コンサートの広告をお願いしに行った、つくば市のクレフ楽器で捕獲したCD。買おうとは思っていたものの、すっかり存在を忘れていたものであったが、まだ残っていて助かった(廃盤になっているのだ)。タイトルは「エンニオ・モリコーネ クラシカル作品集(Triton DICC-28012)」で、名前の通り"あの"イタリアの作曲家、モリコーネの作品を集めたディスクである。
モリコーネと聞いて我々が連想するのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」「ガブリエルズ・オーボエ」「海の上のピアニスト」を始めとする、映画音楽へのスコア提供である。美しいメロディ線は、世界中の愛好家から評価が高く、映画は観たことがなくとも音楽は知っている、という方も多いのではないだろうか。…しかしこのCDは、そんなモリコーネの純音楽分野(と言ったら誤解が生じるかもしれないが)の作品にスポットを当てたものなのである。ライナーノートの巻末に、モリコーネの演奏会用作品リストが掲載されていた。しかも日本語。おおー、これまた貴重な資料でございます。
参加アーティストは、豪華そのもの。敬称略で名前を挙げていくと、木ノ脇道元(flt.)、清水靖晃、平野公崇、大城正司、江川良子、大石将紀、鈴木広志(以上sax.)、白石光隆(pf.)、高田元太郎(gtr.)、啼鵬(bandneon)…凄っ。というか、演奏、上手すぎです。プログラムは、以下。
ニュー・シネマ・パラダイス(flt. + pf.)
3つの小品"ブリッツ"(4sax.)
断片化されたラグ(pf.)
"アルジェの戦い"に基づく即興(tsax.)
ギターのための4つの小品(gtr.)
"夕陽のガンマン"に基づく即興(flt. + bsax.)
シシリアーノ"さすらいの口笛"(flt. + gtr.)
ピアノのための4つの練習曲(pf.)
コントラバスのための練習曲~清水靖晃の独自解釈による(tsax. + bsax.)
ニュー・シネマ・パダライス(bandneon + 4sax)
どこから手を付けていいのか、分からなくなりそうなほどの"ごった煮"っぷりだが、一回聴きとおしてみれば意外に素直に聴けることに驚く。ああ、同じ作曲家の手による作品集なのネ、みたいな。というか、そもそも最初から最後までを聴きとおすことを前提としてプログラミングされているようにも感じる。組曲が続いたかと思えば、突然フリーの即興が挟まれたり…。
フルートの優しい音色による、おなじみの「ニュー・シネマ・パラダイス」が冒頭に配置され、続いて「サクソフォン四重奏のための"ブリッツ"」なる組曲。チェスの場面展開に応じた印象を曲に置き換えたそうで、初演はアカデミア・クヮルテット、本盤は世界初録音。というかそもそも、モリコーネがサクソフォンのためにオリジナルの作品を提供していたこと自体が驚きだ。「Comprehensive Guide to the Saxophone Repertoire 1844-2003」を調べてみたら、確かに載っていたが(写真)。いや、それよりもその直下にあるDexter Morrillの「Getz Variations」が気になるんですが(笑)。
話を元に戻そう。ピアノのための「断片化されたラグ」は、うーん、これは聴いたことがあるなあと思ったら映画「地獄の貴婦人」の中の「虐殺者のテーマ」ではないか!好きな曲だけに、ちょっと嬉しい。平野さんがたった一人で立ち向かうインプロヴィゼイションは、モリコーネが参加していた即興グループ"GINC"の録音を参考にもしているそうな(モリコーネは、作曲家と同時に、卓越したフリーの即興演奏家でもある)。その後のギターのための組曲→即興→シシリアーノという流れは、実に強烈な印象を残す。即興での、風が吹き抜けていくような音の密度から、シシリアーノに戻った瞬間と言ったら!
「コントラバスのための練習曲」は、テナーサックスを清水靖晃氏が、バリトンサックスを大石将紀氏が担当。これまた強烈な(ほぼ)フリーの即興で、平野氏のインプロヴィゼイションと共に、CDの中でもかなり重点が置かれていると感じた。元の曲がどんな感じであるか、というのは、興味あるな。「ニュー・シネマ・パラダイス」のリプライズ・ヴァージョンは、短いけれど、音楽を奏でる喜びがそこかしこに満ちあふれている。
ということで、モリコーネの意外な一面を覗いてみたい方は、ぜひ入手すると良いと思う。演奏のほうも、平野氏の即興や、清水氏×大石氏の即興なんてのも、なかなか聴きものではないか?残念ながら廃盤となって久しいが、中古で探してみていただきたい。
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