前回の記事の続き。これで最後。
----------
アナウンサー:さあ、今度はですね、オリジナルの作品を三つほど聴いていただこうと思うんですが、ロジェー・ブートリー作曲「即興曲」、ルーシー・ロベール作曲の「炎と煙」、それからジャン=ミシェル・デュファイ作曲の「対話」、この3曲ですが、船山さん、これ3つともオリジナル、このアンサンブルのために書かれたというわけですけれども…。まず一番始めの、「即興曲」というのはどんな感じの曲なんでしょうか。
船山:はい、ブートリーという方は、今でもギャルド・レピュブリケーヌの指揮者なんですね。1973年以来、第9代めの指揮者・音楽監督を務めておられる方で、1932年生まれということなんですが、コンセルヴァトワールの大変な秀才で、6つのプリミエ・プリ=一等賞を獲りまして、おまけにローマ大賞も獲ったという秀才ですね。この曲は、最初サクソフォン四重奏のために書かれていたわけなんですけれども、今年この五重奏の為に書き直されたもので、編成は、ソプラノサクソフォン、アルト、2つのテノール、そしてバリトンということになっております。5分ほどの短い曲なんですが、全部で5楽章もありますね。
アナウンサー:そして、2つ目の「炎と煙」。
船山:そうですね、これはとても興味深い題なんですけれども、作曲者のルーシー・ロベールというのは女流なんですね。ブルターニュ出身の作曲家ですけれども、この人もまたすごくて、コンセルヴァトワールで7つの一等賞を獲っているわけです。今は母校の教授でいるわけですけれども、この「炎と煙」は、1982年に、このグループのために、ニュルンベルクのサクソフォン会議(世界サクソフォーン・コングレス)という舞台のために作られたものなんです。ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テノール、バリトンの、それぞれのサクソフォンの多様な響きを通して、コントラストを目指しているんではないかと思うんですね。ですから、5つの楽器が全部揃っていますね。炎のテーマは力いっぱい輝かしく、煙はピアニッシモで、煙が霧のようにぼかされているんですね。その炎と煙が鏡で映し出されたような、投影された"こだま"というような、そういう設計になっているわけです。
アナウンサー:そして3つ目が、「対話」という曲です。
船山:このジャン=ミシェル・デュファイの「対話」という曲、このデュファイは、第2次世界大戦の間に、コンセルヴァトワールで学んだ作曲家ですけれども、1981年にこのグループのために作られました曲です。11分ほどで、全曲が切れ目なく続いてまいります。まず、2つのテノール、2つのアルト、そしてバリトンのアンサンブルで始まりますが、バリトンのカデンツを挟みまして、楽器が持ち替えられまして、先ほどと同じような5つのファミリーですね、ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テノール、バリトンと、こういった揃いぞろいするわけです。これは非常に高い名人芸、広い音域、ダイナミズム、美しいカンタービレなど、サクソフォンの様々な技法が、本当に極限にまで開拓されているといった曲でありまして、本当に、サクソフォン同士の対話が、十分お楽しみいただけるのではないでしょうか。
アナウンサー:それでは、パリ・サクソフォン五重奏団の演奏、今度はオリジナル曲です。「即興曲」「炎と煙」「対話」です。
♪R.ブートリー - 即興曲
♪R.ロベール - 炎と煙
♪J.M.デュファイ - 対話
アナウンサー:パリ・サクソフォン五重奏団の演奏、オリジナル曲を、3曲続けて聴いていただきました。「即興曲」「炎と煙」「対話」の3曲でした。今日演奏しております、パリ・サクソフォン五重奏団の皆さんですが、ソプラノ&第1アルトサクソフォン:アンドレ・ブーンさん、ソプラノ&ソプラニーノ&第2アルト:ジョルジュ・ポルトさん、テナーのベルナール・ボーフルトンさん、テナー&アルトのミシェル・トゥルーセルさん、バリトンのモーリス・ドゥラブルさんです。
さあ、今オリジナル曲を3曲続けて聴いていただいたわけなんですが、細野さん、どうでしたか。
細野:ええ、大変面白く、興味深く聴かせていただきました。まずやはり、ソプラニーノの入った音色ですね、これが非常に面白い音の組合せになるということに、驚きのようなものを感じて、今まで聴いたことがなかったもんですから、どんな風な音になるかと思っていたわけなんですが、大変面白く聴かせていただきましたし、ブートリーさんの曲も、現代の焦燥感のようなものの中に、適度なバランスの取れた、フランス風な漢字を受けましたし、ロベールさんのものはスタッカートやレガートを自由に駆使した見事な曲だと思いますね。それからデュファイさんのものは、適度なおしゃべりがあって、面白いと。やはり、楽器をよく心得た人が書いているという印象を受けました。
アナウンサー:船山さん、特にこの五重奏団はオリジナル曲に力をいれてらっしゃるという話ですけれども…。
船山:そうですね、私も、現代曲といいますと難解な取っつきにくい面もある曲もある、と思っていますけれども、本当にどの曲も非常に解りやすくて、そして今おっしゃいますけれども楽器の性能を本当に引き出してらっしゃって、親しみやすいものになっていたと思います。そしてフランス風ともおっしゃってくださって、私は言うことがなくなってしまったんですけれども(笑)、フランスならではの非常にキメの細かいエクリチュールが、答案のようではなくて、楽器の中に溶け込んで、テクスチュアとして出来てたと思うんですね。
アナウンサー:あの3曲目の「対話」でございましたか、この曲のなかでは、ずいぶんバリトンサックスが活躍する場面が多いんですけれども、音色を聴いておりますと、バリトンを越えて、テナーサックスの域まで入ってきてしまっているんではないかという(笑)、そういう高い音まで吹きこなしていくという、ちょっと驚きがあったんですが…。
船山:この抒情的なですね…私も改めてなんて抒情的な楽器なんだろうと思ったんですね。私正直なところサクソフォンと言いますと、ジャズの楽器だと思っておりまして、そう思ってはいけなかったのかもしれませんが、つまりオーケストラの中ではソロというのはほとんどありませんでしょ、サクソフォンソロというのは。ですから脇役に徹していると思ったんですけどね、こうして主役に躍り出てきますと、ヴィブラーとのかけかたといい、柔らかくて甘い音が、いわゆるジャズの痺れるような低音といった、そういうのとは違う、本当に豊かな輝きを帯びた音、色彩性のある音、といったものを、堪能致しました。
アナウンサー:まあ、コンサートですと、サクソフォンというのは後段、後ろの列に入りますけれど(笑)、今日聴かせていただくと前面に、前に出てきても本当におかしくないなという気がしました。
それから細野さん、フランスの方というのは管楽器がお好きでしょう、これは何か理由があるんですか?
