フェスティバル2日目。案の定寝坊し、10:00からの演奏に間に合うのが絶望的となる(爆)。それでも眠い体に鞭打って、あたふたと準備&出発。冷たい雨が降る曇り空から、次第に太陽が顔を出す様子を眺めつつ、バスや電車を乗り継いで、12時過ぎに多摩センターに到着。昨日とは打って変わって、心地よい青空が広がっていた。
とりあえず、何となく楽器の試奏ブースを訪ねてみることにする。昨日見ることができなかったコントラバス・サックスが目的。目の前にして唖然。でーっかーいー!自分の身長よりも大きい楽器なんて、初めて見たぞ。出展はユニオン楽器さん。オルジー製のコントラバスサックスで、ニューヨークで購入されたものだそうな。吹いてみると、…おお、意外と音が出る。ものすごい爆音だけど。マウスピース、リガチュアは専用のもの、スタンドも専用のもの(2環支柱構造)、ちなみに価格はしめて500万円だそうだ(うへぇ)。お隣には、Cメロディサクソフォン。テナーサクソフォンのマウスピースを持っていってつけて吹いてみたが、まともな音が出なかった。残念。やはり内径の広いマウスピースがミソか?
こちらは、Low Aつきアルトサクソフォン。確かアメリカンセルマーの金メッキだったような。奥に見えるのは、逆にLow Aなしバリトンサクソフォン。ベルが短いですね。さらに、お隣には大変に状態が良いMark VIの金メッキソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンが陳列されており、壮観。中学生くらいの女の子が、何も分からずMark VIテナーを吹いていて、面白かった。サム・テイラーか誰かが使用し、レコードのジャケットにも乗っているピンク色のサックスと全く同型のもの(!)まで陳列されていた。内部は銀メッキだそうな。
カイルヴェルトのブースでは、ブラックニッケルモデルのテナーを吹かせてもらう。うん、良い楽器だ。私が現在メインで使用しているのはSelmer Reference 54なのだが、きちんとプレートになっているってだけでぜんぜん鳴りが違うよなあ。鳴りの限界がない感じ、いいなあ。キー配置は、やや慣れない感じだった。筒井さんにお会いする。
続いてセルマーのブースで、100万円以上はするスターリング・シルバーのテナーを吹かせてもらう。おお、これもなかなか良い楽器だ。ちょっと重いが、音色もステキだし、良く響くし…しかし最近のユーロ高もあり、手が出ない。Vandoren AL3とAL4の違いや、LB Lyonや、もう扱っていないBGのことや、佐藤尚美さんのことをなんやかんや話す。偶然セルマーブースにやってきたラランさんと、おはようの握手。
ヤマハとヤナギサワのブースを尻目に、お昼を食べるため外へ。今日に限って単独行動だったため、一人寂しくチャーハンを食す(涙)。パルテノン多摩へ戻る道すがら、アルトのTを見つけ、ついでにソプラノのNも見つけ、合流。ドルチェブース辺りをブラブラしながら、2/2のSAXOPETサロンコンサートのチケットを購入&フルモー氏のルネガイ版を購入。また、近くにいた服部吉之先生とお会いし、近況を話す。鎌倉、遊びにおいでよと言われたので、ほんとに遊びに行くかもしれません。16:00からの即興対談準備をしていらっしゃった、佐藤さんや田村さん、大石さんにもお会いする。
Subwayへと繰り出し、お茶。14:00からのA会員のコンサートに間に合わせるために戻ろうとすると、Quitet CIRQが屋外演奏中。途中まで聴いて、ダッシュで中へ。
♪ジェローム・ララン&原博巳
A.ベルノー「デュオ・ソナタより第2,3,4楽章」
実はこの曲、以前演奏しようとして、あまりの難しさに一瞬であきらめた曲だったのだ。そんなわけで難しさは分かっているのだが、おおお、ここまでスラスラと聴かせてしまいますか、ラランさん、原さん。さすが、世界でも屈指の実力を誇るお二方だけに、ものすごいアンサンブルが展開されていた。ラランさんのソプラノの音色は相変わらずの美しさだが、原さんのバリトンの音をしっかり聴けたことが収穫だった。…ものすごく良い音だ!これは、「スラップスティック」も楽しみですなあ。第3楽章は、意外と堅実な音楽運び、第4楽章の狂気ともいえるほどのしつこいテーマ回帰には、鳥肌が立った。
♪筒井裕朗&堺洋子
H.ゲンツマー「ソナタ」
筒井氏は、石川県金沢市で活躍されるサクソフォニスト。知られざる作品を掘り出し、再び光を当てるような活動は、大変歓迎すべきものである。曲そのものが持ついぶし銀のような渋さを、堅実に再現することに徹した佳演だった。筒井氏、楽器のダイナミクスはかなりのもので、ホールが良く鳴っていたのも印象的であった。後で伺った話であるが、ゲンツマーの「ソナタ」は、作曲家晩年の作であり、さまざまな楽器のために書かれた「ソナタ」シリーズのうちの一つだそうだ。ヒンデミットのような自動作曲法に則って作曲され、なかなか面白い音運びをする場所もあるとのこと。楽譜をぜひ見てみたいものだ。
♪ミーハ・ロギーナ&李早恵
