2010/01/15

Linda Bangsのアルバム

バリトンサックスを含む室内楽曲集。日本国内では、バリトンサックスのプレイヤーというと田中靖人氏に栃尾克樹氏といったところだが、フランスにはマルセル・ジョセやジャン・ルデューといった伝説の名手がいるし、ポルトガルであれば「無伴奏チェロ組曲」のCDでおなじみのヘンク=ファン・トゥイラールトなんかが、有名だろう。このCDの主役、リンダ・バングス Linda Bangsという女性のプレイヤーもそのひとりで、特にラッシャー派の間では、最高のバリトンサクソフォンの名手と謳われている人物だ。

ニューヨーク州立大学フレドニア校において、シガード・ラッシャー Sigurd Manfred Rascherのもとで学び、その後才能を認められ、ラッシャー四重奏団、南ドイツサクソフォン合奏団の主要メンバーとして活躍した。現在は、ドイツで教鞭をとり、後進の育成に力を注いでいるそうだ。リンダ・バングスの演奏は、ラッシャー四重奏団の演奏を聴いた&観たことはあったが、独奏のアルバムというのは、少々意外だった。気になる!もともとバリトンサックスを吹いていた身としては、これは買わなければ!…ということで、購入。

Kammermusik für Baritonsaxophon(ANTES BM-CD 31.9245)
Felix Treiber - Duo [bsax, pf]
Antonio Vivaldi - Sonata No.1 [bsax, pf]
Otmar Mácha - Sonata [bsax, pf]
J.Ryan Garber - Another Twist [bsax, pf]
Ernst Prappacher - Quartett [bsax, vn, va, vc]
Jan Dismas Zelenka - Adagio und Allegro [bsax, vn, va, vc]

やはりラッシャー派だなと思うのは、バロックの名曲+同時代の作曲家、という選曲。ちなみに、同時代の作曲家の作品は、ほとんどがリンダ・バングス自身に捧げられている。録音がかなり即物的で、生々しい音が耳に入ってくるのだが、かえってそれが演奏のリアルさを増していて興味深い。バランスも、どちらかというとピアノ>サックスという感じで、この録音ポリシーは、個人的には歓迎すべきところだ。

一曲目から、激しい響きに驚く。アルティシモの音域をも交えた難曲ではあるが、ラクラクと操ってしまうあたりも、ラッシャー派特有のオーヴァートーン・トレーニングの賜物だ。なんとなくラッシャー派というと、音程感覚が不安定なイメージがつきまとうのだが、ここでのリンダ・バングスの演奏はまったく技術的な不安を感じさせない、驚異的なものだ。

Mácha氏のソナタを聴いてみてほしい。アダージョにおいてはフラジオ音域を見事なレガート奏法で吹ききり、アレグロはスリリングなフレーズの応酬をスラスラと切り抜けている。続くAnother Twistも、聴いた感じはかなり難しそうであるが、ロックやポップミュージックの影響を受けた短いながらも佳曲であると思う。最後は超絶技巧のまま終わってしまうが、生で聴いたら興奮するだろうなあ。

バロック作品の演奏においては、ヴィブラートを多用しているが、少し細かめに揺らすヴィブラートも、特徴の一つと言えるだろう。また、硬質なタッチのピアノと、柔らかいバリトンサックスの音色が対比となり、面白い効果を出していると感じる。

ということで、かなり聴き所は多い。バリトンを吹いている方は、ぜひ手にとっていただきたい。

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