2008/07/24

Jérôme Laran 「Impressions d'Automne」

現代のフランス・サクソフォン界の姿を、最良の形で表現したディスクとなった。こういったアルバムが、日本のCDレーベルから発売されることを嬉しく思う…ジェローム・ララン Jérôme Laran氏の最新アルバム「Impressions d'Automne(Cafua CACG-0119)」。以前、CD発売記念のコンサート・レビューでも少し紹介したが、7/23より一般発売となった今、改めてご紹介したい。

C.ドビュッシー「ラプソディ(自筆譜から再構成した特別版)」
M.ラヴェル「ソナチネ」
D.ミヨー「スカラムーシュ」
A.デザンクロ「前奏曲、カデンツと終曲」
F.プーランク「オーボエ、バソンとピアノのためのトリオ」
P.ルルー「SPP」
A.カプレ「秋の印象」

共演のピアノは、作曲家としても高名な棚田文則氏。また、プーランクで原博巳氏がテナーサクソフォンを担当している。

メイエー財団の助成により作成されたディスク「Paysages lointains」に比べると、さすがにララン氏のオリジナリティというものは抑制されていて、代わりに幅広い聴き手を意識した選曲・構成となっているのが目を引く。このCDを通して、ララン氏の音楽がいろいろな人に聴かれると良いなあ。

聴きどころをいくつか。まずは何といっても、ドビュッシーの「ラプソディ」である。ご存知のように、この曲はエリザ・ホールというアマチュアの女流サクソフォン奏者によって「サクソフォンとオーケストラのための作品」という条件の下に委嘱されたが、結局未完成のピアノスコアのままエリザに届けられた、といういわくつきの代物だ。そのピアノスコア(自筆譜)は、ニューイングランド音楽院に保管されているが、そのコピーをララン氏が入手し、棚田文則氏とともに、サクソフォンとピアノのための編成に再構成しなおしたバージョン、ということになる。

私がもっとも聴きなれているのは、ロンデックス氏が独奏を務めたマルティノンによる盤だが、そのサクソフォン・パートとは一線を画した輪郭が描かれている場所が数多くあり、実に興味深い。妙にアクロバティック過ぎない趣味の良い響きは、これから先幅広く演奏されるべきだと感じた。そんなドビュッシーの直後にラヴェルを配置したのは、実に小憎いアイデアだ。同時代に生き、印象派の二大巨匠として辣腕を振るったこの作曲家たちの響きが、ララン氏のサクソフォンによって奏でられるのである。こうして並べてみると、一緒くたにされがちなドビュッシーとラヴェルも、手法や理想は違うものなのだなあと実感する。

続いて、ミヨーとデザンクロという、サクソフォンソロのためのオリジナル作品の最高峰の二曲を、ララン氏は実に見事に聴かせている。技術的に完成されているのはもちろんのこと、ミヨーのパリジャン的軽妙洒脱&ラテンの熱い血&南米のカーニヴァル的音楽性…の同居や、フレンチ・スクールの伝統を受け継ぐまっとうな解釈によるデザンクロなどの「プラス・アルファ」を表現できるのは、さすがと言うほかない。ミヨーの第3楽章なんて、楽しみながらの余裕綽々世界最速ペース。

プーランクの原さんとの共演ともいいなあ。原さんとのデュオ活動は、すでに日本においては有名であるが、それを録音媒体という形で手元に置けるのは嬉しい。オクターヴのユニゾンが各所に出現する部分での、国籍を超えた友情や慈しみを感じられるところは、聴いているこちらまでもがニコニコしてしまう。ああ、良いなあ。

最後の「SPP」で盛大なラランさんらしさ(初めて聴いたときにはびっくりする)を存分に表現している。これはあれだな。ロンデックス氏のCrest盤における、ロベールの「カデンツァ」を聴いたときのショックに似ているなあ(実際デザンクロとミヨーが重複しているし)。まるで即興音楽のようなハイ・テンションに満ちた演奏には、圧倒されること間違いなし。アンコールとして配置されたのは、カプレ「秋の印象」。もともとはチェロの曲なのだそうだ。

というわけで、オススメ。アレンジもオリジナルも超高水準で、技術的な制約をクリアしながらララン氏のオリジナリティを付加した、傑作アルバムの登場である。大手CDショップを始め、いろいろなところで売っているが、Cafuaから直接購入することも可能。

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