとある関係で急用が入ってしまい、最初のほうしか聴けなかったのが残念だ。ブラームス…(涙)弦楽器のことは良く分からないのだが、管のうまさはさすが。吹奏楽の中で吹いているのとは、根本的に鳴らし方、響かせ方が違うのかなあと思った。

2008/10/10

Interview with the Legendary Marcel Mule(その1)

「History of Saxophone Vibrato」という、パリ国立高等音楽院の現サクソフォン科教授である、クロード・ドゥラングル氏が、マルセル・ミュール氏にインタビューした記事を発見した。オーストラリアの、クラリネット&サクソフォン協会が発行した記事であるようだ。現教授が、前々教授にインタビューする、という構図が、なかなか面白い。以下のページの、click hereというリンクから辿ることができる。

Interview with the Legendary Marcel Mule - on the History of Vibrato

主にヴィブラートの話を中心に、マルセル・ミュールのキャリアについて辿るもの。英語。サクソフォンにおいて、ヴィブラートを初めてクラシックで使用したところの描写が面白かったので、簡単に訳してみた。

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私は1923年にギャルド・レピュブリケーヌに入団し、フランソワ・コンベルの席を引き継いで主席奏者になりました。コンベルは私にギャルドの入団を勧めてくれた奏者です。
(…中略…)
そのころ私は、オペラ・コミークでも演奏をしていました。オペラでサクソフォンを使うものと言えば、その頃はマスネの「ウェルテル」くらいしかありませんでしたから、演奏していた、と言ってもひと月に一度くらいでしょうか。オペラ・コミーク以外にも、コロンヌ管、パドゥループ管、ソシエテなどでも演奏をしていました。その頃パリのオーケストラは、私のことを「ジャズ奏者ではない、クラシックのサクソフォン奏者」という風に捉えていたようです。それは、ヴィブラートをかけずに演奏していたから、ということが一番大きいでしょう。
1928年、オペラ・コミークでの新作の演奏機会に呼ばれました。そのバレエは、私のことをジャズバンドのキャリアを知っていたピアニストによって書かれたもので、編成にサクソフォンが含まれていました。その中の一曲は「Fox Trots」と名付けられ、ブルースの大変expressiveなメロディがサクソフォンに割り当てられています。瞬時に私は「これはジャズのフレーズだ」と悟りましたが、そのフレーズの吹き方について作曲者と話せなかったのです。そこで、リハーサルにおいてはウェルテルでいつも吹いているがごとく、私はノン・ヴィブラートでそのフレーズを吹きました。すると彼が私に言うのです。「私はvery expressiveと書いたはずだ。それは、ヴィブラートをかけて欲しい、ということだ」。
私はこう反論しました。「しかし、今まではヴィブラートなどかけたことがありません。ここはジャズオーケストラではなく、シンフォニーオーケストラなのですから」
彼はこう言います。「そんなことは問題ではない、君がジャズバンドで吹いていたように吹けばいいんだ」
そこで私は観念し、「わかりました…。しかしどうなってもわかりませんよ」と返しました。私は、オーケストラメンバーからの反感を買うことを恐れていたのです。
私はそのフレーズをゆっくりと、ヴィブラートをかけて吹きました。すると、彼はもちろんのこと、周りの音楽家たちから賞賛の声があがりました。ある者は、「新しいサクソフォン奏者が現れた!」と声を上げたほどです。反感を買うどころか、音楽的に成功を収めたのです。私の後ろに座っていたギャルドの奏者が、「ギャルドでもそうやって吹いたらいいよ」とアドバイスしてくれましたが、さすがに音楽のスタイルが違うため、それは難しいと答えました。
しかし、この成功によって私はヴィブラートを研究するきっかけを与えられ、機会をみつけては徐々に使用するようになりました。そのうち、ほとんどすべての演奏でヴィブラートを使うようになりました。(…以下略)

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あと、ミュールがシガード・ラッシャーについて回想している部分も!これについては、また時間を見つけて訳してみます。

