2008/10/20

私とマルセル・ミュールの出会い

高校では中学からの流れで当たり前のように吹奏楽部に入り、しかしどちらかと言えば惰性で続けていたようなもんで、何だかわからないうちに学指揮にもされてしまったし、毎朝の練習は大変だし、成績は下がるしさてどうするかな…という、そんな大方の高校生サックス吹きが陥る?状態にあった。

しかし、その年の頭にはアンコンをきっかけとしてサクソフォン四重奏というものを知ることになり、(演奏はこそしなかったが)デザンクロやパスカルの四重奏曲にハマるなど、徐々にサックスに楽しさを見出していた。高校2年の5月。そう、この年の4月に、トルヴェール・クヮルテットの超名盤「マルセル・ミュールに捧ぐ(EMI)」が発売され、パスカルの四重奏曲にハマっていた私はそのCDを即買い。フランセの「小四重奏曲」にも引き続いてハマることになる。

しかし、そのアルバムタイトルにもなっていたマルセル・ミュールという名前は、初めて聞いたのだった。昔に活躍したサクソフォン奏者らしい、ということは分かったものの、そもそも演奏を聴いたことがないのではしょうがない。ふうん、というくらいにしか思わなかった。

そして、ちょうどこの時期に、あの伝説の復刻シリーズが発売されたのである。東芝EMIが出版した、20枚に及ぶ「ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の芸術」。おなじみ木下直人さんが所有する音源を、デジタル化して一挙に発売するという、実現したのが信じられないほどの企画だ。そのうちの一枚、20枚シリーズのうち、19枚目忘れもしない「マルセル・ミュールの至芸II」と題された盤を、ある日部活の先輩が買ってきたのだ。

「これすごいよ!泣ける!本当に!」と言われて渡されたCD。早速、その日の午後部活に早めに出かけてゆき、楽器庫の片隅にあったCDプレーヤーで再生してみた。一曲目は、ふむふむ、ヴェローヌの「ラプソディ」という曲か。…ざー、ぱちぱち。うわっ、すごいノイズだ。前奏のこの音はハープ?と思っているうちに、最初の伸ばしの音が…。

その音を聴いた瞬間に、体が震えた。音が、からだの隅々にまで染み渡った。

そして、前奏のアルペジォの上向形、下降形。人の声のように滑らかで、艶っぽくて、身体に音が染み込んだそのまま、どこか彼方へ連れ去られそうだった。スピーカーから流れてくる演奏に取り込まれながら、気がついたら目から涙が溢れて、そして一曲が終わってしまっていた。

これが、マルセル・ミュールとの出会い。こうまで詳しく覚えているなんて、その時受けた衝撃は相当なものだったのだろう。そんなことを思い出しながら、ミュール演奏の「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」を聴いてみる。やっぱ凄いや。

木下直人さんによる「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」のトランスファー(Pierre Clementのアームとカートリッジ、トーレンスのターンテーブルによる、世界最高レベルの復刻):このページ、もしくはこのページから辿れます。

4 件のコメント:

Sonore さんのコメント...

はじめまして。Sonoreと申します。私のページで公開しているM.Muleの音源のことをご紹介いただきありがとうございます。
MuleはMoyseと同じMarcel繋がりで昔からよく聴いたSax奏者です。もう少し色気があってもいいのでは?なんて思うこともありますが、件のヴェローヌの演奏などは別の意味ですばらしく妖艶でもありますね。

kuri さんのコメント...

> Sonore様

初めまして。4月ごろに木下直人さんからPierre Clementのアーム入手の件をご案内頂いて、その頃は良く聴いていたのですが、久々に思い出して記事を書くと共に、Sonore様のページに置いてある音源を聴き返してみました次第です(勝手にリンクを張ってしまい、失礼いたしました)。

「ラプソディ」は、隅々まで本当に艶っぽい音楽が流れていると思います。記事中に書いたとおり、私にとってはミュールの演奏が刷り込まれたきっかけですが、今聴いても本当に感動します。どちらかというとテクニカルな面が強調された「コンテルティーノ・ダ・カメラ」などよりも、ほっとした気持ちで聴くことができます。

Sonore様の「マルセル・モイーズ研究室」は、大変貴重でかつ整理された情報が貴重な音源とともに公開されており、時々ページに伺っては楽しんで読んでおります。今後とも、更新を楽しみにしています。

Sonore さんのコメント...

リンクは感謝こそすれ承諾など不要と考えています。インターネットはリンクなくして成り立たないものですから、悪意のあるリンク以外は大歓迎です。
貴兄も木下氏の恩恵に浴しているようですね。本当に頭の下がるお方です。私も往年の素晴らしい財産伝統を次の世代にも・・・と考えておりますので、出来る限りデータは公開してゆきたいと思っています。
最近、時間や気力体力のゆとりが無く、研究室が静止状態なのがお恥ずかしい限りです。
貴兄のmuleインタビューの翻訳は大変ありがたい情報でした。なんとなく大まかな内容は流し読みしていたのですが、こうやって日本語でまとめていただくと助かります。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。

kuri さんのコメント...

> Sonore様

リンクの件、ありがたいお言葉です。
木下直人さんには、私も大変お世話になっています。Sonore様のことも、以前ご自宅に伺ったときにいろいろと話を聞きました。次の世代へ音源を伝えていきたい、という思いは、共通のようです。
ミュールのインタビューは、なかなか時間がとれずに全文訳が叶わないのですが、暇を見つけて翻訳作業を進めていこうと思っています。