金曜日&土曜日と、二日間にわたって開催された大石将紀氏のリサイタル。二日目となった土曜日のほうを、友人とともに聴きに行ってきた。
会場はアサヒ・アアートスクエア。アサヒビール本社?のお隣にある、金色の有機的な形…?のオブジェを頭に乗っけた、真っ黒な四角い建物。東京駅から高速道路で常磐道に行く方や、浅草に行ったことにある方にとっては、おなじみではないだろうか。私も今まで何度となく目にしていたのだが、実際に中に入るのは初めてだった。小さな入り口が東と西に一つずつついていて、そこから4階までエレベーターであがるような形。
会場は、ぱっと見150人くらいのキャパシティで、横に広く広がっている。門前仲町天井ホールのような小さい空間を想像していただけに、意外なほどに大きな空間に驚いた。客層は、もちろんサックス関係者のような方もいるが、それよりも初老の方々なんかが多くて、けっこう不思議な感じ。どのようにチケットを売っているのだろう?
で、演奏の詳細を書く前に感想を単刀直入に申し上げると、「素晴らしい体験だった!!」の一言につきる。なんというか、最近はサックス関係の催しを聴きに行っても理屈抜きの感動というのを味わうことが少なくなってしまっているような気がする―というのも、やはり耳が慣れてくるのであって、それはどんな体験においても仕方がないことなのである―が、そういった憂鬱を一気に吹き飛ばしてしまうような、そういった演奏会だった。「演奏会」…いや、この場合は、「ライヴ」とか、はたまた「現代の総合芸術」とか言ってもおかしくないかもしれない。
出演者は、以下。そのほか、プログラムデザインが田中秀彦氏、チラシデザインがKoS氏だったそうだ。
大石将棋(サクソフォン)
菊池マリ(パフォーマンス)
有馬純寿(サウンドデザイン)
マルゴ・オリボー(照明)
森田歩(映像)
ステファン・ケベ(演出)
(もしかしたらただの音響&エフェクトチェックだったのかもしれないが、)パフォーマンスは、すでに開場した時から始まっていたようだ。菊池氏はなぜかスタッフとしてお客さんをごく普通に案内しており、その案内の声がマイクとエフェクタを通して、会場に響き渡っていた。一曲目は、ブリテンの「6つのメタモルフォーゼ」から「パン」。菊池氏の自在なパフォーマンスに、大石氏がソプラノサックスの即興で絡み、PANの冒頭のメロディを導いた。静寂に響き渡る、ソプラノサクソフォンの丸い音は、なかなか他では聴けない音楽。
「ガーデン・オブ・ラブ」へは、そのまま自然な流れで移行。ステージバックに大写しにされた映像は、ひとつひとつの素材は一見普通に見えるのだが、編集やミックス、エフェクトによってこれはなかなかものすごい映像に変化していて、演奏の素晴らしさも相まって、鳥肌立ちっぱなしだった。
酒井健治「リフレクティング・スペースII」は、昨年のBtoCからの改訂バージョン。「バッハからケージへ」とされたサブタイトルが「幻想曲と子守唄」になっており、これは静かな感じになるのかなあと思いきや、まったくそんなことはなくて、異常なまでのテクニックを要求する高度なフレーズと華やかなエレクトロニクスの音が、会場を埋め尽くしていた。
再びブリテンの「6つのメタモルフォーゼ」から、今度は「ナルシス」。不気味なパフォーマンス、しかし最後にはほんのりと暖かくなるような演出が添えられる。こういうストーリーを、どのように着想するのだろうか。非常に興味あるところだがしかし、ごく自然に音楽と溶け合っているあたりがまたすごい。
スティーヴ・ライヒの「ニューヨーク・カウンターポイント」。11パートをあらかじめ大石氏がレコーディングし、その音に合わせてソプラノサックスが使われるという風だった。この曲は、やっぱり凄い!パート3でリズムがスウィングするのだが、なんとなく雰囲気を感じ取るに、客席のほうもけっこうノッて聴いていた感じ。いくつかCDも持っているのだが、それらとは音の処理の仕方の違いを興味深く聴いた。
ここでプログラムはひっくり返されて、ブーレーズの「二重の影の対話」。アルトサクソフォンとソプラノサクソフォン持ち替え、サクソフォンの世界でもっとも難しい曲のひとつとされるが、四方八方に音をばらまきながら、ものすごい勢いで疾走する大石氏の演奏に、非常に引き込まれた。なんとなくの印象だが、今まで聴いた演奏の中でクラリネット版、サクソフォン版問わず最速だったかもしれない。
最後は、新進気鋭の作曲家、アレクサンドロス・マルケアスの委嘱作品初演。なんと、ビデオのなかの奏者と舞台上の奏者が共演するというもので、しかもその共演の"仕方"が、ちょっと凡人には思いつかない発想というか。ビデオはアグレッシヴにコラージュされ、ソロパートも存分に歌い、時に暴れまわり、そして最後は波が引くように舞台袖消えていった。
ブラボー!演奏会全体を、有機的な流れの中に押し込めて、ひとつのパフォーマンスとして聴かせてしまうその演奏、演出、映像、パフォーマンス、音響、照明etc.これはまぎれもなく総合芸術であり、現代におけるある種のオペラと呼んでも良いかもしれない。CDやビデオで体感できるものではなく、その場に行った者だけが存分に味わえる、情熱的で、不思議で、知的なパフォーマンスを存分に楽しんだ。行って良かったなあ(^^)
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追記:金曜日に観に行った人から、ちらっと話を聞いた。金曜日は、プログラムの最後の二つは、マルケアス→ブーレーズという順番だったが、土曜日は逆になっていたようだ。プログラム冊子には、マルケアス→ブーレーズという順番で記載してあったので、演出を変えたのだろうなー。
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