「サクソフォン四重奏曲」は、1995年の作品。まずは上野氏の室内楽作品集「Chamber Music 上野耕路(シナジー幾何学 SYDA-007)」の曲目解説を引用する。
アルモ・サクソフォン・カルテットからの委嘱で書かれた。躊躇なく調性が用いられ、トッカータ、フーガ、アリアなど、古典的で明快な形式感を持ちながら、クラシカルな領域を越えて楽しむことのできる作品である。
I. トッカータ/アリア/フーガ Toccata/Aria/Fuga
急速な上行音階と下降音階がからみあうなかにスライド音型を織り込んだトッカータに続いて、ゆっくりしたスタティックなアリアとなる。上下の音域に楽器を散らした音型のからみあいが面白い効果を生む。最後にジャズ風のスタイルをもつフーガ。
II. アレグロ/プレスト/アレグロ/プレスト/アンダンテ/アレグロ Allegro/Presto/Allegro/Presto/Andante/Allegro/
全体に縁日的、快楽的ともいえる雰囲気を持ち、滑るように軽快に進行する。途中、第1楽章のトッカータのように急速に上下の音階が交錯するが、調子はずっと軽い。カデンツでいったん終わりかけながら、ふたたび最初のテーマが戻ってくる。
「N.R.の肖像」がニーノ・ロータ作品のコラージュであったのに対して、本「サクソフォン四重奏曲」の構成要素は上野耕路氏のオリジナルである。第1楽章冒頭~中間部にかけてのトッカータ→アリアの流れは、実にアカデミックな響きであり、初めて聴いたとき「上野氏がこんな曲を書いていたのか!」と衝撃を受けたものだ。しかし最終部で雰囲気は一転、フーガはまさに、映画音楽か何かと錯覚するような雰囲気に満ちている。
第2楽章は、解説の通り全体を通して軽めの雰囲気。しかし、サクソフォン4本での緻密なアンサンブルが要求され、ところどころもの凄いパワーで迫ってくる。たまに聴こえてくる、いかにも往年の映画音楽?といった感じのメロディは、実に甘い味がする。この雑多な感じは「N.R.の肖像」でも感じたが、面白さはそれ以上かもしれない。あ、もちろん「N.R.の肖像」は、映画音楽を知っていれば10倍楽しめる、というのはあるけれど。
いつかやってみたいなあと思っている作品だ。
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