2010/01/30

武藤賢一郎サロンコンサート@ドルチェ楽器

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【Ken-ichiro Muto Salon Concert】
出演:武藤賢一郎(sax)、野原みどり(pf)
日時:2010年1月30日(土曜)19:00開演
会場:アーティストサロン"ドルチェ"(ドルチェ楽器管楽器アヴェニュー東京)
プログラム:
~第1部~
André Caplet - Légénde
Bernard Heinden - Sonata
Ferenc Farkas - Bihari roman tancok
~第2部~
Lucie Robert - Cadenza
Jérôme Naulais - Frissons
Carl Hohne - Slavische Fantasie
~アンコール~
Alexandre Glazounov - Chant du menestrel
Pedro Itturralde - Suite hellenique
Astor Piazzolla - Oblivion

「サロンコンサート」という名前はタイトルだけで、出演者もプログラムも豪華そのもの。東京文化会館の小ホールか浜離宮朝日ホールあたりで催されたとしても、まったくおかしくない内容だ。

私は、武藤賢一郎氏の演奏を生で聴くのは初めてだった。日本人として初めて、パリ国立高等音楽院を1977年に卒業、次の年のギャップ国際サクソフォンコンクールで、第5位入賞。帰国後は、独奏者としてリサイタルやオーケストラとの共演で活躍しつつ、昭和音楽大学や桐朋音楽大学などで教鞭を執り、後進の育成にも力を注いでいる。

プレイヤーとしてのキャリアで有名なのは、1980年頃のベルリンフィル来日時に、「展覧会の絵」のソリストに指名されたという経歴や、ラーションの「サクソフォン協奏曲」をスウェーデンのオーケストラとともに日本初演した、という事実だろう。ラーションについては、フラジオ奏法や、ダブルタンギングの奏法を、国内で初めて本格的に導入した、ということで、お得意のレパートリーであっただろうことが想像できる。

私が知る限りでは、武藤氏のひとつ前の本格的なリサイタルは、2003年の1月だったと記憶する。ノナカ・サクソフォン・フレンズ等でも大々的に宣伝されていたが、当時私は長野県の高校生。聴きに行くことを考えもしなかった。茨城県の某大学に進学したのちにも「武藤氏が演奏する」という情報を聞くことすらなかったのだが、まさか2010年になって、こういう機会が巡ってくるなど、想像もしなかった。

前置きが長くなったが、大変素晴らしいリサイタルだった。一週間前に聴いたばかりのミーハ・ロギーナ氏&李早恵さんのリサイタルを思い起こし、音を自在に操る草書体の演奏だと表現するなら、本日の武藤氏の演奏は、揺るぎないスタイルを構築しようとする楷書体の演奏だったと思う。

一曲目のカプレから、ピアノと会場の空気を、サックスのベルから呑み込んでしまうような堂々とした音色と音楽。"室内楽"ではなく、完全に"独奏サクソフォン"の世界だ。武藤氏のこれまでのプレイヤーとしての経歴が、そうさせているのだろう。"室内オーケストラの一員としてのサクソフォン"という観点からすれば、さすがにややアンバランスな印象も受けたが、サクソフォンが大活躍する二曲目以降は圧巻だった。

頭から最後まで緊張感の途切れないハイデンのソナタに、珍しいレパートリーだがルーマニア民謡をベースにして構築されたファルカシュの珍しいレパートリー。どちらもテクニック的にレベルが高い曲だが、その辺のサックス吹きを鼻の先で吹き飛ばすような、そんな演奏だった。野原みどりさんをも巻き込み、重戦車のようなオーラを放ちながら吹き進め、気付いたそのきには、荘厳な大伽藍が目の前にそびえ立つ。

休憩後も、すごかった。あれ?そういえば、ロギーナ氏のリサイタルも休憩後がロベールだったぞ。確かに、休憩でゆるんだ空気を一気に引き締めるにはもってこいなのかもしれないな。武藤氏が「フリッソン」を吹くというのも、不思議な感じがしつつ大変な演奏だったし、最後の「スラヴ幻想曲」は、ダブルタンギングをふんだんに散りばめた、チャルダーシュ風ヴィルトゥオジックな難曲で(もとはコルネット曲?)、場内が大いに沸いた。

アンコールは、最後の最後に演奏された「オブリヴィオン」が印象深い。ピアノの序奏に導かれて演奏されたGの音が、どこまでもどこまでも続きそうで、ちょっとホロリときてしまった。

いやはや、どれもすごい演奏だったなあ。また聴きたい!

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