2014/10/30

上野耕平「アドルフに告ぐ」

アドルフ・サックス・イヤーということもあってか、最近サクソフォンのCDが数多く発売されており、まだ購入も追いついていないような状態なのだが、きちんと一枚一枚レビューしていきたい。

前回の管打楽器コンクールにて、史上最年少の第1位ならびに大賞を得た上野耕平氏。まだ記事執筆時点で東京芸術大学の4年次在学中とのことだが、様々な方面での活躍を見ると、ほぼ間違いなく今後の日本のサクソフォン界を背負う人物の一人となっていくのだろうな、という思いを強くする。

私がこれまで上野耕平氏の演奏を聴いて最も印象に残っているのは、2012年、セント・アンドルーズ大学のバイル・シアターで聴いた「ウズメの踊り」の演奏である。王立北部音楽院吹奏楽団とともに、驚異的な集中力で演奏されたあの演奏と、世界中の奏者から向けられた喝采。今もあの興奮をまざまざと思い出す。あの当時、彼はまだ大学2年生だったはず。



上野耕平氏に対する評として、時折耳にするのは「須川氏と似通っている」というような評だが、私はその言葉は勘違いも甚だしいと思う。どうも上野氏の師匠が須川氏であることから、そのような変な誤解が生まれることになっているのだと思うが、実際の演奏や音色は、まったく違うものだ。その演奏を端的に表すならば、まさに新世代というもので、これまで日本のサクソフォンがプラス、プラス、プラスの積み重ねで発展してきたところに、断絶をひとつ差し込んで提示されたような演奏だ、と思う。澄み切った音色、音楽性、高いテクニック(いちばん好きなのは、超高速のフレーズの隅々まで"うた"があることだ!)は、聴いていて実に魅力的なものである。

【アドルフに告ぐ】
上野耕平(サクソフォン)
佐野隆哉(ピアノ)
吉松隆 - ファジイバード・ソナタ
アルフレッド・リード - バラッド
ポール・モーリス - プロヴァンスの風景
ポール・クレストン - ソナタ
ユレ・ドゥメルスマン - ファンタジー

選曲はとてもスタンダード。ごまかしが効かないぶん、奏者の実力がさらけ出される。どの曲においても、焦点がぴたりと合ったレンズをのぞき込むような、見通しの良さがあると感じた。曖昧な部分をいっさい残さず、しかしそれがまったく"もたつき"へとつながらず、スタイリッシュなスポーツカーのように切り抜けていく様が実に心地よい。この選曲に対し、なんと見事な演奏だろうか。最後に「ファンタジー」が置かれたのは意外だったが、聴いてみるとわかる(笑)こりゃすごいや!

あまり評云々の意味はなく、つべこべ言わず聴いてみてください、としか言えない。Amazonでも取り扱っている→アドルフに告ぐ

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