2007/11/24

クロード・ドゥラングル(ドラングル)教授ライヴ"Quest"@静岡音楽館AOI

ある意味では今年最も楽しみにしていたコンサート。言わずと知れたパリ国立高等音楽院サクソフォン科教授クロード・ドゥラングル(ドラングル) Claude Delangle氏の、今回の来日では唯一のコンサート。会場は静岡音楽館AOI。鈍行を乗り継ぎさらに帰りは夜行で、という強行日程にて、がんばって行ってきた。せっかくなのでコンサートの様子を詳細に書き連ねてみよう。

静岡へは16:00ごろに到着。ホテル・アソシアで京青さん、そして初対面となる浜松サクソフォンクラブのあかいけさんと待ち合わせをし、引き連れていったト○さんも一緒に4人で駅近くの喫茶店で1時間ちょっとおしゃべり。面白い話がいっぱい…楽しかったな~(ありがとうございました)。17:30ころにAOIへと移動。会場ロビーには、新幹線でいらっしゃったThunderさんが。ジョイントコンサート以来となる、原博巳さんにも、ご挨拶。

・ドゥラングル サクソフォンライヴ"Quest"
出演:クロード・ドゥラングル、平野公崇、波多江史朗、井上麻子、有村純親(以上sax)
2007/11/23(金・祝)17:30開場18:00開演
静岡音楽館AOI
プログラム:
- G.シェルシ「3つの小品」
- P.ジョドロフスキ「Mixition」
- L.ナオン「センドロス」
- G.スピロプロス「SAKSTI(日本初演)」
- C.ドゥラングル「アラウンド(日本初演)」(L.ベリオ「セクエンツァVIIb」)
- A.マルケアス「Perilepsis(世界初演)」
- 鈴木純明「凧」
- M.ストロッパ「...of Silence(AOI委嘱作品・世界初演)」
- J.t.フェルドハウス「Grab It!」
- M.タディニ「ブレリア(日本初演)」

プログラム最初は、グリゼーのバスサックス作品「アヌビスとヌト」が予定されていたが、ソプラノサックスの無伴奏作品G.シェルシ「3つの小品」へと変更。暗いステージ上へと現れたドゥラングル教授、スポットライトに照らされながら、楽章間ではぼんやりと光量が調節されるという演出。さらに、上手にセットされたディスプレイ上の楽譜を参照するという、なんとも奇妙な演奏姿。ちなみに演奏は「完璧」。楽譜が手元にあることもあって良く知っている曲なのだが、ソプラノの低音から高音までの完璧なコントロール、そして純度99.9999%とも表せることができるような、澄んだ音色。のっけから、今回のコンサートの雰囲気に呑み込まれてしまった。

シェルシが終了すると、そのままアタッカでジョドロフスキ「Mixtion」へと移行。今度は下手にセットされた台の上で、やはりディスプレイを参照しながら曲を進めていく。良く見てみると、足元にはペダルが2つ。右ペダルがライヴ・エレクトロニクスパートの制御用、左が譜めくり用であったと思われる。「Mixtion」は、これらライヴ・エレクトロニクスとサクソフォンという編成の作品の中でも個人的に大好きなもののひとつ。ジェローム・ララン氏のCD「Paysages lointains」にも収録されており、空で歌えるほど聴きこんでいるわけだが、ララン氏の演奏とは違った羽のような軽さが印象的だった。それは、サブトーンの多用から来るものなのかな、とも思うのだが、個人的にはもうちょっと密度の濃い感じで聴きたかったかも、なんて。エレクトロニクスのパートは、さすが豪華なPAを使っているだけあって、CDでは聴こえない音までもが聴こえてきたりと、興味深い発見がいくつかあった。

続いて、舞台中央のディスプレイを使用し、ナオン「分岐する小路」。2004年のパリ音楽院卒業試験曲で、その年の卒業生である井上麻子さんらによって初演されたソプラノサクソフォンとテープのための作品。テープのパートは、ソプラノからコントラバスまでのサクソフォンの音をサンプリングし、再構成した、とのこと。初めて聴いた曲であったが、再演されるべき曲だと感じた。だが、ソロパートは激しく難しそうだ。フラジオ音域までをも自在にコントロールするあたりは、さすが。

再び下手で、テナーサクソフォンのスピロプロス「Saksti」。人間が持つ呼気の音を作品に混ぜ込んだもので、会場内を飛び回る「声」とサクソフォンのブレスノイズが不思議なモアレ効果を生み出していた。先ほどの「Mixtion」とは違った照明で、ホラー映画のような効果。最後は突然の叫びにて幕(叫んだ瞬間の舞台上の様子が、イメージとなって脳裏に焼きついている)。

