2009/01/15

木下直人さんから(ミュールQ、ジュネーヴライヴ)

木下直人さんより、新年初の荷物が届いた(ありがとうございます!)。それにしても、歴史的録音の復刻や情報収集にかける木下さんの情熱は、並大抵のものではない。現在も、復刻環境の整備を行っているそうだ。今回頂戴したのは、ミュール四重奏団のLPと、ジュネーヴ国際コンクールのハイライト録音である。

Eratoから出版されていた、マルセル・ミュール四重奏団LPの復刻。原盤はEratoだが、日本国内ではコロンビアから、アメリカではMusical Heritage Societyから、それぞれ出版されている。私はモノラル盤とステレオ盤のMHS盤を持っているが、さすがにErato原盤はなかなか手に入らない。eBayなどのオークションに出品されては、高値で取引されることが多い。木下さんによると、プレス環境の違いから、それぞれの盤で特性…というかサウンドが違うようで、やはりフランスでプレスされたErato盤に関しては、フランス産機器の環境下で復刻を行うのが最適解である、とのことだ!

Marcel Mule, s.sax.
Georges Gourdet, a.sax.
Guy Lacour, t.sax.
Marcel Josse, b.sax.

Gabriel Pierne - Introduction et Variations sur une ronde populaire
Alfred Desenclos - Quatuor
Jean Absil - Suite d'aprés le folklore roumain, op.90
Jean Rivier - Grave et Presto

マルセル・ミュールに献呈された作品を集めたもの。デザンクロ、ピエルネ、アブシル、リヴィエ…これらの曲は、このLPよりもむしろ、後にデファイエ四重奏団によってレコーディングされることになるEMIの四重奏曲集によって名を広めた。逆にこのLPは、出版時期が時期だけに(1960年代)、日本にも、それほどの数は出回らなかったのではないかな。ここに記録された演奏は、これらの曲の解釈のスタンダードである。ミュールたちがこの解釈を示し、デファイエたちがそれを拡張し、それ以降は何人たりとも、その2つの録音を超えることができない、というほどのもので。

これらの曲に関して、技術的に優れているとか、指が良く回るとか、そういう話がどれだけ無駄な議論であるか、ということを思い知らされる。演奏に必要なのは、作曲当時のアトモスフェール、ただ一つのみなのである。それだけあれば、他には何もいらないのだ。

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ジュネーヴ国際音楽コンクールのハイライト録音。これもまたすごい。実は1990年にCDとして出版されたようなのだが、まったく知らなかった。ジュネーヴのライヴなど存在しないと決め付けて、探そうともしなかった自分が恥ずかしい。1939年の初回のコンクールから、1989年までの「Selected First-Prize Winners」とのことだ。

Arturo Benedetti Michelangeli (Piano)
L.v.Beethoven - Piano Concerto No.5 mvt1 (Excerpt)

Riccardo Brengola (Violin)
F.Mendelsshon - Violin Concerto in E-min mvt3

Gilbert Coursier (Cor?)
C.Beck - Intermezzo

Aurèle Nicolet (Flute)
R.Oboussier - Pavan and Galliard

Maria Tipo (Piano)
D.Scarlatti - Sonata L23&L449

Maurice Allard (Basson)
A.F.Marescotti - Giboulées

Michel Nouaux (Saxophone)
J.Ibert - Concertino da camera

Maurice André (Trumpet)
H.Tomasi - Concerto for Trumpet mvt1

Martha Argerich (Piano)
F.Liszt - Hungarian Rhapsody No.6

Heinz Holliger (Oboe)
A.Marcello - Cocnerto in C-min

…す、すごい。ミケランジェリやアルゲリッチのピアノ、ジルベール・クルシェのホルン(コル?おまけにピアノがアニー・ダルコ!!)、オーレル・ニコレのフルート、アラールのバソン、アンドレのトランペット!これはまた、凄すぎますなあ。大御所とか伝説とか呼ばれているプレイヤーの、20代の演奏を切り取った録音である、ということで、どれも本当にキラキラと輝く演奏で、勢いがあって、あまりにも上手くて、聴き手は圧倒されるほかない。

この中で、サックス的な興味として、名手ミシェル・ヌオー Michel Nouauxの演奏が挙げられる。ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のメンバーをベースにした四重奏団からミュールが脱退した後、そのソプラノサクソフォンパートに就任したのが、他でもないミシェル・ヌオーなのである。ヌオーは、ミュールの、パリ音楽院教授時代の弟子にもあたる。

ヌオーが参加していると思われるギャルドの演奏を耳にしたり、四重奏団のLPを聴いた中では、正直ヌオーがここまで優れた演奏家、音楽家だとは思っていなかった。これは、大変な録音である。ヘンな例えだが、ミュール演奏の「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」の色気や余裕をそのままに、音程やアンサンブルの精度を高めた…というような演奏に聴こえる。ああ、ボキャブラリーが足りないのが悔やまれる!こんなにもすごい演奏なのに!デファイエ四重奏団のリュエフ、ミュールのクレストン、ラッシャーのブラントなどを、初めて聴いたときと同じくらいの衝撃を受けてしまった…。ちょっと調べてみたところ、オンライン上から参照可能であるようなので、ぜひ聴いてみていただきたい(→こちら)。

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木下さんは今後、Pierre Clementのアームとカートリッジを使用したSPの復刻を進めていくそうで、とても楽しみだ。カートリッジは、とある工夫により、ほぼ最適な状態にオーバーホールできたということだ(!)。

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