2010/10/19

国立音楽大学専攻生によるサクソフォーンアンサンブル2010(その1)

というわけで、昨日聴いてきた演奏会の感想を。

【国立音楽大学専攻生によるSaxophone Ensemble 2010】
出演:国立音楽大学サクソフォン専攻生、下地啓二(cond.)、フレデリック・ヘムケ(guest sax.)
日時:2010年10月18日(月)18:30開演
会場:府中の森芸術劇場ウィーンホール
料金:全席自由 800円
プログラム:
J.S.Bach/新川奈津子 - Piano Concerto Mov1
兼松衆 - October Song for 8 Saxophones
D.Maslanka - Recitation Book Mov1,5
J.S.Bach - Partita No.6
狭間美帆 - Beyond the Wind
G.Ligeti - 6 Bagatellen
Traditional - Simple Gift(フレデリック・ヘムケ sax.)
F.Ferko - Nebulae(フレデリック・ヘムケ sax.)
柏原卓之 - Irish Fairy Suite

国立音楽大学の演奏会は2年前にも伺った。このときも、充実したプログラミングと演奏の質に驚いたものだったが、今回はその印象をさらに上回るものだったと思う。例えば、2008年に聴いたときは、やはり演奏の多くはいかにも音楽大学らしいものであり、次の壁をクリアしようとする団体はひとつ(ベネット)くらいしか無かったと記憶する。だが、今回は殆どの団体が「普段の勉強よりももう一段上のステップ」の素晴らしい演奏を披露していたと感じた。聴き手の心に響く音楽は、何かを超えようとしている部分から生まれるものだと思う。

バッハの「ピアノ協奏曲」は、国立音楽大学大学院在籍中の新川奈津子(しんかわなつこ)さんによる、サクソフォン12重奏へのアレンジ。ピアノは入らない。とても丁寧な音作りで、コンサートの幕開けに相応しい響きがホール中に響いた。ポリフォニックな単一楽器の独奏譜を複数の単音楽器に落としこむのって、なかなか面白い効果を生み出すアイデアだと思うのですよ。

兼松衆氏の「October Song」は、解説の通りにジャズにヒントを得て、現代風の音響で再構成を施した3楽章からなる作品。これはカッコイイですね!こういった演奏会で聴くことができる"委嘱作品"の"世界初演"はある意味バクチみたいなもので、ヒドイ作品をいくつも聴いたことがあるが、これは疑いようのなき佳曲!調べてみると、きちんとしたジャズのバックグラウンドをお持ちのようで、たしかにそうでなければあのソプラノサックスのフレージングは描けないよなあ。演奏者の共感度が高いのも、聴き手に良く伝わってきた。

「レシテーション・ブック」。第1楽章と第5楽章。さすが、めちゃくちゃに上手い。自分も吹いたことがあるが、天と地ほどの差がありすぎて、ちょっと比較にならないくらいだ。もっと音楽に没入することで聴こえてくるこの曲の精神性というものもあるかもしれないが…?あ、あと、前ブロックで聴いていたせいかしら、バリトンの音量が妙に小さかったような。

バッハ「パルティータ」これは、4本のバランスの良いアンサンブルという点では、本日の白眉だったと思う。丁寧な練習の跡と、各個人が持つ響きの融和に耳を奪われた。小川が流れるように、技術的には殆ど淀みがない。"好きだからやりました"では到達できない領域で、アマチュアではこうは演奏できないだろうなあ。このメンバーでの他の曲も聴いてみたくなった。

世界にその活動の幅を広げつつある挟間美帆さんの「Beyond the Wind」は、5本のサクソフォンとパーカッション(カホン、サスペンションシンバル、ベル、ウィンドチャイム)のための作品。これも委嘱作品とのことだが、美しい部分と楽しげな部分が交錯した佳曲だった。各楽器にきちんと見せ場が用意されていて、兼松氏の作品と同様、演奏者の共感度が高い。

リゲティは、ソプラノサクソフォンの音楽性が輪郭を形作り、それに十分に応える他パート、といった構図が面白かった。聴こえてくる以上のハイ・テクニックを要求する作品だが、ちゃんとサックスではなく作品が聴こえてきた。3曲目の、ソプラノが旋律を奏で始める場所では、いったいホールのどこから聴こえてくるのか、というような上質な音に酔いしれ、6曲目ではよく練られた超スピードのスポーツカーのような演奏に飛び上がった。

あ。ちょっと長くなってしまったので、後半は次の記事にて。

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