A.I.ハチャトゥリアン「ヴァイオリン協奏曲より第1楽章」
スロヴェニア出身の若手サクソフォニスト。ミーハ・ロギーナ氏がL.A.Sax(だっけ?)に依頼して改造してもらったと言うLow Aつきソプラノサックスを携えて、舞台に登場。Low Aがつくことで、ヴァイオリンの最低音へと到達し、ヴァイオリンの作品を全て演奏できるようになるそうだ。
そして演奏開始。もうね、驚きました。どんな超絶パッセージにおいても、スラスラとまるで鼻歌でも歌うようにフレーズを繰り出していくのだ!アタックのニュアンスのコントロールは、羽毛をなでるような軽さからスラップまでと、想像する限り幅広く、それを数秒のオーダーでめまぐるしくコントロールしてしまうもんだから、並みのバイオリンよりもよっぽど表現の幅が大きく聴こえる。李早恵さんが弾くピアノも、時にダイナミックであり時に繊細である演奏を繰り広げていた。しなやか、有機的、という表現がピタリと当てはまるな。
…というわけで、想像以上に凄かったのです。まだ関西のほうでは演奏が残っているそうで、関西にお住まいの方はぜひ行かれると良いと思います。
♪野原デュオ
A.カプレ「レジェンド」
不思議なベクトルを持つ音色だった。野原武伸氏は、ドゥラングル教授がサクソフォンクラスを受け持ち始めた初期のパリ・コンセルヴァトーワルへの留学経験があるが、それから15年を経る中で獲得したサウンドだったのだろうか。この音色野原みどり氏のピアノのすばらしさは、言うまでもなし。オーケストラを従えたような、重厚な音色に圧倒された。
♪クローバー・サクソフォン・クヮルテット
L.ロベール「テトラフォーン」
まだ若いカルテットだが、アンサンブルとしての完成度は大変高い。クローバーは、昨年フェスティバルでのデザンクロ、今年5月のデビューリサイタル、そして今回のロベールと、計3回聴いているわけだが、新世代ならではの有機的なアンサンブルと、ビロードのような艶のある音色は、サックスという楽器を超越した音楽としてのすばらしさを感じる(似たような評は、随所で聞かれますね)。音色軽めの「テトラフォーン」を想像していたのだが、意外にも重厚なサウンドで迫ってくる部分もあって、良い意味で裏切られた。表現の幅が、増していると言うことか。
♪ヴィーヴ!サクソフォン・クヮルテット
A.ヒナステラ「アルゼンチン舞曲集」
清水大輔「Ives Mind 2」
ソプラノサックスを吹いているのは、茨城県ではおなじみ、関城吹奏楽団指揮者の豊田晃生氏。最初に演奏されたヒナステラの作品は、バリトンの浅利氏によるアレンジだそうだ。タイトルから連想される響きとは異なった、コンテンポラリーな響きのする面白い曲だったなあ。なぜかラクール「四重奏曲」の第2楽章と共通性を感じた。清水氏の作品は、まあアイヴスっぽかったと言えばぽかったかな。熱演だったが、作品としてもうちょっと洗練され、まとまった響きが聴きたかったとも思った。ここで、板橋区演奏家協会の演奏を聴きたい気持ちを抑えて、小ホールへ移動。波多江さんの演奏を聴くためだ。
♪波多江史朗&羽石道代~小品でshow!~
P.M.デュボワ「りす」「忍び足」「ウサギとカメ」
J.M.ダマーズ「音から音へ」「ヴァカンス」
トークを交えながらの、リラックスした雰囲気。デュボワの「ウサギとカメ」の表紙に惹かれた…あの楽譜、欲しい。波多江氏の演奏を聴くのは、録音&実演問わず初めてだったが、実にステキな音色、そして豊かな響きを持っているのですね!小ホールだと言うこともあるだろうが、ホールの隅々までキラキラした音色が満ち溢れていた。今度CD買ってみようかな。
♪平野公崇×坂田明
即興対談
平野氏と坂田氏の即興(ドローン上で)
坂田明「やくたたず」
平野氏と坂田氏の即興
ほぼ満員の聴衆の中、ステージに現れた平野氏と坂田氏。平野氏と言えども、坂田氏の独自の世界観に圧倒されているように進行。そのまま消えてしまうのが惜しいような言葉の数々…録音でもしておけば良かったか。
「平野くん、音楽はクオリティだよ(平野氏が初めて坂田氏に会って、5秒後に言われた言葉)」
「音楽は、1に人格、2に年輪、34がなくて、5に勝ち負け(専門家への道は、5から始まるらしい)」
「音楽を究める道とは、それぞれが北極星を目指すようなものだ。道筋は違うけれど、それが良い」
「即興演奏とは、日常会話のようなものだ…だって、原稿持ち歩いて過ごしている人なんていないでしょ。だから即興はだれでもできるものなんだよ。ただ、楽器の場合は"楽譜がある"という思い込みがあるから訓練は必要だけれど」
などなど。
藝大サックスチームを従えて演奏されたドローン上での即興演奏聴き比べ、そして坂田明氏の「やくたたず(もともとは新日フィルのために書いた曲だそうだ)」、最後に2人だけで演奏された即興対決は、どれもが圧巻であった。ジャンルを越えたスーパーサックス吹きたちの饗宴…いつまでも体感していたいような、まさに至福の1時間であった。
-つづく-
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