2008/10/09

Ties plays Tallahatchie Concerto on YouTube

フェルドハウス Jacob ter Veldhuis(JacobTV)がアルノ・ボーンカンプのために書いたサクソフォン協奏曲、「Tallahatchie Concerto」。の演奏映像。ゲットブラスターなどは使用しない、管弦打楽器とサクソフォンのための作品となっている。独奏はティエス・メレマで、昨年の演奏映像だそうだ。たしか、Adolphesax.comには、スロヴェニアで開かれたコングレスでの、ボーンカンプの演奏もアップされていたような覚えがある。



サクソフォンとゲットブラスターの作品とは、また違ったベクトルの不思議な面白さを感じる。独奏パートの演奏者が相当個性的でないと、面白くない曲になってしまうだろうなあ。その点、このティエス・メレマの演奏や、以前観たボーンカンプの演奏は、さすがのテンションとアピール力。この動画は抜粋映像だが、願わくば全編通して観たかったところ。

2008/10/08

国立音楽大学専攻生によるサクソフォーンアンサンブル2008

ご案内を頂いたこともあり聴いてきた。月曜の昭和音大のサックスオケのときと比べて、かなり時間的余裕があり、京王線に乗り換える前に、ドルチェ楽器に寄って新しいメトロノームを買った(TSQの演奏会の直前に壊れていた)。

【国立音楽大学専攻生によるサクソフォーンアンサンブル】
日時:2008年10月8日(水)18:30開演
会場:府中の森芸術劇場ウィーンホール
プログラム:
C.パスカル「四重奏曲」より1,2,4
A.ピアソラ/宮崎達也「Time for Piazzolla」
R.R.ベネット「四重奏曲」
E.グリーグ「ホルベルク組曲」より前奏曲
E.フォン=コック「11本のサクソフォーンの為のモデラートとアレグロ」
D.ウィレン/荻原和音「弦楽合奏の為のセレナーデ」
B.ウィーラン/柏原卓之「リバーダンス」 他

府中の森芸術劇場は初めてだったが、外観から内装にいたるまでとても美しい。写真はホール正面広場に鎮座する噴水。広場の床には、宝石のような小さいライトが埋め込まれていて、幻想的な雰囲気。建物自体も、ずいぶんとモダンな外観だ。ウィーンホールと呼ばれる中規模のホールは、パイプオルガンを備えた高天井のシューボックス型のホールで、ウィーン・ムジークフェラインのグローサーザールをモデルとしていることが明らか。

パスカルから始まった演奏会は、第一部が比較的小編成のアンサンブル、第二部が大編成のアンサンブルとサクソフォーンオーケストラ、という形で進行していった。先日の昭和音楽大学の演奏会と違って、小編成で聴ける分、個人技が光る場所が多い。50人規模の大編成を何曲も聴かせられると、やはりちょっと飽きちゃうかな。

パスカルからピアソラにかけては、上手いなあと思いながら何気なく聴く。ピアソラは、「ボーデル1900」「エスクヮロ」「ブエノスアイレスの夏」「アディオス・ノニーノ(このバリトンサックス独奏の歌い上げが、かなり濃密でブラボーだった)」「リベルタンゴ」という5曲のメドレー。ピアソラとサックスって、改めて聴いても相性が良い。

そしてベネット。日本ではなかなか演奏されない、このイギリスの作品を取り上げるとのことで、どんな演奏になるか興味津々だったのだが、鳥肌がたつほどの名演だった。高い技術と凝縮されたテンションに、客席も引き込まれていくのがわかるほどだった。学生としてではなく、プロフェッショナルとして音楽を作りこんでいくような強靭な気合いが感じられた。すごい…。

休憩後の第2部は「北欧の音楽」というテーマ。作品の方向性としてはバラバラだが、これはこれで多彩な音楽が飛び出してきて面白い。グリーグは、ステージ前方に並んでの立奏&暗譜。第二部の始まりにふさわしい、爽やかなリズムが耳に心地よい。続くフォン=コックの「モデラートとアレグロ」は、これが実は一番楽しみにしていたものだったが、大変楽しく聴けた。基本的には新古典主義の風合いが強く、ただし和声はフォン=コック独特な涼しげな響きがする。「モデラート」の最終部分なんか、ほとんど「サクソフォン協奏曲」と同じ響きだし。このパートを、きっとカリーナ・ラッシャーが吹いていたんだろうなあとか、ブルース・ワインベルガーが吹いていたんだろうなあ、とか考えながら聴いていると、ちょっと面白いかも。ソプラニーノが使われていたが、楽譜にそんな指定があるのだろうか?今回に限って、フラジオ音域のサポートに使用した、ということだろうか?

