作品内容の素晴らしさと、指揮者xオーケストラの極めてハイ・テンションな仕事ぶり、マルセル・ミュール氏の演奏の円熟度(ただし、後述するが、技術的には1930年代の録音とくらべて全く衰えていない)が、素晴らしい出会いを果たした奇跡的な録音…とは言いすぎだろうか。
ジョルジュ・ツィピーヌ指揮フランス放送国立管弦楽団/合唱団による1955年のモノラル録音。ジャック・イベール作曲の、ドン・キホーテの物語に付加された、スペイン情緒溢れる作品。物語風のバレエ音楽で、合唱も含まれている。中間楽章は「黄金時代」として単独でも演奏される。1933年にイベールが音楽を担当した映画「ドン・キホーテ(J.W.Pabst監督作品)」に登場した音楽との情報もあるが、別物のようにも思える。スパニッシュ・ギターの響き、特徴的なラテン・リズムなど、古い作品であることを感じさせない、とにかく"かっこいい"作品だ。
サクソフォンのフィーチャーっぷりは相当なもので、セクションワークあり、無伴奏カデンツァあり、どういった経緯からサクソフォンがここまで使われるに至ったかは不明。しかし、「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」でサクソフォンの用法を知り尽くしたイベールが、その知識を余すところなく発揮し、ミュール氏も最大限にそのスコアに応えている。
1901年生まれのミュール氏、キャリア「後期」、55~54才頃の録音とはいえ、テクニック的な衰えは微塵も感じられず、それどころか1930年代の録音と比べても、ますます冴えわたるばかり。実際、1958年にはシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団とともにアメリカツアーを敢行、イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」とトマジ「バラード」を披露し絶賛を浴びているのだから、その演奏レベルは当然といえば当然だろう。ツィピーヌ指揮の国立放送管も然り。驚くほどオン・マイクな思想で録音されているが、キレの良いリズムが命の作品であるから、とても良くマッチしている。
いろいろ書いたが、とにかく、”かっこいい"作品x演奏の上で、サクソフォンがヒロイックに、自在に駆け巡る、夢のような時間を過ごすことができること請け合い。ぜひ聴いてみていただきたい。
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