2007/12/27

サクソフォーンフェスティバル2007二日目レポート(2/2)

17:00からは、メインのフェスティバルコンサート。「サクソフォーンとライブエレクトロニクスの共演」「サクソフォーン・ルネッサンス」という豪華二本立てである。

ライブエレクトロニクスとの共演は、コンピュータオペレータは仲井朋子氏、音響エンジニアはサウンドクラフトという、専門家を交えての環境で演奏された(オペレータとエンジニアは、通路直後の席のコンソールに着席)。ステージ上手と下手それぞれに、4本のスピーカータワー、演奏者へのモニター(返し)は、そのタワーの上にセッティングされていた(あれで良く聴こえるよなあ)。さらに、演奏者の近くに集音マイクがセッティングされており、アコースティックの音とテープがミキシングされて出力される風。

…あ、どうでも良いのだが、パンフレットには「ガーデン・オブ・ラブ」と「ピッチブラック」の作曲者が「Y.T.フェルトハウス」などと書いてあったが、おそらく「J.t.フェルドハウス Jacob ter Veldhuis」のほうが、呼称としては広まっているため、こちらのブログでは「J.t.フェルドハウス」で統一します。

♪林田和之
J.t.フェルドハウス「ガーデン・オブ・ラブ The Garden of Love(日本初演)」

林田氏は、数年前に石井眞木の「オルタネーション」を聴いて以来、トンでもないサックス吹きだ!という先入観がある。CafuaからCD「Lessons of the Sky」発売も予定されているが、まだかな。
さて、この曲は最初がウィリアム・ブレイクの「The Garden of Love」という詩の朗読から始まるのだが…あれ?テープのバランスが大きくないか?しかも、かすかにノイズ・リダクション処理、もしくは符号化処理に伴って発生する「キャラキャラ」というノイズがかすかに聞こえるぞ?続いてサックスが入るが、相変わらずテープのバランスが大きいまま。ふーむ。林田さんも、イマイチのりきれていない感じだった。聴いていると徐々に気にならなくなってきたが、最後のコーダで完全に半拍ずれてしまった…。あ、どんな曲か聴きたい方は、YouTube上のTies Mellema氏の演奏ムービーでも観てみてください。

♪栃尾克樹
C.ロバ「スタン Stan」

バリトンサクソフォンとテープのための作品。比較的穏やかな音との絡みであり、まるでヒーリング・ミュージックでも聴いているかのようだ。後で気づいたので未確認だが、もしかして循環呼吸を使っていたのだろうか。
(追記:Duo Green Greenのねぇ。さんによると、本当に2/3くらいは使用していたようです。CD「アルペッジョーネ・ソナタ」なんかを聴いてみると、ブレスをきちんと使いながらも、その流れの中でフレージングを推敲してゆく、というイメージだったので、ちょっと意外)
作品自体の音運びは、同じくクリスチャン・ローバの「バラフォン」辺りを想像していただけると良い。重音は出ないが、最終部に向けて怒涛の16分音符が並ぶ様は、まさに圧巻。といっても栃尾氏のバリトンサクソフォンは常に穏やかな音を保ったままであり、音色に対するコダワリを伺うことができる。最後は、波が引くように静まって幕。

♪井上麻子
P.ジョドロフスキ「Mixtion(混合)」

大変な名演だった。井上麻子さんご自身が、パリ音楽院に在籍したときに実際に吹かれたこともあるはず。鬼気迫る、と言った感じのテナーサクソフォンの演奏は、バランス大きめのMAX/MSPから出力されるサウンドと対等に渡り合っており、まさに異質なものが激しくぶつかり合って新たな響きが生まれるその瞬間を、じっくりと堪能することができた。
…何気に、日本で演奏された「Mixtion」、全部聴いているんだよなあ。2006年7月のジェローム・ラランさんによる初演、2007年11月のドゥラングル教授による伝説的ライヴ、そして2007年12月の今回のフェスティバルと。
最初のppppからのクレッシェンドに自分の緊張による心音が重なり、ピンスポットを効果的に使用した照明と相まって異世界へとトリップ。感動的な、幸福な15分間だった。

♪大石将紀
酒井建治「波と記憶の間に-山本亮一の記憶に-サイドA(Beetween the wave and memories - side A)」

ソプラノサクソフォンとアルトサクソフォンの持ち替え。これも演奏&作品どちらも凄かった。ジョドロフスキの作品と比較すると、日本人的なone by oneの感性を垣間見ることができるのが面白く、また音響素材にも梵鐘などの日本的感覚で自然に聴くことができる音がまぎれていたのが、この作品に強いオリジナリティを与えていた。おそらく音響合成にはMAX/MSPを使用したのだろうか?手法は西洋発でも、出てくる音楽はやっぱり日本人なのね、と妙に関心。
大石氏の独奏を聴くのは2回目。前回はA.カプレの「レジェンド」であったが、今回はまさに本領発揮と言ったところか。エレクトロニクスとの絡みで言えば、本日の白眉であったし、どんな超絶フレーズにおいても、大変に安定した技巧が印象的だった。B→Cも楽しみです。

♪アルディ・サクソフォーン・クヮルテット
J.t.フェルドハウス「ピッチ・ブラック Pitch Black」

数年前にアムステル・サクソフォーン四重奏団が日本初演を行った曲。ぼやけた声がサンプリングされ、しかし強いジャズの影響を受ける箇所もアリの大変楽しい曲である。うーん、こちらも、ちょっとテープのバランスが大きいか。演奏は良かったと思うし、作品も場面がめまぐるしく変わって興味深かったのだが、ちょっと頭が痛くなってしまった。リアルタイムで音量調節していけば良いのに、音響エンジニア的感覚からしたらこのくらいのものなのだろうか。