ダグ・ウィレン(ヴィレーン)「弦楽のためのセレナーデ」。作曲家の名前も、楽曲の名前も初めて聴いたが、スウェーデンの生まれであり、現代音楽には傾倒せずに分かりやすい作品を多く手がけた作曲家であるとのこと。そんな解説のとおりの音楽だった。イージーな響きであったので、印象には残らなかったのだが、ひとつだけ。なんか第4楽章が「ポケットの中にはビスケットが一つ~」のメロディに凄く似ている。そんなことを思っていたら、Wikipediaにも同じ記述が(^^;

最後に置かれた柏原卓之氏編曲のサックスオーケストラは、30人以上のサックスに、コントラバスサクソフォン(!)、パーカッション、ハープ、コントラバス、ギターまでをも交えた、一大スペクタクル!といった感じの豪華な編成。指揮は下地啓二氏。演奏も良いし、アレンジも、多種多様な要素が織り込まれていて素晴らしい。原曲とは違った切り口からウィーランの音楽に迫っていると感じた。ところで、リバーダンスに関しては、個人的に相当思い入れが強いので(ジュネーヴ公演のライヴDVDなど、何度観たことか!)、Reel Around the Sunのテンポ設定が謎だったとか、The Countess CathleenやFiredanceのBメロが聴きたかったとか、まあそんなことも思ったのだが(笑)。

アンコールに、グリーグ「ペールギュント」より"朝"。終演後は、雲井さんや柏原さん、チケットを用意してくださった小田島さんなどと一言二言交わす。茨城県から東京の西側までは遠いが、無理してでも行ったかいのある、聴きどころ満載の演奏会だった。

2008/10/07

昭和音楽大学サクソフォーンオーケストラ第19回定期演奏会

知人から案内を頂戴し、聴いてきた。それにしても相模大野は遠かったなあ。つくばからのアクセスだと片道2時間は、さすがにつらいところで、さらに18:30開演の21:00過ぎに終演とは…参った。

【昭和音楽大学サクソフォーンオーケストラ第19回定期演奏会】
出演:昭和音楽大学大学院、音楽学部、音楽学部研究生、短期大学部、短期大学部吹奏楽コース、短期大学部音楽芸術コースの学生
日時:2008年10月6日(月曜)18:30開演
会場:相模大野グリーンホール

そして、注目すべきはプログラム。曲目のリストを見ただけでは、まさかサックスの演奏会だとは思えない。

D.ショスタコーヴィチ/佐々木匠「祝典序曲」(指揮:新井靖志)
I.チャイコフスキー/野原武伸「バレエ組曲『くるみ割り人形』より」(指揮:野原武伸)
A.I.ハチャトゥリアン/宮井佳代、村田淳一「バレエ音楽『ガイーヌ』より」(指揮:大森義基)
P.クレストン/金井宏光「サクソフォン協奏曲」(独奏:福本信太郎、指揮:榮村正吾)
A.ボロディン/土田まゆみ「歌劇『イーゴリ公』よりだったん人の踊り」(指揮:田中靖人)
M.ムソルグスキー/福本信太郎「組曲『展覧会の絵』」(指揮:福本信太郎)

編成は「オーケストラ」の名前に相応しい50人を超える大編成が基本で、冒頭のショスタコーヴィチから分厚い響きが気持ちよかった。想像していたよりもずっと精度が高くて、個人のソロもユニゾンのフレーズも、かなり聴き応えのあるものだった。これはあきらかに、数回のリハーサルで作ってきました、というレベルではない。最終部には、なんと2階席にバンダ(もちろんサックス)を配置するというサプライズも!立体的な音響に、客席が沸いていた。

