2009/01/03

パリ五重奏団ライヴのディクテーション(その1)

以前木下直人さんより頂戴した音源の中に、1987年のNHK-FMクラシックコンサートを録音した、というものがあった。実家に戻って改めて聴き返していたのだが、アナウンサーとゲストのおしゃべりが長く、その内容が面白かったので、ちょっとディクテーションしてみた。始めてしまったらやめる訳にいかなくて、しかし微妙に時間もかかってしまい、大変だった。

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(時報)

アナウンサー:クラシックコンサートスペシャル、パリ・サクソフォン五重奏団演奏会。今日は、東京渋谷の505スタジオからの生放送です。演奏は、パリ・サクソフォン五重奏団のみなさんです。

♪N.リムスキー=コルサコフ - くまんばちの飛行

アナウンサー:パリ・サクソフォン五重奏団のオープニングミュージックは、リムスキー=コルサコフの「熊蜂は飛ぶ」でした。これは皆さんご存じの、歌劇「サルタン皇帝の物語」から、プースキンが作ったものですが、海を越えて飛んできた熊蜂の群れが、白鳥の周りを飛び回る場面を演奏した曲です。もとは、弦楽器と木管楽器主体の曲ですが、熊蜂が飛び回るブンブンという音を、巧みにサクソフォンの音で表現しておりました。さて、拍手でもお分かりのとおり、スタジオには50人を超えるお客様にお越しいただきました。そして、お話のゲストには、音楽学者の船山信子さんと、東京芸術大学教授の細野孝興さんにおいでいただいております。ありがとうございます。

船山・細野:こんばんは。

アナウンサー:さて、今日のサクソフォン五重奏団、実は来日中のギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のメンバーであると伺いましたけれども…。

船山:そうですね。ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団は現在3回目の来日中で、世界最高水準の、軍楽隊に属する、国立の吹奏楽団なんですね。いわば、世界の吹奏楽団のピラミッドのてっぺんにいるといった、そういった優れた吹奏楽団です。これは金管楽器・木管楽器によるオーケストラと言えるんですが、この中でサクソフォンは7人おりまして、ちょうどヴィオラとチェロの部分を受け持つ大事な楽器になっています。このサクソフォンのメンバー5人で、アンドレ・ブーンさんを中心に7年前に結成されましたのが、このパリ・サクソフォン五重奏団なんですね。サクソフォン四重奏団というのはたくさんございますが、このサクソフォン五重奏団というのは、五人のクインテットですけれども、大変珍しい編成だと思います。私は他に例を知らないんですけれども…。

アナウンサー:細野さん、いま船山さんの話にもありましたとおり、珍しいサクソフォン四重奏団ではなく、五重奏団である、ということですけれども、細野さんご自身も大変ギャルドとのお付き合いがあったとのことですが…。

細野:はい、大分昔の話になりますが、1962年から2年間ほど、ギャルドの人たちと一緒に演奏する機会がありまして、そういうことで今日もお呼ばれしたのではないかと思いますけれども…。

アナウンサー:今日はサクソフォンの五重奏団ということですけれども、このほかにギャルドの中にはいくつかアンサンブルがあるとお伺いしています。

細野:はい、これも時代によりまして多少の変更があるわけですが、まずその前にギャルドにはオーケストラ、シンフォニックなフォーメーションもありますわけで、その中に、このサクソフォン五重奏団のほかには、弦楽四重奏団もあるわけですね。多くこの楽団は、エリゼ宮の大統領のもとで、国賓・貴賓をお迎えする場合に演奏することもあるわけでして、現在その二つの楽団が、大変活躍しているようです。昔はその他に木管五重奏団がありましたけれども、現在は少し活動を抑えているようです。

アナウンサー:今日は、大きく三つのブロックに分けて皆さんに聴いていただこうと思うのですが、最初はジャズ、そして次にバッハやヴィヴァルディの作品を扱ったクラシック、そしてお終いにパリ・サクソフォン五重奏団のために書かれたオリジナル作品を聴いていただこうと思います。ジャズ作品のあとでは、皆さんにニュースを五分間ほどお聞きいただこうと思います。
では、パリサクソフォン五重奏団の演奏をお届けしましょう。まず、ジャズの作品ですが、ジャン=クロード・ノード作曲「太陽、砂、海、サックス」、ジョージ・ガーシュウィン作曲「サマータイム」、ジェローム・ノレ作曲「サックスの切り札」、マルティア・ストラル作曲「サクソフォン五重奏団のためのバラード」、この四曲を続けてお聴きいただきましょう。

