【サントリー芸術財団サマーフェスティバル2011"映像と音楽"管弦楽】
出演:秋山和慶指揮 東京交響楽団
日時:2011年8月22日(月曜)19:00
会場:サントリーホール・大ホール
プログラム:
アルノルト・シェーンベルク - 映画の一場面への伴奏音楽
アンドレイ・フルジャノフスキー×アルフレート・シュニトケ - グラス・ハーモニカ(映像・世界初公開上映/音楽・日本初演)
ビル・ヴィオラ×エドガー・ヴァレーズ - 砂漠(映像・日本初公開)
凄いものを観て&聴いてしまった。フルジャノフスキー×シュニトケの「グラス・ハーモニカ」。フルジャノフスキー氏を日本に迎えての、貴重な機会。
公開演奏・上映は 世界初なのだそうだ。1968年、ソ連軍がまさにプラハに侵攻したその日に公開されようとしていた同作品が、40幾年を経てついに演奏された。しかもこの日本という地、不安ばかりが募るこの時代に…。ある種の象徴的な出来事だと思えるほど。
明らかに反体制と捉えられるメッセージが映像の端々から感じられ、改訂を経てもなお、当局から上映許可が下りなかったのは納得。今日の演奏後にフルジャノフスキー氏に贈られた拍手は、もちろんフィルムや音感それ自体の素晴らしさもあろうが、暗い旧体制の時代においてもなお、精力的に創作活動を続けたフルジャノフスキー氏本人(そしてもちろん今は亡きシュニトケに対しても…)への賛辞もあったことだろう。
演奏前には、コーディネーターの岡部真一郎氏からフルジャノフスキー氏へのインタビューが行われ、シュニトケとの交流や、作品の成立について貴重な話を聞くことができた。現代音楽…いや、これはもう古典にリストされるのか!?…の演奏会でのこういった試みは、もちろん大いに歓迎すべきもの。舞台上には、サクソフォン3本(アルト:塩安真衣子氏、テナー:安井寛絵氏、バリトン:大石将紀氏)やらテルミンやらを含む巨大編成のオーケストラがスタンバイ。いったいどんな演奏が、どんな映像が展開されるのか、わくわくしていた。
ストーリーは、"グラス・ハーモニカ"という架空の楽器(この楽器の音色に感化され、人々は美しい行いをしようとする)を取り巻く人々とその人々を誘惑しようとする悪魔の物語。グラス・ハーモニカの発明者はある町を訪れ、人々にその音色を聴かせるが、それを心良く思わない悪魔は発明者を捕らえ、楽器を破壊する。ある青年はグラス・ハーモニカの演奏に感化されてその秘密を守ろうとするが、金銭と引き換えの密告によりやはり町を追放される。悪魔は金銭を使って町の人々を誘惑し、街の象徴である(文明の象徴のようにも思える)時計台を破壊させる。人々は欲求の赴くままに行動するうちに醜い化け物の姿となってしまい、いつしか町は荒廃する。そこに、追放された青年がグラス・ハーモニカを復刻して再び現れ、その音色により町は浄化され、人々は元の姿に戻る。その音色に感化され人々は空を舞うが、そこに再び悪魔が現れ、復刻された楽器を破壊する。しかし最後は人々はグラス・ハーモニカの助けなしに、自らの力で時計台を修復し、悪魔を追い出す。修復された時計台が奏でるメロディは、グラス・ハーモニカが奏でていたあのメロディだった。
フィルムの最初には、「このフィルムに登場する人物は架空のキャラクターではあるが、現代社会の人間が持つ果てしない欲望、権力による統制、誰しもが心に抱く孤独、残虐さを描いている」という注意書きが。グラス・ハーモニカが登場した瞬間の旋律は、BACHの旋律にも似た音形。その美しさはまるで初めて体験するかのようだった。
前半のどうしようもない社会の荒廃っぷり(密告者が賄賂を受け取るところ、そして金に埋もれるところなど、なかなか鮮烈である)、そして、再びグラス・ハーモニカが現れるところなど、不協和音を実に効果的に使いつつも(大音量による倍音効果を、その構造を解析した上で"地"で表現するスコア)まるで天上の音楽のような美しさであり、震えた。というか、泣いた。
秋山和慶指揮の東京交響楽団も、すばらしい演奏を展開した。シェーンベルクがいまいち低調な演奏であったのに対して、ちょっと気合いの入り方が違ったと思う。サクソフォンは"化け物"が登場する前後で効果的に使用されており、その存在感を発揮していた。というか、ジャン=マリー・ロンデックスの「A Comprehensive Guide to the Saxophone Repertoire」にすら掲載されていないとは、どういうことだろうか。しかし、この作品にサクソフォンが使われていることを、誇りにすら感じる。
超特殊な三管編成(pocc, 2fl, 2ob, Es-cl, Asax, Tsax, Bsax, 2fg, cfg, 4hrn, 3trp, 3trb, tub, timp, tri, ratchet, woodblock, bongo, snare-dr, bass-dr, cym, sus-cym, tam-tam, glock, tubular-bell, xyl, vib, mar, theremin, keyI&II, elec-acc, elec-gt, 2hrp, cel, pf, strings, electronics)は、この映像にふさわしいものであり、瞬間瞬間のスナップショットごとにその装いを変えるフィルムに、音として付随するためになくてはならないフォーメーションだったと思う。
ああ、まだ書き足りないが、これ以上言葉を並べても今日の演奏・映像の素晴らしさを書き表すことができない。言葉の無力さを感じる…。
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(以下、こぼれ話)
チケット関しては安井寛絵さんにお世話になった。この場を借りて改めて感謝申し上げる。
前の日に、管打の予選を観に行くかこっちにするか大いに迷ったが、結果的に良い選択をしたと思った。
サントリーホールが久しぶり過ぎて、六本木と六本木一丁目を勘違いしていた。六本木から六本木一丁目まですごい勢いで走った。
コンテンポラリー・ミュージックス・トウキョウの細越一平さんが来てた。座席がずいぶん近かった。
「グラス・ハーモニカ」知らない人は観てください。ホールの生演奏×大画面映像には劣るけど、それでも感動するはず。
シェーンベルクでのクラリネットが良い仕事をしているなあと思ったら、あれは十亀正司氏ではないですか!
指揮台近くにプロジェクター映像をモニタする液晶画面が置いてあり、スコアとともに指揮者の視界に入るようになっていた。
ヴァレーズの「砂漠」がトリとして演奏されたが、ビル・ヴィオラのインタビュー中に話されたエピソードが印象的だった…芸術は、人と人をつなぐタイムマシンである、などと思った。
あまりに感動しすぎてブログ書けるか心配になったのは、これまでも何度かあるが、そんな感覚を久々に味わえて良かった。というか、それこそライヴの醍醐味でしょ。
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