くるみ割り人形は、比較的小さい編成(20人を下回る程度だっただろうか)。個々がメカニカルに絡み合う部分など、小編成ならではの絶妙なアンサンブルで切り抜けていく。野原氏の指揮・編曲も、良い意味で神経質な感じで、演奏者が一丸となって進んでいくさまが◎。「ガイーヌ」では再び大編成に戻り、おなじみの剣の舞やレスギンガなどを演奏。それほど熱くならずに、スタイリッシュにまとめたあたりは、好みかなあ(笑)。すみません、私自身はどうしてもアルメニア・フィルの演奏がスタンダードなもので。

楽しみにしていたクレストンの「協奏曲」における福本氏のソロは、とにかくお見事!であった。実は福本氏のソロはきちんと聴くのが初めてだったが、あまりの上手さに舌を巻いた。技巧的にも、音楽的にも、こんなに素晴らしいサクソフォン奏者だったとは。それに加えて、魅せるところではツボをしっかり押さえてアピールするし、さらに人間的にも慕われている様子がひしひしと伝わってくるしで、この演奏会で独奏に抜擢されたのにも納得。いやあ、凄かった。そうだ、クレストンの編曲が面白かったことも書いておかなければ:前列に10人(SnSSAATTBBBs)、後列に25人?並んで、前列の10人が主として吹奏楽の独奏パートを奏でる、という趣。第2楽章などはほとんど10重奏で、急速楽章との対比が面白かった。

「だったん人の踊り」は、いかにも田中靖人氏らしい感じで(良い意味で、大味というか何というか)、なんというか指導者と演奏ってピタリ結びついている気もするなあ。ソプラノサックス2nd?が奏でていたイングリッシュホルンの音色が面白かった。ムソルグスキーは、まさに指揮&アレンジャーの福本氏、オケの演奏者ともに渾身の演奏。冒頭、トランペット2本をソプラノサックスに置き換えた「プロムナード」から始まって、…「ビドロ」…「バーバヤーガ」…気がついたら「キエフの大門」まで進んでしまっていた。雄大な終曲を、特大のパイプオルガンのようなサックスオケが奏でるのだ。これまたドキドキものです。

アンコールも演奏されて、終演は21:15。つくばに帰り着いたのが23:45。しかし、無理してでも行った甲斐のある演奏会で良かった。サクソフォーンオーケストラって、今まではフェスティバルなどでしかつまみ食い程度で聴いたことがあるくらいだったが、アレンジ、演奏、指揮が上手くハマったときの演奏効果は、そこらへんの吹奏楽よりもずっと面白いものなのだと感じた。逆に言えば、サクソフォーンオーケストラという不完全な編成のなかで、いかにして"音楽"を創り出すのか、というその過程が面白かったりするのである。

tsukubasaxophoneチャンネル

先日の演奏会の動画を、YouTubeに公開中。tsukubasaxophoneチャンネル。

http://jp.youtube.com/tsukubasaxophone

本当は一枚一枚ブログに貼りたかったのだけれど、一枚一枚貼っているととんでもない量になるので、リンクだけ作っておく。非公開設定のものに関しては、演奏者の許可が取れ次第、順次公開予定。

サン=サーンス「オーボエ・ソナタ」
http://jp.youtube.com/watch?v=h3E8REGjkR4
http://jp.youtube.com/watch?v=ySlk8sNHSzQ
http://jp.youtube.com/watch?v=jKmR2-qnKuU

ドビュッシー「チェロ・ソナタ」より第1,3楽章
http://jp.youtube.com/watch?v=4ATcknePosk

フェルドハウス「グラブ・イット!」
http://jp.youtube.com/watch?v=MPTr2-ye1XA

フェルド「四重奏曲」より第1,5楽章
http://jp.youtube.com/watch?v=WtH3TQHhqVs
http://jp.youtube.com/watch?v=WP1odolwoN0

グラズノフ/柏原卓之「協奏曲」
非公開設定

ホルスト/TsukubaSQ「セント・ポール組曲」
非公開設定

伊藤康英「木星のファンタジー(アンコール)」
非公開設定

2008/10/04

Grab It!の録画

先日の演奏会の録画のうち、自分の吹いた「Grab It!」をYouTubeにアップした。撮影してくれた友人に感謝です。そういえば、身なりというか、自分の顔をこのブログ上で公開するのは初めてだ。まあいいか。ん?そうでもないかな?