♪J.C.ノード作曲「太陽、砂、海、サックス」
♪G.ガーシュウィン作曲「サマータイム」
♪J.ノレ作曲「サックスの切り札」
♪M.ストラル作曲「サクソフォン五重奏団のためのバラード」

アナウンサー:パリ・サクソフォン五重奏団の演奏で、まずジャズのサクソフォンからお聴きいただきました。ジャン=クロード・ノード作曲「太陽、砂、海、サックス」、ジョージ・ガーシュウィン作曲「サマータイム」、ジェローム・ノレ作曲「サックスの切り札」、マルティア・ストラル作曲「サクソフォン五重奏団のためのバラード」この四曲を続けてお聴きいただきました。
ここで、パリ・サクソフォン五重奏団のメンバーをご紹介しますと、ソプラノ&第1アルトサクソフォンのアンドレ・ブーンさん、ソプラノ&ソプラニーノ&第2アルトのジョルジュ・ポルトさん、テナーのベルナール・ボーフルトンさん、テナー&アルトのミシェル・トゥルーセルさん、バリトンのモーリス・ドゥラブルさん。パリ・サクソフォン五重奏団のメンバーの皆さんです。
さて、細野さん、サックス五重奏といいますと、いろいろなサクソフォンが大・中・小と出てきたわけですが、どういう編成になるわけですか?

細野:一般的に知られていますのはサクソフォンですと四重奏ということになりますけれども、五重奏という形では、決まった形はない、ということになりますね。使用している楽器は、ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テノール、バリトンと、この五種類なわけですが、サクソフォンには七種類あるわけですが、そのうち五種類ということになります。そして、あるときはアルト2つになったり、あるいはテナー2つになったり、ソプラニーノを加えたり、なくなったりと、曲の要求に応じて、その編成を変えているそうです。

アナウンサー:この大きい楽器はバリトンサクソフォンということで良くわかるんですが、あの持ち替えてらっしゃるクラリネットのような小さなサクソフォンが出てきたわけですが…。

細野:そうですね。みなさん良くご存じなのは、テレビなどでご覧になっているアルトとかテナーとか、歌口から出ている管がカーブを描いて下に落ちているという形のものなんですが、ソプラノとソプラニーノは、形としてはチャルメラとかオーボエとかクラリネットとか、まっすぐの伸びた楽器で、もちろん金管でできているわけですけれども、特にサクソフォンの場合は、ラッパ=朝顔と言いまして、先端に向かってかなり急に開いているということですが、ソプラニーノ!これはなかなか聴く機会もないですし、見る機会もない、大変珍しい楽器だと思います。

アナウンサー:いまお聴きいただいた曲の中ですと、ジョージ・ガーシュウィンの曲を聴くと、私なんか大変メランコリックな気分になってしまうんですが(笑)、ジャズとサクソフォンという楽器は、とっても相性が良いと言いますか…。

細野:そうですね、サクソフォンという楽器が大変新しい楽器で、1845年にアドルフ・サックスという人によって作られたわけなんですけれども、元は木管楽器と金管楽器との間を取り持つという意図でもって作られた楽器なんです。専門的なことを言うとアレなんですが、とにかく音量が非常に豊かであると。それから表情が自由に付けられる、ピアニッシモからフォルティッシモまで自由に出せる、そして敏捷性=指の動きに十分応えられる楽器である、ということなどから、特にジャズの方では、第二次世界大戦ごろから、アメリカのほうで流行ったということを聞いております。

アナウンサー:五重奏ともなりますと、ジャズブラスの中で聴いていて、ほかの楽器がいらないんじゃないかという気もしたんですが(笑)。

細野:同属楽器でしたから、非常に面白い響きがしていましたねえ。

アナウンサー:船山さん、先ほどアメリカのジャズということでしたが、フランスのジャズはどうなっているんでしょうか。

船山:今演奏したうちの三つはフランスのジャズということなんですが、大変興味深く聴きました。特に最後のマルシア・ストラル、この「サクソフォン五重奏のためのバラード」というものはですね、フランス音楽独特のエレガントなジャズとも言うべき様な感じがしますね。デューク・エリントン、かの有名なジャズマンですが、マルシアル・ストラルを評しまして、この人は感受性・創造性・技術といったような、音楽に必要な技術を持っている、それもとても豊かに持っていると激賞したんですけれども、さすがに、という風に思いました。

アナウンサー:さあ、ここでニュースを五分間お聞きいただきましょう。

(ニュース)

続く…

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