細野:ええ、これといった決定的なものは申し上げられないかと思いますけれども、やはり一つにはいろいろな音色を好むという…多彩な音色ですね、そういったものがあるかと思います。それからやはりフランス人の特性であります、明晰さというものに関係すると思うんですが、同じような音色が混ざり合いますと、声部というのは聞こえづらいわけですね。ところが、音色が違いますと、よりはっきりしてくるというような。それから、軽やかさ、そうしたようなものと、またフランス人に言わせますと、フランス語の"r"の発音、喉の奥で発音するわけですが、それが管楽器のタンギングにプラスになっていると、こういう風にいうこともあります。
アナウンサー:タンギングが悪いと、ベーベー、ベーベー音がなってしまいますが(笑)、やはりフランスの言葉と共通性があるんでしょうかねえ。
細野:そうですね、フランス語というのは口の筋肉を非常に良く動かしますし、母音の数が大変多いですから、そういうことが日常使っているということは、楽器を吹く場合にも影響すると思いますね。
アナウンサー:さあ、そろそろお別れの時間が近づいてきたわけなんですが、もうちょっと時間がありますね。それでは、もう一曲お聴きいただこうと思います。これは10月に総合テレビのテレビ小説、「チョッちゃん」が終わったわけなんですけれども、チョッちゃんのご主人の岩崎要さんが、しばしばヴァイオリンをですね、演奏されていると。これは大変有名な「ユモレスク」という曲なんですが、ドヴォルザークの「ユモレスク」、ヴァイオリンを演奏するのとはちょっと違った味で、お聴きいただくことができるかと思います。
♪A.ドヴォルザーク「ユモレスク」
アナウンサー:パリ・サクソフォン五重奏団の演奏、ドヴォルザークの「ユモレスク」をお聴きいただきました。今日は7時から、2時間にわたってたっぷりと、パリ・サクソフォン五重奏団のサクソフォンの演奏を聴いていただいたわけなんですけれども。いかがでございましたか、細野さん。このサクソフォンの音色で、今日は全体を通して3つの部分に分けてお聴きいただきました。ジャズがあり、クラシックがあり、そしてオリジナルがあったということになりますが…。
細野:それぞれの特徴がありまして、大変楽しく聴かせていただきましたけれども、この五重奏の編成というのは大変難しいわけで、四重奏というものはたくさんありますけれども、(五重奏は)レパートリーがどうしても制限されるところがありますね。しかし、私はサクソフォン奏者ではありませんけれども、来年日本でサクソフォン会議(サクソフォーン・コングレス)が開かれるそうで、新しい楽器に今後も大きな拍手を送って、ますますレパートリーが増えて、そして聴く人を楽しませてくれるような、演奏が増えてくれることを望んでおります。
アナウンサー:船山さんいかがでございましたか?
船山:そうですね、このサクソフォンという楽器は人間の声のように、音楽が波打っている、脈打っているというような、音楽的喜びを味わわせていただきました。タペストリーというフランス独自の美術品がございますが、鮮やかな、精密な音のタペストリーを聴く思いがいたしました。
アナウンサー:いまお話にありましたように、楽器が鳴る、という言葉ではなくて、楽器が歌う、というのでしょうか、そういうことを、今日の演奏を通して私は強く感じ取ったんですけれども…。ますます、こういった楽器…(?)…こうこじんまりした中で十分堪能できるような音楽が増えていくことを、希望していきたいなと思うんですね。
船山:本当にそう思いますね。
アナウンサー:どうも、ありがとうございました。
船山・細野:ありがとうございました。
アナウンサー:今日は、パリ・サクソフォン五重奏団を、NHKの505スタジオに迎えての、生放送でお楽しみいただきました。お話のゲストには、音楽学者の船山信子さんと、東京芸術大学助教授の細野孝興さん、そして、ご案内役は、アナウンサーの佐藤敏彦でございました。明日は、NHK交響楽団の演奏会です。NHKホールから、ハイドンのオラトリオ「四季」をお聴きいただくことになっております。
それでは、NHK505スタジオから、今日のクラシックコンサートスペシャル、お別れでございます。ごきげんよう。さようなら。
----------
以上。私自身はけっこう知っていることが多いが、1960年代から1980年代にかけてのギャルドに触れた方々の生の声は、何にも増して説得力があり、さらにこうして文字に起こすことで、よりしっかりと内容を把握できたのは幸いであった。
実際の音源はCD-Rにて頂戴し、手元に保管している。私のお知り合いで興味がある方は、kuri_saxo@yahoo.co.jpまで連絡を下さい。木下さんからもお許しを得ています。
0 件のコメント:
コメントを投稿