テープのバランスが少し大きめであるし、サックスのほうにも各所に疵がある。でも、ライヴでの自分の今の限界は、大体これくらいなのかなー、と思う。…ふー、精進精進。



実は他にもいろいろアップロードしてあるのだが、(このブログをご覧になっている殆どの方の関心は、松雪先生のグラズノフだろう)まだ許可が取れていないため、非公開設定にしてある。

JacobTV「Grab It!」の曲目解説

先日の演奏会のプログラムノートから転載。Prism QuartetのCDと、大石将紀さんの「B→C」の曲目解説を参考にしながら書いたものだ。「メメント・モリならぬメメント・ヴィヴェレ」というくだりは、あまりに印象的だったのでそのまま使用させていただいた。

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Jacob ter Veldhuis (JacobTV) - Grab It!
ヤコブ=テル・フェルドハウス - グラブイット!

アヴァンギャルドでありつつも、聴き手がポップな感覚で楽しめる音楽を次々に生み出しているオランダの作曲家、ヤコブ=テル・フェルドハウス(1951 – )。ロック音楽界の出身であり、自らの作品を評して「砂糖でスパイス付けした音楽だ」などとのたまう、まさに現代音楽界の異端児。しかし近年、世界中の多くの演奏家たちが、この一風変わった作曲家の生み出す音楽に注目しているのです。

テナーサクソフォンとゲットブラスター(屋外用途向け大音量ラジカセ)のために書かれた「グラブ・イット!」は、1999年の所産。オランダを中心に多方面に活動を展開しているサクソフォン奏者、アルノ・ボーンカンプに捧げられています。テナーサクソフォンの独奏パートとともに、サンプリング&コラージュされた効果音がスピーカーから流され、両者のデュエットが繰り広げられます。

その一見華やかなサウンドの向こう側から聴こえてくるのは、アメリカで製作されたドキュメンタリー映画の中で発せられる、終身刑に処せられた受刑者たちの「声」。彼らが憎しみや絶望を込めて発する言葉の力強さに心を打たれたフェルドハウスは、サクソフォン・ファミリーの中でもひときわ強い個性を持つテナーサクソフォンと、その「声」を掛け合わせることを思いついたのだといいます。

初めは断片的だった彼らの叫びは、曲が進むにつれて徐々にその姿を現します。「あいつは鉄パイプの片側に縄を引っ掛け、首を吊ったんだ。緑色のビニールシートに包まれた亡骸は、つま先に番号札を付けられて、外の世界に運び出されていった…でも、死んじまったら何もかもおしまいなんだよ!」…刑務所という絶望的な状況の中では、自殺という行為すら日常的な出来事なのです。この曲のテーマは、死が身近にある状況の中で、生きることの価値を認識すること。メメント・モリ(生の中で死を想え)ならぬ、メメント・ヴィヴェレ(死の中で生を想え)のメッセージが、隅々に散りばめられているのです。

JacobTV「Grab It!」の元ネタ

JacobTV(Jacob ter Veldhuis)の「Grab It!」は、1978年にアメリカで製作されたドキュメンタリー番組「Scared Straight!」内の音声をコラージュして作曲されている。同番組は1978年のアカデミー・アワードなる賞を受けているそうで、視聴者に衝撃を与えた作品であるようだ。内容は、受刑者たちのプレゼンテーションを通して、刑務所生活の実態を若者たちが知る…というもの。いや、そもそも、15歳から19歳の若者たちを、囚人と引き合わせる、という設定からしてなかなか強烈だ。

YouTubeにそのドキュメンタリーがアップされている。1978年の「Scared Straight!」に、後日談を付け加えた「Scared Straight! 20 Years Later」というフィルム。6本もあるので、貼り付けは遠慮してリンクだけ貼っておく。

