目下、世界最高難易度のサクソフォン作品の一つではないかとも言われる、ピエール・ブーレーズ Pierre Boulez「二重の影の対話 Dialogue de l'ombre double」。もともとグラモフォンから出版されていたブーレーズのエレクトロニクス作品集のCDに、原版であるクラリネット・ヴァージョンが収録されており、さらに一年ほど前にヴァンサン・ダヴィッド氏の演奏によってサクソフォン版のCD化がなされた。この驚異的な本作品を、CDで気軽に楽しめるようになったのは幸いであるし、ダヴィッド氏の演奏も素晴らしいのだが、本作品をきちんと楽しもうと思うと、やっぱり不足だなあと思う。
佐藤淳一氏の演奏、そして大石将紀氏の演奏により、これまで実演で2回ほど聴いたことがあるのだが、ライヴで聴く「二重の影の対話」は、すごい。6chものスピーカーを使用して、のっけから頭上を音が様々な方向に飛び交い、三半規管がグルグルしてくるような感覚すらおぼえる。電子音楽の世界ではSpatializationという名前が付いている効果で、音楽に空間芸術のエッセンスを加えた表現方法。CDで聴くことのできる、せいぜい2.1chとは大違いで、とてもエキサイティングなのだ。
CDで聴くと、どちらかというとその無数の音符のバラマキっぷりに耳が引き付けられ、「これは難しい作品だなあ」という印象が一番最初に浮かぶのだが、ライヴで聴くと印象は全く違う。一つ一つ発せられる音に、耳が追いついていかず、ちょっとしたトリップ状態に陥るのだ。音についていこうとして、突き放されるという感じ。
基本的に、音楽ってライヴで聴くほうが素晴らしいい印象を受けるものだが、空間音楽に関しては、殊、印象が別格かもしれない。あまり現代音楽という感じがせず、これはまさに体感する音楽!耳だけしか使っていないはずなのだけれど、なんというか五感を使う音楽のようにも思える。
「二重の影の対話」の演奏が毎月どこかであるわけではないけれど、もし機会があれば、ぜひ一度、ライヴで聴いてみることをおすすめしたい。
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