先週末開かれた田村哲のリサイタルに提供した曲目解説文を公開。
田村哲からの依頼は、ほぼ納期1週間以内という逼迫した状況で来るのだが(笑)最近は慣れてきた。そういえば、まさか吉田さんのリサイタルとケクランがかぶるとは思わなかったなあ。
プログラム冊子に掲載する曲目解説を私に依頼したい方がいらっしゃいましたら、kuri_saxo@yahoo.co.jpまでご連絡を。
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シャルル・ケクラン「"15の練習曲集作品188"より第1,2,3曲」
シャルル・ケクラン(1867 - 1950)は19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの作曲家です。その作風は幅広く、83歳で亡くなるまでに実に226もの作品を残しました。伝統的なクラシック音楽に軸足を置く一方、当時まだ新参者だったサクソフォン(1846年に発明)に対しても12に及ぶ作品を提供していることから、ケクランの懐の深さが伺えます。
「15の練習曲集」は、アルトサクソフォンとピアノのための練習曲。"練習曲"という名を冠していますが、全編に渡り音楽的に充実した作品です。各楽章には「発音のための」「リズムのための」など、何の練習に主眼を置いた楽章であるかが明示されています。本日は、シンプルで快活な曲想の中に高難易度のフレーズが織り込まれた第1曲、全曲中最も美しい旋律を持つ第2曲、ピアノパートに支えられながらサクソフォンが縦横無尽に駆け巡る第3曲を抜粋してお送りします。
アルフレッド・リード「子供の組曲」
吹奏楽に関わったことのある方ならば、アルフレッド・リード(1921 - 2005)の名前はおなじみでしょう。20世紀の吹奏楽界を代表する作曲家のひとりで、アメリカを中心に活躍しながら「アルメニアンダンス」「エル・カミーノ・レアル」を始めとする数々の傑作を世に送り出しました。日本との関わりは深く、プロ・アマチュア問わず国内の数々の演奏会に客演、また日本の音楽大学の客員教授に就任するなど、来日回数は80回以上にのぼります。
「子供の組曲」はアルトサクソフォンと吹奏楽のために書かれた2曲から成る組曲。楽章タイトルに登場する"きよこ"とは、この曲を初演したサクソフォン奏者、岩本伸一の娘の名前です。岩本伸一が家族とともにリードのもとを訪れた際、リードは"きよこ"がデンデン太鼓で無邪気に遊ぶ様子を見て、この曲を着想したと言われています。
ポール・クレストン「ソナタ作品19」
アメリカの作曲家、ポール・クレストン(1906 - 1985)は本名をジュゼッペ・グットヴェッジョ・クレストンといいます。イタリア系移民の貧しい家系であったことから音楽の専門的な教育を受けることができず、15歳にして独立し、オルガン奏者として生活費を稼ぎながら、独学で作曲を学びました。1940年に作曲した「交響曲第1番」の成功により名声を得、以降アメリカを中心に幅広く活躍しました。
「ソナタ(1939年)」は20世紀前半に活躍したアメリカのサクソフォン奏者、セシル・リースンのために作曲されました。3つの楽章からなり、アメリカ的なエンターテイメント性あふれる表現が随所に見られます。プロフェッショナルのサクソフォン奏者を目指す者ならば、避けては通れない作品です。
ジョルジュ・ビゼー/エルネスト・ギロー「"アルルの女"第2組曲より"間奏曲"」
19世紀半ば、サクソフォンはベルギーの楽器職人、アドルフ・サックスにより発明されました。クラシックの楽器として開発されながら、その登場が遅かったため、現在もなお伝統的なオーケストラの中にサクソフォンの定席はありません。ラヴェルやプロコフィエフといったごく少数の作曲家が、自作の一部にサクソフォンを採用するにとどまっています。
フランスの作曲家、ジョルジュ・ビゼー(1838 - 1875)は自身のスコアの中でサクソフォンに重要な役割を与えました。劇付随音楽「アルルの女」において、サクソフォンは美しいメロディを伴ったオペラ・アリアのような旋律を奏でるのです。流麗なサクソフォンのソロが聴かれる、第2幕から第3幕への"間奏曲"は、ビゼーの死後、エルネスト・ギローの手により第2組曲の第2曲"間奏曲"として再構成され、広く知れ渡りました。本日は、サクソフォンとピアノのために編み直した版を演奏いたします。
クロード・パスカル「ソナチネ」
10歳でパリ音楽院に入学し、幼少時から天才の名をほしいままにしたクロード・パスカル(1921 - )。1954年にはフランス作曲界の権威ある賞"ローマ大賞"を獲得し、以降フランス楽壇において重要な位置を占めました。作曲活動と並び、ル・フィガロ誌における批評活動は有名です。
1947年に作曲された「ソナチネ」は、パリ音楽院サクソフォン科の卒業試験のために書かれた単一楽章の作品です。当時のパリ音楽院サクソフォン科の教授、マルセル・ミュールに捧げられました。ミュールはこの曲を相当気に入っていたと見え、あるインタビューで「サクソフォンとピアノのためのレパートリーとして最も印象深い作品を挙げてください」との質問に対して、この「ソナチネ」を3曲の中の一曲として挙げています。
アンドレ・シャイユー「アンダンテとアレグロ」
アンドレ・シャイユー(1904 - ?)は、フランスの作曲家。生涯を通してごくわずかな作品を手がけるにとどまり、現在ではトランペットのための「Morceau de concours」が時折演奏される程度です。
「アンダンテとアレグロ」は、サクソフォンを学ぶ者がレパートリーとして取り上げることが多い小品。2つの楽章はアタッカで演奏され、演奏時間は4分程度です。"アンダンテ"は、ゆったりとしたピアノの和音連打にサクソフォンの美しいメロディが重なります。打って変わって"アレグロ"では、ピアノに導かれて現れるリズミカルな主題が印象強く、さらに最終部では上昇下降を激しく繰り返すサクソフォンの技巧的なパッセージが圧巻です。
ジャック・イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」
150年以上に及ぶサクソフォンの歴史の中で、最も優れた作品の一つとされるジャック・イベール(1890-1962)の「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」です。楽器の機動性を活かした軽妙な作品で、めまぐるしく変わる曲想がサクソフォンを聴く楽しさを教えてくれます。
イベールは20世紀前半を代表するフランスの作曲家で「寄港地(1922年)」や「祝典序曲(1940年)」といった魅力的なクラシック作品を次々と世に送り出す一方、劇伴音楽や映画音楽も手がけていました。サクソフォンのコミカルな側面をよく知っていたからこそ、このような楽しい協奏曲が完成したと言えるでしょう。1935年に完成し、当代随一の名手、シガード・ラッシャーに献呈されています。
タイトルの「カメラ」とは「(室内楽に適した)コンパクトな空間」を表す語で、原曲は小規模のオーケストラとともに演奏されます。本日演奏は、オーケストラ版と並行して出版されているピアノ伴奏版を演奏いたします。サクソフォン、ピアノともども、非常に高度な技巧とアンサンブル能力が要求されます。
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