ここで休憩。なんとロビーで、倉田さんに名古屋サクソフォンアンサンブルの櫻井牧男氏を紹介される(ありがとうございました)。ThunderさんとともにLP「パピヨン」の話をいろいろ。へえー、レコーディングはβを使用したんですかあ、みたいな(マスタはアナログだったらしいが)。

さて、続いて雲井雅人氏によるアドルフ・サックスの息子(エドワルド)の作によるヴィンテージ楽器を使用した演奏。

♪雲井雅人(sax)&中地朋子(pf)~サクソフォーン・ルネッサンス~
F.コンベル「マールボロによる変奏曲」
G.ピエルネ「カンツォネッタ」
F.デュクルック「叙情的歌曲第5番」
トークの合間に演奏された作品…「"アルルの女"間奏曲」「フェルリング第1番」「金婚式」など

冒頭、ビゼー「"アルルの女"より間奏曲」の一音目の瞬間、ホール全体がふわっと暖められたような気がした。美しいヴィブラートと、良く響く音色、抜群のフレージング…涙が出ました。本当に。21世紀の作品を聴いた後だったので、ことさら耳にやさしく響くのだ。「間奏曲」が終わった瞬間、大きな拍手が巻き起こった。
トークを交えながらの和やかな進行。たとえば入手先であるとか(なんとヤフオク!)、音程の問題、マウスピースの問題、雲井氏の古楽器に対する思い、などなど。そんな中演奏されたコンベルの「マールボロ変奏曲」、ミュールの名演が名高いが、それに引けをとらない素晴らしい演奏。トリルをかけた音が、現代楽器とは根本的に違うのだそうだ。最後を走り気味にしたのは、ミュールのSPを意識してのことだったのかしらん(笑)。
ピエルネの「カンツォネッタ」も、素敵だった。「カンツォネッタ」がこの古い楽器、そして雲井氏の手にかかると、ちょっとしたアルペジオなんかが、実に魅力的に響くのである。デュクルックの「叙情的歌曲第5番」は初めて聴いたが、ロマンティックで、密やかで、時折現れる翳りのある和声や煌きの和声などが、心にふとしみこむ。忘れられているのがもったいないほどだ。いやあ、本当に素晴らしかった!!

♪貝沼拓実
J.イベール/J.M.ロンデックス編「室内小協奏曲」

ロンデックスがボルドー音楽院のアンサンブルのために編曲したSnSSAAATTBBBsという版で、とにかくこれらの版はまとめるのが難しいとも聴くが、指揮の池上政人氏を始めとする緻密な連係プレーは、見事!の一言。というか、ソロの貝沼氏だけでなくバックのメンバーも豪華すぎです(おお、バスサックスは佐藤さんではないですか!)。
貝沼氏のソロは、そんな歯車のようなバックの上を滑るように自在に乗りこなしていく風で、数年前に聴いた氏の演奏から受けた印象を、良い意味で覆された。すでに大活躍中の貝沼氏であるが、これからにもさらなる期待!

♪フェスティバルオーケストラ
A.ドヴォルザーク「スラブ舞曲より第1,3楽章」

オルガンのような凄いサウンド。しかも、明らかに毎年毎年レベルが上がっているのが分かる。池上氏の指揮下、豪華絢爛な響きがホールを満たすのだ。

♪フェスティバルオーケストラ+全員での大合奏~サックス大合奏2007
F.グルーバー/金井宏光編「きよしこの夜」
L.v.ベートーヴェン/金井宏光編「歓喜の歌」
J.P.スーザ/金井宏光編「威風堂々第一番」

いろいろあって、客席ほぼ中央で体感。あー、もうステキすぎる。この、巨大なパイプオルガンの内部にいるようなサウンドは、他では絶対に体感できないものだ。アレンジャーの金井氏にも、拍手。

そして、全プログラムが終了。終演後、11月以来となる大石将紀氏にお会いする(頂戴した名刺がクール!)。3月のB→Cや、11月のドゥラングル・リサイタルのことなどを少々。"Φ"責任者のみゆきさんと共に、舞台裏で有村さんに御礼。そして、上田卓氏にもご挨拶することができた!

気づけばあっという間だったなあ。大変充実した2日間だった…。今回のフェスティバル運営面・演奏面に尽力されたサクソフォニストの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。来年は、12/20と12/21の2日間開催。実行委員長も決定済みとのこと(笑)。

2 件のコメント:

Trio Selah さんのコメント...

kuriさま
コメントありがとうございました♪
なかなか思い通りにいかない、難しい状況での演奏でしたが、「名演」と言っていただけたことで、まずは成功だったのかなとほっとしました。
またいつかお会いして、ゆっくりお話し出来ればと思います。

kuri さんのコメント...

井上麻子さま

あわわ、ご本人が見ていらっしゃるとは思いもせず、びっくりしました。しかもコメントまで頂けて…ありがとうございます。
「Mixtion」は、空でソロパートを歌えるほど聴きこんでいる(?)大好きな曲なのです。また、再演を期待しています(^_^)
フェスティバルのときに、ぜひご挨拶できればと思ったのですが、お会いできず残念でした。ぜひ次の機会に。