アメリカ産のサクソフォンと吹奏楽のための協奏曲は、とても数が多い。簡単に思い出す程度でも、ダール「協奏曲」、クレストン「協奏曲」、スミス「ファンタジア」、リード「バラッド」「シチリアーナ・ノットゥルノ」、バーンズ「アリオーソとプレスト」、フサ「協奏曲」、マスランカ「協奏曲」、マッキー「協奏曲」、ティケリ「協奏曲」、ブライアント「協奏曲」、マグヌソン「死者の書」、オルブライト「ヒーター」、ボルコム「協奏曲」、ハイデン「協奏曲」「協奏的幻想曲」、…挙げればキリがないのだが、盛んな大学バンド活動、多くの大学に存在するサクソフォンクラス、といったあたりが、この状況を生み出している。
初演後、広く世界中において演奏されるようになる作品もいくつかあり、古くはクレストン、ダール、フサ、リード、最近ではマスランカ、マッキーの各作品くらいのものであろう。しかし、殆どの作品がそもそもの編成が巨大で、演奏機会を捻出することが難しいことから、よほどのインパクトが無いと初演後にアメリカ国内で流行した後に表舞台から消えていくことも珍しくない。
個人的に考える、アメリカ産のサクソフォンと吹奏楽のための作品の中で、最もインパクトが強く、しかしながら今日、アメリカ国外で(国内ではどうか?)知られていない作品は、ネイサン・タノウエ Nathan Tanouye氏の「Three Steps Forward」である。衝撃的な作品んにも関わらず、演奏の実現に高い困難が伴い、ほとんど演奏機会に恵まれない。
3楽章からなるこの作品は、もともとネバダ州立大学ラスベガス校(UNLV)の委嘱により制作された。なんと、サクソフォンを含むジャズ・カルテットと吹奏楽のための、クアトロ・コンチェルトなのである。サクソフォンパートは、極めて高難易度な内容であり、即興パートを多分に含む。初演者が豪華で、なんとサクソフォンにエリック・マリエンサル(チック・コリア・エレクトリック・バンドを始めとするフュージョン分野における世界的奏者だ)を迎え、ラッセル・フェランテ、ジミー・ハスリップ、ウィル・ケネディといった一流のスタジオミュージシャンを加えた強烈な布陣であった。
30分の作品だが、「クラシックとジャズの融合」というありきたりなワードを新たな形で見事に体現した作品。編成の難しさと、初演のインパクトの大きさはあるものの、ぜひもっと世界的に知られて良い作品だと思っている。
Thomas G.Leslie指揮UNLVバンドの録音。初演者とほぼ同じ布陣である(ベースはジミー・ハスリップに代わり、ダイヴ・カーペンターが担当)。ジャケットの何ともいえない雰囲気は、アメリカならではか。
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