2008/10/02

林田和之「Lessons of the Sky」

素晴らしいサクソフォンのCDが立て続けに発表されており、嬉しい限りだ。おなじみ、ジェローム・ララン氏の「Impressions d'Automne」、言わずと知れた須川展也氏の「AIR」「Saxophone Concertos」、スピリタスQの「Scene」…。

そんなラッシュの中発売されたこの林田和之氏のアルバム「Lessons of the Sky(Cafua CACG-0120)」。同じくCafuaから連番で発売されたララン氏のCDのことを、以前私自身は「現代のフランス・サクソフォン界の姿を、最良の形で表現したディスク」と書いたが、林田氏のアルバムはアメリカの美味しい部分を、日本人の繊細な感性で美しく、しかし賑やかに盛り付けたようなディスクではなかろうか。

アメリカと言っても、近年国内で流行の兆しがあるマスランカは敢えて(?)取り上げずに、知られざる作品を取りそろえてきた。ドビンズという作曲家の名前などは初めて見たし、ロジャースやペックはアメリカでこそ流行ってはいるが、日本で演奏された機会など聞いたこともない。クレストンも、いまさらという感はあるよなあ(アメリカ発で、誰の耳をも納得させるサックス音楽というと、この曲が筆頭にはなるのだろうが)。

北方寛丈 - Time
Paul Creston - Sonata op.19
Rodney Rogers - Lessons of the Sky
Bill Dobins - Echoes from a Distant Land
Bill Dobins - Sonata
Russell Peck - Drastic Measures

「タイム」を抜けた途端に響く、クレストン冒頭のフレーズ。サックス、ピアノともども音の立ち上がりに曖昧な部分を一切残していないためだろうか、このテンポにしては信じられないほどのグルーヴが感じられる。3楽章の、ピアノの細かいフレーズの上で遊ぶサックスが、互いに精密機械の歯車のように噛み合い、そのまま最後までいってしまった。これは、すごい。数多の名演奏が存在するが、このような精緻な音楽づくりが、上辺だけのノリにここまで肉薄、いや、越えてしまうとは。

この方針はロジャースでも同じ。聴き手の印象とは裏腹に、想像できないほどの複雑な楽譜(のはず)だが、そんな部分は軽々と越えて、タイトルそのままの爽やかさを我々に届けてくれる。ちなみに、この「Lessons of the Sky」は、以前もこんな記事を書いている。イギリスを代表するサクソフォン奏者、カイル・ホーチ Kyle Horch氏のアルバムに収録されているのだが、彼は雲井雅人さんとノースウェスタンで先輩後輩の関係であったようで…。なんとなく、つながりの面白さを感じる。

ドビンズ!私はジャズのスタイルを熟知しているわけではないけれど、それまでのまっとうなクラシックのスタイルから一変、アドリブの応酬あり、オーバーブロウあり、サブトーンありの別世界。テナーサックスで演奏される「ソナタ」の最終楽章のカッコよさは、これは聴いた人だけの特権というか。すごいなあ。最後に置かれたペックは、およよ、意外とハイ・テンションでびっくり。

一昨日はリサイタルがあったようだが、素晴らしいものであったと、ネット上の感想を通じて知った。伺えなかったため、残念な限りである。また林田さんの演奏を聴く機会を楽しみにしていたい。

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