上田卓様よりサクソフォン奏者、マリー=ベナデット・シャリエ Marie-Bernadette Charrier氏、またシャリエが参加するアンサンブル・プロクシマ・ケンタウリ Ensemble Poxima CentauriのCDをいくつか頂戴したので、ご紹介しておきたい。上田様には深く感謝申し上げます。シャリエ氏は、フランスの女流サクソフォン奏者。ナント音楽院とボルドー音楽院に学び、ロンデックスの後を継いで、現在はボルドー音楽院のサクソフォン科教授職の地位にある方。日本ではあまり知られていないが、フランスのほうでは大変に活躍されている。
ところで、上田さんは実際にボルドー音楽院に在籍されたらしい。その上田さんよりご指摘いただいて初めて知ったのだが(ここから受け売り)、ボルドー音楽院にはサクソフォンクラスがふたつ存在するそうだ。ひとつは、ロンデックス~シャリエという流れのインターナショナルクラス。もうひとつは、ジャック・ネット Jacques Net~ファビエン・シュラキ Fabie Chourakiという流れを持つ、パリ国立高等音楽院受験の準備をするためのクラス。へえぇー、知らなかった!例えば第3回のアドルフ・サックス国際コンクールで第2位を獲ったジュリアン・プティ Julien Petit氏は、後者クラスの出身だそうで。
というわけで、その前者クラスの現教授兼サクソフォンアンサンブルクラスの教授、シャリエ氏のCDである。一枚目は、ソプラノサクソフォンとバスサクソフォンのための無伴奏作品を収録した「interprete(Temperaments PC0102)」。無伴奏作品というとちょっと構えてしまうが、収録作品は、すでにサクソフォーン作品の古典として定着した有名なものばかりであり、大変聴きやすい。
・G.グリゼイ「アニュビスとヌト」
・T.アラ「デジタル」
・E.ベインケ「Item 6zehn」
・G.シェルシ「3つの小品」
・G.シェルシ「マクノガン」
グリゼイ、ベインケ、シェルシ「マクノガン」がバスサックスのための作品。グリゼイの作品は、今年(あ、もう終わるじゃん…)7月のジェローム・ラランさんのリサイタルでも演奏されましたね。微妙な音色の変化を聴き取りながら楽しむ作品であるため、ちょっとCDというメディアに収録すること自体、限界があるかなあ。アニュビスの声の部分は…あれ?楽器で演奏されている?まあ、それはグリゼイの作品集(演奏はドゥラングル教授)でも感じたことであり、まあ実演で聴いてこそなんでしょうな。ベインケの作品は初めて聴いたが、かなりの超絶技巧を要される作品のようだ。シャリエ氏の演奏は、技術的に完成されているのはもちろん、単純に楽譜を音にするだけにとどまらない、なかなかに熱い演奏であり、本CD中の白眉だと感じた。
アラの作品は、2008年のロンデックス・コンクールの課題曲でもあったはず。重音を含むパターンの繰り返しにタイトルとの関連性を感じることができる。単純なループではなく、その中でニュアンスが刻一刻と変わっていくところに、おもしろさを感じる。シェルシの2曲は、ドゥラングル教授の「Solitary Saxophone(BIS)」を意識してのことだったりして(笑)。虚空に向かって矢を放つような「3つの小品」の後の「マクノガン」におけるテンションは、聴きながら、何かに吠え立てられているような恐怖を感じるほど。今度はヘッドフォンで聴いてみよう。
次のCDは、テナー、バリトン、バスを使用したサクソフォンの作品集「havel - hurel - lauba - mefano - melle - rosse(Octandre OC931)」。まあ、タイトルどおりの作曲家たちの作品が入った作品集でございます。フランスの中堅どころの作曲家による作品を一同に集めました、という感じですな。
・P.ヒューレル「Opcit」
・F.ロセ「Ekti en Droutzy」
・C.ハーヴェル「Oxyton」
・P.メル「Verbiages d'un metal osseux」
・P.メファノ「Periple」
・C.ロバ「Dream in a bar」
何気なしに解説書を開いてみると、曲目解説の寄稿はなんとジャン=マリー・ロンデックス Jean-Marie Londeix御大ではありませんか!さらに、フランス語→英語翻訳は、クリスチャン・ロバ Christian Laubaが担当している…驚き。
さて、内容。「Dream in a bar」を聴けるのは嬉しいなあ!バリトンサクソフォンとパーカッションのための作品で、バリトンサクソフォンとテープのための「Stan」とほぼ同時期に存在を知って、気になってはいたのだが、とにかく収録CDが見つからなくて(Duo Switchのアルバムくらいか?)、やきもきしていたところだった。そんなわけで早速ロバの作品から聴き始めてしまったのだが、最初の幻想的なパーカッションの前奏から一気に作品の世界へと引きずり込まれた。突然に「Hard」や「Stan」や「Bar」のリフレインと思われるフレーズが聴こえてくると、嬉しくなってしまう。中間部では、パーカッションがビートを刻む上層で、バリトンが悠々としたフレーズを奏でたり、その役割を交換してみたり、一緒に盛り上がってみたりと、変幻自在。捉えかたによっては、コントのような滑稽さも感じられるし、ジャズのようなクールさも感じられるし、といった面白い作品だなと思った。演奏も、技術とテンションが同居し、すばらしいの一言。
パトリック・メル Patrick Melleの筆によるバリトンサクソフォン、ソプラノ(女声)、エレクトロニクスのための「Verbiages d’un metal osseux」は、何か植物の導管内を旅するような(ミクロ的な視点を覗くような)、不思議な感覚を覚えた。収録時間が長いこともあり、アルバム中の重心がこの作品に置かれているようにも感じる。ヒューレル、ハーヴェル、メファノの作品は無伴奏の作品(メファノのテナーは有名ですね)。高速フレーズにおいても特殊奏法を軽々とこなし、要所要所のキメでは録音媒体らしからぬ熱さも感じられる佳演ばかり。
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実は、これらCDのほかにも紹介したいものがたくさんある。木下直人さんより頂戴したロンデックス、ギャルド四重奏団、パリ五重奏団の復刻盤、上田卓さんより頂戴したプロクシマ・ケンタウリのCD、サックスとチェロの作品集、佐藤淳一さんより頂戴したべリオ関連の論文と佐藤さんご自身の「レシ/シュマン」「セクエンツァ」のライヴ録音、mckenさんに頂戴したドイツの四重奏団のCD、Bryan Kendall氏よりお分けいただいた復刻音源ほか、いろいろ(音源関連が多いなー)。追い追いブログ上に書いていく予定なので、今しばらくお待ちくださいませ。
ではでは、今年一年、ありがとうございました。皆様、来年もよろしくお願いいたします。
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