Part1: http://jp.youtube.com/watch?v=ocQFb_BQ33c
Part2: http://jp.youtube.com/watch?v=S_Fw2y2S6Ew
Part3: http://jp.youtube.com/watch?v=cjO9LQvDDww
Part4: http://jp.youtube.com/watch?v=jEiwmcicOu0
Part5: http://jp.youtube.com/watch?v=5Rs4tn-puHw
Part6: http://jp.youtube.com/watch?v=s5FNmZ7HIEI

字幕もないし、スラングばかりで正直何を言っているのか良く分からないのだが、「Grab It!」中に出てくるフレーズをいくつも聴き取ることができる。冒頭の「Speak it up! I said speak it up, Mickey Mouse speak it up!」って、ここで言っていたのかー、とか。ドキュメンタリーの最後に置かれた、撮影当時に服役中だった男との再会シーンでは、不意に感動してしまった。「Actually you don't go back, never. / Never! / Never. / You should stay cool. / You, too.」…。

実は演奏会当日の朝にこの映像を見つけ、そのまま食い入るようにすべて観てしまった。観るのと観ないのとでは、「Grab It!」のサウンドトラックから感じられるリアリティが違う。直前だったが、今思えばかなり演奏の助けになったのかなと感じる。

デファイエが吹くリュエフを聴く

必要があって、デファイエのCrestのLPを聴いた。以前、木下直人さんにトランスファーしてもらったものだ。聴きながら、またもや感動してしまった。ブートリーの「ディヴェルティメント」を聴くのは、いったい何度目だろう。リュエフの「ソナタ」を聴くのは、何度目だろう。しかし、初めて聴いたときのフレッシュな感動は、未だ失われない。繰り返し聴きながら、一週間でも二週間でも、ずっと過ごしていたい。

この録音を聴くと、他のサックス関連の録音が、急に無価値なものばかりに思えてきてしまう。この演奏を知らずして、ブートリーの新録音を吹き込むことなどできるのか?リュエフを、まっとうな精神状態で吹くことができるのか?

いや、寧ろ知ってしまうほうが怖かったりして…(知らぬが仏とは良く言ったものだ)。そういえば、今年の管打楽器コンクールの予選曲(必須課題?)に、リュエフが含まれているらしい。審査員の皆さんはこの演奏を知っているわけで、そう考えるとなかなかの地雷であるような気もする。

2008/10/02

12/6の注目公演、2つ

ひとつは、もちろんみなさんご存知の…。今年は定期演奏会がなかったが、こういった形で聴けるのもまた嬉しいことだ。雲井雅人サックス四重奏団の奏でる「木星のファンタジー」、想像しただけでぞくぞくする。

【雲井雅人サックス四重奏団 クリスマス・コンサート】
出演:雲井雅人サックス四重奏団
日時:2008年12月6日 15:00開演
会場:目黒パーシモン小ホール
料金:全席指定3500円
曲目:
W.A.モーツァルト - 3つの教会ソナタ
G.ピエルネ - 守護天使の庭
E.モリコーネ - ガブリエルズ・オーボエ
A.フラッケンポール - クリスマス・ジャズ組曲
J.ブヴァール - ノエル
伊藤康英 - 木星のファンタジー
問い合わせ:
http://www.persimmon.or.jp/details/20081206.html
03-5701-2913(めぐろパーシモンホール)

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で、もうひとつが個人的に大注目。オランダのラーフ・ヘッケマ Raaf Hekkemaというサクソフォン奏者をご存じだろうか。数年前、パガニーニの「カプリス」全曲をサクソフォンで演奏したアルバムを発売し、まさにその年のサックス界の(一部の)話題をかっさらったプレイヤーだったのだが…。そのヘッケマ氏が、カレファックス・リード五重奏団 Calefax Reed Quintetというアンサンブルの一員として、来日するのだそうだ。

