この論文「ルチアーノ・ベリオからサクソフォンへの注釈 -或いは二つのセクエンツァから見るベリオとサクソフォン-」は、佐藤淳一さんが洗足学園音楽大学の大学院修士課程を卒業される際に執筆したもの。昨年、佐藤さんのご好意で頂戴し、大変興味深く拝見していたものなのだが、すっかり紹介が遅くなってしまった。サクソフォンのための「セクエンツァVIIb」と「セクエンツァIXb」の成立・分析・演奏を軸に据え、作曲家⇔演奏家⇔聴衆という関係図における、「注釈」と呼ばれる作業について論じるものである。アウトラインは、以下。
序論
オニオンシリーズと注釈技法
- オニオンシリーズ
- セクエンツァからシュマンへ
「セクエンツァVIIb」と「セクエンツァIXb」の分析
- 「セクエンツァVIIb」の分析
-- 「セクエンツァVII」の作曲経緯
-- 「セクエンツァVII」分析
- 「セクエンツァIXb」の分析
-- 「セクエンツァIX」の作曲経緯
-- 「セクエンツァIXb」分析
セクエンツァを演奏するにあたって
- 「セクエンツァVIIb」
- 「セクエンツァIXb」
結び
注釈・参考文献
ここで言う「注釈」という言葉に関してはちょっと解説が難しいのだが:モダン・ミュージックと呼ばれる難解な作品において、演奏者は解釈者という役割をも併せ持つ。それはそのまま、作品の難解性を分析し演奏という形式で再構成する過程で、何らかの演奏者としての注釈を付けざるを得ない/付ける必要があることにある…といった意味合いの「注釈」とお考えいただければ(実はそのほかにもいろいろ意味はあるが、割愛)。
難しいことはともかく、サクソフォンのための2つの「セクエンツァ」に関する詳細な分析は、ある意味圧巻である。これまで読んだことのあるサクソフォンのモダン・ミュージックの分析書、シュトックハウゼン自身による「友情に」のレクチャー資料、大石将紀氏によるクリスチャン・ローバ「バラフォン」の分析、といったところだが、量や質ともにそれらを上回るものだ。何せ、合計でおおよそ1カラム50ページ。一日では読みきれないほどのものだからなあ。
例えば「セクエンツァIX」と「シュマンV」「シュマンVII」の関係。1980年に作曲されたクラリネットとコンピュータのための「シュマンV」からクラリネットパートのみを抜き出し、同年「セクエンツァIXa」が成立。さらにジョン・ハールとイワン・ロートの協力により、アルトサクソフォンのための「セクエンツァIXb」が完成。1996年に、「セクエンツァIXb」にオーケストラパートが付与されて「レシ/シュマンVII」が作曲された。1998年には、「セクエンツァIXb」を基にしてバスクラリネットのための「セクエンツァIXc」が成立…、とこんなところか。
成立の解説だけでなく、分析のパートも物凄い量であり、一つ一つの内容を紹介していけないのが残念であるが、某誌への掲載も予定されているとのことで期待して待ちましょう。あ、こちらの演奏会も、忘れてはいけませんね。
この論文と同時に、佐藤さんが卒業演奏会で演奏したアルトサクソフォンとオーケストラのための「レシ/シュマンVII」の日本初演ライヴ録音も頂戴したのだが、これも良いですなあ。独奏パートはもちろん、オケを統率する指揮もなかなかとお見受けするが、誰が振っているんだろ。
(追記)
「レシ/シュマンVII」の指揮者は、菊池祐介さんという、フランス帰りのピアニストだそうだ。メシアンのスペシャリストだそうで…おおぉ、一度拝聴してみたい。
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