「アラウンド」は、ルチアーノ・ベリオの「セクエンツァVIIb」に、ドゥラングル教授自らが伴奏?パートを追加したもの。最初のHが演奏された瞬間に、ステージが通常の照明へと変化。気づけば、バルコニー下手側に平野公崇さん、上手側に井上麻子さんが(ともにソプラノ)。舞台上には、なんと暗譜で突き進むドゥラングル教授と有村さん(テナー)、波多江さん(バリトン)。特殊奏法を交えようとも、決してHから線がぶれることはないような演奏が印象的だった。…「Solitary Saxophone(BIS)」と同等か、いや、それ以上か?伴奏パートとの絡みは難しそう。基本的に細い5本の糸を手繰っていくような、ポリフォニックな編曲だった。楽譜見てみたいなあ。

アレクサンドル・マルケアスは、パリ周辺の作曲家のなかでも、比較的若い世代の作曲家であり、さらにはピアノの即興演奏でも有名。ハバネラ・カルテットへ作品をいくつか提供しており、名前は良く知っていたが(ララン氏のCDで即興演奏を担当していたりもする)、もちろんこの「ペリルプシス」を聴くのは初めて。アルトサクソフォンと(今日初めてののアルト)テープのための作品で、ややビートが前面に打ち出されたような曲。テープとサックスの絡みがかっちりしており、なかなか面白い。これは録音媒体で聴いても面白そうだなあ。

鈴木純明氏の「凧」。ソプラノソロ+ソプラノ2本、アルト、テナーのための作品で、雅楽をイメージして作られた作品なのだそうだ。確かにそれまでに演奏された作品とは根本的に時間や音程の扱い方が違う。時間感覚に関してはone by oneという表現が適切だろうか、そして、全曲中もっともFragileな響き。ソロだけでなく、そのほかのアンサンブル部隊もかなり難しそうだったが、ソロ、バックともに熱演だった。ちなみに、2005年のパリ国立高等音楽院の卒業試験曲である。楽譜は、相変わらず横に長そうな感じだった(笑)

ストロッパの新作(静岡音楽館委嘱作品)は、塔のように積み上げられた5つのスピーカーの周りで演奏された。…えー、この曲だけはちょっと理解しきれなかったので、コメントは控えておきます。演奏に関しては、相当レベルが高いような印象を受けたのだが。

フェルドハウス「Grab It!」。赤いキャップを後ろ向きに被り、ラジカセを担ぎながら客席を走って現れたドゥラングル氏。ノリノリの演奏!やはりこの曲が持つパワーは凄い。客席も、かなり沸いていた(モニタースピーカーがなかったせいで、アンサンブルは難しそうだったが)。最後にはキャップを客席に投げるというオマケつき。

そして最後にアンコールとして5分ほどで演奏されたタディニの「ブレリア」!この曲、ずばりカッコイイ!中間部には即興部分も含みながら、ソプラノサックスのサイドキー~フラジオ付近で繰り出されるファンキーなフレーズと、テープに含まれるピアノのサウンドが印象に残った。「Grab It!」の後に演奏されるなんて、いったいどんな曲なんだと思っていたが、こんなにクールな曲だったとは。楽譜探してみよう!

最後は、舞台上にドゥラングル教授を含む出演者と、サウンド・デザイナ、サウンド・エンジニア、ストロッパが集結。演奏の素晴らしさ、作品の面白さだけでなく、音響デザインは、さすが本場IRCAMのスタッフを2人も抜擢&引き連れてきただけの良さがあったなあ。

終演後は楽屋へと押しかけ(ここで思いがけず佐藤淳一さんと初対面。芸大仲間として一緒にいらっしゃっていた伊藤あさぎさん、寺田麗美さんにもご挨拶)、ドゥラングル教授にサインを頂戴した!これです。「Mixtion」と「Grab It!」の楽譜にサインを頂きました。写真も撮ってもらいました。わ~い。←かなりミーハー。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

お見事。素晴らしい解説です。
ゼヒ、多くの方に読んでもらうべく文章だとおもいました。

「The SAX」とかに掲載してもらいたいです。

kuri さんのコメント...

> あかいけさん

コメントありがとうございます!

いえいえ!そんな恐れ多いです(^^;;;かなり印象強いコンサートであったため、なかなか冷静に記事を書けないです…。

さしあたって、理解不能だったストロッパを咀嚼したいのですが、どんどんと忘れていきます(苦笑)