プログラム的にも、JacobTVの「Jesus is Coming」とか、スティーヴ・ライヒの「New York Counterpoint」とか、非常に面白いものとなっている。…ってええっ、「Jesus is Coming」がここで聴けちゃうのか。だれか先駆けてサックス四重奏版を演奏して日本初演してくれませんかね。

【カレファックス・リード五重奏団 来日公演】
出演:カレファックス・リード五重奏団
日時:2008年12月6日 18:00開演
会場:オペラシティ・リサイタルホール
料金:一般自由3000円、学生自由2000円、一般前売自由2500円、学生前売自由1500円
曲目:
S.ジェルマヌス - 古い回転ディスク
山本裕之 - ブリジットの見たもの
M.シュロモヴィッツ - 線と長さ
C.ナンカロウ - 自動ピアノのための練習曲より
G.ヤンセン - 海へ至る道
久木山直 - 枝(世界初演)
J.t.フェルドハウス(JacobTV) - ジーザス・イズ・カミング
S.ライヒ - ニューヨーク・カウンターポイント
問い合わせ:
glovill@glovill.jp、03-3568-3260(グローヴィル)
03-5353-9999(東京オペラシティチケットセンター)

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この2つの演奏会、これはもう"はしご"するしかないだろう!!都立大学から初台までは、電車で40分だ。がんばればなんとかなる!!

Paul de Ville「Universal method」とルフェーブル

Internet Archiveの版権が切れたメディアを公開しているコーナーに、Paul de Villeの「Universal method for the saxophone」がアップロードされていた。PDFファイルで全322ページ、基本的な知識から、技術的なエチュード、練習曲までをも網羅した、サクソフォンのための大メソードである。

ここのリンクから辿ってダウンロードできる。

内容としては、メカニカルな練習譜例がほとんどなのだが、ざっと目を通すうちに、最終部に付け加えられた練習曲が私の興味を引いた。編曲者として名を連ねていたのは、アメリカにおけるクラシカルサクソフォンの祖とも言える、あのエドゥアルド・ルフェーブル Eduard A. Léfèbreだったのだ。

フランス人の両親を持ち、オランダで生まれ、のちにアメリカに渡ったるフェーブルは、ギルモア・バンドやスーザ・バンドに所属していた奏者。当時としては類まれなテクニックと音楽性を有し、アメリカにおけるサクソフォンに認知に一役かったとされている。楽器製作者のBuscherと組んで、メイド・イン・アメリカのサクソフォン製作に携わったことでも有名だろう。

このエチュードに見られる楽曲は、著名なクラシックのメロディを参考にしたヴィルトゥオーゾスタイルの独奏曲。おそらくルフェーブル自身もレパートリーとしていたものだったのだろう。はるか昔に思いを馳せて、彼の見事なテクニックを想像することができる。

林田和之「Lessons of the Sky」

素晴らしいサクソフォンのCDが立て続けに発表されており、嬉しい限りだ。おなじみ、ジェローム・ララン氏の「Impressions d'Automne」、言わずと知れた須川展也氏の「AIR」「Saxophone Concertos」、スピリタスQの「Scene」…。

そんなラッシュの中発売されたこの林田和之氏のアルバム「Lessons of the Sky(Cafua CACG-0120)」。同じくCafuaから連番で発売されたララン氏のCDのことを、以前私自身は「現代のフランス・サクソフォン界の姿を、最良の形で表現したディスク」と書いたが、林田氏のアルバムはアメリカの美味しい部分を、日本人の繊細な感性で美しく、しかし賑やかに盛り付けたようなディスクではなかろうか。

アメリカと言っても、近年国内で流行の兆しがあるマスランカは敢えて(?)取り上げずに、知られざる作品を取りそろえてきた。ドビンズという作曲家の名前などは初めて見たし、ロジャースやペックはアメリカでこそ流行ってはいるが、日本で演奏された機会など聞いたこともない。クレストンも、いまさらという感はあるよなあ(アメリカ発で、誰の耳をも納得させるサックス音楽というと、この曲が筆頭にはなるのだろうが)。

北方寛丈 - Time
Paul Creston - Sonata op.19
Rodney Rogers - Lessons of the Sky
Bill Dobins - Echoes from a Distant Land
Bill Dobins - Sonata
Russell Peck - Drastic Measures

