2007/09/15

saxophone + live electronics, tape, synthesizer

サクソフォンとライヴ・エレクトロニクス or テープ or シンセサイザーのために書かれた作品のうち、特に面白いと思われるものをご紹介する。…とは言っても文だけでは曲想が伝わらないと思うので、ぜひCDを手に入れて聴いてみることをオススメ。どれも聴いて楽しい作品だ。

BECKER, Jacques ジャック・ベッカー
Western Ghats ウェスタン・ジャッツ」 for s.sax and tape
全体を覆うイメージは、"インドの密林に佇む神殿"といったところか。ジャングルの中にいるような動物の鳴き声、風、葉の擦れあう音…から始まり、西部インド音楽を想起させる旋律線、そしてソプラノサックスが導く祈りの合唱。じっと耳を傾けていると、神秘的な雰囲気に飲み込まれてしまいそうだ。
Fabien Chouraki「Paysaginaire(Virages du saxophone VDS 005)」

BOULEZ, Pierre ピエール・ブーレーズ
Dialogue de l'ombre double 二重の影の対話」 for a.sax and tape
クラリネット作品からの改作。クラリネットの録音しか聴いたことがないため何ともコメントしがたいのだが、幸いなことに2006年のコングレスで本作品が演奏されたときの映像を観ることができる(http://jp.youtube.com/watch?v=V-hwx9SiBXA)。テープ録音と演奏者が、交互に対話していく様子が分かるだろう。日本での演奏はまだなされていない。
「レコーディングなし」

BUNCE, Mark マーク・ブンス
Waterwings ウォーター・ウィングス」 for a.sax and tape
主に現代音楽方面への活躍が目覚しいアメリカのサクソフォン奏者、ジョン・サンペン氏のレコーディングから。無限に広がる深い海の底を旅するような、神秘的な情景が目の前に広がり、まるで環境音楽のような夢見心地を感じる。コードに乗りながら、徐々に盛り上がっていくさまは感動的だ。もともとはヤマハのウィンドシンセサイザー、WX7のために作曲されたそうだ。
John Sampen「The Electric Saxophone(Capstone CPS-8636)」

ENGEBRETSON, Mark マーク・エンゲブレツォン
She Sings, She Screams 彼女は歌い、彼女は叫ぶ」 for a.sax and synthesizer (tape)
タイトルどおりの二部構成。呪術的な歌の部分と、サクソフォンに何かが憑依したかのような叫びの部分。全体にわたって微分音が多用されており、西洋音楽にはない不安定な音世界が表現されている。アメリカでは再演・再録も多いそうだ。
初演時はヤマハのシンセサイザーとの演奏だったようであるが、出版楽譜は楽譜とテープのセット。
Richard Dirlam「She Sings, She Screams(Innova 543)」

Feiler Dror ドロー・フェイラー
Tio Stupor 10の絶壁」 for a.sax and tape
北欧のサックス作品を集めたPhono Sueciaのアルバムに収録されていた作品。パーカッションを模したテープとの共演で、サクソフォンパートは超難易度パッセージの連続。最低音を繰り返し吹きながら、目が回るような跳躍を繰り返す。
Jorgen Pettersson「Saxophone Con Forza(Phono Suecia PSCD81)」

GOTTSCHALK, Arthur アーサー・ゴットシャルク
Shall We Gather シャル・ウィ・ギャザー」 for a.sax and tape
ジャズサクソフォン奏者アーネット・コブの逝去に際して、彼の最後のレコーディングのアウト・テイクを音素材にテープトラックにリミックスした作品。サクソフォンは、ややテープと似会話するように音を並べていく。ベースとなるアイデアはミュージック・コンクレートだが、飛び出す音はほとんどケルン式のように聴こえる。
Omnibus「America's Millennium Tribute to Adolphe Sax, Volume IX(Arizona University Recording AUR CD 3122)」

GREGORY, Will ウィル・グレゴリー
Interference 干渉」 for s.sax and tape
グレゴリーは、イギリスの作曲家・サクソフォニスト。最近ではアポロサクソフォン四重奏団の録音にも参加している。
全体は二部構成。前半ではぼやけたサウンドにソプラノサックスの重音が細く重ねられ、AMラジオのような断片的なノイズがまるでホラー映像の効果音のようにも聴こえる。後半はエフェクト処理されたサックスの伴奏にのって、ソロがポップにリズムを刻んでゆく。最終部はソリストの技量に任された短い即興部分を伴い、重音の伸ばしで突如として曲は締められる。
Simon Haram「on fire(black box BBK1001)」

JODLOWSKI, Pierre ピエール・ジョドロフスキ
Mixtion 混合」 for t.sax and live electronics
パリ国立音楽院とセルマー社の共同委嘱により、同校サクソフォン科の2003年卒業試験曲として作曲された。伝統的なミュージック・コンクレートを発展させ、リアルタイム・エフェクトやマルチ・トラックなどのエクリチュールが幾重にも織り込まれており、豪華な響きのする作品だ。日常生活の中で耳にする音が、発散収束を繰り返しながらロック風のクライマックスへ上り詰める様子は、圧巻。
2006年、ジェローム・ララン氏により日本初演。私も臨席していたが、すばらしい熱演が繰り広げらて、大変に感銘を受けた。
Jerome Laran「Paysages lointains (CREC-audio 05/046)」

