2008/10/21

エルカートでのミュールの演奏録音

The Legendary Saxophonists Collectionから。

1958年、マルセル・ミュールはシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団とのツアーに同行し、アメリカの9つの都市でイベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」とトマジ「バラード」を演奏した。その成功により、ミュールの名がアメリカ全土に知れ渡ることとなったのは、周知の通り。

1958年2月9日、ミュールはそのツアーの合間を縫って、インディアナ州エルカートのセルマー工場において、ピアノのマリオン・ホールとのデュオリサイタルを行った。ミュール自身による英語の解説を挟みながら、グラズノフ、イベール、トマジといった、クラシック・サクソフォン代表的なレパートリーが見事に演奏され、聴衆からは惜しみない拍手が送られた。プログラムは次の通り。

J.S.Bach - Flute Sonata No.6
A.Glazounov - Concerto
E.Granados - Intermezzo from "Goyescas"
G.Pierne - Cnazonetta
E.Bozza - Concertino
A.Tcherepnin - Sonatine sportive
C.Pascal - Sonatine
J.Ibert - Concertino da camera
P.Bonneau - Caprice en forme de valse
H.Tomasi - Ballade

その録音が、残っているのである。日本では全くと言っていいほど知られていないようであるが、アメリカでは常識的に流通しているのだろうか。だとしたら、こんなもったいないことはない!ミュールが演奏するグラズノフ、なんてのはこれはちょっと凄い。肉声のような自然な音とフレージング、というのはミュールの演奏を評する時に良く使われる文句だが、このグラズノフこそそんな言葉がぴったり当てはまるのではないだろうか。聴いているうちに、どこかへ連れ去られてしまいそうだ。

アンコールとして演奏された、ボノーやトマジのみずみずしく、パワフルな演奏!とにかくハヤイハヤイ!ミュール58歳。このツアーの直後に独奏者としてのキャリアから身を引き、その理由にはツアーの演奏で自身の技量に限界を感じたから、という説もあるが、この演奏を聴く限り、まったくそんなことは感じられない。

こんな録音が残されていたことを、大変嬉しく思うと同時に、ふと50年前のサックスに、思いを馳せてみるのである。

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