「タイム」を抜けた途端に響く、クレストン冒頭のフレーズ。サックス、ピアノともども音の立ち上がりに曖昧な部分を一切残していないためだろうか、このテンポにしては信じられないほどのグルーヴが感じられる。3楽章の、ピアノの細かいフレーズの上で遊ぶサックスが、互いに精密機械の歯車のように噛み合い、そのまま最後までいってしまった。これは、すごい。数多の名演奏が存在するが、このような精緻な音楽づくりが、上辺だけのノリにここまで肉薄、いや、越えてしまうとは。

この方針はロジャースでも同じ。聴き手の印象とは裏腹に、想像できないほどの複雑な楽譜(のはず)だが、そんな部分は軽々と越えて、タイトルそのままの爽やかさを我々に届けてくれる。ちなみに、この「Lessons of the Sky」は、以前もこんな記事を書いている。イギリスを代表するサクソフォン奏者、カイル・ホーチ Kyle Horch氏のアルバムに収録されているのだが、彼は雲井雅人さんとノースウェスタンで先輩後輩の関係であったようで…。なんとなく、つながりの面白さを感じる。

ドビンズ!私はジャズのスタイルを熟知しているわけではないけれど、それまでのまっとうなクラシックのスタイルから一変、アドリブの応酬あり、オーバーブロウあり、サブトーンありの別世界。テナーサックスで演奏される「ソナタ」の最終楽章のカッコよさは、これは聴いた人だけの特権というか。すごいなあ。最後に置かれたペックは、およよ、意外とハイ・テンションでびっくり。

一昨日はリサイタルがあったようだが、素晴らしいものであったと、ネット上の感想を通じて知った。伺えなかったため、残念な限りである。また林田さんの演奏を聴く機会を楽しみにしていたい。

プログラムノート公開

あまりに気持ちのいい秋晴れなので、昼休みに家に戻ってきて洗濯物を干している。授業が終わったら、散歩にでも行こうかなあ。

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先日のTsukuba Saxophone Quartet演奏会のプログラムノートを公開した。以下のリンクから辿ってください。改変・転載してもらって構いませんので(一言もらえるとちょっと嬉しい)。

http://tsukubasaxophone.blog51.fc2.com/

あまり時間がなかったせいで、やっつけ仕事なのがバレバレ(^^;

2008/10/01

演奏会後記&次に向けて

今回は、いろいろをやりきった感のある演奏会だった。かねてより切望していた松雪明先生を迎えての協奏曲に始まり、国内ではなかなか演奏される機会のないフェルドの「四重奏曲」、あと、ソロで2年越しに実現した「Grab It!」など。

曲目以外では、例えば長野での演奏を一度こなしてからの本番であるとか、つくば市での室内楽向けではおそらく一番大きなのホール、カピオでの開催とか。多くの要素を盛り込んだことは挙げていったらきりがないが、とにかくやりたいことはほとんどやりました、というような演奏会になってしまった。しかし、やりたいことやったから、えらく独りよがりな演奏会ということでもなかったようで、終演後のお客様の反応や、アンケートを見ると好評であり、嬉しい気持ちとほっとした気持ちが半分ずつくらいある。

そして、次に向けて。

演奏会の次の日、さあ、次は何をしようかというところではたと立ち止まってしまった。やりたいことはあるのに、どれも準備期間とのバランスがとれないのだ。私は本年度をもって大学院の博士前期課程を卒業することになるのだが、その修士論文との兼ね合い、メンバーの多くも卒業論文に着手しているなか、何ができるのだろうと考え込んでしまったのである。

まる一日悩んだ挙句、次の日はボーっとしながら過ごし、そして今日。ぼちぼち学園祭の準備もしなければなあというところで、練習場所でまったりと個人練習をしながら、次の演奏会に向けてのプログラムを組み立てていた。いくつかの案が浮かんでは消えるうち、なんとなくおぼろげながらも形が見えてきた(自分の中で)。今度メンバーに会ったときに、話してみよう。