2009/09/10

シェルシ「3つの小品」

ジャチント・シェルシ Giacinto Scelsi(1905 - 1988)。面白い経歴を持つ作曲家だ。イタリア貴族の末裔として生まれ、経済的には全く不自由なく過ごしながら、もっぱら作曲を趣味的活動で行っていたという。詩人としても活躍したという記録が残っている。公には一切姿を表わさず、イタリアの自宅に籠りながら作曲活動を行っていたらしい。

実はシェルシはイタリアの現代作曲家を多数雇ってお金を支払っていただけとか、12音の作品を書いたために精神を病み、楽譜が書けなくなってしまってしまったとか、エピソードには事欠かないのだが(興味ある方はこちらのページを参照)、今回はそのことは置いておいて、シェルシはサクソフォンのために重要な作品を残してくれている。それが、「3つの小品」である。

シェルシの作風として、同一音を繰り返し提示しながら、その音色変化や倍音効果を聴衆に対して提示する、というものがある。その通り、たとえば第1楽章を例にとると、実音C、Bb、Ab、G、F#、Eの長音の微妙な音量変化の中に、細かい動きが時折に織り込まれるといった風。結果として印象に残るのは、長く引き伸ばされた音で、執拗に鳴らされる同一音が、曲が終わってしばらくしてもずっと耳の中に鳴り続けるのだ。第3楽章は、テンポが速いせいか、その印象がさらに顕著。曲が終わっても、もはやGとEしか聴こえなくなっている自分に気づく。

楽譜を見てみると、それほど長音が多いようにも感じず、むしろ細かい動きがやっかいな風にも見えるのだが、これは書き方の問題かもしれないな。ちょっとしただまし絵でも観ている気分。実演で聴いたこともあるが、同一音が耳に飽和してくる状態は、やはりライヴでしか味わえない感覚なのだと思う。CDやYouTubeでも聴けるが、ぜひ広く演奏されてほしいものだ。別に12音音階を使っているというわけではなく、出現する旋律は非常にメロディアスかつフラジャイルなもので、耳当たりも良い。

最後に、シェルシの自叙伝を可能な限り忠実に(?)再現した日本語テキストを貼り付けておく。神秘主義者でもあったシェルシのこと、その自叙伝もかなりに紙一重というか、一筋縄ではいかないというか。

シェルシの自叙伝(クリックして拡大)

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