・音楽大学・専門学校によるラージ
極めて漠然とした個人的な考えであるか、既存の、想像の内にある「サクソフォンのラージアンサンブル」「サクソフォンオーケストラ」の枠組みを逸脱しようとするor逸脱した演奏やレパートリーが、重要なのかなと考える。展示準備等で聴けない演奏もあったのだが、東京藝術大学、東京音楽大学、昭和音楽大学は、そういう試みを感じられ、大変聴き応えがあった。長生淳「地球」は良いですよね、掛け値なしに心動かされる。本堂さんの指揮もとても良かった(響きや目指すところのイメージが、どんなジャンルにおいても明確なのだろう)。
・松浦真沙 新作エチュード
40曲に及ぶ新作エチュードのプレゼンテーション。東京藝術大学や、パリ国立高等音楽院の入試に含まれる、「初見試験」のために制作を開始し、試行錯誤しながら完成させたという。広い形式で書かれ、初見を主目的としつつも、初見用として使い終わったあとはさらにデュエットにも使える内容。「初見」の重要性についての有村さんの考え、エチュードの使い方や心構えについての松浦さんのプレゼン、また、実際にその場で新エチュードを40秒読んで、生徒役の奏者にデモンストレーションしてもらう(見事に吹き切っていた)など、とても面白いレクチャーだった。
・村田淳一&由井平太
コンポーザー・プレイヤーで、かっこいい作品を発表しまくっている村田さんの自作を含むデュオコンサート。お二人とも長野県出身であり、私も同郷。屋外の寒い中、Socolaを訪れた一般向けのアコースティックライヴだったが、反応も良くて(さすが村田さんだ)なかなか盛り上がっていた。最後は思いっきりジャズセッティングで「枯葉」、ふたりともアドリブ効かせまくりで、引き出しの多さには恐れ入る。
・五十嵐健太と東京SOのグラズノフ
とにかくフレーズの持続性が、サクソフォンと思えないような驚異の演奏。バックのオーケストラも抑制された響きで、万全のアンサンブルであった。ウクライナで学び、KievSQにも参加、現在東京音楽大学の学生とのこと。もはや学ぶことなど何も無いのではと思ってしまうほどだが、ここからどのように進化していくのかが楽しみだ。
・プレミアムコンサート
Circle A Saxは、新井さん門下の集まり。単なる同門としての、音色・発音の均一性だとか、音楽性の一致とか、そういう繋がりではなく、もっと深淵な場所…精神的な拠り所を一様にする、という、極めて内面的な統一性を感じる。「フロッシュゲザング」は、ものすごく感動的で美しい。アプローチとしては斬新だがなにか元ネタがあるのかな。ViveSQもとても良かった。活動の目的が明確であり、それを余裕でやってのけるアンサンブル力が伴っており、とても長く活動を続けている…室内楽団としての理想だ。シュバルツの「ラウンドアバウト」は、カール・ジェンキンスの「ボロッコNo.1」に似ていて面白かった。次の定期演奏会ではゴールドシュタインの「ブロウ!」をやるそうだ!
・電子オルガンとサクソフォン
演奏者は竹田歌穂さん、角口圭都さん、大城正司さんと、もう素晴らしくて当たり前なので、作品や電子オルガンのあたりのコメントを。べダールのオルガンとサクソフォンの作品は、とても聴き応えがある内容で、最初のバロック的な音運びから、最後はまるで「ファンテジー」のエコーが聴こえるようなところまで…面白かった。編成の難しさを除けば人気が出そうだ。
トマジの電子オルガンは凄かった。オーケストラを意識したアレンジだったのだが、数百種の中から音色を選び、曲の中で場面ごとにプリセットを切り替える(エクスプレッションペダルの右にあるスイッチで次のプリセットへ進める)というやり方とのこと。そのプリセット数がいったい何百あるのかわからないほどで、準備も恐ろしく大変だと思うのだが、ある箇所では一小節に2回変えたりと、とにかくオルガンのアレンジ兼演奏兼オペレーションに見入って(聴き入って)しまった。
旭井さんの作品は、作曲家の個性とエンターテインメント性が融合した名作であり、未完とのことだが完成が楽しみだ。ハモンドオルガン的な音色との重ね合わせによって、ブラックミュージックに影響を受けたという第1楽章の狙いがより如実に現われていた。
・室内オーケストラとサクソフォン
田中氏、斎藤氏の演奏は、展示片付けで聴けず‥残念。なんとか本堂氏の演奏を聴くことができたのは幸いだった。一度聴いただけでは捉えきれない、難解な作品ではあったが、目指す音楽が極めてクリアであり(指揮の板倉康明氏の手腕によるところも大きいだろう)、それを実現する技術と音楽性が圧倒的であり、徹頭徹尾実に見通しがよく、澄み渡るような聴後感を得られた。ソロを吹く本堂氏は、あまりの存在感に、2倍くらいの大きさに見えたのだった。
全体を通してとても良い雰囲気と盛り上がりで、通して参加し、また展示も担当できてとても楽しかった。関係者の皆様、お疲れ様でした&ありがとうございました。