KURTAG, György ジョルジー・クルタグ
La visite du tonton de Bucarest ブカレストの叔父を訪ねて」 for sn.sax and synthesizer
ダニエル・ケンジー氏との共同作業によって生まれた作品。ソプラニーノ・サクソフォンのパートは完全即興であり、何テイクかの録音の後、ミキシング・エフェクティング等の作業を経て、最終的なレコーディングを完成させる、というプロセスをとったようだ。再演は、ケンジー氏がいないと難しいのでしょうな(笑)。
Daniel Kientzy「L'art du saxophone(Nova Musica NMCD 5101)」

OMURA, Kumiko 大村久美子
Le complication d'image イマージュの錯綜」 for t.sax and live electronics
齋藤貴志氏に献呈された作品。コンピュータから発せられる様々なイメージ(音素材)が現れては消えながら、徐々に曲の構造を創り上げていく。微分音の多用は、曲にややフラジャイルな印象を与えるが、日本的旋律のが出現した瞬間に安定するイメージを受ける。演奏は、サクソフォンとMAX/MSPシステムによって実現される。
Takashi Saito「The Angel of Despair(ALM Records ALCD-9046)」

RILEY, Terry テリー・ライリー
Assassin Reverie 暗殺者の幻想」 for saxq and tape
四重奏とテープのための作品。サックスのみによるサウンドが冒頭と最終部に出現し、テープとフリージャズ風ソロが絡む中間部を挟む形となる。中間部に配置されたテープサウンドは、印象が強すぎる…この世の悲劇をすべて音に変換して、ミキシングしたらこんな感じなのかな。
Arte Quartett「Assassin Reverie(New World Records 80558-2)」

SIEGEL, Wayne ウェイン・シーゲル
Jackdaw ジャックダウ」 for b.sax and tape
バリトンサックスのためのポップな作品。分かりやすいビート感とメロディで、日本でも演奏されればなかなか人気が出そうにも思えるのだが。
Stephen Cottrell「The Electric Saxophone(Clarinet Classics CC0033)」

STOCKHAUSEN, Karlheinz カールハインツ・シュトックハウゼン
Entfuhrung (Abduction) 誘拐」 for s.sax and tape
シュトックハウゼンの大作オペラ「Licht」月曜日の挿入曲「誘拐」は、もともとピッコロフルートとと器楽・声楽アンサンブルのための作品。シュトックハウゼンは、ジュリアン・プティとの共同作業によって、バックをテープ音楽として再構築し、ソロパートをサクソフォンへと編曲した。後にも先にも存在しないと言われるシュトックハウゼン独自の音世界が、存分に発揮された名作。
原曲と聴き比べてみると、テープでの表現に独自性を感じられて面白い。
Julien Petit「Saxophon (Stockhausen 78)」

TANAKA, Karen 田中カレン
Night Bird ナイト・バード」 for a.sax and tape
満天の星空の中、宇宙空間を飛ぶ鳥の視点を乗っ取ったような神秘的な響きがする作品。まるでホルンが奏でるかのようなゆっくりとした導入部から始まり、中間部ではふとした陰りをも見せながら。
Claude Delangle「Japanese Saxophone (BIS CD-890)」

TERAI, Naoyuki 寺井尚行
Positive Sign ポジティブ・サイン」 for s.sax and live electronics
愛知県立芸術大学にてコンピュータ音楽を研究する寺井氏だけあり、音素材の選び方に慣れたものを感じる。日本電子音楽教会の定期演奏会にて初演。
バラードのような無伴奏ソプラノサックスから曲は導かれるが、すぐに鎖が断ち切られたようにフリージャズ風即興部へと突入。コンピュータは、奏者の出した音にリアルタイムにエフェクトをかけてゆく。最後は、冒頭部のエコーを残して幕。4分少々と短い作品ではあるが、中心部における高密度さは必聴。
「The Dream Net(Cafua CACG-0022)」

UNEN, Kees van キース・ファン・ウネン
JOUNK ジョウンク」 for a.sax and tape
今最も気になっている作品。ハンツ=ドゥ・ヨング氏によって日本で初演された作品で、ロックのようなカッコイイ曲だとか。聴いてみたい!!
「レコーディングなし」

VELDHUIS, Jacob ter ヤコブ=テル・フェルドハウス
Billie」 for a.sax and tape
Grab It!」 for t.sax and tape
The Garden of Love」 for s.sax and tape
人の声を何トラックにも重ねてミキシングし、変拍子の嵐の中に組み込んでしまうというフェルドハウス独特の作曲法が存分に発揮された作品。他のどの作品にもないポップな愉悦感・躍動感こそ、彼のオリジナリティと言えるだろう。
「Billie」は、ビリー・ホリディのインタビュー音源を元にミキシング。しなやかで官能的な雰囲気が面白い。「Grab It!」は、アメリカの終身刑受刑者の叫びを下敷きに、ロックのようなビートを前面に打ち出した快作。「The Garden of Love」は、ウィリアム・ブレイクの詩の朗読を基にし、(フェルドハウスなりの愛の庭を音世界で表現したのだろうか)曲全体が総天然色に染め上げられているような錯覚を覚える。
Ties Mellema「Grab It!(Amstel Records AR 005)」他

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