ウィリアム・オルブライト William Albrightと言えば、もしかしたら一部の方は言語学者の名前を連想するかもしれないが、サクソフォン吹きにとっては、やはりアメリカの作曲家、オルブライトである。アルト・サクソフォンのための「ソナタ」を初めとして数々のサクソフォン作品を手がけたが、1998年に53歳という若さで亡くなっている。ジュリアード音楽院、ミシガン州立大学、パリ音楽院(ここではオリヴィエ・メシアンに師事)で学んだのち、帰国後はミシガン州立大学の教授として活躍した。
やはりアメリカの著名な作曲家であるウィリアム・ボルコムと親交が深く、彼のことを"wonderfully gifted, creative and inventive composer, and a marvelous teacher who cared about teaching and put his whole heart into it.(才能豊かで、創造力に富み、独創的な作曲家。そして心のすべてを後進の育成に注ぎ込んだすばらしい教育家)"と評している。
サクソフォンのための創作リストを眺めるだけで、「Fantasy Etudes(サクソフォン四重奏)」「Heater: Saga(サクソフォン+吹奏楽)」「Pit Band(アルトサクソフォン+バスクラリネット+ピアノ)」「Doo-Dah(サクソフォン三重奏)」と種々編成に渡っているが、やはり「Sonata for Alto Saxophone and Piano(サクソフォン+ピアノ)」だろう。
今年のティモシー・マカリスター Timothy McAllister氏来日の折に、この曲について初めて知った!という向きも多いはず。マカリスター氏は、この「ソナタ」をプログラムの最後に配置し、とんでもないインパクトを日本のサックス界に与えて帰っていった。あの場にいた誰もが圧倒されたことだろう。現代的かつ、叙情的でいて暴力的、そして超高難度のスペシャル・ピースである。もともとは、Donald Sinta、Laura Hunter、Joseph Wytkoという3人のサックス吹き(というか、サックス+ピアノのデュオ)のコンソーシアムのために書かれたそうだ。今では、アメリカのサックス吹きが取り組むべき4大ABCDレパートリーのひとつとして数え上げられている(Albright, Berio, Creston, Denisov)。
4つの楽章からなり、全部演奏するとおよそ20分の長さとなる。いやはや、大曲だ。
Two-Part Invention
La follia nuova: A Lament for George Cacioppo
Scherzo, "Will o'the wisp
Recitative - Mad Dance
第1楽章は、バッハとミニマル・ミュージックの影響を受けたインヴェンション。だが、全楽章中もっともシリアスな響きがする。第2楽章は、三拍子のシャコンヌ。友人の作曲家であったGeorge Cacioppoへの哀悼の意が込められており、サクソフォン作品の中でももっとも美しく悲しい作品のひとつだ。第3楽章は、あっけないほどに一瞬で終わるスケルツォ。第4楽章は、レチタティーヴォと呼ばれるサクソフォンの無伴奏カデンツを経て突入する凶暴なダンス。Folliaの"Madness"とは全く別世界の、表面的な"Madness"が強奏によって提示される。
CDも数多くリリースされているが、せっかくタイムリーなので、第5回アドルフ・サックス国際コンクールで一位を獲ったSimon Diricq氏が演奏する同曲の動画を貼り付けておこう。終楽章はやや守りに入っている感じもするが、それでも全編に渡って見事な演奏だ!特に第2楽章など筆舌に尽くしがたい。
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