小倉大志サクソフォンリサイタルのプログラム冊子に掲載した曲目解説の執筆を担当した。下記に公開する。少しずつではあるが、これまで他の奏者のプログラム冊子に提供した言い回しを再利用するエコシステムが構築できているという印象。
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クロード・ドビュッシー「星の夜」
本年生誕150周年を迎えたクロード・ドビュッシー(1862 - 1918)。歌曲「星の夜」は、ドビュッシーがそのキャリアの初期に手がけ、公式に出版された最初の作品と言われています。以下に、原曲に使われたテオドール・ド・バンヴィルによる詩の一部を引用します。
星の夜/あなたのヴェールの下で/あなたのそよ風と心地良い香りの下で
悲しきライアーよ/ため息をつく/私は過ぎ去った恋を想う
サクソフォンは、その表現の幅広さから「歌う管楽器」とも呼ばれます。ジャズで使われる激しいブロウから美しい歌曲まで、旋律に込められた感情を自由自在に表現することができるのです。
クロード・ドビュッシー「ラプソディ」
ドビュッシーほど著名な作曲家が、サクソフォンのための作品を手がけた例は多くありません。しかし、当時それほど知られていなかったサクソフォンという楽器はドビュッシーの興味を惹くことはありませんでした。結局、ドビュッシーは未完成のスケッチを委嘱者に送りつけ、この仕事から逃げてしまったのです。現在では、そのスケッチを補筆した版が広く演奏されています。
淡い霧の中から浮かび上がるようなピアノのフレーズに続いて、サクソフォンが異国風のフレーズを奏で、やがて導かれるスペイン風のリズムに乗って音楽は徐々に高揚します。ドビュッシーは、この曲が持つ斬新な和声感や旋律線によって、サクソフォンに近代音楽への扉を開けるきっかけを与えました。
エディソン・デニゾフ「ソナタ」
サクソフォンがドビュッシー「ラプソディ」によって近代音楽の世界を扉を開いたと例えるならば、ロシアの作曲家、エディソン・デニゾフ(1929 - 1996)の「ソナタ」により、サクソフォンは現代音楽の世界に飛び込んだ、と言えるでしょう。1970年に作曲されたこの作品は、重音、微分音、スラップタンギングなど、サクソフォンの奏法における多面性を数多く引き出しました。
まるで精密機器を想起させるような第1楽章(ピアノとの緻密なアンサンブルにご注目)、続く第2楽章は、ほぼサクソフォンのみによって奏でられる極小音の世界。第3楽章は、デニゾフ自身が大好きだったというモダン・ジャズの影響を受けており、ピアノのバス・オスティナートに導かれてサクソフォンがビバップ風の旋律を奏でます。
エンニオ・モリコーネ/真島俊夫「モリコーネ・パラダイス」
エンニオ・モリコーネ(1928 - )はイタリアに生まれた20世紀を代表する映画音楽の巨匠の一人。そのモリコーネが関わった映画の挿入歌より、日本を代表する作曲家/アレンジャーの一人である真島俊夫が5曲を選び再構成したのが、この「モリコーネ・パラダイス」です。さわやかな印象を残す「ベリンダ・メイ」(L'ALIBIより)が冒頭を華々しく飾り、さらに美しいメロディを持つ「トトとアルフレード」「成長」「メインテーマ」「愛のテーマ」(ニュー・シネマ・パラダイスより)が続けて演奏されます。
ロベルト・モリネッリ「ニューヨークからの4つの印象」
イタリアの作曲家、ロベルト・モリネッリ(1963 -)が2001年に発表した「ニューヨークからの4つの絵」は、その親しみやすい曲調から、作曲されるやいなや瞬く間にサクソフォン界で人気を獲得しました。聴き手を楽しませるエンターテイメント性に徹した、20分・4楽章形式の大曲です。
第1楽章「夜明け」は、ニューヨークの街並みを照らす朝日を思わせる暖かい音楽。第2楽章「タンゴ・クラブ」は情熱的なリズムと鋭いエッジが効いたフレーズが印象的。第3楽章「センチメンタル・イヴニング」は、夕日に沈むマンハッタン島をバックに奏でられるバラード。第4楽章「ブロードウェイ・ナイト」は、"アメリカン・ドリーム"という言葉をそのまま音楽にしたような、華やかに疾走する楽章です。
伊藤康英「琉球幻想曲」
沖縄民謡「安里屋ユンタ」を元に、5本のサクソフォンとピアノのために書かれたごく短いコンサート・ピース。ピアノに導かれる神秘的かつ壮大な冒頭から一転、中間部の小気味良さが聴きものです。作曲家の伊藤康英(1960 - )は、主に吹奏楽や歌曲の分野での活躍が有名ですが、サクソフォンのためにも多くの傑作を提供しています。いずれの作品もサクソフォン奏者のための重要なレパートリーとされ、事あるごとに広く演奏されています。
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